音楽ナタリー Power Push - 清水エイスケ(Age Factory) × 椎木知仁(My Hair is Bad)

影響を与え合う関係

北海道のバンドシーンに影響を受けたエイスケ

──お互いの共通点を挙げるとしたら何かありますか?

清水 もしかしたら1個もないかもしれないですね、共通点。だから話したくなってよく飲みに行くのかも。

椎木知仁(My Hair is Bad)

椎木 共通点って言われても全然思いつかないですね。むしろ違うところばっかり。例えば、俺は文章とか言葉を書くのが好きで、それを発表する場所さえあれば別に言葉を音に乗せなくてもいいんじゃないかって思うこともある。でもエイスケは「俺はバンドじゃないとできない、バンドがいいんですよね」って言ってて。

──清水さんは、どうしてバンドがいいんですか?

清水 もちろんアコギ1本で弾き語ることにも意味はあると思うんですけど、Age Factoryっていうバンドを名乗って、自分の選んだ、違う感覚を持った3人が音を鳴らすっていうことの不思議さってあって。それを多くの人に共感されたときの感動がすごく大きいんですよね。その感動が「バンドをやってる」ってことだと思う。まったく違う人間が集まって何か1個の見えないものを成り立たせようとしてることが素敵やなと思うんです。

椎木 Age Factoryってバンドはまさにそうだなと思います。俺らとは違う。言い方悪いですけど、変な話、My Hair is Badって「椎木知仁と2人」っていう見方もできるなってすごく思っていて。もちろん、どうでもいいメンバーとやってるって意味ではないですよ。この3人だからMy Hair is Badなんですけど。なんか違うんですよね。だからといってAge Factoryのリズム隊と俺でやってもよくならないんだろうし、全然違うからAge Factoryをうらやましいと思うんだと思う。

清水 面白いなと思ってるのが、椎木くんってあまりにも文化的要素がないんですよ。音楽も含め、映画、マンガ、本とかのカルチャーを全然知らない。でも逆に最近の日本のバンドのこととかめっちゃ知ってて、すごい現代の人だなって。それが俺にない点だったのですげえ面白いと思った。

椎木 エイスケと一緒にいると「何も知らないな」って恥ずかしくなるんですよね。なのに、エイスケは「椎木くんは知らないほうがいいです」って言ってくる。

清水エイスケ(Age Factory)

清水 俺、椎木くんが何も知らないことが、My Hair is Badが今すごく評価されている理由な気がしてて。2016年のティーンをギューッと濃縮した人みたいだから。

──ちなみに清水さんが、影響を受けたものを教えてもらってもいいですか?

清水 高校時代に出会った、bloodthirsty butchersとかeastern youthとかの北海道のバンドシーンですね。J-POPとかでは感じ得なかった美しい悲しさ、儚さを感じて。音楽は踊らせるだけじゃないんだって初めて思った。「がんばれ」って言葉で応援してるわけじゃなんだけど、鼓舞されてるみたいな気持ちになったんですよね。18歳くらいだったので、まだ自分の中で悲しさとかもそこまでわからんし、ただ漠然と「カッコいいな」って思ってただけですけど。バンドを始めてからは、LOSTAGEの五味(岳久 / Vo, B)さんがやってるレコード店に行くようになって、そこでロック史とか教えてもらうようになるんです。そこからは海外の音楽、特にUSの1980年代、1970年代……とさかのぼって聴くようになり、ハードコアとかハードロックが好きになっていきました。

ストレートに届けるにこだわった「LOVE」

──では、ここからはそれぞれの新作について聞かせてください。まず椎木さん、Age Factoryの「LOVE」を聴いた感想を教えてください。

椎木 もちろんよかったし、月並みな言葉ですけど、一皮剥けた感じの印象でした。いつもよりまっすぐで速い球投げてくれた感じっていうか。

清水 そう感じてもらえるのならうれしいです。俺らはいつも、ストレートの球を投げたいと思いつつも変化球を混ぜたくなっちゃって。だけど今回は自分たちが今やりたいことを、どうストレートに届けるかっていうことを考えたフルアルバムだったんで。

──アルバムの構想はあったんですか?

