「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」|キャッチ

中国ドラマ史上最高となる総製作費100億円を掛けた超大作「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」(原題:武動乾坤)のDVDセットが9月3日より順次販売中。本作は、原作であるWeb小説の閲覧総数3200万回、セットの広さ6万平米、スタッフ1060人、CGシーン2000分と破格のスケールを誇るファンタジースペクタクル時代劇だ。

映画ナタリーでは、DVDの発売を記念して3回にわたって特集を展開する。第3弾として、サブカルチャーに精通する大槻ケンヂに本作の感想をインタビュー。「眼福だった」という美男美女ぞろいのキャスト陣や、懐かしさを感じさせる特撮シーンなど、大槻ならではの愛あるツッコミで本作の魅力を紐解いた。

取材・文 / 岡﨑優子 撮影 / 佐藤類

眼福のキャラクター陣

──大槻さんは海外ドラマを観られる方ですか?

大槻ケンヂ

子供の頃は、「刑事コロンボ」「警部マクロード」などは観ていました、って古すぎか(笑)。今はあんまり観ないですね。あの、だってドラマってストーリーを追わなきゃいけないでしょ? 面倒で(笑)。あ、だけど「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」はあまり筋を追わなくてもいいタイプの作品でとても観やすかった。流しっぱなしにしておいて、面白いシーンが来たら、おお!と思って観たりしてね……。観やすいのと、それと“眼福”が最高でしたね。世界美男美女ランキングの上位みたいな、とにかくものすごい美女とものすごいイケメンが次から次へと出てくる。それを観ているだけで筋とかどうでもよくなるね。単純に楽しめる。皆さん本当にお美しい。ま、お美しい人ばかりなもんだから、途中で誰が誰だかわからなくなりますが、それでいいんだと思って観ていました。

──その中でも特に気になるキャラクターは?

そうねえ。それがさ、正直申し上げて、きれいな女性がみんな明日花キララさんに見えるんだよね。明日花さんがいろんなコスチュームを着て出てくるみたいな(笑)。それが中国の方の理想とする美人像なんでしょうね。特に“キララーズ”の中では穆芊芊(ぼくせんせん)は色気があっていいね。最初にババーン!と空中から出てくるところなんか最高です。出ター!って感じで。そんな美女軍団の中で唯一、毛色の違うタイプの林青檀(りんせいたん)は昭和のお兄ちゃん萌えする妹キャラで、かわいいなと素朴に思いました。ちょっと若い頃の相原勇さんに似ている。一度そう思うとずっとそう見えちゃうんだよね(笑)。「神龍<シェンロン>」を観ているのに「イカ天(三宅裕司のいかすバンド天国)」を観ているような気持ちになりましたよ。

──男性キャラクターはいかがでしょう?

林動(りんどう)も林琅天(りんろうてん)もいい男だよねー。でもアレだ、たぶん、中国では女性の美を求めると明日花キララさんになって、男性は金城武さんになるのかなあ。本当にみんな割り箸でも入ってんのかってくらいシャープな鼻筋で、ここは鼻筋山脈かと思いましたよ。中でも林動を演じるヤン・ヤンは相当人気がある役者なんですよね? 彼はお芝居に関して言えば発展途上というか、まだ色が付いていないプレーンな素朴さがある。はっきり言ってしまうと下手ってことかもなんでしょうけど、それが人気の要因なんじゃないかな。喜怒哀楽の表現がうまくないところが、また母性本能をくすぐったりしてかわいいんだと思います。彼は日本でも人気が出るでしょうね。

──男性の目から見てもかわいく見えますか?

うん、林動はだんだんかわいく見えてくるんだ。僕の世代からすると、カンフーと言えばジャッキー・チェン、ジェット・リー、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウといったすごい人たちを見ているわけじゃないですか。それに比べちゃうと、やっぱりヤン・ヤンのパンチはちょっと……効いていないというか。弱々しいよね。最初はそんな彼がふがいなく、ちゃんとしろよ!って思っちゃうんだけど、観ているうちに、がんばれよ、もうちょっと行けるだろう!って応援の気持ちに変わってくる。僕はまだ10話しか観ていないけど、きっと林動のキャラクターと一緒にヤン・ヤンがだんだんと成長していく姿を見る楽しみがこのドラマにはあるんでしょうね。そういえば昔、東京12チャンネルの音楽バラエティ番組「ヤンヤン歌うスタジオ」って、あのねのねが司会をやっていたのあったじゃない? それでたまにアイドルが寸劇みたいのをやっていたのをなんとなく思い出しました。あ、ヤンヤンつながり。それはお約束のお楽しみで、同様に「神龍<シェンロン>」にも、どこかでいつか観たようなアイドルドラマに通じるお約束感とお楽しみ感がありますよね。男でも女でもかわいい子が成長する過程を見るのは楽しいよね。

