Aimer「Open α Door」インタビュー|デビュー10周年を経て、自らの手で開く新しい扉 (2/2)

ぐちゃぐちゃに混ぜちゃえ!

──8曲目の「I know U know」も新曲ですが、しっとりした「群青色の空」とは対照的なリズミックなギターロックですね。ライブでやるときは「皆さん、お手を拝借」みたいな……いや、Aimerさんはそういう言い方は絶対にしないでしょうけど。

クラップがすごく印象的ですよね(笑)。おっしゃる通り、ライブを想定しながら作った曲の1つです。この10年で、ライブに対する思いも自分の中でどんどん大きなものになっていて。実はけっこう最近まで、私は自分のライブに足を運んでくださる方の気持ちをどうやって想像すればいいかわからないところがあって、もどかしい気持ちをずっと引きずっていたんです。でも去年、過去最長のツアー(「Aimer Hall Tour 2022 "Walpurgisnacht"」)や初めてのアリーナツアー(「Aimer 10th Anniversary Final "Cycle de 10 ans"」)を回ったとき、「あれ? そんなに難しく考えることじゃないのかな?」と思ったんですよ。かつて私自身が、自分の好きなアーティストのライブに行くために一生懸命チケットを取っていたときと、同じ気持ちなんじゃないかって。

──ほぼ間違いないでしょうね。

だから本当に当たり前のことが、自分がライブをやっている最中にわかったんです。その瞬間を境に、ライブに来てくださった方との心理的な距離がより近くなったような感覚を、実感として得ることができて。そのうえで改めてライブというものを考えたとき、「私はあなたのことをわかってるよ。あなたも私のことをわかってくれてるよね」という関係性が確認できて、なおかつあなたたち全員と一体になれる曲を作りたいと思ったんです。

──歌詞も非常にシンプルで、Aimerさんのボーカルも憂いがなく、どこまでも清々しいです。

シンプルな言葉を選んだのは、一緒に歌ってほしいから。その中で、歌詞カードには「愛を 愛を」と書かれているところを実は「I want I want」と歌っていたり、そういう言葉遊びというか音遊びも忍ばせています。ライブこそ自分の居場所を作れているということが最も強く感じられる場なので、これまで以上に大事にしていきたい。今までもライブを意識した曲を作ってきましたけど、その先の扉というイメージで「I know U know」というアッパーな曲に取り組みました。

──10曲目の「spiral dance」はタイトル通りのダンスナンバーです。作曲がMisty mintさん、編曲が玉井健二さんと百田留衣さんという組み合わせは、同じくダンスナンバーの「Ivy Ivy Ivy」(ミニアルバム「Deep down」収録曲)と一緒ですね。

そうなんです。「I know U know」がバンドサウンドのアッパーな曲だったとしたら、「spiral dance」は打ち込みの、踊れるアッパーな曲という位置付けです。この曲の着想は、さっきの「群青色の空」の話にもつながっていて。世の中は戦争をはじめ悲しいニュースであふれている一方で、自分の日常生活でもつらい出来事は起こり得るわけですよね。スケールの大きさはまったく違うけれど、どんなスケールの悲しみやつらさであっても、その原因を突き詰めると点と点がつながっていなかったり、線と線が正しく交わっていないからじゃないか。だとしたら、螺旋を描くように踊って、点も線もぐちゃぐちゃに混ぜてしまえばいいという曲です。

──大胆な発想ですね。

これもライブを通じて気付いたことで、みんなと同じ空間で同じ気持ちを共有できていると実感したとき、とんでもない幸福感に包まれるんですよ。その瞬間だけは悲しいこともつらいことも、もちろん完全に消えてなくなるわけじゃないけれど、忘れてしまえる。そういう瞬間をこれからも作っていきたいし、「ぐちゃぐちゃに混ぜちゃえ!」と言えるぐらいの強さをこの曲には込めたかったんです。

Aimer

胸のときめきに抗わないことが、今の自分にとっては大事

──最後の曲「SKYLIGHT」もダンスナンバーですが、Aimerさんとしては珍しいEDMですね。ビッグルームというよりはトロピカルハウス寄りの、チルめでメロディアスなタイプですが。

