「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」注目の時代劇2本の魅力をコラム&ライタートークで紐解く (2/2)

ライタートークで紐解く作品の魅力

中国時代劇は周りにお薦めしやすくなった(沢井)

──近年中国時代劇の人気がじわじわと上がってきていますが、お二人はどこが入り口でしたか?

沢井メグ 最初にじっくり観たのは中国と台湾が共同制作した「還珠姫~プリンセスのつくりかた~」(1998年)ですね。それまでは「三国志」とか「水滸伝」とか男の人ばかりが出てくるドラマというイメージを持っていたんですが、キャストのヴィッキー・チャオやルビー・リンがむちゃくちゃかわいくて。衣装も素敵で、画面がきらびやかで、わあ! すごい!と衝撃を受けました。中国でも「還珠姫」のヒットから女性視聴者をターゲットにした時代劇が作られるようになったと聞いたことがありますね。転換期の作品だったのかなと。

林穂紅 私は仕事で、台湾のロックバンド・Maydayの「入陣曲」という楽曲の歌詞翻訳をすることになったんですが、それが「蘭陵王」(2013年)の主題歌だったんです。時代劇の主題歌がロックってかなり新しいことだったようで、作品を観てみたら主人公の男女は美男美女ですし、画面がきらびやかで、キービジュアルは蜷川実花さんが手がけていたり。それまでは中国の時代劇は話数も多いしちょっとな……と思っていたんですが、「蘭陵王」で中華圏の時代劇面白い!と思って、観るようになりました。

沢井 年々進化していますよね。私が観始めた頃より、世界観の自由度はさらに高くなっている。ファンタジー作品もたくさん作られていて、史実をベースにした作品に比べるとするっと入れますし、異世界ものや転生ものは日本のマンガやライトノベルでも描かれる題材なので、日本人にもなじみがある。だから、以前と比べると観やすいですし、周りにお薦めもしやすくなった。「陳情令」がSNSで爆発的に広がったのも、お薦めしやすい、お薦めしたいと思える作品だったからかなと思うんです。

 ミステリーやSF、ブロマンスとさまざまな要素とコラボして、中国時代劇がいろんな人の楽しみに応えられるようなコンテンツになりましたよね。だから間口が広がったのかなと思います。

「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」

「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」

ヴィラン好きには観てほしい!(沢井)

──周囲にお薦めしやすくなったというのは1つの重要なキーワードのような気がしますが、「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」も、人に薦めたくなる作品なのではないかと思います。

沢井 「鳳舞伝」はすごくイマドキの中国時代劇だなと思いましたね。主人公陣営と敵陣営を完全な善と悪に分けないところとか。ディズニーが「眠れる森の美女」の悪役の視点で描いた「マレフィセント」を作っていたり、今は勧善懲悪の物語じゃないものが増えていますよね。「鳳舞伝」も敵の事情を丁寧に描いていて、そういう世の中のニーズに応えてくれるドラマだなと。

あとはストーリーの運び方もイマドキだなと思いました。物語の中で主人公たちにミッションがいくつか与えられるんですが、それがぽんぽんとテンポよく描かれていて、さくさくと観られる。

 続きはどうなる? さらに続きは?と視聴者の興味を引き付けるような展開が続いて、脚本の運びがうまいですよね。お試しのつもりで観始めたはずが、面白くて最後まで完走してしまいました(笑)。

──物語の面白さはもちろん、キャラクターも個性豊かでした。

ヤン・チャオユエ演じる鳳舞。

ヤン・チャオユエ演じる鳳舞。

シュー・カイチョン演じる君臨淵。

シュー・カイチョン演じる君臨淵。

沢井 ヒロインの鳳舞は感情移入しやすくて一緒に冒険ができるヒロインでしたよね。自分がどこの誰なのかわからないところから物語が始まるので、視聴者は彼女と同じ目線で物語に入っていける。演じるヤン・チャオユエは中国版「PRODUCE 101」と呼ばれる「創造101」から誕生した火箭少女101というガールズグループの出身で、中国のファンが育てたスター。親しみやすいキャラで人気な彼女は鳳舞にぴったりでした。

一方、彼女の恋の相手である君臨淵は正直ミステリアスすぎて、序盤は何を考えているのかわからなかったんです。でも、だんだんと鳳舞に塩対応になってしまう理由と、実は彼女のことを誰よりも一途に思っていることがわかってきて……。そこからのスパダリっぷりがたまらなかったです(笑)。

