「山河令」|元暗殺組織首領×謎の男 強い絆で結ばれた“生涯の知己”2人が紡ぐ数奇な運命 ライター座談会掲載、チャン・ジャーハン&ゴン・ジュンのインタビューも

自分の好きなように補完できる余白がある(沢井)

──世の中にはもう少し踏み込んで描かれたBL作品もある中で、中国ブロマンスドラマが人気を集める理由はどこにあると考えていますか?

「山河令」 ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.

熊坂 ドラマでは改変されていますが、「山河令」も「陳情令」も原作はWebで掲載されていたもう少し過激な耽美小説ですよね。そういう素地があるので、ファンは脳内で好きなようにドラマの物語を補完できる。皆さん、素材さえあれば、自分の頭の中でどんどん話が作れる天才なので、そういう余白のある作りが、中国ブロマンスドラマのブレイクに関与しているのかなと思います。仮に原作もブロマンス小説だとこうはならなかったかもしれない。

沢井 中国の放送基準に抵触しないために耽美小説がブロマンスに改変されたと言われていますけれど、視聴者の裾野を広げるという意味では逆によかったのかもしれないですよね。ハードなBLが好きな人も、わちゃわちゃ仲良くしている姿が好きな人も、それぞれが自分の好きなように補完できる余白がある。

小酒 客行が子舒を追いかけまくる描写は、ブロマンス好きにとっては、こんなに口説いていいの!?ってドキドキするけれど、観る人によっては違う解釈をするかもしれないですね。

熊坂 特に意識したり妄想したりしなければ、男同士で仲がよくてかわいいなーみたいに見えるかもしれないですよね。

──視聴者それぞれの想像力に委ねるということですよね。

小酒 そのために1つひとつのセリフや描写を練りに練っていると思います。

熊坂 武侠ドラマとしての面白さを追求しつつもブロマンスとしていかにファンの心をつかむか?というところも意識されていますよね。

小酒 検閲とのせめぎ合いの部分もあって、吹替の段階で変えられたセリフもあると思うんです。だから、中国のファンは唇を読んで本当はこんなことを言っているんじゃないかって、検証もしています。

「山河令」 ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.

熊坂 読唇術まで発動!!

沢井 劇中に登場する漢詩1つとっても何気なく景色を詠んでいるように見せかけて、出典は愛の詩だったり、女神をたたえた歌であったり。2人の関係の隠喩的な表現になっているんです。「山河令」は掘れば掘るほどいろんなものが出てくる。今はSNSでファン同士がすぐに交流できるので、考察大会をして、盛り上がれる。好循環ができたことが中国でヒットした1つの理由だと思います。

小酒 「おっさんずラブ」や「チェリまほ(30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい)」が地上波のドラマとして制作される日本と中国では状況がそもそも違いますよね。よし悪しですけれど、制限されているからこそ、さまざまな工夫が施されている。それがほかの国にはない特殊な魅力につながっているかもしれないです。

沢井 過激なものは天井がないぐらい過激になっている中で、武侠ドラマの中で描かれる耽美的な表現というのは日本人にとっては新鮮に響いたのかもしれないですね。

熊坂 「四季 花は常にあり、天下の事情を知り尽くす」と詠んでから、子舒が花の絵に色を入れるシーンが1話にありますが、ああいう中国時代劇ならではの風雅な作りによって、ブロマンスとしてもぐっと深みが増しますし、とても美しいですよね。命懸けの戦いの中で、男性が絆を結んでいくのも武侠ドラマならではだと思います。

──本作はアクションも見応え十分ですが、印象はいかがですか?

「山河令」 ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.

熊坂 スローモーションとハイスピードを繰り返して見せる作りは映画的ですよね。屋根の上を走る描写は「グリーン・デスティニー」を想起させられる。「陳情令」も2人が屋根の上にいましたね。見応えたっぷりでした。

小酒 アクション好きにとってはブロマンスメインじゃなくて、アクションメインとして観ることもできる。いろんな見方ができるよううまく作られていますよね。「山河令」のアクション監督の郭亞莎は1987年生まれ。チン・シウトンとかツイ・ハークから受け継がれてきた香港アクションの匂いみたいなものも感じつつ、美しさを追求する新しさを感じました。ワイヤースタントのタイミングを合わせることに命を懸ける香港アクションが好きなので、子舒と客行が同時に飛んだり、回転するシーンは観ていて爽快感があります。

