「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」脚本家・秦建日子インタビュー、広瀬すずや櫻井翔が“難しい脚本”と称した物語をノリノリで書く

広瀬すず、櫻井翔がダブル主演を務めた「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」のBlu-ray / DVDが9月6日に発売される。

本作は、2021年4月期に日本テレビ系で放送された連続ドラマ「ネメシス」の劇場版。映画ナタリーではソフト発売を記念し、本作の脚本を手がけた秦建日子にインタビューを実施した。広瀬や櫻井が「難しい脚本」と称した物語を“ノリノリで書いた”という執筆の裏話や、本編を鑑賞した感想、脚本家として大事にしていることなどを語ってもらった。

取材・文 / 前田かおり

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」予告編公開中

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」とは
「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」豪華版Blu-rayのジャケット写真。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」豪華版Blu-rayのジャケット写真。

「ネメシス」シリーズは、天才的なひらめきで事件の真相を見破っていく探偵助手・美神アンナと、ポンコツだが人望に厚い自称天才探偵・風真尚希の活躍を描いたミステリーエンタテインメント。映画では、アンナたちチームネメシスが「謎を解くたび、誰かが死ぬ」という“黄金螺旋の謎”に挑むさまが描かれる。

物語の舞台はドラマの最終話から2年後の世界。1人暮らしを始めたアンナは、チームネメシスの仲間たちが次々と悲惨な死を遂げる悪夢に毎晩うなされていた。アンナはある日、夢に何度も現れる“窓”と名乗る謎の男と対峙し、「私たちが握手をしなければ、夢は1つずつ現実になっていく」と伝えられる。その予言を阻止するため行動を開始するアンナ。時を同じくして、風真は怪しげな行動を取り始める。

映画にはアンナ役の広瀬、風真役の櫻井、探偵事務所ネメシスの社長・栗田一秋役の江口洋介に加え、勝地涼、中村蒼、富田望生、大島優子、上田竜也(KAT-TUN)、奥平大兼、加藤諒、三島あよな、南野陽子、真木よう子、橋本環奈がドラマに引き続き出演。さらに、佐藤浩市がアンナに“決して解いてはならない禁断の謎”を突き付ける男・窓を演じている。監督はドラマシリーズで総監督を務めた入江悠が担った。

秦建日子 インタビュー

あのテーマしか自分には思いつかなかった

──今回のオファーを受けて、まずは率直なお気持ちを教えてください。

声を掛けていただいて光栄でしたけど、びっくりしました。連ドラには関わっていなかったので、すごく大胆なオファーだなと(笑)。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」より、広瀬すず演じる美神アンナ。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」より、広瀬すず演じる美神アンナ。

──映画を拝見しました。ドラマのテイストはそのままに、まったく新しい「ネメシス」の世界に引き込まれました。

わざわざ脚本家を変えるということは、ストーリーラインは受け継ぐけれど、ドラマのタッチは受け継がなくてもいいのだろうと思いました。なので、秦が自由に書くとどうなるかということを期待されているんだろうと、最初から腹をくくって書きました。

──入江悠監督やプロデューサーから何かリクエストはあったのですか?

「新しい風になってくれたらうれしいな」ぐらいの、フワッとしたものだけでした。「秦さんだったら、どういう“ネメシス・ザ・ムービー”を考えますか? 一度プロットを書いてみて、それをもとに話し合いましょう」と言われて、1回目の会議は終わったんです。でも、僕は自分が考えたことをプロットでうまく説明できなかった。だから、いきなり映画の前半部分のシナリオを書いて「これが前半部分です。これを面白いと思ってもらえたら、後半を書くし、全然違うと言われたらボツにします。そこはお気遣いなくお願いします」と出したら、それが通った感じです。

──前半部分はどれぐらいの期間で書いたのですか?

会議から次の会議まで2週間ぐらいだったと思うんですが、前半部分は実質2日ぐらいで書きました。

──あんなに複雑に絡み合ったストーリーの前半を2日間で! もともとアイデアを温めていたりしたのでしょうか。

いや、もともと温めていたわけではないです。ただ映画版だからと、ドラマとまったく関係のない事件ものを書いてもしょうがない。もともと遺伝子の話があったのと、最終回の話を受けて考えていくと、あのテーマしか自分には思いつかなかったんです。

──すごいですね。秦さんの頭の中を見てみたいです!

ははは、そうですか。ありがとうございます。

あえて不親切に行こう

──広瀬さん、櫻井さんは脚本を読んだときに「難しい脚本」「映像でどう表現するんだろう」と。入江監督も「自分では絶対に書けない脚本」とおっしゃっています。

そこまで難しくないと思うんですが……。ただ監督によって映像表現の仕方はいろいろ変わる。そういう意味では入江監督がどういう表現をされるんだろうかと、すごく楽しみにしていました。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」より、櫻井翔演じる風真尚希。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」より、櫻井翔演じる風真尚希。

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」場面写真

「映画 ネメシス 黄金螺旋の謎」場面写真

──脚本を書くうえで苦労されたところは?

さっきも言いましたが、プロットの打ち合わせもなしに、シナリオの前半を持って行って、OKをもらって後半を書いて、トントン拍子で準備稿になり、決定稿になった。楽しかったなという記憶しかないです(笑)。ドラマとは違うことをやっていいという前提があったので、自分なりに思い切ってバットを振ってみようという気持ちはありました。実際に撮影して、映画にしていく段階で、どこまで説明していくのか。どのぐらいジャンプしていくのかというのは監督の領域だと思っていたので、自分としてはけっこうフワッとしたところが多く残ってるシナリオだったろうなと思います。

──北島直明プロデューサーからは「集中して観ないと理解できないような作品にしてください」と言われたそうですね。

最初の会議のときに「勇気を出して、邦画にしてはすごく不親切で乱暴な、でもスピード感があって面白いものを目指そう」という話をしていました。なので「10人が観て、10人全員がわかるシナリオではなくてもいいよね」ということがコンセンサスとしてありました。

──数多くの脚本を手がけていらっしゃる中で、ある意味「不親切な脚本でもいい」というのは今までにあったのでしょうか。

少ないと思いますね。どちらかと言えば、誰も置いていかない脚本を目指すケースが多い。あえて不親切に行こうというのは、僕としてはとても珍しいオファーでしたね。