access|続けてきた究極のアップデートとリスナーとの“接続”

「またHIROの声が乗ったら気持ちいいだろうな」

──そんな中、一旦活動をストップさせたのはどういう理由からでしょうか?

貴水 なんだろう、なんとなくそうなったんです。あのときやりたいことをバーッとやって、ひと息つくか……じゃないけど、そんな感覚だったのかな。

浅倉 インプットとアウトプットってすごくバランスが難しいんですよ。特にクリエイトする作業は。自分の中から発信できるものを生み出すのに、当時は10インプットして2アウトプットできればいいほうで。でもその材料は手近なところで買ってくるというわけにはいかないじゃないですか。2年間でaccessの基盤ができて、「accessとして次のステージへ動き出すためには、どういうインプットが必要なんだろう?」と考えたときに自然と出てきた答えがソロだった。HIROはお芝居にも挑戦するようになったもんね?

貴水 そうですね。いろんなことをやらせてもらいました。

浅倉 僕はほかのボーカリストの方に楽曲提供をさせてもらったり、プロデュースしたりする中でたくさんインプットできるものがあって。気付いたら7年経ってた。

──7年の休止を経て復活するタイミングには何かきっかけがあったんでしょうか?

浅倉大介(Key)(Photo by 田中和子[CAPS])

浅倉 どうなんだろう? 復活とか休止とかって、聴いてくださる方にとってはやっぱり大ごとだしいろいろ思うところはあると思うんですけど、それぞれのソロ活動は絶対に必要だったし、活動再開も正直僕らの中では全部自然な流れというか。7年経ってまた「最新のエレクトリックサウンドにHIROの声が乗ったら気持ちいいだろうな」と思ったっていう、accessとしては自然な流れ。最初の2年でaccessとしての基盤がきちんとできていたがゆえに、いろんな活動を通して吸収したものをaccessの音楽としてアウトプットできた。その進化を感じてもらえていれば、僕ら的にはとてもうれしいことですね。

“壊す”作業を続けていたら、ブレイク

──活動を再開してからは、それぞれソロの活動とaccessとしての活動をずっと両立していますよね。

貴水 結局、access以外の活動をしていたほうが、お互いの引き出しがより増えて、次に動き出すときにまた面白いことができるというところもあるので、どっちも滞っちゃダメなような気がするんですよね。

浅倉 バンドってすべての時間を共にして同じメシを……みたいな印象があるんですけど、accessはバンドじゃなくてユニットなんですよね。ユニットはそれぞれ何か閃いたらセッションやコラボレーションをするという感覚なので、今、面白いのは何かというのをそれぞれで考えて2人で実現させていこうって感じかな。それにしても、ここ何年かのHIROのビジュアル展開は面白かった(笑)。いろいろトライしてたよね?

貴水博之(Vo)(Photo by 田中和子[CAPS])

貴水 そうそう(笑)。やっぱりいちアーティストとして“壊す”っていう作業は続けないといけない。

──ちょっと前のバラエティ番組でのブレイク、あれも“壊す”?

貴水 きっかけは「有吉反省会」(日本テレビ系列のバラエティ番組)だったと思うんですけど、あのときに変顔をしたんですよ。キャラ的にそんなことをする人間だと思われてなかったと思うんですけど、した瞬間にスタジオ中がうねったんですよね。それでバカリズムさんが「おめでとうございます」って言ったのを聞いて、何かが起きたんだなって感じました(笑)。

──「accessのボーカリスト・貴水博之のイメージを守らなきゃ」みたいな意識はなかったですか?

貴水 僕は昔からあまりそういうのはないんです。このaccessのライブ映像にも残ってるけど、平気で金髪の長髪にするとか(笑)。もちろん1つのイメージをずっと守り続けるというスタンスも大事だと思うし、自分のベースには必ず変わらないものを持ち続けなきゃいけないと思うんですけど。エンタテインメントをやる人間としては、やっぱり何かを壊すような姿勢も常に見せないといけないと思っていて。じゃないと、見てる人たちが楽しめないというか、ワクワクを与えることはできないんじゃないかな。自分としては感情に忠実に生きていきたいって思って……結果ああなったっていう(笑)。