清水 構想というか……、今まで俺らはミニアルバムしか作ってこなかったんですよ。ミニアルバムって6曲、7曲ぐらいじゃないですか。そこからさらに3、4曲作らないといけないってなったときにフルアルバムの意味とか難しさがわかって。じゃあミニアルバムで足りなかったものはなんだろう?っていうことを初めて考えました。その結果、ホントにストレートに自分たちがやりたいし聴きたい1枚にしようと思いました。

──今作はLOSTAGEの五味岳久さんがプロデュースを手がけています。五味さんがプロデューサーに入って変わりました?

清水 けっこう変わりましたね。プロデューサーに入ってもらうって言っても、俺はけっこうラフに考えてて、「この人に選択肢を増やしてもらえたら」っていうくらいの感覚で。例えば曲の速さについて考えるときも、これまで俺らは上げるか下げるかの2択やったんですけど、五味さんは「元のままでいく」っていう、単純だけど俺たちが今までしてこなかった選択肢を提案してくれたんです。俺らは基本的にとっ散らかってる作品が好きだったんですけど、五味さんはシンプルのよさを教えてくれたので、プロデュースをお願いしてよかったなと思います。

──五味さんに言われた、Age Factoryのいいところって何かありますか?

清水 とりあえずよく言われるのが「練習しすぎ」やった。「そんな練習せんでええ」って(笑)。あと俺らは3人でのコーラスっていうのが多いんですけど、そこは褒めてもらいましたね。あと曲ができた段階で五味さんに持っていくという作業をしていたんですけど、「この曲はねえな」みたいなことを一度も言われなくて。「この人やる気あるのかな」くらいに思ってたんですけど(笑)、基本的には俺らのメロディラインとかをすごい褒めてくれたんですよ。もちろん「ここはいらんのちゃう?」みたいなところはありましたけど、メロディを褒めてもらえたことが一番うれしかったですね。

──自信にもなりますよね。

清水 そうですね。メンバー全員LOSTAGEが好きですし、同じ奈良出身ということもあって影響を受けてる。そういう人から褒められることで全員のやる気が上がりました。そういう意味でも、好きな人にプロデュースをしてもらうってすごくいいことだなと思いました。

──できあがってみての手応えは?

清水 ありますね。手応えはありますし、どの曲を聴いてもらってもAge Factoryっていうバンドの一面が垣間見えるぐらい、1つひとつの曲に要素を散りばめられたと思っています。どの曲を好きになってもらっても損しないと思う。

──椎木さんは特にお気に入りの曲はありますか?

椎木 歌詞だったら「My end」がよくて、曲でハッとしたのは「Tours」。「Veranda」も歌詞よかったし。ライブで半分以上の曲を聴いてて、絶対いいんだろうなって思ってたんですけど、音源で聴いたらまた印象が違った。きちんとバランスが取れてて聴きやすかったですね。

My Hair is Bad ニューアルバム「woman's」 / 2016年10月19日発売 / EMI Records Japan
初回限定盤 [CD+DVD] / 4536円 / UPCH-29228
通常盤 [CD] / 3024円 / UPCH-20430
InterFM897「Age Factoryの愛に近づくまで」

2016年10月5日(水)26:00~26:30

<放送内容>
1stアルバム「LOVE」のリリースを記念してAge Factoryの真の魅力に迫るドキュメンタリータッチの番組。ナレーションを担当するのはcinema staffの辻友貴。

Age Factory(エイジファクトリー)
Age Factory

清水エイスケ(Vo, G)、西口直人(B)、増子央人(Dr, Cho)からなるスリーピースバンド。2010年4月の結成以来、地元の奈良を中心に全国で年間100本近くのライブを重ねてきた。2014年12月にデビューミニアルバム「手を振る」を、2015年9月に「NOHARA」をリリース。2016年10月に、LOSTAGEの五味岳久をプロデューサーに迎え1stフルアルバム「LOVE」を発表する。

My Hair is Bad(マイヘアイズバッド)
My Hair is Bad

椎木知仁(G, Vo)、山本大樹(B, Cho)、山田淳(Dr)の3人が2008年に新潟で結成したロックバンド。大阪のインディーズレーベル・THE NINTH APOLLOに所属し、2013年2月に1stアルバム「昨日になりたくて」を発売した。骨太なロックサウンドと、椎木がつづるリアリティのある歌詞、アドリブのポエトリーリーディングを織り交ぜたライブで人気を集め、2016年5月にシングル「時代をあつめて」でEMI Recordsからメジャーデビューを果たした。同年10月にメジャー1stアルバム「woman's」をリリース。12月から東京・日比谷野外大音楽堂公演を含むレコ発ツアー「ハイパーホームランツアー」を実施する。