WOWOWオリジナルドラマ「異世界居酒屋『のぶ』」特集|異世界が来た!原作者も太鼓判、シリーズ累計300万部超のグルメファンタジーが実写化

品川ヒロシ×原作者・蝉川夏哉インタビュー

「異世界が来た!」という感じでした(蝉川)

──まず、ドラマ化のオファーを受けた瞬間はどう思われましたか?

蝉川夏哉 まず「うれしい」よりも、「本当にできるの?」っていう気持ちが先にありました……(笑)。

品川ヒロシ (笑)

「異世界居酒屋『のぶ』」

蝉川 日本の役者さんで実写化するとなったときに、コントみたいにならないかなという若干の心配がありましたね。もちろんうれしい気持ちもありましたが、不安と半々でした。

品川 僕もコントになってしまわないように、と気を付けていました。中世ヨーロッパ風の異世界に日本の居酒屋があるという設定は面白いですけど、すべて日本人で実写化するとなると、安っぽくならないように撮るのがかなり難しいなと最初に思いましたね。

──蝉川先生は現場を見学されたそうですが、いかがでしたか?

蝉川 いやあ、「異世界が来た!」という感じでした。居酒屋「のぶ」のセットも素晴らしく、そこから地続きになっているアイテーリアの路地も素晴らしい。本当に細かい部分まで作り込まれていて、「こんな居酒屋、近所に欲しいな」と思える店と、思い描いていた通りの異世界の路地があってびっくりしましたね。

「異世界居酒屋『のぶ』」メイキング

品川 最初に現場に来たとき、うれしそうに写真を撮っていらっしゃるのを見て「ああ、よかったなあ」と思いました(笑)。やっぱり蝉川先生に喜んでいただくというのも、僕の中で大きなミッションでしたので。

蝉川 ありがとうございます(笑)。

品川 あと映画の撮影でもそうなんですけど、ドラマもキャストやスタッフのスイッチが入る瞬間があるんです。今回は美術部の作ってくれたセットや小道具、衣装部のメイクなどの作り込みのおかげで、気持ちがまとまったんです。セットや小道具が、まさに僕らを異世界に連れていってくれて、面白くなると自信を持てたのがそのときでした。

蝉川 本当に細かいところまで作り込んでくださっていて……。壁に「火元責任者 矢澤信之」って書いてあるところとか、路地にちょっと置いてある器に使用感があって、ここに人が住んでいるんだと思わされました。

シンプルなものってすごいな(品川)

──監督が料理シーンを撮っているときに、蝉川先生が食いつくようにモニタを観てらっしゃったそうですね。

蝉川 品川監督は、同じシーンを何回も何回も繰り返して、きちんと撮るっていう完璧主義なところがすごくて! これはコントではなくて、異世界にやってきた居酒屋をドラマとして撮ろうとしてくれてるんだと感じてうれしかったです。

品川ヒロシ

品川 やっぱり料理は肝ですからね! 僕なら、例えばからあげにこんなアレンジをしたらおいしいとか考えちゃうんですけど、原作ではとてもシンプルなからあげなんです。シンプルな料理シーンでかつおいしそうに見せる、ということも課題でした。

蝉川 小説って、過剰に書くこともできるし、逆に読者にゆだねることによって、その人の記憶の中にあるおいしいものを引き出すこともできるんですよ。だから原作では、わりとニュートラルなものを出そうとしていました。

品川 なるほど。確かにシンプルなものってすごいなと思ったのが、カツサンドの回でした。キャベツも挟まない、マスタードも付けない、というあえてトンカツだけのカツサンドというところに蝉川先生のこだわりを感じたんですよ。僕がここで何かを足したら蛇足だし、蝉川先生が言うところの誰でも知ってるカツサンドじゃなくなるじゃないですか。実際にそのカツサンドを食べたら「うまい!」と直球を受けたような気持ちで。ですから、“シンプルで、うまそう”ということにこだわろうと思いました。

蝉川 異化効果っていうんですけど、よく知っているものが違う環境に来るとまるで違って見えて、その価値を再確認できるんです。居酒屋「のぶ」の料理はそれを目指していたので、監督にシンプルにやっていただいたのはありがたかったですね。

「異世界居酒屋『のぶ』」メイキング

品川 でも僕、生魚が食べられないんですよ……。だから生魚をおいしそうに見せるシーンが難しかったですね。

蝉川 みんな食べられないものはあると思うんですよ。原作小説への感想で一番うれしかったのが「これまでイカの塩辛が気持ち悪くて食べられなかったけど、『のぶ』を読んでおいしそうだったので食べてみたら、これは酒に合う!」というコメントでした。これはこの人の人生に何か付け足すことができたぞ!と感じたのと、これからこの人はイカの塩辛を食べるときに10回に1回は「のぶ」のことを思い出してくれるんじゃないかと思えて、うれしかったですね。

馬車から降りるだけでも面白かった(蝉川)

──蝉川先生は篠井英介さんのファンで、篠井さんの撮影日に現場にいらしたとか。

蝉川 本当に素晴らしかったですね……。篠井さんは日本舞踊をやってらっしゃるので、少し歩くだけでも踊りをやっている方の歩き方だとわかるんです。ちょうど同じ回に梶原善さんも出ていらして、馬車から降りるだけでも面白かった(笑)。

──先生の思った通りのキャスティングだったんでしょうか。

蝉川 期待以上でしたね! これぐらいだろうと思っていたところを軽く超えて、場外ホームラン!という演技でした。

品川 大将としのぶはリアルなお芝居を、異世界の住人たちには舞台のお芝居をマックスでやってくださいとお伝えしていたので、キャストの皆さんに「どこまでやっていいの?」と聞かれたんですよ(笑)。ドラマだからって控えなくていいので、全力でやってくださいとお願いしていたんですが、打ち上げのときに役者さんに「こんなドラマの現場ってないので、すごく楽しかった」と言ってもらえました。

「異世界居酒屋『のぶ』」

──なるほど。蝉川先生から見た大将役の大谷亮平さんや、しのぶを演じた武田玲奈さんの印象はいかがですか?

蝉川 (キャラクターが)乗り移っているというか、大将はあまりしゃべらない役で難しいのによくあそこまでやってくださったと思います。以前大谷さんが出演されていたドラマを拝見したんですが、この方は懐の深い寡黙な人の演技ができるんだと思って、ぴったりだなと。武田さんは監督がずっと「かわいいかわいい!」って言ってましたよね(笑)。

品川 そりゃ、あんな子が生ビール持ってきてくれるんだったら、(「のぶ」に)行くよな!と思います(笑)。

蝉川 かわいいですよね。第1話でハンスが(しのぶに)ときめくシーンがありましたけど、ハンスだけじゃなく誰でもそうなりますよね。

──品川監督は大谷さんや、武田さんへの演出で何か意識されたことはありましたか?

品川 武田さんは、「トリアエズナマ」をかわいく言えるなら、もうそれでいいなと思ってました(笑)。大将には感情がない人という印象を原作から感じたんですが、読み進めていくとちょっと冗談も言うようになっていくので、ドラマ版も少しずつ大将が人間味を帯びていくようになればいいなあと考えていたんです。順撮りではなかったんですが、大谷さんが逆算して演技してくれたので、観る側もだんだん大将に感情移入できるようになったと思います。