あいみょん「愛の花」インタビュー|“まだ見ぬ花”咲かせるための人生に思い寄せて

あいみょんが6月7日にCDシングル「愛の花」をリリースした。

通算14枚目のシングルとなる今作の表題曲は、現在放送中のNHK連続テレビ小説「らんまん」の主題歌として書き下ろされたもの。高知の酒蔵で当主として育ち、植物の研究に没頭する主人公・槙野万太郎(神木隆之介)を支える妻・寿恵子(浜辺美波)の視点に立ちつつも、今この瞬間を精一杯生きることの大切さなど普遍的なテーマをつづった歌詞が心に響く楽曲で、あいみょんのレパートリーの中では珍しい3拍子のリズムや、オーガニックなバンドアレンジも聴きどころだ。

リリースを記念して、音楽ナタリーではあいみょんにインタビュー。歌詞に込めた思いや「愛の花」にもにじむ彼女の死生観について、楽曲制作のエピソードから、今の心境をじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 草場雄介

3年越しに知った花の色

──「らんまん」は、植物学者・牧野富太郎さんをモデルにフィクションとして制作されているドラマです。牧野さんのことはご存知でしたか?

存じ上げませんでした。ドラマのお話をいただいたときの資料で「こういう方が高知にいたんだ」と知ったのと、私自身も植物が大好きなので親近感を覚えました。自分が栽培している植物の中にも、牧野さんが名前を付けたものがあったりするのかな?と考えたり、実際に牧野さんが命名した植物はどんなものがあるか調べてみたりして。

──あいみょんさんは、植物のどんなところに魅力を感じますか?

なんだろう……? やっぱり「生きているんだ」と感じられるところですかね。自分が住んでいる空間の中に、自分以外の生き物がいることに安心するというか。私は大家族で育ったので、一人暮らしだとちょっと寂しい気持ちがあって。そういう意味でも植物には助けられているんです。毎朝鉢を観察して、新しい芽が出ていたり、新しい葉っぱが増えたりしているのを発見することに、すごく大きな喜びを感じます。

あいみょん

──ちなみに、どんな植物を栽培しているのですか?

本当にいろいろですよ。大きいものだとウンベラータという、葉っぱがハート型をしたアフリカ原産の植物とか。ゴムの木やレモンの木も栽培していますし、金木犀もありますね。小さいものだとサボテンやポトス、ほかにも多肉植物とか。それぞれに栽培方法も違うから、すぐに枯らしてしまったこともあって。植物に適した環境を作ってあげなきゃいけないんやなと改めて感じたりしていますね。

──蘭も育てているとお聞きしました。

3年くらい前に鉢をいただいたんですけど、なかなか花が咲かなくて。蘭を育てるのって難易度が高いとよく言われるじゃないですか。だから半分あきらめかけていたんです。でもある朝見たら、でっかい蕾が3つあって「ええー!」って。いただいて3年が経ってから、ようやく育てている蘭の花が紫色だと知りました。

──主題歌のオファーが来たのも、ちょうど蘭の花が咲いたタイミングだったそうですね。

そうなんです。それまで蕾すらつけたことがなかったので、急に咲き出してびっくりしたし、これはご縁なのかもしれないなと感じましたね。「富太郎さんに歓迎されているのかな」と。

あいみょん
あいみょん
あいみょん

想像力を働かせて

──「らんまん」の放送はちょうど4週目に入ったところですが(インタビューは4月下旬に実施)、ドラマをご覧になった感想はいかがですか?