沢井 市街地でのアクションシーンは洗練されている印象を受けました。中国時代劇のアクションってあまり好きじゃない人から見ると「そんなの人の動きじゃない」っていうツッコミが入ると思うんです。でも、そういう部分をうまく引き算しつつ、伝統的なワイヤーアクションも大切にしている。

熊坂 一時期はアクションと言えば香港というイメージがありましたけど、韓国のアクションが注目された時期もありました。若いアクション監督だから、ワールドワイドな視点でさまざまなスタイルを、自分のものにできるのかもしれないですよね。

「るろうに剣心」シリーズが好きな人は楽しめる(小酒)

──中国時代劇好きや、中国ブロマンス好きの方々はすでに「山河令」の情報をキャッチしていると思うんですが、そのほかどんな方に作品をおすすめしますか?

熊坂 見応えがあるので、ドラマ好きにまずお薦めしたいですね。

「山河令」 ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.

沢井 異世界ものとか、主人公が無双するようなスカッとするストーリーが好きな人にもお薦めしたいです。中国の文化がベースにあるけれどもファンタジーなので、歴史にそこまで詳しくなくても全然問題ないですし。

小酒 「るろうに剣心」シリーズが好きな人も楽しめるんじゃないかと思いますね。「るろ剣」は谷垣健治さんがアクション監督をしているので、香港アクションのDNAが入っていますし、時代劇でキャラクターが立っている。共通点が多いので「るろ剣」の映画が好きな人は「山河令」を気に入ってくれるかもしれません。

──映画ナタリーでは「山河令」が日本初放送されるというニュースを配信したんですが、すごく反響が大きかったんです。日本未放送の作品がすでに注目を集めている状況を見て、中華エンタメのファンが拡大しているんだなと思いました。

沢井 日本未放送なのに盛り上がっている理由の1つとして、中国では公式がYouTubeでドラマ本編を公開していたというのが大きいと思うんですが、そういうプロモーションなんですかね?

「山河令」 ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.

熊坂 知名度を上げて、それぞれの国で放送なり配信なりで字幕が付いたら改めて観直してもらうという感覚はあるかもしれないですね。

小酒 中国の制作会社や配信プラットフォームはYouTubeの公式アカウントを持っていて、海外の視聴者に向けてドラマ本編を同時公開するケースが多いですが、再生数が増えれば、それだけ広告収入が入りますから、商売上手だなって思います。日本人の感覚だとタダでドラマの本編を見せるというのはなかなか考えづらいですけど。

熊坂 K-POPもアーティストの画像や動画を公式がガンガン、無料で出して、それにファンがそれぞれの国の言葉で字幕を付けてどんどん世界中に広がっていく形になっているようです。そうやってコンテンツをオープンソース化することによって、裾野を広げていくという戦略はアジアでは1つのやり方になっていますよね。

沢井 中国語がわからなくても英語や、ほかの言語から日本語に自動翻訳して観ている人もいますよね。ところどころおかしいので魔翻訳って呼ばれているんですけど、それで作品のファンになった人は、漢詩や言葉遊びの意味を正確に知るために、早く正式な日本語字幕版で観たいと待ちわびていたようなんです。巧みなプロモーションですよね。

小酒 昔はAI翻訳なんてなかったので、自分で勉強するしかなかった。便利になりましたよね。

──ツールの進化というのも、中国ドラマが強いコンテンツとしての地位を確立しつつあることの要因の1つかもしれないですね。

熊坂 中国時代劇の本って、これまで競合がなくて、ずっとキネマ旬報で作ってきたんです。でも、2020年は他社も含めて、1年で12冊ぐらい出た。需要があるから裾野が広がってきてると思います。ミステリーやサスペンス、現代ドラマも充実してきています。

沢井 今最前線で活躍している中国のクリエイターは小さい頃から外国の作品やアニメに触れてきた世代だと思うんです。私たちが昔の中国の革命劇を観ても育った文化背景の違いからそのよさを理解するのは難しいと思うんですが、同じものを観て育ってきた人たちの作る物語なら、面白いと思う部分を見つけやすい。

