「攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争」|攻殻ファン・西川貴教が伝授! 藤井道人が構築した最新作の楽しみ方

Netflixオリジナルアニメシリーズ「攻殻機動隊 SAC_2045」シーズン1全12話に新たなシーンを加えて再構成し、全カットフルグレーディングを施した3DCGアニメ「攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争」が、11月12日より2週間限定で劇場公開される。

シーズン1を手がけた神山健治と荒牧伸志が総監督として参加し、「新聞記者」「ヤクザと家族 The Family」の藤井道人が監督を務めた本作。驚異的な電脳・戦闘スキルを持つ全身義体のサイボーグ・草薙素子ら公安9課の前に、“ポスト・ヒューマン”と呼ばれる謎の存在が立ちはだかる。

映画ナタリーでは、長年の“攻殻ファン”である西川貴教に映画を鑑賞してもらった。「持続可能戦争」というテーマからは、実社会とのリンクも感じられると話す西川。観終わったあとの楽しみ方を含め、「攻殻機動隊」シリーズを堪能するための方法を聞いた。

取材・文 / SYO

「攻殻機動隊」シリーズをおさらい

1989年、士郎正宗により発表された原作コミック「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」を起源とする作品群。

1995年には押井守が監督した劇場アニメ「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」が公開され、神山健治が手がけたテレビアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズや、黄瀬和哉が総監督を担当した「攻殻機動隊ARISE」シリーズも制作されている。2017年には、スカーレット・ヨハンソンが主演するハリウッド実写映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」が公開された。

新作の「攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争」を含め、物語の中心となるのは、全身義体のサイボーグ・草薙素子らが所属する特殊部隊“公安9課”のメンバー。卓越した電脳・戦闘スキルを持つ彼女たちの活躍が描かれる。

西川貴教 インタビュー

日本のアニメ文化が世界に知れ渡っていく
きっかけを作った作品の1つ

──西川さんが初めて「攻殻機動隊」シリーズに触れたのは、1995年公開の「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」と伺いました。

「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」4Kリマスターセット ジャケット(発売元:バンダイナムコアーツ・講談社・MANGA ENTERTAINMENT / 販売元:バンダイナムコアーツ)©1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT

はい、そうです。作品としても素晴らしいのですが、押井守監督の作品は「機動警察パトレイバー」シリーズがそうであるように、背景の描き込みがとても美しい。それはもちろん押井監督だけでなく、当時のプロダクションの美術部の皆さんによるものかと思いますが、街の看板や道路標識といったあまり気に留めずに見てしまう背景をしっかりと描いている点が、いちアニメファンとして非常に印象的でしたね。ストーリーも面白いのですが、1枚1枚の“画”としての完成度に魅力を感じました。

ちょうどそのあたりから「ジャパニメーション」という文化がどんどん発展して、「マトリックス」といった海外作品に影響を与えるようになっていきましたよね。「AKIRA」も含めて、日本のアニメ文化が世界に知れ渡っていくきっかけを作った作品の1つだと思います。

──アニメ「攻殻機動隊」シリーズが25年以上もの間、世界中で愛され続けている理由は、どういうところにあるとお考えですか?

例えば海外だったら莫大な予算を掛けてCGを多用した実写作品を作ることができますが、日本はなかなかそうはいかないですよね。限られた予算で作品を作らなければならない。そういった中で生まれてきたのが、ジャパニメーションだと思います。つまり、制限がある中で、クリエイターの皆さんが想像力と創造力を限界突破して作り出したものが、「攻殻機動隊」であったり世界で評価されている日本のアニメ作品なのではないでしょうか。

──逆境をクリエイティビティでカバーする中で、斬新な表現が生まれてきたと。

「攻殻機動隊 S.A.C.」TRILOGY-BOX:STANDARD EDITIONジャケット(発売・販売元:バンダイナムコアーツ)©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

「攻殻機動隊」や「カウボーイビバップ」など、今日本のマンガ原作・アニメ作品が続々と海外で実写化されているのは、そういった理由があるんじゃないかと思います。だからこそ、もっともっと評価されていいと感じますね。

「攻殻機動隊」だと、ハリウッド実写映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」もそうだし、僕が一番好きな「攻殻機動隊 S.A.C.」(「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」)シリーズや「攻殻機動隊ARISE」シリーズなど、アニメーションの枠を超えた形でシリーズが発展していきましたよね。あくまでアニメは“手法”なんだなと感じます。

神山健治監督の「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズなんて、中身は1話完結型の海外の刑事ドラマに非常に近いですしね。扱うテーマや、魅せ方、伏線回収のうまさ……。実写やフルCGというさまざまな手法がある中で、2Dのアニメーションを「選んだ」という感じがあって、そこが旧来の「アニメ=子供のもの」という感覚を超越した、大人の鑑賞に堪えうる作品になっている大きな理由だと思います。作品の向こう側にある“奥行き”を感じさせてくれるのが、「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズの素晴らしさですね。