阿部真央「NOW」インタビュー|11枚目にしてスタート地点、“自分で自分を変えた”日々 (2/2)

“貴方”と“あなた”に表れた迷い

──アルバムの幕開けを飾る「Hands and Dance」はサウンドにもメッセージにも強烈なインパクトがある曲です。

ありがとうございます。生きていると気持ちが上がっているときもあれば、当然のように下がってしまうときもあるわけで。前は下がっているときが悪い状態だと思っていたから、なるべくそうならないようにしていたところもあった。でも人間はそもそもそういうものだなと、ここ最近は思うようになったんです。気持ちが揺れているほうが正常なんだと。自分の中にある光と影の部分が手を取り合うことができれば、生きることに振り回されなくなるはず。そんな曲ですね。

──7月に生配信されたYouTube Liveで初披露されていましたが、ライブだと曲の持つパワーがより広がる曲でもありますよね。

そうそう。ライブ映えしますよね。自分の好きなタイプのすごくカッコいい曲だから、歌ってても気持ちいい。

──超ロングトーンの部分にかなりシビれましたよ。

あそこはまだライブでは成功してないですけどね。ここからもっと練習しないと(笑)。

──2曲目はアルバムのリード曲となる「Somebody Else Now」です。アレンジを手がけたknoakさんとは初顔合わせですよね。

今回は新しいチャレンジもしたかったので、制作スタッフが薦めてくれた新しいアレンジャーさんともいろいろご一緒してみたんです。knoakさんが手がけた生音を使ったサントラがすごくよかったので、いろいろ要望を汲み取っていただけそうだなということで初めてお願いしてみました。実際、私のリクエストにしっかり応えていただけて、すごくいい仕上がりになりました。

──曲の内容としては先ほどもお話があったように、自らの意思で終わらせることを決めた恋愛について書かれています。

このぐらいの年齢になるとわかるわけですよ。この恋愛は不毛だなと。私は人よりも早く前に進みたくなるし、停滞していることが嫌なんです。進みたいのに進ませてもらえないような関係性だとしたら、それは私にとっては幸せではないので、だったら離れますという歌ですね。人と縁が切れるときって、信じられないくらい話が噛み合わなくなることがあるじゃないですか(笑)。あなたが変わってしまったように見えるし、私が変わったようにも見える。そんな2人はもう別人だなということで「Somebody Else Now」というタイトルになっています。

──すべて英語でつづられた6曲目「Go Away From You」も内容的には近いですけど、こっちではまだちょっと吹っ切れていない印象もあって。

そうそうそう。まさに「Go Away From You」は吹っ切れる前の、「もう行かなきゃ!」っていう曲だから。今回は心の揺れ動きが時系列で曲になっているところがありますね。この曲もすごくお気に入りです。

──和訳を読むと心の中の迷いがかなり赤裸々に描かれていますよね。

迷ってますよねえ(笑)。これ、スタッフさんに言われて気付いたんですけど、最初に書いた和訳には“貴方”と“あなた”という2つの表記が出てきていたんですよ。私の場合、恋慕っている人のことは漢字の“貴方”を使うんですが、この曲ではひらがなの“あなた”も無意識で使っていた。それくらい、歌詞を書いている段階で混乱していたんだと思います。でも、そういう形で気持ちの揺れ動きが歌詞に出たのは、自分としてもちょっと面白かったかな。

阿部真央

──アルバムには「Somebody Else Now」のアコースティックバージョンも収録されています。どうして入れることにしたんですか?

「Somebody Else Now」のリファレンスとしてアヴリル・ラヴィーンの「Rock N Roll」を聴いていたんですけど、「Avril Lavigne」というアルバムには「Rock N Roll」のアコースティックバージョンも入っていて。デモを作る段階では、そっちのバージョンを意識して音を組み立てていたんですよね。結果的にknoakさんにアレンジしていただいたものが完成しましたが、最初に作ったアコースティックなものもいいよねという話になったので、だったらアルバムに入れちゃおうかなと。

──アコースティックバージョンではカホンも阿部さんが演奏されていますね。

一応、自分で叩いてみました(笑)。オリジナルのバンドバージョンとアコースティックバージョンでは尺がちょっと違っていたり、バンドでは静かになるパートもアコースティックのほうでは私がアコギを弾き続けていたり、細かい部分までいろいろ違いがあるので、そういった部分も楽しんでもらえたらうれしいですね。

どんな感情になったとしても今の自分なら

──9曲目には弾き語りナンバー「またどこかで会えたら」も収録されています。この曲はどんな感情から生まれたんですか?

これは一見、恋の歌のようにも聞こえますけど、実はそうじゃないんですよ。今年の2月くらいに、すごく信頼していた仲間が急にいなくなってしまったことがあって。そのことを思いながら書きました。私の場合、他人を信じるというハードルがものすごく高いので、時間をかけて心を開いた人は本当に大好きになるんです。今のライブのメンバーや、レコーディングでお世話になっているミュージシャンはみんなそう。なのに、そんな仲間が急にいなくなってしまったので、ものすごいショックを受けて。正直、恋愛よりも引きずってしまうくらいだったので、この曲のプリプロでは泣いちゃって歌えないこともあったんですよね。