一同 あはははは(笑)。

ワン・ハオシュエン演じる御冥夜。

ワン・ハオシュエン演じる御冥夜。

沢井 そして、君臨淵と敵対する御冥夜に、私は一番肩入れしてしまいまして……(笑)。

──彼のスピンオフを作ってほしいと思う人も少なくないと思います。

沢井 「陳情令」を観ているので、ワン・ハオシュエンに対する思い入れというのもあるんですが、何より御冥夜というキャラがとっても素敵で。見るからに悪役で、所属している暗夜幽廷も、いかにも悪者ですという名前なんですが(笑)、鳳舞に対する思いは純情で、行動もかわいらしかったり、観ているうちに、この子めちゃいい子!と思い始めて。彼を敵に持ってきたというのがこの作品のとても大きな魅力だなと。

 中国ドラマ界隈ではよく「男1はヒロインのもの、男2は視聴者のもの」なんて言われますけど、まさにそれだ!と思いました(笑)。

沢井 ですよね(笑)。悪い顔をするときのそこはかとない色気と、かわいらしいきらきらの笑顔。「陳情令」のときもそうですが、「鳳舞伝」でも彼の魅力が発揮されていましたね。

──鳳舞、君臨淵、御冥夜はもちろんですが、そのほかのキャラクターも美男美女ぞろいです。お好きなキャラクターはいましたか?

グオ・チョン演じる風潯、ガオ・ジーツァイ演じる玄奕、シュー・カイチョン演じる君臨淵。

グオ・チョン演じる風潯、ガオ・ジーツァイ演じる玄奕、シュー・カイチョン演じる君臨淵。

沢井 まずは風潯ですね! みんな訳ありの中で、1人天真らんまんで素直で、癒やしポジション。彼がいるから物語もうまく回っているなと思いました。あとは朝歌も好きでしたね。鳳舞の親友でありながら、ライバルである左青鸞とも親しい。どちらのことも理解しつつ、どちらにも「それ違うんじゃない?」と言えたり。彼女がいることで、左青鸞が単なる悪役じゃないこともわかりますし、玄奕との初々しい恋模様もかわいかったですね。

 ヤン・チャオユエも朝歌役のチェン・イーハンも、左青鸞役のフー・ジンもみんな「創造101」出身。切磋琢磨している様子を見ていたので、3人そろっての活躍は続きのようで応援したくなりましたね。

──そして中盤からはそんなキャラクターたちが、敵も味方も入り乱れて、霊士(れいし)たちの最高学府で机を並べる間柄になるという展開が用意されていました。

沢井 正直すごいびっくりして!(笑) 主要キャラがまるっと君武学院に入学して、いきなり学園ものになって。えーっ!そんな展開ある?て。

──まさか学園ものの楽しさ、わちゃわちゃも味わえるなんてと思いました(笑)。

沢井 教科書にお誘いのお手紙を入れてみたり、それを取り違えてしまったり、キャンパスラブが始まるとは思わないですよね(笑)。でも、とてもほっこりしますし、最後まで観終わって、一番心動かされたのは学園パートだったなと思ったんです。それぞれのキャラクターの心情を丁寧に掘り下げていて、御冥夜や左青鸞の気持ちに触れられたのがよかった。

──「鳳舞伝」は至るところに面白い要素がちりばめられていて、見どころたっぷりでした。

沢井 異世界ものやファンタジー好きな人にはチェックしてほしいですし、何よりヴィラン好きには観てほしい! 悪役の気持ちを描くようなストーリーに魅力を感じる方にはピタッとハマると思います。

「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」

「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」

アクション満載で、観ていてスカッとしました(林)

──林さんに観ていただいたのはアクション・ロマンス時代劇「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」です。

 女性主人公のヒーローものということで、ヒロインの周翡は女性がかっこいいと思う女性。そんな彼女のアクション満載で、観ていてスカッとしました。物語もとってもよくできている。序盤から伏線が至るところに張り巡らされていて、2度観ると1度目は気付かなかったところでぐさぐさと心に刺さったり。何度でもおいしい作品だなと思いましたね。

