音楽ナタリー PowerPush - 164

ボカロPから“ギターヒーロー”へ

音楽理論は説明のための道具でしかない

──そのライブハウスでの研究の結果、生み出されたプレイスタイルって?

もともとビブラートだったり、チョーキングだったり、ペンタトニック系のリフだったりが得意だったんですけれど、そこを伸ばしていこう、と。というのも、当時、周りにそういうギタリストってあんまりいなかったんですよ。

──確かにライブハウス界隈で顔が利くような、ちょっと腕に覚えのあるギタリストはペンタトニック主体のフレージングって敬遠しちゃうかもしれないですね。ベタだから、って。

「EXIT TUNES ACADEMY 1st TOUR 2014」大阪・Zepp Namba公演の様子。(撮影:伊佐摩利登)

そうなんですよね。僕自身、音楽理論がある程度理解できるようになったばかりの頃って、どうしても難しいコードとかを使いたくなっちゃってましたから。でも、複雑なコードを使うことがいいことだとは限らない。これは僕の持論なんですけど、音楽理論は一緒にプレイする人や、エンジニアさんに自分の音楽を説明するためのものに過ぎなくて曲を作る上ではまったくいらないんじゃないかと思ってます。だからこそベタであっても感覚的に気持ちいいもののほうを追究したかった。とにかくビブラートやチョーキング、ペンタトニック系のフレーズ作りを磨けば、ほかの誰でもないギタリストになれる。絶対に勝てると思ってたんです。なんならそれ以外のプレイでは負けてもいいとすら思ってましたから(笑)。

──実際「THIS IS VOCAROCK」でも、かなりシンプルなんだけど、でもカッコいい、いわばベタな80~90年代ハードロック / ヘヴィメタル的なフレーズをガンガン弾きまくってますよね。聴いていて「このエモさ、ひさしぶりだな」って感じがしてすごく気持ちよかったです(笑)。

ありがとうございます(笑)。でもギタープレイに関しては、ほとんど悩んでいないというか。パッといくつか思い付いたものを弾いて、その中で一番カッコいいやつを選ぶっていう感じでした。コードバッキングがどこかしらリフっぽかったりするのも僕のギターの特徴なのかなとは思うんですけど、それも単に一番カッコいいと思うものを選んでいるだけなんです。それに僕のギターフレーズはシンプルなペンタトニックスケール主体かもしれないけど、ほかのプレイヤーにはまた別の好きなフレーズやスケールがあるわけですから。彼らの録った音に僕のプレイを乗せれば、それほど単純なもの、ベタなものにはならないんですよ。

ギターヒーローに憧れて

──ちなみに164さんにとってのギターヒーローって?

ジミー・ペイジですね。自分のレスポールをジミー・ペイジ仕様にしちゃうくらい好きですから。フロントのピックアップにはカバーが付いているんだけど、リアはオープンという。僕、ギターヒーローって言葉がホントに大好きなんですよ。子供の頃からずーっと憧れがあって。授業中にも「YOUNG GUITAR」を読んでるような中学生でしたし(笑)。実際、昔のバンドの顔ってギタリストだったと思うんですよ。Led Zeppelinだったらサウンドはもちろん、ポスターの中でも一番目立つのはジミー・ペイジだし、Deep Purpleだったらリッチー・ブラックモアだし。そういう存在になりたかったんです。

──そういう人がボカロPになったっていうのも面白いですよね。

確かにニコニコで名を上げて、リアルなシーンでギタリストになったっていう人っていませんね。ただ正直な話、ボカロ曲を初投稿した頃ってボカロPとして売れたいとあまり思っていなくて。というか、まさかこの活動が実を結ぶとは全然思ってなかったんです。

──前回のインタビューでも、いわゆるバンドシーン、ライブハウス界隈のノリに馴染めなくて当時のバンドを解散させちゃったから「これからは絶対に1人で音楽をやろう」ってことでボカロを手にしただけって言ってましたもんね(笑)。そういう動機で始めた上に、黎明期のボカロPだからこそ、成長のロールモデルが見つからなくて困っているとも。

そうなんですよ。どういう立ち位置で活動していけばいいのか、迷っていた時期がけっこうあって……。

これぞボーカロイドのロックだよな

──だからこそ前回のオリジナルアルバムのタイトルを「BLURRY」、“不鮮明”にしたんだともおっしゃってました。

でも最初にお話した通り、ETAなんかに出演させてもらったことで、ここ最近、その将来像が “鮮明”になってきているんです。たぶん僕がなりたいのはB'zの松本(孝弘)さんみたいな存在なんですよね。松本さんって当然作曲もプロデュースもやってるんだけど、世間一般から見たらやっぱりギタリストじゃないですか。

──それこそ“ギターヒーロー”ですね。

「EXIT TUNES ACADEMY 1st TOUR 2014」大阪・Zepp Namba公演の様子。(撮影:堀卓朗)

