映画「OUT」総合格闘家・堀口恭司はこだわりのアクションをどう観た?品川ヒロシ(監督・脚本)&富田稔(スタントコーディネーター)と鼎談

品川ヒロシの小説「ドロップ」に登場する、伝説の超不良・井口達也を主人公にしたヤンキーマンガ「OUT」。同作が品川の監督・脚本で実写映画化され、11月17日に公開される。映画の見どころは、井口をはじめとする不良たちが派手に繰り広げる抗争シーン。このアクションはプライベートで総合格闘技やシュートボクシングのジムに通うほど、格闘技好きの品川がこだわって作り上げたという。

そこでコミックナタリーでは、修斗世界フェザー級王座、Bellator世界バンタム級王座、RIZINバンタム級王座などさまざまなタイトルを獲得する総合格闘家・堀口恭司選手に映画を鑑賞してもらい、インタビューを実施。日本人の軽量級総合格闘家の中で世界トップクラスの実力を持つ堀口は、劇中のアクションシーンをどう評価するのか。品川監督とスタントコーディネーター・富田稔にも同席してもらい、3人の鼎談という形で語ってもらった。

取材・文 / ツクイヨシヒサ

映画「OUT」本予告映像

ハマッていたUFCで、堀口選手が一番好きだった

品川ヒロシ 今日はおふたりとも、よろしくお願いします。僕と富田さんは、WOWOWのドラマ「ドロップ」で一緒にやらせてもらってからのご縁で、今回の映画「OUT」でもスタントコーディネーターを務めてもらったんですけど……。

富田稔 よろしくお願いします。

品川 実は堀口さんとも、僕は1度お会いしたことがあるんですよ。

堀口恭司 えっ、そうでしたっけ?(笑)

左から堀口恭司、品川ヒロシ(監督・脚本)、富田稔(スタントコーディネーター)。

左から堀口恭司、品川ヒロシ(監督・脚本)、富田稔(スタントコーディネーター)。

品川 以前、番組でケンコバ(ケンドーコバヤシ)さんと一緒に、山本“KID”さん(※1)のジムへ伺ったとき、堀口さんも普通に練習へいらっしゃっていて。写真も撮ってもらったんですよ。

※1 堀口恭司の師匠である格闘家・山本“KID”徳郁のこと。

堀口 ああ、思い出しました! その節はどうもありがとうございました。

品川 いえいえ、こちらこそありがとうございました。僕はその頃、すごいUFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)にハマッていて、堀口さんが一番好きだったんです。当時、世界一強いっていわれていたデメトリアス・ジョンソン(※2)っていうチャンピオンと戦って、1ラウンドからバンバンとタックルを決めていって。本当にラスト1秒というところまでいったのに……。

※2 アメリカ合衆国が誇る総合格闘家。2012年にUFCフライ級王者となり、その後11回の世界タイトル防衛に成功した。2022年にはONEフライ級王者となり、2023年もその座を守り抜いている。

堀口 いや、でも負けましたからね。

品川 そうなんですけど、本当にすごかった。その堀口さんに今回、映画「OUT」を観てもらえたということでうれしいです。ちなみに、僕が映画を撮ったりしていることは知っていらっしゃいましたか?

堀口 はい、最近そう聞きました。そこまで詳しくはなかったんですけど、映画の監督をされたり小説を書かれたりしていると。僕はマンガについては、「刃牙」シリーズとかしか読まないんですけど、(品川さんが原作の)「ドロップ」はちょっと立ち読……読みました!

品川 ちょっとちょっと!(笑) まあ最後は聞かなかったことにして。今回の映画「OUT」はどうでしたか?

堀口 すごく面白かったです。ただ、みんなケンカっぱやすぎる。

品川富田 ハハハ。

水上恒司演じる安倍要(左)と、倉悠貴演じる井口達也(右)。

水上恒司演じる安倍要(左)と、倉悠貴演じる井口達也(右)。

堀口 もうちょっと我慢できないのかなあと(笑)。確かに僕の高校時代も、周りにああいった雰囲気はありましたけど、僕は学生時代から格闘技をやってたからケンカなんて絶対にできませんでした。もっぱら見物するとか、止めに入る役回りでしたね。

富田 格闘技をされている方はそうですよね。

堀口 映画の中では、特に主人公がまったく我慢できないじゃないですか。ちょっとしたことで、すぐに怒ってしまう。格闘技をやっている側の人間からすると、そんな簡単に暴力を振るうなよと思ってしまいましたね。あと倒れている相手に対して、顔を踏みつける描写があったんですけど、それは死んじゃうからダメでしょうと!