確かにこういう曲調の曲は珍しいですし、それをアルバムの最後に置くというのも私の中では新しい扉に触れている感覚がありました。最後の曲だからといって、この10年を総括するような曲とか、あるいはこの先の景色を象徴するような曲である必要はなくて。すごく抽象的な言い方ですけど、“最後に開く扉”の曲がいいと思ったんです。じゃあ、その扉はどういうものがふさわしいか考えたとき、ガラス張りで、ちょっと光が差し込んできてほしかったんですよ。なおかつ前に押して開くというよりは、頭の上にあって、見上げながら開くような扉がよくて。そういう天井にある扉というイメージから、「天窓」を意味する「SKYLIGHT」というタイトルを付けたんです。

──素敵ですね。

ただ、その扉を開けたら何が見えてくるのか、このアルバムの先にどんな景色があるのかはまだわからないんですよ。そこに至る前の、光が差し込んでいる最後の扉を開け放つ瞬間の胸の鼓動だったり、ときめきだったりを切り取った曲にしたくて。具体的な歌詞でいえば「無邪気で怖いもの知らない少年のように踏み出したら」という気持ちで、このアルバムを終わらせたかったんです。

──そこの歌詞、いいですよね。あるいは2番のサビの「騒ぎ出す止まれない声が 胸の深くをノックして」という歌詞も、Aimerさんの「扉を開けたい!」という衝動が漏れ出しているようで、僕は好きです。

もともとそういう衝動を内に秘めてはいたと思います。過去にも「RE:I AM」(2013年3月発売の5thシングル「RE:I AM EP」表題曲)や「ONE」(2017年10月発売の13thシングル「ONE / 花の唄 / 六等星の夜 Magic Blue ver.」表題曲)のようにまだやっていないことに挑戦した、自分にとって転機となった曲はいくつかあって。でも、それらは作家さんや当時の状況に引っ張られた、いわば外的な要因によって生まれたものだったんです。たぶん「残響散歌」という扉を開いたタイミングで内なる衝動に自覚的になった、あるいは衝動を抑えられなくなって、自発的にいろんな扉に手を伸ばしていったんじゃないかな。ただ、最初のほうで言ったように、開けた扉の先へ進んでいくかどうかはまた別の話で、そこはもっと慎重にならなきゃいけない場合もあるかもしれない。

──先ほどの「spiral dance」の歌声は非常に軽快でしたが、「SKYLIGHT」のそれは地に足がついているというか、シリアスと言ってもいい。同じダンスナンバーでもアプローチの仕方が大きく異なりますね。

曲の温度感や色合い、あるいは役割みたいなものに導かれた部分もありますが、やっぱり胸のときめきに抗わないでいることが今の自分にとっては大事なんだという思いから、自然と重ためなトーンになりましたね。でも、アルバムの最後がこういう曲というのも、いいんじゃないかな。

──ちょっと寂しげな余韻も心地よいです。

それはよかった。うれしいです。

──そういえば、今回のアルバムにはオーソドックスなスローバラードは収録されていないですね。

「Open α Door」という、新しい扉を開きたいという思いを込めて作ったアルバムだったので……その扉を開くのが決して嫌だったのではなくて、それ以外にまだ触れてない扉や、今こそ触れておきたい扉がたくさんあったんです。もちろん、これからもいろんな扉に触れたいという気持ちは変わらないので、みんなと一緒に新しい扉を1つひとつ開けていきたいです。

ツアー情報

Aimer Fan Club Tour "Chambre d'hôte"

  • 2023年10月6日(金)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2023年10月13日(金)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2023年10月14日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2023年10月27日(金)北海道 Zepp Sapporo
  • 2023年11月2日(木)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2023年11月11日(土)宮城県 仙台GIGS
  • 2023年11月18日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2023年11月22日(水)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 2023年11月23日(木・祝)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

Aimer(エメ)

シンガーソングライター。幼少期よりピアノやギターでの作曲や英語での作詞を始め、15歳のとき声が一切出なくなるというアクシデントを経験し、それがきっかけとなり独特の歌声を獲得する。2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル「六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」でメジャーデビューを果たした。2021年よりSACRA MUSICに所属する。2022年1月にテレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編のオープニングテーマおよびエンディングテーマを収録したシングル「残響散歌 / 朝が来る」をリリース。2022年12月には「第73回NHK紅白歌合戦」に出場し、「残響散歌」を披露した。2023年3月よりアリーナツアー「Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-」を開催。3月にアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」のオープニングテーマ「escalate」、5月にアニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」のエンディングテーマをシングルとしてリリースした。7月に7thアルバム「Open α Door」を発表。10月よりファンクラブツアー「Aimer Fan Club Tour "Chambre d'hôte"」を行う。