楽屋のメイク台に2本の水晶

──ここ数年はだいたい毎年2回のペースでツアーを開催されていますが、ライブへのこだわりについて聞かせてください。

浅倉 最近のライブではけっこうアレンジを加えていて、原曲にはないアプローチも取り入れています。もちろん原曲は原曲で、聴いてくれた方にとって大切な1曲になってくれていれば僕もうれしいんですよ。ただ、それをライブに来てくれた人の前で再現をする気はないんですよね。やっぱりライブでは新たな体験をしてほしいという気持ちがあって、ライブアレンジにはすごく時間をかけて準備するんです。今回リリースされるライブ映像の中には、曲のイントロからアプローチを変えたりしているものもあります。僕はライブというものを、一度完成したものを会場の皆さんと壊して、また再構築して、そこで新たな発見をしてもらえる場所にしたいんです。僕自身もそれで次への答えが見えることがある。1stアルバムに入ってた曲は姿形がどんどん変わって、ライブ用に何パターンのアレンジを作ったんだろう……っていうくらい。初期の頃からaccessを応援してくださってる方も、きっと数えきれていないんじゃないかなと思います。

access(Photo by 田中和子[CAPS])

──昔と今で変わった部分、逆に変わらない部分はどういうところでしょう?

浅倉 新しく挑戦していることで言うと、今年の春にやったツアー「ELECTRIC NIGHT 2019」では、ぶっつけ本番でどんなリミックスが作れるかということにチャレンジしました。その場の空気、フロアのテンションに合わせたリミックスをリアルタイムでどんどん作っていって、照明スタッフも曲がどう展開していくかわからないまま、VJ感覚で照明を当てていく。そういうエレクトリックサウンドのインプロビゼーションといった感じのこともやっています。

貴水 僕の場合は、デビュー当時は“精一杯歌う”ということに必死でしたね。声がハイトーンだから当時は本当に調子が悪くて声が出ないとき、楽屋に水晶を置いて「声が出ますように」なんて祈っていたこともあるんですよ。

浅倉 覚えてる(笑)。なんか楽屋のメイク台に2本水晶が立ててあったんだよ(笑)。

貴水 そんなので声が出るわけねえだろ、お前……っていう(笑)。

浅倉 でもさ、やっぱ喉ってすがるものがないもんね。楽器と違って修理すれば直るというわけでもないし。

貴水 当時は喉の扱い方を熟知していなかったのでいろいろ苦労したんですけど、今はだいぶ経験を積んでほとんどコントロールできるので、自分の思い通りに表現できるようになっているんです。

浅倉 accessの音楽は、やっぱり貴水博之がいるからファンにわかりやすく届くっていうところはあるんですよ。僕1人でやるインストだったら、もっとアングラなアプローチで、すごいミニマムな世界観になるかもしれない。accessはその時代の新しいものを皆さんに届きやすくするために何ができるのかを考えていて、そのために貴水博之の声は欠かせない。トランスのビートに歌詞が乗ると誰もが口ずさみたくなるでしょ。

──先ほど話に挙がった今年の春ツアーでは、即興でリミックスを作っていくような演奏に対して、貴水さんはその場で対応しながら歌を乗せていったわけですよね。それって大変じゃなかったですか?

貴水 大変でしたね(笑)。大ちゃんがどういうふうに来るかっていうのは、長年一緒にいても読めないですし。お互いにぶつかり合って出し合って起こった化学変化で生まれた種が、また次の新曲につながっていくような気がしますね。

浅倉 春のツアーを始めた頃は平成で、半ばで令和に変わったんですよ。だからこのツアーでは、時代を音楽で表現して、来てくれた人たちと共有したかった。で、令和になった瞬間に曲を作り出して、新時代に向けてのみなぎるパワーをラフなメロディで表現してHIROに聴かせて。まだ歌詞も書いていないまま、ライブで披露したんです。そういう発想ができるのも2人だけのステージだから。この時代、探せばだいたいのものが手に入るじゃないですか。昔のものも外国のものも、へたすると宇宙のものまで手に入るかもしれない。でも今年の春のライブで初公開した新曲は、ネットで探しても見付けられない。タイトルもないし、音源もないんだから。それがリアルの面白いところなんだよね。


2019年6月27日更新