中国ブロマンス時代劇「山河令」が8月12日よりWOWOWプライムにて日本初放送。同日から、WOWOWオンデマンドでも配信される。
Priestの耽美小説「天涯客」を映像化した本作では、朝廷の暗殺組織天窗を抜けるため、自らの体に釘を刺し、余命3年の自由を得た周子舒(ジョウ・ズーシュー)が、謎の男・温客行(ウェン・コーシン)と出会い、武庫の鍵・琉璃甲をめぐる壮大な争いに巻き込まれていくさまが描かれる。
映画ナタリーでは本作の魅力を紐解くべく、長年中華エンタメを追い続けてきたライターの熊坂多恵、小酒真由子、沢井メグの座談会をセッティング。また周子舒役のチャン・ジャーハン、温客行役のゴン・ジュンのインタビューも掲載している。
取材・文 / 金子恭未子
座談会参加者プロフィール
- 熊坂多恵
- 「最新!中国時代劇ドラマガイド 2021」(キネマ旬報社)ほか編集。映画雑誌の編集を経て、アジアのエンタメを紹介するムック本の編集や執筆に参加。
- 小酒真由子
- フリーライター。アジアから欧米までドラマについて執筆。「韓国TVドラマガイド」(双葉社)にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。
- 沢井メグ
- 大学時代に中国近代文学と出会い上海・同済大学に留学。2010年上海万博日本館での勤務を経てライター / 編集者となる。東洋経済オンラインで台湾の経済誌今周刊の翻訳を行うほか中国・台湾エンタメや文化、時事ニュースなどを中心に記事を執筆、翻訳している。
自分だけ生き残ってしまったという深い悲しみ(熊坂)
──日本初放送を控えた「山河令」のほか、「陳情令」が大ヒットするなどブロマンス時代劇が中国で1つの人気ジャンルとして確立されつつあるように思います。長年中華エンタメを追ってきた皆さんはどのように捉えていますか?
熊坂多恵 ブロマンス市場は中国に限らず拡大していますよね。K-POPのボーイズグループなんかでも、一緒にがんばってきた兄弟や戦友のようなメンバー間のわちゃわちゃを楽しむファン文化がある。そういう流れの中で、中国の武侠ドラマでもブロマンス要素をメインに押し出した結果、今まで興味を持っていなかった層に届いたんじゃないかと思います。時代劇だとお化粧も映えますし、現代劇より美しいビジュアルを表現できる。
小酒真由子 時代劇、武侠ドラマはそもそも男性同士の絆や友情がテーマになることが多い。だから、ブロマンスが物語になじみやすいんですよね。
──日本でも今、中国ブロマンスが話題を集めている中、注目の新作「山河令」を観ていただきました。
熊坂 1話冒頭で朝廷の暗殺組織がランタンを使って空から奇襲を仕掛けるシーンがありますが、かっこよくてつかみはばっちり。序盤から、これって伏線だろうな?と思うものがちりばめられていて、物語、アクション、美術、ライティング、演出、全方位的に質の高いドラマだと思いました。
沢井メグ そうなんですよね。メインストーリーがすごく面白いという下敷きがあって、そこにうまく主役2人のわちゃわちゃ、ブロマンスの魅力が乗っている。観始めたら、やめられない。
小酒 ミステリー要素もあるので、どうなっていくんだろう?って先が気になりますよね。登場人物もみんな濃い。
──劇中では元暗殺組織の首領・周子舒と謎の男・温客行が壮大な争いに巻き込まれながら、心を通わせ、“生涯の知己”になっていく姿が描かれます。2人の魅力をどのように捉えていますか?
熊坂 子舒は仲間がみんな死んでしまって、自分だけ生き残ってしまったという深い悲しみを背負っていますよね。生に執着していなくてほとんど死んでいる。滅びの美学というか。“残された者”という設定は切なくて大好物です(笑)。
小酒 子舒はめちゃくちゃストイックで、責任感が強いので、物事を背負いすぎていますよね。暗殺組織を抜けるために自ら体に釘を打つ罰を科すなんて……。逃げるという方法もあったかもしれないのに、不器用な生き方しかできない。
沢井 達観していて、理性のその先にいる人ですよね。世捨て人になった彼が客行と出会って、どんどん人間らしくなっていくところにグッときます。
熊坂 子舒の色気が抑制されたものである一方、客行はダダ漏れ。パーソナルスペースが狭いですし、最初から粉の掛けっぷりがすごい(笑)。子舒、好き好きー!みたいな。
小酒 ストーカーなの?ってツッコミたくなるほど子舒に付きまとう客行のロードムービーでもありますよね(笑)。
一同 あはははは。
小酒 武侠ドラマでは神出鬼没なキャラってお約束なんですが、ここまで追いかけ回すのは久々に観ました。
熊坂 後ろにいる!みたいな(笑)。
沢井 そして、もはや先回りし始める(笑)。あの日陰にもしや客行が? やっぱりいたー!みたいな。コミカルな部分も面白いですよね。
熊坂 子舒とご一緒しようと宿を貸し切りにしてましたよね(笑)。
小酒 客行はピュアだからこそ極端な方向に走ってしまうんじゃないかな(笑)。
沢井 私はあのネットリした視線に1話から釘付けでして……。
一同 (笑)。