──「神龍<シェンロン>」は有料放送でも有料配信でもないので、気軽に多くの人々が観ていたと思います。実際、配信は3日間で5億回再生されました。

すごい! なるほど、きっと昔で言うポップコーン感覚で、お菓子を食べながらとか、お酒を飲みながらとか、家族でワイワイとツッコミを入れながら観られる気軽さが人々に受けているんでしょうね。いろんな人が楽しめるよう作り手側も、いろんな気配りを多方面にしていますよね。美女とイケメンが次から次へと出てくるのもそうだし。……あと、BL的な気配りもたくさんあるよね。BL好きのファンの人たちは、勝手に林動と林琅天を組み合わせたり、小貂(しょうてん)と組み合わせるなどのカップリングで盛り上がっていると思いますよ。

──中国にも腐女子世界ってあるんですか?

さあ? BLはおそらく世界共通なんじゃない? とりあえず「神龍<シェンロン>」はカップリングしがいのある作品だと思いますよ。マーケティングリサーチで、そこらへんもあらかじめ狙って作られている気はしましたねえ。重要なポイントですよ。

100億円掛けても手頃感を優先?

──そんな気軽に観られる作品に、100億円の製作費を投入するのもすごいですよね。

中国映像界は今、ものすごくバブっているのかもねえ。ノッてるというか。面白いと思ったのは、高い製作費を掛けたら、とんでもなくハイクオリティの作品をクリエイターは作ろうとするじゃないですか。それを人は求めていると思っているけれど、そんなことはないんだというのをこの作品はよく理解してるところが興味深い。そうなんですよ、わりと観る人って「まあこれくらいでいいんじゃない?」っていう手頃感が欲しいんだと思います。嘘っぽく、ポップでキッチュな感じを求めている。真面目か、みたいな苦悩されてばかりも困るじゃないですか。歴史への忠実さなんてのもそんなにいらない。ファンタジーなんだから服装も時代考証よりもコスプレショーでいい。「神龍<シェンロン>」の衣装の絶対体を守ってはくれないだろう合成樹脂感が、ポップでキッチュで「これぐらいでいい」感を表していてグッドです。

「神龍<シェンロン>-Martial Universe-」

──確かに、コスプレしたくなるような衣装が目白押しです。そのあたりもスタッフは狙っているのかもしれないですね。

そう思うと、ツッコミどころ満載だけど、意外にそれがこの作品の練りに練った狙いどころなのかもしれないとも思えてきますよね。そうだとしたら、ハリウッドはかなりこの存在は怖いだろうと思います。練りに練って出したって、違う違うそうじゃ、そうじゃない。大衆はそんなに細かなもの、高度な技術を求めていないよ、と。このくらいのユルさこそがいいんだよってリサーチして立ち上げ、ヌルっと出してきたこのプロジェクトが見事に世界中で当たったならかなりヤバい。中国映像界がこれから世界を制覇していくこともあるでしょうね。

──特に印象に残ったシーンはありますか?

大槻ケンヂ

うーん、わりと同じところで撮り回してるよね? 100億円掛けたわりには、僕が観た第10話まではロケ地がほぼ同じで、照明や小道具を変えるだけで見せていたなあと(笑)。でも、そこがいい! この安心感が観ていてホッとさせてくれる! 同じスタジオでセットをちょっと変えながら撮っていた昔の「スター・トレック」のようなおなじみ感があり、知っているところで撮っている安心感がありました。「グラディエーター」のシーンを彷彿とさせるオープニングの円形闘技場も、照明とか見せ方を変えて何度か出てきますよね。連続ものに大事なのは、100億掛けてもやっぱり安心感! それをわかってるよね。

──第10話以降、一行は故郷の村を出て旅をするので、これからいろんな舞台が出てきます。ぜひその続きを観てほしいところですが、実はロケ地と思われた湖や滝や林も作られた広大なセットなんです。

そうなんだ! そう見えないところがすごいですね。「神龍<シェンロン>」の世界観の中に没入できるよう、おなじみ感のあるセットを作り上げているのか。素晴らしいです!

古きよき時代の特撮への懐かしさ

──では、特撮好きの大槻さんから見た本作はいかがでしたか?