沢井 観ているとワクワクして、次から次へと観たくなる作品ですよね。

「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」

「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」

──アクション・ロマンス時代劇ということでアクションはもちろん、周翡と謝允のロマンスも本作の見どころです。

 もう、とにかく2人が綺麗ですよね。周翡はうわべを取り繕わず、竹を割ったような性格で、そんな彼女を謝允がさりげなくサポートするところがいい。周翡は好きなものは好きだし、あきらめない。武芸に対しても恋に対してもストレート。一方の謝允は周翡を「美人さん」なんて呼んで、軽口をたたいているんですが、実は複雑な背景を背負っていて、表情が豊かな割には達観した大人。常に感情を抑えているキャラクター。周翡のために恋はあきらめたほうがいいんじゃないかとか、深入りしちゃダメだと思っているようなところもあって。そんな2人の細やかな愛情表現が、少しずつ積み上げられて、ラブストーリーもとても素敵でした。しっとりした恋愛ものが好きという人には刺さると思いますね。

──そんな2人をチャオ・リーインとワン・イーボーが演じているのもこの作品の注目ポイントです。

 やっぱりこの2人が共演するということで、「有翡」は撮影が始まった当初からものすごい話題になっていましたね。横店影視城で撮影している風景をなんとか盗撮しようとする人もいたりしたんですが、それをワン・イーボーがよく見つけるんで“横店ホークアイ”の異名で呼ばれたり(笑)。配信がスタートすると原作ファンからも「主演2人の演技がよかった!」という声が多く上がっていました。

チャオ・リーイン演じる周翡。

チャオ・リーイン演じる周翡。

ワン・イーボー演じる謝允。

ワン・イーボー演じる謝允。

──それぞれのキャラクターが魅力的ですし、周翡と謝允の関係性にグッとくる人も多いと思います。

 周翡はぶっきらぼうなキャラクターですけど、チャオ・リーインはかわいらしい女優さんで、彼女の愛嬌のある笑顔が周翡をとても魅力的なキャラクターにしていましたよね。努力家というところが中国で支持を集めている女優さんなのでチャオ・リーインは同じく努力家の周翡にぴったり! 彼女が演じた役の中でも、周翡は1、2位を争うほど素敵な役柄じゃないかと思いました。

対するワン・イーボーは、「顔から入って才能に陥落し、人柄のファンになる」と中国のファンによく言われている俳優さん。言わずもがなですが、「陳情令」以来、日本でもとても人気ですよね。今回の謝允は、「陳情令」の寡黙な藍忘機(ラン・ワンジー)とは180度違って、よくしゃべる役で、彼の新しい一面が見られました。

沢井 ワン・イーボーがころころ笑って、よくしゃべって、すごく新鮮でしたね。

ワン・イーボー演じる謝允。

ワン・イーボー演じる謝允。

ワン・イーボー演じる謝允。

ワン・イーボー演じる謝允。

──「陳情令」のイメージのままこの作品を観るといい意味でとても驚くかもしれません。

 謝允はよくしゃべるんですが、本心は外に出さない。ワン・イーボーは、そんな複雑なキャラクターをセリフを言うときのちょっとした表情や目、しぐさで表現していて、役柄の理解がとても深い人だなと思いました。

ダンスがとっても上手なだけあって、アクションにストーリーがあるように見える。彼のちょっとした動きでもとても魅せられますし、“動きが語る表情”みたいなものもすごく面白いなと思います。

──2大スター共演というのはもちろんのこと、「有翡」は「鎮魂」「山河令」の原作者としても知られるPriestの小説が原作という点も注目ポイントです。

 Priest先生の作品は物語の背景が壮大で、その中で主人公カップルの恋愛を自然に描写しているというところが魅力的だと支持されていますよね。実力派の女性作家さんで、耽美小説だけじゃなく、武侠小説でも高く評価されていますし、スチームパンクというジャンルも書いていたり、幅広く作品を発表している。「有翡」が非常に深い話なのは、原作の持つ力も大きいと思います。

「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」

「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」

沢井 Priest先生の作品は主人公2人が心を通わせていく道筋にすごくグッときて好きですね。あとは女性キャラが魅力的なのもいいなと。

 そうなんですよね!「有翡」も周翡だけじゃなくて、お母さんもめちゃめちゃ強いですし、魅力的な女性キャラがたくさん登場しました。

──「鳳舞伝」「有翡」はそれぞれ毛色の違う作品ですが、ヒロインのアクションが見どころという共通点がありました。それぞれの魅力をどう捉えていますか?

