Adoライブ映像作品「モナ・リザの横顔」音楽ジャーナリスト・柴那典レビュー|Adoが「モナ・リザの横顔」で見せた“本質”

AdoのライブBlu-ray / DVD「モナ・リザの横顔」が10月22日にリリースされた。

2020年に「うっせぇわ」で鮮烈なデビューを果たして以降、ヒット曲を連発し、2度のワールドツアーを成功に収めるなど、世界的に人気を集めるAdo。そんな彼女がまだ見せたことのない姿を見せるべく2024年に行ったツアー「Ado JAPAN TOUR 2024『モナ・リザの横顔』」のKアリーナ横浜公演の模様を収めたのが本作だ。

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた名画「モナ・リザ」。誰もが知る有名な肖像画だが、その横顔は誰も知らない──そんな意味を込めて名付けられた今回のツアーで来場者が目撃したのは、Ado自身のクリエイティブやアイデンティティに焦点を当てるべく、「うっせぇわ」や「新時代」といった代表曲を外した挑戦的なセットリスト、これまでと同様に素顔を見せないシルエットでのパフォーマンスではあるものの、ボックスから飛び出して披露したギター演奏など、今まで見たことのないAdoの姿が詰まったステージの数々。この特集では、音楽ジャーナリストの柴那典に本作を視聴してもらい、ライブ「モナ・リザの横顔」の魅力を紐解いてもらった。

文 / 柴那典撮影 / iola Kam(V'z Twinkle)

柴那典「モナ・リザの横顔」レビュー

とても強い引力を持つ映像作品だ。

Adoのライブには、2022年4月にZepp DiverCity(TOKYO)で開催された初ワンマン「喜劇」から何度も訪れている。ステージの興奮も何度も味わっている。しかし映像作品として体感するAdoのライブは、会場で感じるものとはまた違う没入感をもたらしてくれるのだと実感した。

ライブBlu-ray / DVD「モナ・リザの横顔」は、2024年7月から12月にかけて行われたAdoの全国ツアー「Ado JAPAN TOUR 2024『モナ・リザの横顔』」より、10月12日の神奈川・Kアリーナ横浜公演の模様を収録した映像作品だ。初回限定盤には10月13日に同会場で披露された「0」「向日葵」の特別映像が追加収録される。

Ado

アーティストのライブ映像作品は、多くの場合、現場の興奮を追体験できるようなものになっている。もちろん、この「Ado JAPAN TOUR 2024『モナ・リザの横顔』」もそういう作りだ。だが、それだけじゃなく、ステージと1対1で向き合うような“近さ”がある。まるで画面に吸い込まれるような、不思議な感覚がある。

その理由には、ステージ全体に巨大なLEDビジョンが設けられ、その中央に位置するボックスの中でシルエット姿のAdoが歌い踊るというユニークなライブスタイルもあるだろう。観る者の目を奪う映像が画面いっぱいに広がり、照明とレーザーの光が舞う。まるでイメージの奔流を浴びるような視聴体験だ。しかし何より大きいのは、やはりAdoの歌声が持つ強靭な表現力。会場が大きくなり、セットや映像演出が豪華になればなるほど、それを中心点から“制圧”するようなAdoの存在感が際立つ。

ライブのセットリストや構成も、とても印象的なものだった。オープニングナンバーは「心という名の不可解」。Adoが敬愛するまふまふが作詞作編曲を手がけた1曲だ。そこから序盤は「逆光」や「唱」といったエネルギッシュなナンバー、「リベリオン」や「過学習」といった複雑で情報量の多い楽曲を畳みかける。MCを挟まずに次々と楽曲を披露するAdo。時に狂おしく髪を振り乱し、時に優雅なダンスを見せる彼女の姿に惹き込まれる。

中盤には「フェイキング・オブ・コメディ」や「ハングリーニコル」など“歌い手”としての原点を感じさせる楽曲も披露された。序盤より大きなボックスがリフトアップし可動域が広がる演出を見せた後半は、「抜け空」や「夜のピエロ(TeddyLoid Remix)」など、クラブミュージック的な高揚感をもたらす楽曲が続く。「オールナイトレディオ」のシティポップ的な爽快感も含めて、喜怒哀楽を乗りこなすAdoの歌声の“万能性”を感じさせる。

終盤に披露された「立ち入り禁止」もAdoにとって大きな意味を持つ1曲だろう。Ayase(YOASOBI)とのコラボレーションでカバーした、2022年リリースのまふまふのトリビュートアルバム収録曲だ。こうした楽曲を象徴的な位置に置き、代表曲の「うっせぇわ」や「新時代」をあえて外したセットリストからも、このツアーならではの狙いがうかがえる。

終盤のMCで語られた通り、ツアー「モナ・リザの横顔」には「自分自身の新しい一面を見せる」というコンセプトがあった。誰もが知るモナ・リザであっても、その横顔を見た人は誰もいない。それと同じように、これまで見せてこなかった側面を前面に押し出す意図があった。それまでとは異なるパフォーマンスのスタイルを取り入れ、Ado自身のクリエイティブやアイデンティティに焦点を当てるステージだった。

Ado
Ado

そのことが明確に伝わったのがアンコールだった。

ボックスの囲いから解き放たれたAdoはブルーのストラトキャスターを抱えてステージに立ち、エネルギッシュなギターロックナンバー「Hello Signals」を自らギターをかき鳴らしながら歌った。さらにはアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の劇中バンドである結束バンドのオリジナル曲「あのバンド」を披露。Adoがライブでギターを弾くのはこのツアーが初めてだ。

