「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」のBlu-ray / DVDが2月4日に発売される。
シリーズ初の“本格(風)学園ミステリー”である本作では、全寮制のエリート校に体験入学したしんのすけたちが、学園内で起こる不可解な事件に挑むさまが描かれる。カスカベ防衛隊の制服姿や、しんちゃんと風間くんの仲違いなど、普段とは違う青春まっただなかの描写も新鮮だ。
映画ナタリーの特集では、子供の頃から大人になった今も「クレヨンしんちゃん」に親しみ、本作も映画館で観たという社会学者・古市憲寿にインタビュー。謎解きゲーム好きの彼が「本格的だった」とうなるミステリー要素や、物語のキーワードである青春について語ってもらった。
なお映画のストーリーに関する話も出てくるので、鑑賞前の方はネタバレにご注意を。
取材・文 / 岡本大介撮影 / 佐藤類
泣きませんが、ちゃんと楽しんでいます(笑)
──古市さんが「クレヨンしんちゃん」を好きだというのは、ちょっと意外でした。
そうですか? 世代的にちょうどピッタリなんです。子供の頃からテレビアニメはもちろん、マンガや映画も観ていましたし。大人になった今でも映画は毎回欠かさずチェックしていますよ。
──これまでに観た「クレヨンしんちゃん」で特に印象深いエピソードなどはありますか?
テレビアニメだと、冬のまま時間が止まった国が舞台の「冬の国の冒険だゾ」(#263 / 1993年放送)が面白かった記憶があります。映画だと「映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険」(1996年公開)や「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(2001年公開)が好きですね。
──古市さんも私たちと同じように、家族愛や友情に号泣したりも?
それはないです(笑)。子供時代に(主人公・野原しんのすけと同じく)埼玉県に住んでいた時期があったので、当時は“地元の楽しい家族の物語”という目線で観ていましたし。今では世相が作品にどう反映されているかを確認しながら観ている感じですね……でもちゃんと楽しんでいますよ?(笑)
──そんな古市さんは、「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」をどうご覧になりましたか?
将来を考えてエリートを目指す風間くんと、今のことしか考えていないしんちゃんとの対比がとても面白かったです。シンプルなんですけど「今この瞬間にどんな仲間がいるのか?」というメッセージがしっかりと打ち出されているように感じて。映画館で観たんですが、たまたま隣に座っていた大学生と思しき3人組がめちゃくちゃ号泣していました。
──もちろん古市さんは……。
泣いてません(笑)。そもそも僕は映画で泣いたことはほとんどないですね。
エリート側の風間くんを応援
──劇中で印象深いシーンはありますか?
いろいろありますけど、やっぱりマラソンシーンですね。クライマックスで走る演出はよくありますし、ある意味、映画では定番だと思うんですが、僕はだいたい「そこで走る意味ありますか?」と感じちゃうんです。「電車やタクシーを使えばいいじゃないですか」って(笑)。でもこの映画は、しんちゃんたちが走ることにちゃんと意味と必然性があって、まったく違和感がない。前半のミステリーパートからのギャップも含めて、展開も僕の好みでした。
──マラソンシーンのしんちゃんと風間くんの一騎打ち、古市さんはどちらを応援しましたか?
風間くんです。僕は学歴だけで見ればいわゆるエリート側の立場になるので、風間くんの気持ちがよくわかるんです(笑)。しんちゃんという天性のクリエイティビティを持った友達に対して、脅威や嫉妬を感じつつ、でも一緒にいたいという感覚。刺激と不快と友情がごっちゃになったあの感じは、僕もすごく共感できる部分がありました。
──対照的な2人ながら、お互いを認め合っている雰囲気がすごく伝わってきますよね。
特殊なコンビですよね。ボーちゃんでもネネちゃんでも、ほかの誰でもこうはならないですから。面白いのは、マラソンに勝ったのは風間くんだけど、ゴールで焼きそばパンの具をしんちゃんが食べてしまい、残ったのはパンだけという決着の付け方。これは強烈な皮肉でもあるし、同時に救いでもあると思うんです。
──“皮肉”と“救い”ですか?
風間くんのように努力に努力を重ねてエリートになったとしても、手にするのは中身がなくなったパンかもしれない。そもそも「エリートって本当に優秀なのか?」という点においては“皮肉”ですよね。裏を返せば、「エリートから外れたとしても焼きそばパンの中身をゲットする手段はあるよ」ということです。社会というのはエリートになる以外にもいろいろなルートがあって、例えどんなルートであってもそこで幸せになる方法があるとなれば、それは多くの人たちにとっての“救い”ですよね。
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おふざけかと思ったら…本格的な謎解き