ですよね。ETAのステージに上がったりしたことで、そういうギタリストにずーっと憧れていた自分に改めて気付いた感じがしていて。今までバンドをやったりボカロPをやったりしてきたけど、作曲家として、そしてギタリストとして食っていきたいっていう気持ちだけはブレずにもってたよなって。実際、思い返してみると、ボカロの調声に力を入れているのも、ギターを聴いてもらうためだったりしますし。ボカロをおろそかにしたら、たぶんどんなにすごいギターを弾いても聴いてもらえなくなる。そう思っているから、ボカロの打ち込みにも力を入れるようにしてるんですよね。

──そう考えると、今作のクレジット「164 feat. GUMI」ってすごく正しい表記ですね。あくまでボカロはフィーチャリングアーティスト。主役はプロデューサーであり、ギタリストである164さんだ、と。

そうですね。今後は本当にいちギタリストとしての活動にも重きを置いていきたいというか。今までのアルバム「MEMORY」「THEORY」「BLURRY」の流れを汲んだ曲やアルバムももちろん作るんですけど、それだけをやるわけじゃない感じになるはずなので。

──最後にちょっとイジワルな話をしてしまうんですけど、今作のタイトル「THIS IS VOCAROCK」ってけっこう勇気のあるタイトルですよね(笑)。

あはははは(笑)。でも僕には「これぞボーカロイドのロックだよな」っていう自信はちゃんとあるんです。曲ができあがっていく過程の中で「これはボーカロイドのロックだよな」ってちゃんと思えた。だからこそその思いを直訳して「THIS IS VOCAROCK」って宣言してみたんです。

164ベストアルバム / 164 feat. GUMI「THIS IS VOCAROCK」/ 2014年7月16日発売 / 2160円 / EXIT TUNES / QWCE-00367
164 feat. GUMI「THIS IS VOCAROCK」
収録曲
  1. 天ノ弱[G:164 / B:mao / Dr:ピエール中野]
  2. sleeping beauty[G:164 / Piano:Starving Trancer / B:亜沙 / Dr:Ogunya.]
  3. 迷妄少年と小世界[G:164 / B:mao / Dr:Ogunya.]
  4. 4時44分[G:164 / B:mao / Dr:Ogunya.]
  5. リセット[G:164 / B:亜沙 / Dr:Ogunya.]
  6. STATIC[G:164 / B:YM / Dr:Ogunya.]
  7. heavenly blue[G:164 / B:東野恵祐 / Dr:ピエール中野]
  8. 例えば、今此処に置かれた花に[EG:164 / AG:おさむらいさん / B:mao / Dr:ピエール中野]
  9. ミスターデジャブ[G:164 / B:東野恵祐 / Dr:ピエール中野]
  10. 異世界ノットパンピー[G:164 / B:東野恵祐 / Dr:Ken☆Ken]
  11. タイムマシン[G:164 / Piano:40mP / B:東野恵祐 / Dr:Ken☆Ken]
  12. 未来線[G:164 / Piano:40mP / B:東野恵祐 / Dr:Ken☆Ken]
  13. end tree[G:164 / Piano:ふわりP / B:亜沙 / Dr:Ogunya.]
  14. [EG:164 / AG:りょーくん / B:YM / Dr:Ken☆Ken]
  15. shiningray[G:164 / B:YM / Dr:Ogunya.]
イベント出演情報
EXIT TUNES ACADEMY FINAL SPECIAL 2014
  • 2014年8月3日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
EXIT TUNES ACADEMY SUMMER TOUR 2014
  • 2014年8月16日(土)東京都 Zepp Tokyo
  • 2014年8月17日(日)東京都 Zepp Tokyo
  • 2014年8月23日(土)北海道 Zepp Sapporo
  • 2014年8月27日(水)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2014年8月29日(金)大阪府 Zepp Namba
  • 2014年8月31日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
EXIT TUNES ACADEMY 2014 広島 ~HOME開局45 - 1周年記念ライブ~
  • 2014年11月3日(月・祝)広島県 上野学園ホール
164(イチロクヨン)
164

2008年から動画共有サイトにボーカロイド楽曲を発表しているボカロP。自らのギター演奏によるパワフルなロックサウンドと、クオリティの高い調声で一躍注目される。2009年に1stアルバム「EXIT TUNES PRESENTS THE COMPLETE BEST OF 164 from 203soundworks feat.初音ミク」をリリース。2011年に動画共有サイトで公開した「天ノ弱」が、トリプルミリオン再生突破の大ヒット曲となる。EXIT TUNESが主催するライブイベントでは持ち前のギタープレイを披露し、プレイヤーとしても注目を集めている。2014年7月、キャリア初のベスト盤「THIS IS VOCAROCK」を発表した。