「アジカンを真剣にやってきたから、ここにいるんだ」
──後藤さんはソロでアンビエント作品を作られて、そこでフィールドレコーディングもされているので、レコーディングでの音の選択や、そもそも「なぜ歌うのか?」という点も考えが深まっていきそうですね。
後藤 そういうことも考えなきゃいけないですよね。この先AIも今以上に発達していくわけだし、自作自演であることの意味がより強く出てくると思うんです。ソロでアンビエント作品を作ったのも、「AIが選んだ音」じゃなくて「私が選んだ環境で、私が選んだ音を録る」ということをやりたかったから。そういう経験を経て、録音物により身体性を求めるようになってますね。「録音物は私が生きた証である」という要素がどんどん強くなっている。それで言うと、「Little Lennon / 小さなレノン(Born in 1976 ver.)」のレコーディングでは、岸田(繁 / くるり)くんが今言ったことをみんなに見せてくれたような気がします。
──シングルの2曲目に収録される「Little Lennon / 小さなレノン」はそもそも2015年リリースのアルバム「Wonder Future」に収録されている楽曲ですが、今回、岸田さんプロデュースで再録されました。どのような経緯で実現したんですか?
後藤 岸田くんは僕が藤枝市で作っているスタジオのことも応援してくれているし、岸田くん自身、スタジオのことでいろいろと考えていることがあったみたいで、話す機会が最近多いんです。京都の山奥にある屋敷豪太さんのスタジオに行くときも、岸田くんが案内してくれて。いろいろ話している中で、「前に『音博』でやった『Little Lennon』、めっちゃよかったよね」と話したことがあって。僕も「Little Lennon」は気に入っていたし、「いつか一緒に再録できたらいいね」という話はしてたんですけど、僕が“いつか”じゃなくて状況的に「今じゃないかな?」という気持ちになって。それでオファーさせてもらったんですけど、岸田くんは正月も使ってスコアを書いてくれたんです。
──今回の再録は「Born in 1976 ver.」と銘打たれていますけど、岸田さんも後藤さんも1976年生まれなんですよね。アジカンもくるりも人間的には同世代だけど、バンドとしては、くるりは1990年代に出自を持つバンド、アジカンは2000年代に出自を持つバンドという印象があって、どこか違う世代感を背負ったバンドというイメージもあるんですが、その2組がこうして一緒に楽曲を制作していることに、個人的にはとても感動しました。皆さんにとって、くるりはどんな存在と言えますか?
喜多 自分たちがデビューする前から、ライブを観に行ったりしてたよね?
後藤 うん。ただ、自分たちがデビューしたときは一部の音楽ファンに比較されたこともあって、正直、影響を受けないようにがんばっていた部分もありましたね。でも「影響を受けないようにがんばる」ということは、影響を受けているということだし、意識しているということなんですよね。くるりのことは、僕らは誰よりも意識してやってきたんだと思います。くるりのことを本当にリスペクトしてるからこそ、胸を張って隣に立てるようなバンドを目指してやってきた。この10年くらいで交流も増えて、アジカンとしてもソロとしても「音博」に呼んでもらったりして、それはすごくうれしいことで。今回、岸田くんと一緒にレコーディングをしながら、「真面目にやってきたから、今、岸田くんと一緒に音楽を作れてるんだな」としみじみ思いました。いろいろな雑音に悩みながらも、なんとか「よりよいものを作りたい」と思ってやってきた。どこかでサボったりふざけたりしたら、こうやって一緒にスタジオワークができることなんてなかったと思う。そう思えたことが個人的にはうれしかったです。「MAKUAKE」の歌詞じゃないけど、過去がどうとかじゃなくて、今この2025年に、くるりの岸田くんと音楽の話をいっぱいして、一緒に作業できた。「アジカンを真剣にやってきたから、ここにいるんだ」と思いましたね。
山田がかわいがられる一方……
──実際、岸田さんとのレコーディングはいかがでしたか?
後藤 山ちゃんがいっぱい褒められてたよな?