沢井 「鳳舞伝」で描かれるアクションは、リアリティより優雅さを重要視している印象ですよね。だからダンスの素養があるアイドル出身の人ととても相性がいいなと思いました。着物も薄布でヒラヒラしていて身軽ですし、武器もその場で魔法のように呼び出してファンタジー色が強い。美しいアクションですね。

「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」

「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」

 「有翡」では武器はしっかり自分で運ばなきゃいけないですから、「鳳舞伝」とは違いがありますよね(笑)。女性が主人公だからといって、アクションシーンは全然容赦がない。武術指導は「岳飛伝-THE LAST HERO-」などで知られるチェン・ウェイタオが担当していて、1つひとつの動きに意味を持たせているそうなんです。

沢井 それがアクションの重厚さにつながっていますよね。アクション好きに「有翡」は響くと思います。

「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」

「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」

 「有翡」のアクションシーンは謝允の解説付きというところも外せないポイント。敵がどんな必殺技を使うとか、「今出した技は〇〇だ!」みたいに、細かく実況してくれて面白いんです(笑)。

──確かに! アクションを盛り上げてますよね。

 女性の方にはもちろんすごくお薦めなんですが、アクション好きの男性だったり、往年の香港映画ファンにもこの作品はぜひ観てほしいですね。

どんどんタイムラグがなくなってきている(林)

──お二人はお仕事をしていて、中国時代劇を取り巻く日本の環境が変わってきているなと実感することはありますか?

沢井 すごくありますね(笑)。私はCinem@rtさんのTwitterアカウントで、中国ドラマの小ネタを発信させていただいているんですが、「鳳舞伝」「有翡」の撮影地にもなった横店影視城についてつぶやいたときに、熱いコメントをいっぱいいただいて。正直スルーされてしまうんじゃないかと投稿前はドキドキしてたんです。でも「コロナが終息したらぜひ行ってみたい!」という声もあったりして、ファンがどんどん増えているんだなと実感しました。

 私は中国で放映・配信されるタイミングでドラマを観ているんですが、昔は観たことを忘れた頃に、「この作品が、日本でやるよ!」という情報が来ていたんです。でも今は、中国で放送・配信をしている最中に日本でやるらしいよという情報が飛び込んでくる。どんどんタイムラグがなくなってきているのを実感しますね。

──日本上陸のタイミングが本当に早くなりましたよね。

 前は2つのドラマの仕事を同時進行することなんてめったになかったんですけど、今では同じ締め切り期間中に、いくつも紹介するドラマが入っていて。昔は1カ月に1本新作の話があればいいほうだったのに、最近はどんどん入ってくるので、フォローしきれてないですね(笑)。

沢井 せっかくこうやって盛り上がっているので、ドラマやキャストを推している人が、もっと一緒に盛り上がれるような場所があるといいですよね。何かファンミーティングのチケットを日本でも買えて、視聴できたり。作品周りも楽しめるようになるとさらに中国ドラマが楽しめるようになる気がします!

プロフィール

沢井メグ(サワイメグ)

大学時代に中国近代文学と出会い上海・同済大学に留学。2010年上海万博日本館での勤務を経てライター / 編集者となる。東洋経済オンラインで台湾の経済誌今周刊の翻訳を行うほか、中国・台湾エンタメや文化、時事ニュースなどを中心に記事を執筆、翻訳。主な訳書にルアン・グアンミン「用九商店」シリーズ、毎日青菜「DAY OFF」(ともにトゥーヴァージンズ刊)がある。TOKYO MX「日曜はカラフル!!!」、日本テレビ「スッキリ」の中国ドラマの特集コーナーにも出演した。

林穂紅(リンスイコウ)

訳詞者、翻訳者、編集者。OSTの仕事がきっかけで中国時代劇にハマる。編著に「チャイニーズ・ポップスのすべて」(音楽之友社)ほか。最近の一推しアクションドラマは「雪中悍刀行(原題)」と「説英雄誰是英雄(原題)」。

「鳳舞伝」×「有翡」あなたが観たい作品はどっち?

「鳳舞伝 Dance of the Phoenix」第1回特別公開中

スタッフ / キャスト

監督: チャン・カーラム(陳家霖)
出演: ヤン・チャオユエ(楊超越)、シュー・カイチョン(徐開騁)、ワン・ハオシュエン(王皓軒)、 グオ・チョン(郭丞)、ガオ・ジーツァイ(高基才)ほか

公式サイト

「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-」第1話特別公開中

スタッフ / キャスト

監督: ウー・ジンユアン(呉錦源)
出演:チャオ・リーイン(趙麗穎)、ワン・イーボー(王一博)、ジャン・フイウェン(張慧雯)、チェン・ルオシュエン(陳若軒)ほか

公式サイト

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