また俳優さんのビジュアルもボーダーレスになっているように思います。国ごとにトレンドが違うので、20年ぐらい前だと服装やメイク、ヘアスタイルを見たら同じアジア人でもだいたいどこの国の人かわかったと思うんです。でも今はわからなくなってきている。K-POP風のメイクを好む日本の若い男の子もいますし、逆に海外の人が日本で流行っているものを取り入れていることもある。ビジュアル面でのボーダーレス化が進んだことによって、海外の人たちが他国の作品をより気軽に受け入れやすくなっているのかなと思います。

小酒 プラットフォームが増えたことで単純に目に触れる機会も増えましたよね。インターネットの発達で外国の作品もリアルタイムで楽しめるようになりました。今後「愛の不時着」のように、爆発的にヒットする中国ドラマが出てくる可能性もなきにしもあらずだなと思っています。

──なるほど! 「山河令」はそんな作品になる可能性を秘めたドラマかもしれないですね。

チャン・ジャーハン(張哲瀚)インタビュー

周子舒のように、優しく強い人になりたい

──「山河令」への出演を決めた経緯を教えていただけますか?

チャン・ジャーハン

プロデューサーが私を見つけ、監督とも話をしました。私もこの脚本がとても気に入って、いろんな方面から水が流れて溝ができるように(※時機が熟せば物事は自然に成就するという意味の成語)自然に参加することになりました。

──周子舒を演じるにあたって、監督や脚本家のアドバイスの中で印象深かったものはありますか?

監督からは、目の表情を多く使って表現することをアドバイスされました。こうすることで、より奥行きが生まれ、心の中でセリフを考えながら、目の表情でゆっくりと表現することができるのです。

──周子舒という人物をどのように理解し、彼の全体像を完璧に表現したのでしょうか?

周子舒は私が演じた中でもっとも変化の多い役と言えます。役割による切り替えもあるし、それぞれの時期で状態や身分の変化が多い人物です。完璧に表現したとはとても言えないでしょう。私が理解した周子舒を演じた、としか言えません。

──周子舒(愛称:阿絮)と似ている点や異なる点はありますか?

実は皆さんが阿絮を形容するこんな言葉が大好きです。「優しく強く、矛盾しているように見えて完成されている」。私自身について言えば、彼ほど優しくはないでしょう。今後は阿絮のように、優しく強い人になりたいと思います。

──「山河令」にはアクションシーンが多々あり、何度もワイヤー吊りにされたと思います。撮影の前に準備や練習はされましたか?

アクションシーンも数多く撮っています。基本的なウォーミングアップをして、事前に少し準備をするくらいです。

──温客行を演じるゴン・ジュン(龔俊)さんと共演した印象はいかがですか?

チャン・ジャーハン

ゴン・ジュンさんはとても真面目な人で、共演している間、すごく楽しかったです。

──ゴン・ジュンさん以外の俳優陣で印象深かったのは?

張成嶺(ジャン・チョンリン)を演じたスン・シールン(孫浠倫)くんはとてもかわいく、向上心も才能もあります。

──撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

現場の雰囲気はずっと楽しいものだったと思います。「山河令」の公式メイキングをご覧ください(笑)。

──俳優になったきっかけを教えてください。

主な理由は、(演じることが)大好きだったからです。学生時代から芸術を学びたいと思っていて、この分野に入ってきました。

──作品を選ぶときは、どのような面を重視しますか?

主に脚本の完成度とキャラクターの人物像です。

──日常生活の中で、幸せを感じる瞬間はどんな瞬間ですか?

ゴルフでホールインワンをしたときですね。

──今後の目標を教えてください。

今の生活も将来の生活も含め、きちんと生活すること、次の役にしっかりと力を注ぐことが目標です。

──視聴者へのメッセージをお願いします。

皆さんの熱意と応援に感謝しています。「山河令」にも注目してくださいね! 全部がとても面白いです。皆さん、ずっと集中して観てください(笑)。

チャン・ジャーハン(張哲瀚)
1991年5月11日生まれ、中国江西省新余市出身。上海戯劇学院ミュージカル学科を卒業。「山河令」のほか、「琅琊榜(ろうやぼう)~麒麟の才子、風雲起こす~」「ハンシュク〜皇帝の女傅」「芸汐<ユンシー>伝~乱世をかける永遠の愛~」などに出演している。

ゴン・ジュン(龔俊)インタビュー

スタッフ全員の注いだ心血が凝縮している

──本作への出演を決めた経緯を教えていただけますか?

