あいみょん「猫にジェラシー」特集|「29歳の自分にしか書けない楽曲を、とにかく少しでも多く残したい」

あいみょんから約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「猫にジェラシー」が届けられた。

前作「瞳へ落ちるよレコード」リリース以降、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」の主題歌「会いに行くのに」、「カルピス」の新テーマソング「ラッキーカラー」、映画「窓ぎわのトットちゃん」の主題歌「あのね」、ドラマ「降り積もれ孤独な死よ」の主題歌「ざらめ」、連続テレビ小説「らんまん」の主題歌「愛の花」といった数々のタイアップ曲を発表し、そのたびに新たなリスナーを獲得してきたあいみょん。愛らしいタイトルが付けられたニューアルバムには、これらの楽曲にストックから厳選された新曲群を加えた全13曲が収録されている。

「変わり続け、いろいろな振れ幅を見せていきたい」と語るあいみょんの最新形を濃密にパッケージした今作について、本人にたっぷりと話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / YURIE PEPE

レキシネーム“ミョン万次郎”を授かり感激

──6月から行われた全8公演の対バンツアー「AIMYON vs TOUR 2024 “ラブ・コール2”」では、HY、大塚 愛、ドミコ、yonige、森山直太朗、秋山璃月、レキシ、sumika、スピッツという多彩なメンツと対バンされましたが、いかがでしたか?

「ラブ・コール」は2回目、5年ぶりの開催だったんですけど、すごく楽しかったですね。今回はいろんな世代のアーティストさんとの対バンになりましたけど、それぞれで「ああ、やっぱりこの方の音楽が好きやな」とか「この人たちの音楽を聴いてきたからこそ、自分は音楽をやってこれたんやな」とか、いろいろな感情が湧き上がってきて。対バンをすると相手の人間的な部分もすごく見えてくるので、「もっと仲よくなりたい!」という気持ちが芽生えたりもしました。対バンツアーは一緒にやってくださるアーティストさんがいる限り、これからもずっと続けていきたいと思ってます。

あいみょん

──HYとは前回の「ラブ・コール」でも対バンされていましたよね。

そうそう。“おかわりアーティスト”として出演していただいて。私は学生の頃から「ラブソングと言えばHY」というくらいずっとHYの音楽を聴き続けてきたし、前回の対バンツアーでご一緒したあとには、HY主催の沖縄のフェス(「HY SKY Fes 2023」)に呼んでいただいたりもしたんです。お互いに交流が深まっている状況だったこともあったし、「もっともっと仲よくなりたい」という気持ちも強かったので、2度目の対バンをお願いしたんです。今回は初めて自分のステージでHYの曲をカバーさせてもらったので、ちょっとだけ恩返しができた感覚にもなりました。とは言え、HYのCDを買いに走っていた昔の自分が今の状況を見たらどう思うんやろ?って気持ちもあったりして(笑)。仲よくさせていただけていることがホンマに不思議やし、ありがたいことだなと強く感じましたね。

──ご自身がリスペクトしているアーティストとの対バンは、たくさんの刺激をもらえる場でもありそうですね。

それはもうホンマにそうですね。どの公演も順番としては対バンアーティストさんが先にライブをされるんですけど、そこでの盛り上がりがめっちゃすごいんですよ。「え、ここに私のファンっているんかな?」と思ってしまうくらい(笑)。それぞれ音楽性はもちろん、盛り上げ方も違うので、お客さんのリアクションを見るのが毎回すごく楽しかったです。同時に「さすがやな。ヤバイな私」って、ちょっと不安になることもけっこうありました(笑)。

──レキシさんには対バンを通してレキシネームをいただけたようで。

そうなんですよ! 対バンできることが決まった段階で、「やった。レキシネームがもらえるかも!」と勝手にうぬぼれてたんですけど(笑)。どうやら一緒に歌えばもらえるらしいということを知ったので、ステージ上で一緒に歌わせてもらって見事、レキシネームを授かることができました。“ミョン万次郎”です(笑)。私の周りにはレキシネームを持っている方がけっこう多かったので、やっと仲間入りできたことがめっちゃうれしかったですね。

あいみょん

皆さんにいいと思ってもらえる曲は、いつ出してもきっと聴いてもらえる

──そんなあいみょんさんから5枚目となるフルアルバム「猫にジェラシー」が届きました。前作「瞳へ落ちるよレコード」からの約2年の間にたくさんの楽曲をリリースされていたわけですが、アルバムに向けて気持ちをフォーカスしたのはどのくらいのタイミングだったんですか?

ここ最近の私は、シングルを2、3枚出して、1曲配信したら、そろそろアルバムを……という流れになっているので、去年くらいからなんとなくみんなでそこに向けた話はしていました。実際、本格的な制作をスタートさせたのは今年に入ってからでしたね。タイアップ曲は書き下ろしなので、それぞれのタイミングで作った曲ですけど、それ以外はいつも通り、ストックから選んでいった感じです。

──アルバムも5枚目になりましたけど、まだまだストックはあるんですか?

うん、まだ大丈夫です。まだまだ大丈夫(笑)。

──ストック曲は日常的に今も増え続けている?