喜多 レコーディングが始まる前から、「山ちゃんええわあ、山ちゃんええわあ」って言われてた(笑)。
後藤 俺たちはジェラスだよなあ。山ちゃんばっかかわいがられて。
伊地知 グループLINEでも「山ちゃんはそのままでええ」って言われてた(笑)。
──(笑)。その山田さんは岸田さんとの作業はいかがでしたか?
山田 特別な時間でしたね。岸田さんの仕事を間近で見ることができたレコーディングもそうだし、中華屋でTM NETWORKの話をしたり、同世代だからこその時間も愛おしかった(笑)。僕らの無骨なロックサウンドの上に、あんなに緻密で、それでいて大胆なアレンジが乗って一体になるなんて、簡単にできることじゃないと思うんですよね。でも、それを仕上げてもらったのは素晴らしい体験でした。ほかの楽器をミュートして、ストリングスやホーンを単独で聴いても、それだけで曲に聞こえるんです。それに圧倒されましたね。
──伊地知さんと喜多さんはいかがでしたか?
伊地知 最高に楽しかったですね。「ダビングでパーカッションを入れてみよう」という話になって、タンバリンを叩いてみたりしたんですけど、岸田くんがひらめいて、灰皿をカンカン叩いた音を入れたりもして。そういう遊び心も楽しかった。
喜多 さっき山ちゃんが言ったように、アジカンらしさもすごく尊重してくれたんですよね。ドラムだけじゃなくてギターも、送風機をピックアップに当ててノイズを出したり、“遊び”を思いついたら一緒にやって。岸田さんは、緻密なところと大胆なところが同居している人で、レコーディングはすごく楽しかったです。
──後藤さんの目から見て、岸田さんはどんなことを大事にしながらスタジオワークをされていると感じましたか?
後藤 常に「音楽的にどこがケミカルで、どこがオーガニックか?」という判断をしっかりしていて。音の立ち上がりや消えていくところ、残響の部分や和声に対しては本当に敏感だし、「独特の感覚だな」と思いましたね。スコアもしっかり書くし、ボーカルのジャッジをするときは、人間の声という曖昧なものに対しても丁寧に聴き込んでジャッジしてくれる。かと思えば自分のコーラス録りでは、鍵盤で確認したりせずにいきなりパチーンッと歌うんですよ。で、よく聴くと「これ、くるりだわ」と言えるような和声になっている。きっと、やってきたことが身体化しているんでしょうね。音楽的な運動神経がめちゃくちゃいい、フィジカルな人でもある。頭で考えていることもあるけど、考えてきたことがちゃんと血肉になっている人という感じがしました。あと、みんなが想像するより全然ロックの人です、岸田くんは。一緒にレコーディングをしてても、一緒にメシを食ってても、「ロックバンド・くるりのフロントマン」という感じがするんです。岸田くんがいて、佐藤(征史)くんがいて、あとドラムに石若(駿)くんやあらき(ゆうこ)さんがいれば、ジャック・ホワイトの前でやっても全然遜色ないロックの演奏ができる、そんな人たちが実験精神を持っていろいろな音楽を作っている……それが、くるりというバンドなんだと思います。交響曲も書くし、いろいろなことができるけど、根っこのメンタリティがロック。本当にカッコいいなと思います。
11年ぶりの「NANO-MUGEN FES.」に向けて
──今回、「MAKUAKE」の隣に並ぶのが「Little Lennon / 小さなレノン」だったことについては、結果的にどんな必然性があったと思いますか?
