緊張感と熱気を封じ込めるライブレコーディング
——新しいアルバムを聴いた最初の印象として、音はシンプルだけどかなり凝った作り方をしてるんじゃないかなと思ったんですよ。レコーディングはかなり緻密な作業だったのではないですか?
いえ、今回も一発録りですね。全曲ライブトラッキング。オーバーダブしたのは2カ所しかないです。ほかはもう、全部ライブですよ。
——そうなんですか!
僕たちは現在進行形の音楽も大好きですけど、昔のロックが持つ……今の音楽にはない熱さみたいなものが大好きで。聴いてると沸き上がってくる感じというか。「なんやこれ!?」っていう。あれってなんなんだろうってずっと思ってたんですよ。それはまあ時代というか……レコーディング機器も発達してないし、ライブ録りが当たり前の時代の音楽やから。もっと昔の無声映画や舞台にしても、俳優と伴奏の一発勝負でしょ。キスシーンで笑ったりしたらダメだし。誰かがミスったらもう終わりじゃないですか。そんな中で大金を投入して作ってる映画やから、緊張感がすさまじいんですよね。「なんやこれ!?」の正体はそれやったんかと。
今はPro Toolsで何度も録り直したり、ちょっとズレてたらピッチ替えたり、いろんなことができるんですけど、下手くそを隠すためにPro Toolsを使うんじゃなくて、よりカッコよくするためにボーカルを前に出したり……もう一段階、攻めるための調整というか。デジタルの技術は攻めで使う。だからそのぶん、レコーディングに入るまではめっちゃ緻密にアレンジを考えますね。ちょっとでもはてなマークが出たり、退屈だなと感じたらいったんゼロに戻す。
——そうやってストイックに練り上げた楽曲を一発録りすることによって、独特なライブ感のあるサウンドに仕上がっているわけですね。
もっと専門的な話をすると……ドラムセットのマイクを3本に絞って録ったりしてるんです。スネアやハイハットもオンで録ってないという。ギターも普通はマイクをアンプの近くに立てるんですけど、ちょっと離れたところに立てて。ベースもラインなしでマイクのみ。耳で聞いてる音そのまま、空気も一緒に録ってしまおう、と。だからそういう意味では、前よりもっと“昔っぽい”音になったんだと思います。
——本作は「HYPER, HYPER, HYPER」という楽曲でラストを迎えますが、アルバムタイトルの「HYPER, HYP8R, HYPER」との関連性について教えてください。順序としてまずはアルバムタイトルが先にあったのか、それともこの曲ができあがってからアルバムタイトルを決めたんでしょうか。
後者ですね。今回は気楽に音楽を楽しむイメージがまずあって。タイトルもそういうイメージで付けたいなと。最初は「8otto in the House」とか(笑)「FUN FUN FUN」とかそういうタイトルがいいかなと言ってたんですけど、もうちょっとパンチの効いたタイトルがほしいと思っているところに……レコーディングの最後の最後に「HYPER, HYPER, HYPER」が完成して。いい意味でメーター振り切った曲が完成したから、もうこれしかないなと。
楽譜の上を踊り回るボーカルスタイル
——マエノソノさんのボーカルが持つ心地よい浮遊感は、8ottoの魅力のひとつだと思います。今回のアルバムではそれを特に強く感じたのですが、本作では歌を歌ううえで何かこだわったところはありますか?
歌に対するこだわりはもちろんあるんですけど、今回は……そうですね、最初は「いっぱい叫ぼう」と。「ヤーッ!」て言いたかったんですけど(笑)。ドラムもいっぱいシンバル鳴らして、ちょっとハードコアなアルバムにするつもりだったのが、結果的に意外と聴きやすい感じになりました。
——今回はマエノソノさんの声が、これまでの作品より格段とパワーアップしてる気がしました。
前より「歌うこと」に対して自然に向きあえるようになった気がしますね。なにより歌が好きになったし。
——それは何かきっかけがあったんですか。
「we do viberation」のときは自分の声が大嫌いだったんですよ。ほんまに嫌いで、ボーカル録りもすごいイヤだったんですけど。夢にでてくるくらい(笑)。いいテイクが録れなくて「ウォーッ!」っとなる夢を見るくらい、ほんまに嫌いやったんですよ。それでもいろいろやってくうちにだんだんと考え方も変わって、「Real」のときはすごくかんたんに録れちゃったんです。自分のなかで革新的に何かが変わった感覚がある。
——では、マエノソノさんの考える理想のボーカル像を教えてください。
僕の考えるボーカルのイメージは、楽器で言うとトランペットやピアノのラインと同じ……楽譜の上を踊りまわるようなボーカルというか。グルーヴの上を自由に、リズム関係なしにブラブラ踊り狂うようなボーカルがすごく好きなんです。今回のアルバムではそういう音楽を自由に楽しむイメージと、なおかつ「we do vibration」のときのような……気合いや緊張感が張りつめた感じ、その両方を出したいというのがあって。
——実際に歌ってみてどうでしたか?
ボーカル録りはやっぱりめっちゃ苦労しました。今までで一番。今回もボーカルが上手くいかなくて怒られる夢を見ました(笑)。でも今回は結果的にバッチリでしたね。自分のクリエイティビティと全力で闘ったぶんの成果は出せたと思います。
プロフィール
8otto(おっとー)
1999年に前身バンド、sugar for a dimeを結成。数度のメンバーチェンジを経て、2004年8月に現在のメンバーが集結。バンド名を8ottoに改名する。自主制作CDの発表や精力的なライブ活動を行い、同年11月にはメンバー全員で渡米。ニューヨークにてライブやレコーディングを決行する。2006年7月に1stアルバム「we do viberation」をリリース。現在は大阪を中心に活動中。ドラム&ボーカルを中心としたアグレッシブなステージで着実に支持を増やしている。