アガサ・クリスティの大ファンである魔夜峰央×山田マリエ“親子”が語る極上のミステリークルーズ「ナイル殺人事件」 (2/2)

ジェームズ・ボンドのようなポアロが出てくるかもしれない(魔夜)

──映画「ナイル殺人事件」では登場人物が現代的にアップデートされています。

山田 主導権を握っている女性キャラクターが多いのがすごく好きでした。特に(レティーシャ・ライト演じる)敏腕マネージャーのロザリーがお店の支配人とやり取りする場面が好きで、彼女は断固として支配人の要求をのまない。頭がよくて、お金の計算がしっかりできて、男性にも負けない強さを持っていることが1人の女性としてすごく憧れます。

レティーシャ・ライト演じるロザリー(中央)。

レティーシャ・ライト演じるロザリー(中央)。

魔夜 実際には1930年代の女性の立場は弱かったかもしれないけど、現代の映画としてそういうアレンジは施されるべきだよね。

山田 うん。“今の映画”として安心して観ることができた。(ガル・ガドット演じる)リネットからは、お金を手に入れたくて手に入れたわけではないが故の孤独を感じました。富は生活を豊かにするけれど、同時に虚しくさせるのかもしれないなあと。

ガル・ガドット演じるリネット。

ガル・ガドット演じるリネット。

──それは魔夜さんがおっしゃっていた「同じ土俵に立って人間の感情を描く」ことにつながっているかもしれないですね。お金持ちだからといって、必ずしも幸せなわけではないという。

山田 そうですね。自らの境遇に苦しみ、その中でがんばって生きていこうとしている姿に胸を打たれました。幸せになってほしいなあと思っているときに殺されてしまいましたが……。「いったい誰が!?」と前のめりになったので、物語の作り方が上手だなと思いました。

──魔夜さんは前作の「オリエント急行殺人事件」を観たとき、ポアロ像に抵抗はなかったですか?

魔夜 まったくなかったです。原作のポアロ像にとらわれず、その都度求められるポアロを創り上げればいいんだと思います。

──ケネス・ブラナー演じるポアロにはどんな印象を?

魔夜 非常に人情味がありますよね。原作では事件の真相というパズルを解いて犯人を特定すれば満足するタイプですけど、映画では表情豊かで感情が読み取れることもある。おそらく今回の映画「ナイル殺人事件」もそうだと思うんですが、「オリエント急行殺人事件」は舞台の延長線上にあるような映画で、監督も務めるケネス・ブラナーが演劇畑の人間である影響が大きいと感じます。舞台は主役がお客さんに反感を持たれたら終わりなので、それを踏まえてポアロ像を作っているんじゃないかな。

ケネス・ブラナー演じるポアロ。

ケネス・ブラナー演じるポアロ。

山田 こんなにかっこいいポアロって初めて?

魔夜 そうだね。これから先、「007」のジェームズ・ボンドのようなポアロが出てくるかもしれないし、それはそれで面白いんじゃないかな。時代が変わることによって、もともとのキャラクター像と違ったものが生まれるのは自然なことだと思う。

山田 ポアロはかっこよかったんですが、リネットの夫であるサイモンのよさはわからなかった(笑)。職を失っているイケメンという部分が母性本能をくすぐるのかな?

アーミー・ハマー演じるサイモン(中央左)、ガル・ガドット演じるリネット(中央右)。

アーミー・ハマー演じるサイモン(中央左)、ガル・ガドット演じるリネット(中央右)。

魔夜 ダメ男っぽいしね。絶対にお金は預けたくないタイプ。でもいい服着てるよ?

山田 リネットのお金で買ったんじゃないかな(笑)。ただ、日本語吹替版でサイモンに声を当てているのが津田健次郎さんなんですよ。であれば色っぽくてかっこいいだろうなと、アニメ好きとして惹かれました。

ポアロのひげの秘密には愛が絡んでいる(山田)

──原作と映画に共通しているテーマは「愛は人間を幸せにするけれど、愛によって狂わされることもある」という点だと思います。

山田 映画ではポアロのひげの秘密が明かされますが、ここにも愛が絡んでいる。

魔夜 それは原作にはない描写だね。

ケネス・ブラナー演じるポアロ。

ケネス・ブラナー演じるポアロ。

──お二方は非常に仲が良いと思うのですが、家族愛によって狂わされた経験はありますか?

山田 実は今ちょっと狂っている部分があって……魔夜はお医者さんから食生活に関するアドバイスを受けているんですが、脂っこいものや添加物が多く入っているものを食べようとするんです。大好きだからこそ「健康に悪いからやめよう」と言うんですけど、本人は「カップラーメン食べたいー」と。キーッ!ってなるときがありますね(笑)。

左から魔夜峰央、山田マリエ。

左から魔夜峰央、山田マリエ。

魔夜 好きだから買い置きがあったんですよ。捨てちゃうのはもったいないから、ある分は食べ切っちゃおうと……。

山田 でも連日食べることはないと思うんだよ。

魔夜 最近はもやしを食べようとしてるよ。

山田 もう少し緑も食べて。

魔夜 ブロッコリーを食べるよ。おいしいから。

山田 ……みたいな会話をよくしています。映画のキャッチコピーは「愛の数だけ、秘密がある」ですが、愛って難しいですよね(笑)。

プロフィール

魔夜峰央(マヤミネオ)

1953年3月4日生まれ、新潟県出身。1973年にデラックスマーガレットでデビュー。1978年、花とゆめにて代表作「パタリロ!」の連載を開始。テンポのよいギャグと、博識に裏打ちされたなんでもありの世界観で大ヒット作となる。現在も白泉社が提供するアプリ・マンガParkで「パタリロ!」を連載中。そのほか代表作に「ラシャーヌ!」「翔んで埼玉」などがある。

山田マリエ(ヤマダマリエ)

1987年6月2日生まれ、神奈川県出身。父・魔夜峰央の広報とマネージャーを担当する一方、自身もマンガ家として「魔夜の娘はお腐り申しあげて」「魔夜の娘はお腐り咲いて」「はがゆれど!」を発表している。母親のバレエ教室で助教としても活動中。