品川 倉悠貴くんが演じた、あの主人公・井口達也というのはもともと僕の友達がモデルなんですよ。実際に、めちゃくちゃケンカっぱやいヤツで。

倉悠貴演じる井口達也。

倉悠貴演じる井口達也。

堀口 へえ!

品川 だから、最初に会ったときは僕も堀口さんと同じ感想でしたよ。「こいつ、なんでこんなにケンカっぱやいんだろう」って(笑)。それが今回の「OUT」では、少年院から帰ってきて、ケンカできない状態になっている。テーマとしては、ちょっとクリント・イーストウッドの映画「許されざる者」を意識して脚本を書いたんです。ケンカっぱやさは少し抑えたつもりだったんですけど、堀口さんから見たら主人公はまったく我慢してないんですね。格闘家から見たら、そりゃそうか。

堀口 まず、プロは手を出したらダメですからね。

品川 街で普通にスーツを着て歩いている人でも、実は堀口さんのような方かもしれないんですもんね。なら大人しくしておかないとって、僕も格闘技を習うようになってから思うようになりました(笑)。映画の中で「プロには勝てないんだから」というセリフが出てきますけど、あれは「格闘技のプロには勝てないんだから」という意味ですし。

アクションがダンスにならないように「痛み」も表現する

堀口 今日は映画のアクションシーンについてお話をしていくんですよね。

品川 そうですね。まずアクションシーン全体について、僕と富田さんは1人ひとりの個性をどうやってつけていくかという点を擦り合わせしたんです。単に殴って蹴ってだけを2時間も観てると、さすがに飽きてしまうだろうなと。

富田 でも柔道や剣道をはじめ、各キャラクターに得意な戦い方があるというので、僕はアクションを作りやすかったですけどね。すべてのキャラクターが同じような格闘技を使っていると、やっぱり個性を出すのが難しいので。

暴走族・斬人の面々。

暴走族・斬人の面々。

品川 それと、アクションがダンスになってしまわないように、という点も気をつけました。暴力としての「痛み」も表現したかったですし。

富田 僕も、この作品が描いていくストーリーの内容を考えると、拳の痛さや重さなどを伝えることは絶対に必要だなとは思っていました。観終わった後、暴力がカッコいいとは思ってほしくないというか。

堀口 なるほど。

富田 その痛さや重さの具体的な表現としては、受け手のリアクションを変えています。殴られた瞬間に首を振るといった、伝統的な殴られ方ではなく、もっとリアルに近い首の持っていかれ方を演じてもらったりしているんですよ。

品川 ちなみに僕、本当にご本人がいるからとかじゃなくて、理想のタックルというのが堀口さんのタックルなんですよ。

堀口 ええっ?

品川 これを読んでいる人たちに伝わるかどうかわからないですけど、役者さんたちにタックルしてみてと言うと、だいたい頭を下げちゃう。でも、本物のタックルはむしろ頭を上げる形に入っていくんですよ。

堀口 ああ、そういうことですね。確かに頭が上がっていたほうが、首の力を使えるんですよね。人間は頭が下がっていると、力が逃げていってしまうので。

品川 堀口さんのように本当に強い人っていうのは、やっぱりフォームがキレイなんです。そのイメージを役者さんたちに伝えるんですけど、たぶんみんな「うるせえな」「しつけーな」と思っていたはず(笑)。

富田 ただ、見た目のキレイさや派手さだけを追いかけても、現実から離れすぎてしまうという難しさもありましたよね。例えば、剣道をベースにしているんだけど、あくまでケンカの中の動きにはしたい。だから格闘技とケンカと、あと少しのファンタジーというものの境目を表現したつもりです。

井口達也は斬人との出会いから、半グレ集団・爆羅漢との抗争に巻き込まれる。

井口達也は斬人との出会いから、半グレ集団・爆羅漢との抗争に巻き込まれる。

品川 まあ、現実のケンカでドロップキックやバックドロップみたいに、派手な大技を出すヤツもいますけどね。

富田 ああ、いますね。キレイな形にならなくても、崩れた体勢のまま投げるとか。

品川 さっきの「痛み」の表現に関して補足しておくと、僕は富田さんのような哲学めいたメッセージみたいなものは持ってないんですよ。僕は単純に、痛いほうが映画として面白いだろうとしか考えていない。ケンカだから痛いシーンを撮りたいというだけなんです。

富田 編集の段階でいろいろと試した部分もありましたよね。

品川 コマを抜いたり、映像の中の空間を削り取ったりして、パンチの打感やスピードを増したりね。実験しながら編集しました。ほかを知らないですけど、かなり独自の表現になっているじゃないかと思います。もちろんハリウッドだったらね、全部モーションキャプチャして、相手もCGで作れてしまうんでしょうけど、僕らはそうじゃない。ミニマムな投資で、どこまで攻めた編集ができるかというチャレンジでもありました。