「緊急事態宣言」特集|打ち合わせ、撮影、演出、なるべく非接触! 日本のトップクリエイターがコロナ禍で紡いだ5つの“緊急事態” / 三木聡と夏帆が語るこれからの映画制作

役者同士の感覚でわかるもの(夏帆)

──三木監督と夏帆さんは本作で初タッグを組みましたね。

「ボトルメール」

三木 夏帆さんがふせ(えり)や長野(克弘)さんと対峙しているのを観ていて、手応えは感じましたね。

夏帆 今回、撮影期間が3日だったので、三木組の感覚をつかみ始めたところで終わってしまったのがもどかしいですね。自分がイメージしているものができない難しさがありました。1日目が1人だったのが大きいと思います。相手がいると一緒に作っていけるんですが、1人のシーンは1人で作らないといけないので大変でしたね。

三木 俺の現場ってふせとか何人か俺のニュアンスがわかった役者を脇に置いて、主役を小ボケで追い詰めていくんですよ。主役は丸裸で目の前にぽんと来なきゃいけないみたいな。

「ボトルメール」

夏帆 そうなんですよね。ふせさんやほかの方が2日目に現場に来られて、なるほどな!っていう感覚があったんです。それは相談したりするわけではなく、役者同士の感覚でわかるもの。共演者の方と、お芝居をする中で、間合いだったりテンポだったり、セリフのニュアンスで作っていくので。

三木 リズムですよね。それをわからないでやると何も生まれない現場になってしまう。しかも今回は3日、4日のスケジュールでしたから、大変ですよ。俺の読みは当たってたなと。夏帆さんが追い詰められたときどうなるか(笑)。

夏帆 追い詰められるのは嫌いじゃないんですよね。だから、三木さんの言葉はすごい腑に落ちました(笑)。今回は撮影期間も短かったですし、お休みをいただいていて久しぶりの現場だということもあって、映画の撮影って大変だなと改めて実感しましたね。

三木 上野樹里にしても、麻生久美子にしても、吉岡里帆にしてもみんな俺の現場で悩んでいるんですよ。監督が導いてくれないって(笑)。麻生さんなんか、ある現場で徹夜に近い状況で撮影していて「大変ですね……」って別の役者さんが口にしたら「三木組に比べたら屁でもないです」って返したらしくて(笑)。

夏帆 あははははは(笑)。

三木聡

三木 どんだけ俺の現場は大変なんですか?って(笑)。三木組は演じ方やつなげ方を役者に一任するので、背負うものが大きいってことでしょうね。すごく神経を使うので大変だと思います。夏帆さんは本当によくやってくれたなと。

──本作の撮影は、打ち合わせ、撮影、演出、なるべく非接触という制限された状況の中で行われたと聞きました。

三木 マスクをするのは当然。一生でこんなに体温測られたことないってぐらい、何度も何度も検温しましたね。

夏帆 あとは常にアルコール消毒をしていますね。スタッフさんも最少人数で撮影していました。

三木 メイクさんも筆の使い回しはしてはいけないとか、映画の制作現場も世の中の状況に合わせて変わってきています。ただ今は、完全リモートで映画を撮ったりするじゃないですか。ああいうのは、俺はあんまり……。

夏帆 実際に「ボトルメール」の中でもセリフとして登場しますよね。すごく好きなセリフです。

三木 あの当時、雨後の筍のごとくそういう映画が出てきたじゃないですか。でももう一歩先に行かないと、面白くないんじゃないかなって。

夏帆 確かにリモートでの映画作りには限界がありますよね。自粛中にそれはずっと考えていました。

作品を見る目線はいろいろあっていい(三木)

──コロナ禍での映画制作についてはどのように考えていますか?

三木 距離感の変化はテーマとしてありますね。同じ本で、同じように役者を動かしても距離を変えるだけでニュアンスが変わってくる。

夏帆

夏帆 わかります。ソファのどこに座るかでもニュアンスが変わりますよね。離れても、近付いてもお芝居は変化するものです。

三木 つまんない芝居観ていると距離感が面白くないんです。そういう意味ではアメリカ映画は配置演出がうまい。ウディ・アレンとかね。どういうセリフをどういう立ち位置で言うか。背中越しで言ったほうがいいのか、正面切ったほうがいいのか、かなり考えられていますよ。

夏帆 作品の中でも、人と人との距離感が今までとは変わってきていますよね。実際に「ボトルメール」を撮影していてもそうでした。鈴音がオーディションに並んでいるシーンでは前の人との距離がものすごく空いています。でもそれが今の現実なんです。

三木 今回の作品で、人と人との距離感についてはより意識させられました。芝居を作るうえで、普段も考えていたことですけれど、こんなに考えたことはなかった。夏帆さんが、どういうタイミングでどうその場所にいたら面白いのかをしっかり考えて演じてくれました。

──10年後、20年後にこの企画は大きな意味を持つように思うのですが、その意義をどのように考えていますか?

三木 まず夏帆さんと、今この作品を撮れたことにとても意義を感じています。「左寄りのギャグ」と俺は表現しているけれど、今までの規制的な笑いとは違うところでギャグを作ったつもりです。今の世の中のように右寄りの安心感を求める時代にこの作品を観るのと、そうではない時代に観るのとでは感じ方が違うでしょうね。

夏帆 今だからこそできる笑いが詰まっている作品ですよね。そして、それは観ている人によって、ギャグとして捉えるのかシリアスなものとして捉えるのか、全然違うと思います。10年後、20年後の世の中がどんな空気になっているかによっても受け取られ方が変わってくる作品です。

三木 作品をどう捉えてもらってもいいので、観たうえで、反応をアウトプットしてくれるとうれしいですね。「三木オワコン」でもなんでもいいです(笑)。

夏帆

夏帆 作品を作っているといつも思うのですが、どう捉えてもらうかというのは受け取る人の自由なんですよね。もちろんこちら側は、こういうふうに伝わればいいなという思いを持って作ってはいるんですけど、だからといって、押し付けるものではない。肯定でも否定でもいいので、反応してくれればそれが作り手にとっては一番うれしいことです。

三木 俺、一人っ子だったせいで、こうしなさいって決められるのが嫌なんだよね。作品を見る目線だっていろいろあっていいんですよ。だから俺は「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を大爆笑しながら観た。俺より悪いギャグ考えるやついるんだ?って。

夏帆 追い詰めるという意味では極地ですよね。あの作品で描かれているものは。

三木 紙一重なんですよ。だからこの作品もいろいろな受け取り方をしてほしい。それぞれの監督がどのように「緊急事態宣言」を捉えていたのかというのを、10年後20年後に観返してみるとまた新しい発見があるかもしれない。10年後に同じメンバーで作品を撮るとまた違ったものができると思いますよ。

夏帆 それは面白いですね! 今度は何宣言になるんだろ(笑)。