沢井 子舒のことを目で愛でていたり、彼の心をのぞこうとしていたり、かと思ったら敵と対峙するときの瞳は驚くほど冷酷で。
熊坂 怖いとかわいい、“こわかわ”ですよね。客行は怒ると顔がぱっと変わる。ところどころで感じさせる狂気と謎めいた雰囲気も魅力です。私はちょっとクレイジーで怖い客行にゾクゾクしました。
小酒 子舒も客行も一筋縄ではいかない多面的なキャラクターですよね。正反対に見えるけど、過去にいろいろ背負ってきた大人の男で、孤独という共通点もある。子舒はお兄さんキャラで、弟弟子を死なせてしまった過去に苦しんでいる人物なので、危なっかしくてどこかほっとけない客行に心が動くんだと思います。
熊坂 命を助けられたあたりから、子舒が客行にぐっと心を開いていましたよね。顔の扮装もやめて素顔になって。
小酒 水に落ちたのがきっかけでしたね。
熊坂 客行が直に触っても扮装とわからないくらいだって言われてたのに、ウォータープルーフじゃなかったんだ?みたいな(笑)。
一同 (爆笑)
熊坂 中国ドラマあるあるの水落ちシーンでもありましたよね。
小酒 そうそう、まさか、ここで水中キス?と思いました(笑)。
熊坂 私も思った!(笑)
なんじゃ! このスイートな笑顔は(小酒)
──子舒と客行を演じるチャン・ジャーハンとゴン・ジュンは「山河令」で人気に火がついた印象です。
熊坂 ゴン・ジュンのこと今までスルーしてたぜ!みたいな(笑)。艶っぽいですよね。ぐいぐい惹き込まれてしまう。
沢井 私もなんで意識してなかったんだろう? 若手俳優の1人という捉え方だったんですが「山河令」で頭1つ抜けた印象です。視線の演技、目の表現が素敵で、28歳で、目1つだけでこんなに演じ分けられる人がいるんだなって感動しました。過去作品も観直したいです。
熊坂 ゴン・ジュンはかっこいいし、透明感と中性的なかわいらしさも兼ね備えている。対するチャン・ジャーハンは、男らしいイメージがありますね。短髪より、時代劇の長髪のほうが色気があって好きです。前髪のあるなしでもだいぶ印象が変わる。
沢井 チャン・ジャーハンは今まで、ドラマやCM、歌手としての姿などいろいろ見てきたんですが、毎回印象が違う。演じる役、メイク1つで変幻自在に雰囲気を変えられる人だなと思いました。
熊坂 変幻自在はまさにその通り! メイク映えしますし、本人がその都度、役のイメージに合わせられるのかなと思いますね。
小酒 過去作では生真面目な役が多くて、私は笑っている彼をあまり観たことがなかったんです。でも、「山河令」での笑顔を見て、「なんじゃ! このスイートな笑顔は」って一瞬でハートを射抜かれました(笑)。
沢井 客行が子舒を「美人、美人」と表現しますけど、チャン・ジャーハンは本当に美人さんですよね。
──子舒、客行だけでなく濃いキャラクターが出てくるところも本作の見どころの1つです。
熊坂 私は子舒の背負っているものが好きなので、思い出のシーンでときどき登場する亡くなった弟弟子の秦九霄(チン・ジウシアオ)がお気に入りですね。
沢井 2人以外の登場人物だと、私はダントツで張成嶺(ジャン・チョンリン)が好きです。彼は陰謀渦巻く物語の中で一種の清涼剤になっている。ピュアキャラですごく貴重。つらいことがあったあと、泣きながらご飯を食べるシーンは応援したくなりました。
──成嶺がいることによって子舒と客行、そして客行の侍女である顧湘(グー・シアン)にファミリー感が出ますよね。
沢井 親鳥が雛を包み込むような子舒の優しさが見えていいんですよね! 子舒と客行の関係を深めてくれます。
小酒 子はかすがいです(笑)。
沢井 まさに、それです!(笑)
小酒 顧湘をはじめとする女の子の登場人物もかわいいですよね。武侠ドラマでは女性も強くて、何かあれば前線で戦えるのが楽しい。あとは悪役も憎めないんですよね。基本的に鬼谷(※十大悪鬼らが属する組織)のメンバーはみんな好きです。
熊坂 見た目がヴィジュアル系バンドみたいな(笑)。
一同 あはははは(笑)。
小酒 ショッカーの戦闘員みたいなのも出てきますけど、ああいうノリ好きですね。昔懐かしのツイ・ハークの映画っぽさもあって。
沢井 史劇って登場人物がたくさんいるので、わけわからなくなって離脱しちゃう人もいますよね。でも「山河令」はキャラクターがビジュアルで差別化されているので、わかりやすくていい。どこの陣営の人間なのかすぐに認識できます。
──なるほど! 次から次へと出てきますけど、把握できますよね。
熊坂 鬼谷の喜喪鬼・羅浮夢(ルオ・フーモン)も好きです。小酒さんもおっしゃっていますが、武侠ドラマは女性が強いのも楽しい。薄情な男なんてどんどんやってしまえー!と(笑)。
──武侠世界ではジェンダー平等というか、女性が当たり前に強いのが気持ちいいですよね。
熊坂 おばあちゃんたちも強い!(笑)
沢井 それも中国の視聴者にウケた理由かもしれないですね。中国は女性が強いですから。
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座談会後編&キャストインタビュー