「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」脚本家・秦建日子インタビュー、広瀬すずや櫻井翔が“難しい脚本”と称した物語をノリノリで書く (2/2)

櫻井さんの受けの演技がよかった

──広瀬さんや櫻井さんの演技はいかがでしたか?

気持ちのいいリズムでお芝居をしていただいたので、ありがたかったです。ミステリーでこういうジャンルなので、しゃべりにくいセリフもたくさんあったと思うんですが、「ちょっとアドリブ交えてますか?」ぐらいの自然なトーンで会話されているところは本当に素晴らしいと思いました。アンナが抱えている悲しみだったり、世の中に対する矛盾だったり、もう取り返しのつかない過去への思いなどを説明くさくなく、広瀬さんの内からにじみ出るように表現されていた。そして、そんなアンナの思いを櫻井さん演じる風真が上手に汲み取っている。櫻井さんの受けの演技というか、恩着せがましくなく、そっと気付いてる感じがよかったなと思いました。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」場面写真

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」場面写真

──佐藤浩市さんが演じた“窓”というキャラクターは、どういった意図で登場させたのでしょうか。

やはり僕オリジナルのキャラクターを入れないと脚本家として寂しい。どういう人が登場すると映画的にワクワクするかなと思いながら作りましたね。

──“窓”役のキャストは脚本執筆の段階で決まっていたのですか?

決まってなかったです。年配の男性にするか、それとも若い男にするか。性別不明の人にするのか。ただ、どんな人が来てもこの“窓”は行けそうなキャラクターだと会議で話していました。僕はキャスティングには参加していないんですが、実は佐藤浩市さんのイメージで書いてました。なので、本当に佐藤さんがキャスティングされたときは「お、やった!」という感じでした。

──佐藤さんが演じられたから、“窓”というキャラクターは非常に謎めいていました。

ト書きはそんなに多くはなかったと思いますが、どんなトーンで話されるのか、感情的になるのか、やんわりほほえんでいるのかなど、キャラクターは監督と役者の方で話し合われて作られると思っていましたので、僕は出しゃばらずにいました(笑)。佐藤さんの演技によって、非常に説得力をもたらしていただいたと思っています。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」より、佐藤浩市演じる窓。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」より、佐藤浩市演じる窓。

やられました、あのラスト!

──本編全体を観た感想を教えていただけますか。

面白かったですね! 自分で書いておきながら、けっこうドキドキしました(笑)。たぶん監督が遊び心たっぷりに、細かなサインを映像にいっぱい入れているんだろうなと思っていたので、がんばって探したんですけど見落としはまだあるんだろうなと。とにかく楽しく拝見しました!

──書かれた脚本がほぼ自分の思った通りに映像化されていたのですか?

そうなんですよ、大きな直しもなかったんです。脚本家としてこんなに楽しい仕事はなかなかないなという感じでしたね(笑)。やりたい放題でした。

──楽しく書いているというのは、実際にはどんな感じなんでしょう。

ノリノリで書いてますね。楽しいときって、書いているときから映画が完成した際の「面白いねー!」「すごいねー!」と言っている声が聞こえてくるような妄想ができるんです。今回も「ここ10年の邦画ミステリーでナンバーワン」とか言われたらどうしようとか。そんなことを思いながら、幸せ者でした(笑)。

──特にお気に入りのシーンは?

ラストカットですね。あのシーンはシナリオにないんです。でも、あのラストカットがいきなり飛び込んできたときの驚きはよかったなと思いました。自分も脚本を書いているときはなるべく人を驚かせたいと思っていますし、観客として観るときは予想もしない方向から驚かせてほしいと思っています。だから、あのラストカットは素晴らしかった。あれが入ることで、もう一度頭から観たい気持ちが強くなる。監督には試写のあと「やられました、あのラスト!」ってお伝えしました。

──入江監督とは今回初めてご一緒されたんですよね。

シナリオを読まれて「こういうことですね、わかりました。あとは任せてください」みたいな感じで、とても安心感がありました。今回、実は監督と打ち合わせをあまりしていない。たぶん、直接お話しした時間はトータル15分もないんじゃないかな。会議でも、監督はそんなに発言されない。ただ、プロデューサーの方が「監督、撮れますか?」と言うと、「撮れますよ、大丈夫」と。だから、お任せしておけばいいんだなと思っていました。結果、素敵な映画が完成したので信じてよかったです。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」場面写真

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」場面写真

自分が面白いと思うことしか書かない

──秦さんが脚本家として大事にされていることはありますか?

当たり前のことですが、自分が面白いと思うことしか書かないことにしています。若い脚本家さんの中には「仕事をやりたい気持ちが強いので、相手の言っていることが面白くないと思っても、そこは仕事として相手が求めるものをがんばって書こうとしています」と言う人が多いようですが、それはどうなのかなと思います。僕は、自分が面白くないものを書けと言われたら、チームに迷惑の掛からない早い段階で降りるほうが誠実じゃないかなと思っています。逆に、僕を面白いと思ってオファーしてくれたなら、自分自身が面白いと思っていることを書かなければと思っています。

──では、最後に本作をBlu-ray / DVDで観る人へメッセージをお願いします。

一番最初の会議のときに「2回観たくなる。2回観たら3回観たくなる作品を目指そう」と全員で話していました。映画館に2回、3回行くのはハードルが高いですが、Blu-ray、DVDだと繰り返し観れる。ここにもこんな伏線があったとか、これはあとで韻を踏ませようとして言っているんだとか。そういうのを見つけてもらえるとうれしいです。僕も監督から映像的な伏線、演出的な伏線を聞かされてはいないので、次に監督と会うまでに繰り返し観て、いっぱい発見しておきたいなと思っています。

プロフィール

秦建日子(ハタタケヒコ)

1968年1月8日生まれ、東京都出身。小説家、劇作家、演出家、シナリオライター。劇団秦組の主宰で、プロダクション「OFFICE BLUE」の代表取締役を務める。2001年にドラマ「HERO」に脚本家として参加し、2004年には「推理小説」で小説家デビューを果たす。同作は「アンフェア」としてドラマ、映画化された。また「クハナ!」「ブルーヘブンを君に」など映画監督としての顔もある。脚本を手がけた主な作品はドラマ「天体観測」「ドラゴン桜」「サマーレスキュー~天空の診療所~」「そして、誰もいなくなった」など。