そのときAdoが抱えていたのは、13歳の頃に手にした自分のギター。かつて断念したギターの弾き語りにもう一度挑戦したのだ。ギターを掻き鳴らしながら歌われた「初夏」は、彼女が17歳の頃に作ったという楽曲。Adoは当時のまっすぐな心情をメロディと歌詞に託し、力強く歌声を届けた。彼女が自ら作詞作曲した楽曲をライブで披露するのもこれが初となる。

本編終盤とアンコールでの、長く時間をかけてたっぷりと語ったMCでも、Adoがどう自分自身と向き合っているのか、どんな未来を見据えているのか、その真摯な思いが伝わってきた。真っ向からAdo自身と向き合ったような余韻があった。

振り返ってみれば、Adoのキャリアは常に“現象”に彩られてきた。「うっせぇわ」でのセンセーショナルなデビューに始まり、さまざまなムーブメントを巻き起こしてきた。2024年2月から4月にかけては初の世界ツアー「Wish」を開催。4月には女性ソロアーティスト初となる東京・国立競技場でのワンマンライブ「Ado SPECIAL LIVE 2024『心臓』」を行い、2日間で14万人を動員。すべてが規格外だった。

だからこそ、Adoのライブには猛スピードで拡大していく“現象”の盛り上がりを体感するような興奮があった。その真っ只中にいる一体感があった。しかし「モナ・リザの横顔」には、それだけでなく、Ado自身が見せたいものや大事にしているもの、Adoの“本質”を目の当たりにするような感動があった。

Ado
Ado

AdoはMCでこう語っていた。

「私は日本の歌い手やアーティストが、まだやったことのない規模の世界ツアーをやると決めました。同じ日本人として誇れるようなアーティストに、歌い手になりたい。私はその目標を達成すべく世界に行きます」

その言葉は、まさに有言実行の結果をもたらした。

2025年8月にAdoは、2度目のワールドツアー「Ado WORLD TOUR 2025 "Hibana" Powered by Crunchyroll」を完走。アジア、オセアニア、ヨーロッパ、北米、中南米の世界33都市を回ったツアーは全公演で50万人以上を動員し、日本人アーティストによるワールドツアーの中では過去最大級の規模となった。

そして、Adoはこんなふうにも語っていた。

「私はこの先、世界を目指して進んでいこうと思っております。愛するVOCALOIDと歌い手と日本の音楽の文化を守り続けたい、そしてたくさんの皆さまに知ってもらいたいという思いで進んでいきます。その中で、私らしくはあるつもりですが、皆様にお見せしたことがない一面をお見せすることが、これから先にあるかもしれません」

Ado
Ado

その言葉の通り、2025年のAdoはアーティストとして新たな扉を開けてきた。ワールドツアー「Hibana」ではシーアの「Chandelier」を英語詞で歌うカバーも披露され、各地で大合唱の盛り上がりを見せていた。また2025年6月にはUKのダンスミュージックシーンを牽引するDJ / プロデューサーのジャックス・ジョーンズとのコラボレーション曲「Stay Gold」もリリースされた。Adoの“現象”の規模はさらに大きくなり、さらなるグローバルな飛躍を果たそうとしている。そんな2025年の今だからこそ、Adoがツアー「モナ・リザの横顔」で見せた“本質”は、より大きな意味合いを持って届くのではないだろうか。

Adoはこんな言葉も残していた。

「私は私の大事にしたいものをずっと守り続けて、私自身をいつか愛せるようになるために、ずっと進んでいきます」

11月にはドームツアー「Ado DOME TOUR 2025『よだか』」が始まる。凱旋公演として東京と大阪のドームで行われるライブは、こうした思いのもと歩みを進めてきたAdoの現在地を示すものになるだろう。どんな内容になるのか、期待が高まる。

Ado

公演情報

Ado DOME TOUR 2025「よだか」

  • 2025年11月11日(火)東京都 東京ドーム
  • 2025年11月12日(水)東京都 東京ドーム
  • 2025年11月22日(土)大阪府 京セラドーム大阪
  • 2025年11月23日(日・祝)大阪府 京セラドーム大阪

プロフィール

Ado(アド)

2002年生まれの歌い手。2020年に「うっせぇわ」でメジャーデビューを果たした。2022年には主題歌・劇中歌を含む全7曲の歌唱を担当した映画「ONE PIECE FILM RED」の楽曲を収録したアルバム「ウタの歌 ONE PIECE FILM RED」が大ヒット。2024年2月からはワールドツアー「Ado THE FIRST WORLD TOUR "Wish"」を行い、4月には女性ソロアーティストとして初の国立競技場でのライブ「Ado SPECIAL LIVE 2024『心臓』」を開催した。7月から初の全国アリーナツアー「Ado JAPAN TOUR 2024『モナ・リザの横顔』」を開催。ツアー直前に自身2枚目となるオリジナルアルバム「残夢」をリリースした。2025年4月から8月にかけて自身2度目となるワールドツアー「Ado WORLD TOUR 2025 "Hibana" Powered by Crunchyroll」を開催した。11月にはツアー「Ado DOME TOUR 2025『よだか』」で東京と大阪のドームを巡る。