面白いです。神木隆之介さん演じる主人公の槙野万太郎さんが植物学者になるまでの話と、酒蔵「峰屋」の当主としての話が並行して進んでいるので、ダブルで楽しめますね。佐久間由衣さん演じるお姉ちゃん(槙野綾)はどうなるのか、志尊淳さん演じる万太郎のお目付け役・竹雄はどうなっていくのか、登場人物それぞれに感情移入してしまいます。

──ドラマの舞台となっているのは高知県安芸市。阪神タイガースのキャンプ地としても有名な場所です。

そうなんですよね(笑)。高知県は前回のツアーでも行きましたけど、そのときはスケジュールの都合であまり街中を散策できなかったんです。ただ、知り合いの高知出身の方からは「すごくいいところだよ」と聞いています。「高知のオススメってどこ?」と聞くと、牧野さんの植物園(高知県立牧野植物園)をみんな言いはるんですよ。なので、次のツアーのタイミングではぜひ行ってみたいなと思っています。

あいみょん

──主題歌を制作するにあたって、ドラマの制作サイドからは何かリクエストがありましたか?

特にこれといったリクエストはなかったのですが、お話をいただいたのがけっこう前だったので、ドラマに関する情報がまだ少なかったんです。「牧野富太郎さんという植物学者をモデルにした、神木隆之介さんが主演を務める『らんまん』というタイトルのフィクションドラマです」くらいの説明で。あとは、モデルとなった富太郎さんの簡単な年表をいただいただけでした。なので、想像力を働かせながら作っていきましたね。

──朝ドラということで、通常のドラマ主題歌とは作り方も違いました?

ここ最近のドラマって、主題歌がオープニングに流れることがほとんどなくて、大抵はエンドロールで流れるものが多いじゃないですか。だけど朝ドラの主題歌は、オープニング映像とともにしっかり流れる。となると、朝の時間に1日の準備をしながら観ている人たちの負担にならない曲調にしなきゃなと思いました。オープニング映像がどんな感じになるのかも気になるところでした。これまでの朝ドラを調べてみると、例えば切り絵を使っていたり、アニメーションだったりしたので、今回はどんな感じになりそうか事前に尋ねたんです。わりと早い段階で、オープニング映像が万太郎の笑顔であふれたものになりそうというイメージを聞かせてもらえたのは大きかったと思いますね。

あいみょん
あいみょん

熱心にやり続けることは、楽しいけど大変なこともある

──できあがった主題歌「愛の花」の歌詞は、誰の目線で書いたものなのでしょうか。

最初に意識したのは、のちに万太郎さんの妻となる西村寿恵子さん(浜辺美波)です。富太郎さんが妻の壽衛さんを亡くした直後に見つけた新種の笹を「スエコザサ」と名付けたという実際のエピソードがすごく素敵だなと感じていたので、やはりご夫婦の関係性をイメージしながら歌詞を書くのがいいなと思いました。そうしたら、広末涼子さん演じる万太郎の母・槙野ヒサさん目線の曲にもなったなと、ドラマを観ていて思ったんです。そういう不思議な偶然が重なると、自分の作った曲がちゃんと「ドラマの曲」になったと実感できてうれしいです。

あいみょん

──「私は決して今を 今を憎んではいない」という歌詞が印象的です。

この「憎んではいない」という表現、最初に出てきたときは「ちょっと朝には厳しい言葉かな」と思っていたんですけど、いただいた資料を見ると、壽衛さんは生前すごく苦労されたみたいなんです。植物研究に没頭しすぎてお金を使いすぎてしまうなど、富太郎さんはかなり破天荒な方だったみたいで。「憎んではないけど、でも大変だったんだよ?」という、壽衛さんの複雑な思いを表現したいなと。考えれば考えるほど、この言葉しかないと思いました。

──「涙は明日の為 新しい花の種」「貴方に刺さる雨が 風になり 夢を呼び 光になるまで」という歌詞には、「今が辛くても、それが未来の糧にきっとなる」という思いが込められていると感じました。

その通りです。「これ」と決めたことを熱心にやり続けることは、楽しいけど大変なこともあると思うんです。その大変さ、つらさを超えた先に、まだ見ぬ花を見つけることができた。そんな富太郎さんの人生を少しでもなぞれたら……という思いで書いた歌詞ですね。

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