ハリー杉山が絶賛するマーティン・フリーマン主演「レスポンダー 夜に堕ちた警官」、“知られざる”ではいけない“観るべき”大傑作 (2/2)

日本人にとって知られざるイギリスの姿を投影している

──脇役のキャラクターがしっかりと描かれている点も今作の面白さの1つでもあると思うんですけど、ハリーさんが気になったキャラクターは?

(アデラヨ・アデダヨ演じる)レイチェルという、マーティン演じるクリスのバディとなる新米警官との関係性が好きですね。クリスがどんどん悪循環のスパイラルにはまっていき自身を見失っていく一方で、レイチェルはちょっとずつ強くなっていく。このプロセスというのは響くところがありました。僕のベストシーンは、車内で2人が会話を交わすシーン。レイチェルがなかなか勇気を持てずにいる中で、意を決してある行動を起こすことにする。そのときにクリスが「グッドラック」と声を掛けるんです。「行ってらっしゃい」というようなニュアンスで。それが仕事上のバディだけではなく、父と娘のような関係性に見えて、非常に温もりにあふれているように感じられてすごく好きでした。

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」より、アデラヨ・アデダヨ演じるレイチェル。

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」より、アデラヨ・アデダヨ演じるレイチェル。

──薬物依存症の女の子のキャラも強烈でした。

英国の街ってこういう人たちがいっぱいいるんです。薬物依存と向き合う人々や、家庭内暴力に遭っている人とか……。英語で「ジャクスタポジション(juxtaposition / 並置)」という修辞法があるんですけどご存知ですか? 180°違うものを隣に並べて、そのギャップで衝撃を与えることで、例えば似つかないものを同列に並べて驚かせるような、文学でよく使われる用語なんです。面白いのが2022年の英国ではエリザベス女王が崩御されて国葬が行われ、その際に古きよき大英帝国を感じさせるきらびやかな英国文化というものが全世界へと発信された。一方で、「レスポンダー」のようなダークでさまざまな社会問題が詰まった作品が配信されて絶賛を浴び、シーズン2の製作も決定した。これこそ「ジャクスタポジション」なんです。きらびやかな英国と、「レスポンダー」で描かれている世界って180°違うけど、両方とも同じイギリス。「レスポンダー」はもろ現実なわけです。一応フィクションではありますが、我々日本人にとって知られざるイギリスの姿を投影していて、それもコロナという見えない敵と闘いながら製作されたというバックグラウンドを聞くと、痛烈に心に刺さる作品だと思います。

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」

──まさに「心に刺さる」というのがそうで、今作はSNSでも多くの人たちから「観たら心に刺さるけど、刺さりすぎる」という声もあったんです(笑)。日本も今つらい状況で、親の介護によるストレスや物価高など問題だらけですからね……。

確かに今作で描かれているのは、僕の「介護は楽しく明るくできるものなんですよ」という思いとは180°違う描写ですけど(笑)。でもリアルはリアルなんですよね。やっぱり現実と向き合うことができなかったり、助けたいのに助けてあげられないというのは、僕も父親の在宅介護時代に経験していたので、非常に心を打たれました。劇中でマーティン演じるクリスのお母さんはすでに介護施設に入所されていますが、そこでお母さんにざんげというか、後悔なく自分の弱さを口にするというのはものすごくリアルで、痛烈に印象付けられるシーンでもありました。

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」

英国民の力・情熱・葛藤・フラストレーション・愛情を感じられる

──もう1つ、今作はルールや規律だけで簡単に線引きできない、人間の感情のグレーゾーンの描き方も魅力だと思うんです。

グレーゾーンで言うと、ものすごく後味が悪いんですよね。この後味の悪さは何に似ているのかな? わかりやすい例だと「セブン」の終わり方みたいな感じですかね。あの絶望感が最後に来るのではなく定期的に、しかもドーンというインパクトではなく、ちょっとずつ首を絞められるような圧迫感。それがまた重厚感に貢献しているような気がします。

──となると全6話というのがちょうどいい長さなんでしょうか(笑)。最後にハリーさん的に「レスポンダー」はどういう方にお薦めしたいですか?

現実と向き合いたい方にお薦めしたいですし、英国の知られざるもう1つの顔というものを知っていただきたい気持ちは強いです。なぜ英国人がここまで音楽好きでサッカー好きかというと、音楽もサッカーも人に希望を与えるから。生きる選択肢、生きる力を与えてくれる。それほど迷走をして、自分自身の未来がどこに向かっているのかわからない人って特に英国には多いんです。EU離脱、コロナで舞い降りてきた悲劇の数々、そこから必死に抜け出そうとする市民の力・情熱・葛藤・フラストレーション、そして愛情。そういったものがすべて感じられる作品だと思います。あとは「ピーキー・ブラインダーズ」好き、「ハリー・ポッター」ファンにも観てほしいですね。ちなみに僕、今作の主要キャストの1人である(「ハリー・ポッター」シリーズの)“クィレル先生”ことイアン・ハートを見て、本人だって気付きませんでしたから。

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」より、イアン・ハート演じるカール。

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」より、イアン・ハート演じるカール。

──髪型と雰囲気でまったくの別人になりきっていますよね。

日本人の中で一番クィレル先生に似ていると言われている、タレントのJOYにもぜひ観てほしいです。めちゃくちゃ似ているので、絶対に(ハート演じる)カールになれると思います(笑)。改めて「レスポンダー」は知られざる超大傑作だと思いますが、世界では大絶賛されてシーズン2も決まっているわけですから、本当は「知られざる」ではいけない。「観るべき」大傑作です。

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」

「レスポンダー 夜に堕ちた警官」は、Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」で全話配信中

視聴はこちらから


「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」

「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」

「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」とは?

Prime Videoチャンネルで、最新の海外ドラマとスターチャンネルの厳選した映画が観られるサービス。Amazonプライム会員は、別途月額税込990円で見放題となる。初回7日間の無料体験も用意。
※現在、11月29日まで期間限定の「60日間フリートライアル」キャンペーン実施中!(Amazon Prime会員限定)

プロフィール

ハリー杉山(ハリースギヤマ)

1985年1月20日生まれ、東京都出身。英国人の父、日本人の母を持つ。11歳で渡英後、英国最古のパブリックスクール・ウィンチェスターカレッジに入学し、ロンドン大学に進む。フジテレビ系「ノンストップ!」、テレビ東京「東京GOOD!」、NHK BS1「ランスマ倶楽部」などにレギュラー出演中。俳優としては連続テレビ小説「まんぷく」「カムカムエヴリバディ」などに参加した。