後藤 「Wonder Future」期の曲だから皮肉めいた部分も入っちゃってるけど、基本的には決意を歌っている曲だから、「MAKUAKE」と一緒にこの時代に鳴らすにはとてもいい曲だなって。世の中にはいろいろなカッコいい大人がいて、岸田くんもその1人だし、僕たちももその1人でありたいと思うし。ジョン・レノンのようにはなれなくていいけど、それぞれがそれぞれのやり方で抗っていかないといけないと思うし、あとから来る人たちが活動しやすい社会や業界を作っていかなきゃいけない。「ライフ イズ ビューティフル」も、本気で反戦歌を作ろうと思って作ったんです。そういう気持ちはいまだに僕らの中にはあるから。「ラブ&ピース」という言葉の鮮度や効力は常々疑ったり、考えたりしなきゃいけないけど、あの時代にジョンとヨーコがそう言わざるを得なかった精神は別の形でも、別の分野でもいいから、引き継いでいきたいですよね。少しでも世の中がマシになるための何かでありたい。いい大人だし。
──シングルリリース直後には「NANO-MUGEN FES. 2025」の開催も控えています。11年ぶりに開催される「NANO-MUGEN FES.」は、どのような経緯で決まったのでしょうか?
後藤 昨今のアジアの音楽の盛り上がりを見ていて「楽しそうだな」と思っていたのもあるし、ASIAN KUNG -FU GENERATRIONと言っているくらいだから、アジアの人たちやバンドと交流できるような活動をしたいよね、という話を最近してて。そこから、いつしか「NANO-MUGEN」の話になって。最初はKアリーナでやることは考えていなかったんですけど、ある日スタッフから「Kアリーナ2DAYS、押さえました!」って言われて。僕ら自身、まさか昔やっていた規模より大きな形でやることになんて思わなかった。
──今回の「NANO-MUGEN」がどんなものになることを期待していますか?
後藤 いろいろな場所や地域をつなぐようなイベントになったら面白いなと思う。それぞれの土地から出てくる、それぞれの音楽のアイデンティティって、これからもっと大事になってくると思うから。音楽を通じた友好って、国とかの垣根をあらかじめ超えてるから。音楽を通した人と人との交流によって、社会的な緊張が緩んだり、いい循環が生まれるきっかけになればいいなと思います。
公演情報
ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN FES. 2025 in JAPAN
- 2025年5月31日(土)神奈川県 Kアリーナ横浜
<出演者>
ASIAN KUNG-FU GENERATION / ELLEGARDEN / Fountains of Wayne / Hovvdy / NIick Moon/ SPECIAL OTHERS ACOUSTIC / ストレイテナー / VOICE OF BACEPROT / THE YOUNG PUNX - 2025年6月1日(日)神奈川県 Kアリーナ横浜
<出演者>
ASIAN KUNG-FU GENERATION / The Adams / BECK / Fountains of Wayne / Hovvdy / NIick Moon / くるり / YeYe / THE YOUNG PUNX
プロフィール
ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアンカンフージェネレーション)
1996年に同じ大学に在籍していたメンバーで結成。渋谷、下北沢を中心にライブ活動を行い、エモーショナルでポップな旋律と重厚なギターサウンドで知名度を獲得する。2003年にはインディーズで発表したミニアルバム「崩壊アンプリファー」を再リリースし、メジャーデビュー。2004年には2ndアルバム「ソルファ」でオリコン週間ランキング初登場1位を獲得し、初の東京・日本武道館単独公演を行った。2010年には映画「ソラニン」の主題歌として書き下ろし曲「ソラニン」を提供し、大きな話題を呼ぶ。2003年から自主企画によるイベント「NANO-MUGEN FES.」を開催。海外アーティストや若手の注目アーティストを招いたり、コンピレーションアルバムを企画したりと、幅広いジャンルの音楽をファンに紹介する試みも積極的に行っている。2015年にヨーロッパツアー、南米ツアーを実施した。2021年に結成25周年を迎え、2022年3月に10thアルバム「プラネットフォークス」を発表する。2023年7月に江ノ電の15駅をモチーフにしたアルバム「サーフ ブンガク カマクラ(完全版)」をリリース。2024年7月にデビュー20周年を記念してシングルコレクション「Single Collection」をリリースし、8月に神奈川・横浜BUNTAIでアニバーサリーライブ「ファン感謝祭2024」を行った。2025年5月にシングル「MAKUAKE / Little Lennon」を発表。主催フェス「NANO-MUGEN FES. 2025」を5月31日、6月1日に神奈川県 Kアリーナ横浜で開催する。