大槻ケンヂ

うん、ズバリ言うと、CGが100億円規模に見えないところがよかった(笑)。「神龍<シェンロン>」の特撮、オレ大好きよ。第1話の冒頭から出てくる赤い虎や、第7話に出てくる黒いヒョウは「ジュラシック・パーク」よりもはるか昔の懐かしい80年代CG感がありました。逆に緻密すぎるCGで作られた近年の「ライオン・キング」なんかはドキュメンタリーを観ているみたいで、そこまでリアルにしなくてもいいのにと思うんです。「神龍<シェンロン>」のCG虎には、レイ・ハリーハウゼンが特撮を手がけていた「シンドバッド虎の目大冒険」のような、人形アニメと実写を合成した、かくかくした動きのダイナメーションすら感じます。だからあの赤い虎すごくかわいい! 虎以外でも本作のCGには、そんなどこかで見たことがある懐かしさがたくさん出てきますよね。あと、蟻をセットに置いて映す特撮を手がけていた“ミスター・ビッグ”と呼ばれたバート・I・ゴードン監督の特撮もちょっと思い出しました。今はもはや特撮という言葉すら使われなくなるほどCGが進化していく反面、ゆるゆると観られるユルめの特撮が求められる時期にきているんじゃないのかなあ。本作はそんな懐かしささえ狙って作られたのかなと思います。

──CGで登場したその赤い虎は、第11話で人間の姿になって、林動に忠誠を誓い行動をともにする重要なキャラクター小炎(しょうえん)となります。

じゃあ、あの赤い虎のCGはもう見られないんだ? 残念だなあ。あいつ、かわいくていいキャラよねえ。僕には最初からあの赤い虎くんはいいやつだとわかっていましたよ。だって人間を襲ってくるんだけど、人間より速くは走らないんだもの(笑)。人間に追いつかないなんて、なんて優しい猛獣なんだ、みんな好きになるよ。戦っても爪を立てるわけでもないし、すぐ手なずけられる。かわいいなあ、このCG虎くん、グッズが欲しくなるよ。

──そういった意味でも、ツッコミどころが満載ですね(笑)。

ツッコんで観られるドラマっていいですよね。昔はドラマって大本営発表みたいなところがあって、観客は与えてくれたものをありがたく観ていましたけどね。1970年代くらいまではドラマにツッコミをしてはいけないっていう感覚もあったけど、最近はツッコミをしながら観たほうが面白いんじゃないの?という流れに変わってきたよね。だから前もってツッコミどころを考えたうえで、本作も作られたかもしれない。資料を見ても「『水滸伝』『三国志』を超え、中国ドラマが到達した究極の新境地に刮目せよ!」「いま、伝説の救世主が君臨する。」……この煽り文句自体、ツッコミどころとしてとてもうまく機能している。コピー作るほうも乗ると思いますよ。あのCGのかわいい赤い虎を見た瞬間、やっちゃいましょう、盛りましょうって。ツッコみつつ、最終的にはファンになって応援してしまう。

──では、昨年30周年を迎えた筋肉少女帯を率いる大槻さんから見た、本作の音楽はいかがでしたか?

面白かった! とっても「なんで?」って感じがあって、そこが好き。まずオープニングのインストゥルメンタルのテーマ曲がなんかすごく曖昧模糊としていますよね。インダストリアル系というか……。いよいよ始まります!という勢いがまったくない、なんとなく始まったのかなあみたいな感じの曲で逆に気になりますよ。うーん、もうちょっとメリハリの効いた曲にしないのかなと思っていると、壮絶な戦いのシーンとか危険なシーンとかでは謎の青春ポップスがかかるんだよね(笑)。「青春のー♪ 翼を広げてー♪」みたいな。あの感覚は僕にはちょっとわからないだけに、新鮮でした。例えば、壁が両方から閉まり始め、挟まれた林動と小貂は絶体絶命。どうすればいいんだってときに林動が光を発し、ひゅーっと助かる。それ何?ってぽかんとしていると、その謎の青春ポップスがかかる。え? なんで?と思ったけど、意表を突かれる感じがよかった。音楽感覚のズレが、この作品はまたすごく魅力を放っている。

──主人公は決して死なないという意味でも、安心して観られますね。

ファミリーで楽しめますよね。主人公に危機が近付いても、助かるフラグが立ち、そろそろだなというタイミングで懐かし感のあるCGが出てくる。ハラハラドキドキしつつ、よっ!来た!おなじみの!感が楽しい。ぜひみんなで観るといいと思います。

──第10話以降も観たいと思わせる本作のツボはどこでしょう?

今度はどんなきれいな人が出てくるのだろう? やっぱり明日花キララさんに似てるのかなあ?とか、林動、カンフーうまくなるといいなあ、とか。いろいろありますけど、味方も敵も長く観ているうちに、みんな自分の仲間、友達のように思えてくる親しみやすさ。そんなあたりがツボると思いますよ!

大槻ケンヂ