増え続けてますね。今年作った分も間もなく20曲くらいにはなりますし。どれもまだリリースはしていないですけど。ただ、昔はストックがあればあるほどいいと思っていたんですけど、最近は何が正解かわからなくなってきているところもあって。要はストックが溜まっていくほど、世に出ない曲も増えていくわけなので、それってどうなのかなと。とは言え作り続けることは大事なので、今の自分として思うベストなペースというのが年間20曲くらいなんですよね。私は年始に1年の間で成し遂げたいことを10個くらい紙に書き記すことにしているんですけど、2024年も「20曲作る」って書きましたから。

──生まれたばかりの曲をすぐリリースしたいと思うことはないですか?

いや、全然思いますよ。「めっちゃいい曲できた。すぐに出したい!」ってもちろん思うんですけど、自分の過去の経験からあまり急がなくてもいいという思いもあって。「マリーゴールド」ができたときもすぐに出したかったんですけど、実際はリリースを1年待ったんです。その待っていた期間で「満月の夜なら」という曲ができたこともあり、今となってはあそこで1年待ったことに意味があったなと感じています。皆さんにいいと思ってもらえる曲は、いつ出してもきっと聴いてもらえるんだろうなと思っているので、できてすぐにリリースすることだけがすべてではないなって、経験として感じてる部分はありますね。

あいみょん

──なるほど。一方で、ストックしていたものの、時間が経って出せなくなってしまうパターンもあるんですか?

それもありますね。やっぱり10代の頃に作った曲は、今の自分の感覚に合わないものもあったりするので、それはもう自分の中でボツにしています。ストックの中に10代の頃の曲はまだありますけど、絶対にリリースしないと思う。そういう意味で言えば、私は来年30歳になるので、20代前半に書いた曲はもうリリースするのはイヤだと言い出す可能性もありますね。

──リスナーとしては「もったいない!」と思っちゃいますけどね。

ね。だから、なるだけ早いテンポで音源をリリースしたいとは思ってはいて。あとは何かのタイミングでそういうボツ曲を特別に聴いてもらえる空間を作ろうかなって思いもありますね。もはや笑えないくらいの黒歴史曲もあるけど(笑)、それも自分の歴史ではありますから。

──あいみょんさんの楽曲には、その時々のご自身がめいっぱい投影されているということですよね。

そうです、そうです。年間20曲書きたいっていうのは、そこに理由があって。今で言えば29歳の自分にしか書けない楽曲をとにかく少しでも多く残したいんです。もちろん無理矢理に作ってるわけではないですけど。

あいみょん
あいみょん

アルバムの中には若い頃の曲も

──アルバムのお話に戻ると、今回収録されたストック曲たちはどんな基準で選ばれたものなんでしょうね?

私とマネージャーさんとディレクターさんで、デモ曲を聴いて選んでいくんですよ。それぞれがいいと思ったものを挙げて被ったものがあれば、「あ、これはいい曲なんやな」と自分でも認識できるというか。もちろん私は基本的に、自分の曲はすべていいと思っていますけど、周りの人の意見を聞くのもすごく大事かなと思っているので。その時々で選ばれる曲の傾向みたいなものはやっぱりあったりはしますね。今回は制作の最初の頃は暗い曲を多めにしたいという思いがあったかな。でも結局は感覚に従って、今の自分にフィットするものが選ばれました。曲を作った年代は本当にさまざまで、今回収録されている曲だと2016年に作った「駅前喫茶ポプラ」が一番古い。昔から聴いてくれているファンの方に、「あいみょんは若い頃と変わっちゃったな」とか言われることもあるんですけど、アルバムの中には若い頃の曲も入ってますからね。しめしめと思ってます(笑)。

──言ったらあいみょんさんって、ご自身の中にある太い軸を大事にしながら、常にいい形に変化しているアーティストでもありますよね。だからこそ、作られた時期を意識させず、どの曲も違和感なく今のあいみょんさんとして聴かせられるような気がします。

うん。確かに私は変わることがすごく大事だと思ってるところがありますね。なのでストックからさまざまな年代の時の自分を引っ張り出してアルバムを作ってるんだと思う。

あいみょん

──当初、「暗い曲を多めにしたい」という思いがあったという本作ですが、仕上がった内容に関してはどのように感じていますか?

そんなに暗くはないですよね(笑)。でも、歌詞の内容的にずっしりしてるものが多いイメージはあるかもしれない。前回のアルバムにはけっこう短くて軽めの曲もあったけど、今回はそういう曲があまりない印象かな。私は世の中のすべての楽曲がラブソングだと思っているタイプなので、今回も基本的には絶対的に何かに対してのラブソングではあるんですけど、いろんな視点で書けた曲がそろった気がします。

──「会いに行くのに」や「あのね」「愛の花」など本作にはタイアップ曲もたくさん収録されていますが、そこに加わる新曲たちがアルバム1枚としてのバランスをうまく取っている印象もあります。

アルバムを作るときには、全体的なバランスはちょっと考えますね。タイアップ曲などアルバムに入れることが決まっている曲もわりとあったので、新たに入れる曲は暗い曲というか、少し辛めな曲を入れてもいいんじゃないかって話で。やっぱりドラマや映画で使っていただいた楽曲は内容が壮大になりがちなので、そこのバランスをほかの楽曲で調節したいという気持ちは確かにありました。