ゴン・ジュン

コロナ禍にオファーを受けました。マネージャーが探して来てくれたのです。脚本を読んで、とてもいいと思いました。とてもよく書けていて、過去に撮ったものとはまったく違いましたし、温客行のキャラクター設定には惹き付けられました。彼には唯一無二の魅力があり、演じてみたいと思ったのです。当時は少し自信がなく、この役を演じるには実力が足りないかもしれないと心配しましたが、その後いくつかのシーンを試しに演じてプロデューサーに送ったところ、約半月後に先方からビデオ電話がかかってきて、役柄について感じたことを話しました。それでラッキーなことに出演できたんです!

──温客行を演じるにあたって、監督や脚本家からのアドバイスの中で印象深かったものはありますか?

目の表情の変化や感情の表現など、指導やアドバイスをたくさんいただきました。十分でなかったところは、お二人から直接言ってもらうこともあり、全体を通して多くを学びました。自分の演技にとても役立ったと思います。

──特に目の表情による表現方法は高く評価されました。苦心した点はありますか?

温客行という人物は複雑で、表面上は好き勝手に振る舞っているようで、裏では怨恨を抱えています。ですから、演技するときは目の表情で表現することに、とても苦心しました。特に、1つのシーンの中で友人に対する目つきと敵に対する目つきを切り替えるには、繰り返し自分の中で役を咀嚼する必要がありました。

──温客行(愛称:老温)と似ている点や異なる点はありますか?

私と老温とは、大きな違いがあります。老温の性格はわりと外向きで情熱的ですが、私の普段の性格は熱くなりにくく内向きです。演じ終えてから、老温のおかげで少し変わりました。少しだけ、よく話すようになりました。

──「山河令」にはアクションシーンが多々あり、何度もワイヤー吊りにされたと思います。撮影の前に準備や練習はされましたか?

いつも撮影開始前に集中的に練習し、武術指導の人が私たちのアクションシーンの事前練習をしてくれました。

──周子舒を演じるチャン・ジャーハンさんと共演した印象を教えてください。

ゴン・ジュン

チャン・ジャーハンさんは先輩で、「演技派のベテラン」と言えます。独特の見方や考え方の持ち主で、時に私たちに教えてくれ、皆で一緒に改善していくことができました。演技にとても役立ちました。彼は普段、現場で出番待ちのときに闘地主(※トランプゲームの一種)で遊ぶのが好きで、撮影所で負けなしでした。

──チャン・ジャーハンさん以外の俳優陣で印象深かったのは?

ジョウ・イエ(周也)やマー・ウンユエン(馬聞遠)、スン・シールン(孫浠倫)など歳下の皆と一緒にいることが多かったです。彼らは若いので、一緒に出番待ちをしたり、共演したりするときもにぎやかで楽しかったですね。皆とても性格がいいんです。現場は楽しい雰囲気でした。

──周子舒と温客行は多くのことをともに経験したあと、生涯の知己となります。なぜ彼らの間に、これほど深い絆ができたのでしょうか?

自分をわかってくれる人は、本当に得難いものです。彼ら2人は一緒に過ごす中で、互いを大切にし、互いの贖罪となったのです。

──作品を選ぶときは、どのような面を重視しますか?

いい脚本と制作スタッフ、これらは重視します。

──もし長い休みがあったら、どう過ごしますか?

自分で車を運転して旅行に行きます。車で旅行に行くのは、以前からの趣味です。

──もし宝くじが当たったら、そのお金を使って最初にすることは何ですか?

最初に、家のローンを全額払います。

──日本のどの都市が好きですか、好きな日本料理は?

京都、ラーメン。

──視聴者へのメッセージをお願いします。

皆さんが私たちのこのドラマに注目してくれてとても感謝しています。今後も多くの作品で皆さんにお会いしたいです! 「山河令」は新しい武侠作品であり、スタッフ全員の注いだ心血が凝縮しています。私たちは1つひとつのシーンをすべて真剣に作り上げてきましたので、皆さんに楽しんで観ていただきたいと思います。

ゴン・ジュン(龔俊)
1992年11月29日生まれ、中国四川省成都市出身。東華大学で演技を学び、俳優デビューする。「山河令」のほか「盛勢(原題)」「从結婚開始恋愛(原題)」「酔麗花〜エターナル・ラブ〜」「ロマンスの方程式」などに出演。