──ギターと歌というシンプルな構成だからこそ、阿部さんの思いが胸に迫って来る仕上がりになっていますね。

曲を作った段階から、こんなに悲しい歌は絶対に1人で録ろうって決めてました。私は悲しくて重い歌ほど、自分1人でやりたいところがあるので。曲としては完成しましたけど、感情としてはまだ吹っ切れてはいないかなあ。人生の中での大きな経験になった、と自分に言い聞かせてはいますけどね。今回のアルバムの中で一番ヘビーで、一番悲しい曲です。

──この曲では、離れてしまった相手に対して“笑っていてほしい”と願っていますけど、その感情は「Everyday」にも共通していますよね。

そうですね。ただ「Everyday」は恋の歌として書いているし、もうちょっとピュアな感情です。とは言え、具体的な恋愛描写をあまり入れていないので、聴く人によっては家族愛にも受け取ってもらえるかもしれない。そういう意味では、相手のことを恋慕ってはいるけど、もうちょっと愛に近い部分を切り取れた曲になったのかな。

阿部真央

──この曲は、中井雅子さんのソロプロジェクトであるRayonsがアレンジを手がけていますね。

制作スタッフからRayonsさんの曲を聴かせてもらったとき、その世界観に一瞬で惹かれたんですよ。同時に、それは「Everyday」という曲の世界にもぴったりだと思ったので、アレンジをお願いすることにしました。アレンジデモの段階で中井さんがコーラスを入れてくださっていたんですけど、それがあまりにもよかったので、本番でも入れていただくことにしました。女性ボーカルの方と一緒に歌うのは初めてのことだったんですけど、その選択は大正解だったと思える、本当に美しい仕上がりになりました。

──「Everyday」と、その次の「Maybe」が象徴的ですけど、今回のアルバムは音を削ぎ落したシンプルなサウンドの曲が多いですよね。

そこは去年出したアコースティックアルバム(「Acoustic -Self Cover Album」)での経験が生きていますね。シンプルなサウンドでもいいと思える感性が私の中で育ったし、今の私としてはそういう曲にこそよさを感じるようにもなった。年齢が関係しているのかもしれないけど、今の自分はシンプルなサウンドであっても焦らず、そこにしっかり寄り添いながら歌えるから。

──「Maybe」には、ちょっと落ちた状態の阿部さんの姿が見えているような。

うん。アルバムを作る過程でいろいろな悲しみはある程度吹っ切れたと思ってたんですけど、終盤あたりでこの曲がポロッと出てきて。要は沈んでるときの自分の感じが出たというか(笑)。いろいろなことがうまくいっているのは頭の中でわかってるけど、でもすごく不安な夜があったり、たまにはまだ自分がここにいないように感じることもあるわけですよ。そういう瞬間を切り取っているので、ある意味、何か答えが見えているわけでもないし、めちゃくちゃパーソナルな内容でもある。こういうときがあった、ただそれだけ、みたいな曲ですね。

──「Hands and Dance」で歌われているように、今の阿部さんは沈んでいるときの自分もちゃんと愛せているから大丈夫ですよね。

そうそう。どんな感情になったとしても今の自分は不安にならない。ちゃんと安心できているから大丈夫ですね。ジャケ写のように笑っていられるので。

阿部真央

──アルバムを聴くと、ライブがさらに楽しみになりました。8月からの弾き語りツアー、バンドスタイルで巡る10月からのZeppツアーについて改めてひと言いただけますか?

いろんな過渡期を経て、最近の自分はライブで失敗することを恐れなくなったんです。失敗するのはいいことではないけど、そこを恐れないことであれこれ考えずに思い切りライブができるというか。実際、本当に失敗しちゃうこともあるんだけど(笑)、でもそういうときのほうがいいライブだったりする。新旧、いろんな曲をやりますので、ぜひたくさんの方に来てほしいです。必ず楽しんでもらえると思いますよ。

阿部真央が独立と「進むために」について語るインタビューはこちら

阿部真央インタビュー|“進むため”の独立を経て、新たなフェーズで紡ぐ音楽
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公演情報

15th Anniversary Abe Mao Solo Live Tour 2024

  • 2024年8月25日(日)京都府 先斗町歌舞練場
  • 2024年8月30日(金)東京都 I'M A SHOW
  • 2024年9月13日(金)愛知県 千種文化小劇場
  • 2024年9月15日(日)福岡県 大濠公園能楽堂

15th Anniversary Abe Mao Zepp Live Tour 2024

  • 2024年10月4日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2024年10月10日(木)北海道 Zepp Sapporo
  • 2024年10月17日(木)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2024年10月24日(木)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2024年10月25日(金)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)

阿部真央らいぶ2025 -15th ANNIVERSARY- at 東京ガーデンシアター

2025年1月26日(日)東京都 東京ガーデンシアター

プロフィール

阿部真央(アベマオ)

1990年1月24日生まれ、大分県出身のシンガーソングライター。2009年1月にポニーキャニオンよりアルバム「ふりぃ」でメジャーデビュー。等身大の歌詞とポップなメロディ、表現力豊かな歌が同世代を中心に支持を集めている。2019年にデビュー10周年を迎え、初のベストアルバム「阿部真央ベスト」をリリースした。2023年3月、所属事務所から独立し、7月にポニーキャニオンIRORI Recordsと提携したプライベートレーベル・KAGAYAKI RECORDSを設立。2024年8月に11枚目となるオリジナルアルバム「NOW」をリリースした。同月から10月にかけてデビュー15周年ツアーでホールとライブハウスを巡る。また2024年4月からはFM FUJI「阿部真央のBrighten Your Sunday」にてパーソナリティを担当している。