増元拓也×浅沼晋太郎、“誰一人まともじゃない”「フランク、アイルランドのダメ男。」 を語る

アイルランド出身の俳優、ブリアン・グリーソン&ドーナル・グリーソン兄弟が主演・脚本・製作を担った「フランク、アイルランドのダメ男。」が、Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」にて独占配信中。9月からはBS10 スターチャンネルでも放送が開始、9月3日23時には吹替版第1話が無料放送される。

アイルランドのダブリン郊外に暮らす32歳・無職の“愛すべきダメ男”フランクの日常が描かれた本作。フランクをブリアン、彼の親友ドゥーファスをドーナルが演じたほか、実父のブレンダン・グリーソンをはじめ、アイルランドを代表する俳優らも出演した。

映画ナタリーでは、本作の吹替版でフランクを演じた増元拓也と、ドゥーファスに声を当てた浅沼晋太郎の対談インタビューを実施。アイルランドを代表する俳優が家族総出で製作したコメディの魅力や、収録時のエピソード、劇中で引用される数々の名作映画についても語ってもらった。

取材・文 / 渡邉ひかる

海外ドラマ「フランク、アイルランドのダメ男。」予告編公開中

とにかく無責任であろうと心掛けていました(増元)

──32歳・無職の“愛すべきダメ男”フランクの日常が描かれた本作ですが、まずは本編をご覧になった感想を聞かせてください。

浅沼晋太郎 もう、はちゃめちゃがすぎると思いました(笑)。

増元拓也 はははは!

浅沼 登場人物の誰一人まともじゃなくて。

増元 全員どこかに何かしらを抱えているという(笑)。

浅沼 ちょっとびっくりしましたよね。(ドゥーファス役の)ドーナル・グリーソンの吹替は「ピーターラビット」でも担当していて。同じ役者さんに声を当てることは多くないのでうれしかったですが、まさか「ピーターラビット」を超えるドタバタだとは……。

増元 “アイルランドって、こんな人ばかりなの!?”って(笑)。僕が演じたフランクにしても、32歳でマザコンのニートですし。“この人、どうなっていくのかな?”と思いました。

──フランクは精神年齢13歳、浅沼さん演じる親友のドゥーファスは精神年齢9歳だそうです。そんなダメダメ親友2人組を演じるうえで意識したことは?

左からドゥーファス役のドーナル・グリーソン、フランク役のブリアン・グリーソン。

左からドゥーファス役のドーナル・グリーソン、フランク役のブリアン・グリーソン。

増元 フランクに関しては、とにかく無責任であろうと心掛けていました。“自分は絶対に悪くない”という気持ちが彼の中にはあるので。自分の言動に、何一つ責任を負わない。そこが面白いところだと思い、真正面からやり合わない感じを意識しました。会話はもちろん、喧嘩さえも本腰じゃなくどこか引いている。僕は普段はどちらかと言うと責任感を持たされる役のほうが多いので、そこから解放されるお芝居が楽しかったです(笑)。

浅沼 アイルランドやイギリスの俳優さんって、シェイクスピア作品なんかにもたくさん出ていて、“名優!”というイメージですよね。顔付きにも威厳があって、それこそドーナル・グリーソンなんて「スター・ウォーズ」シリーズで偉い将軍の役を演じていたりもしますし。でも、そうやって真面目で重厚なお芝居ばかりしていると、無性にふざけたくなったりするのかもしれないって。

──普段の反動で(笑)。

増元 フランク役のブリアンさんもそうなんですよね。彼の吹替はドラマ「ラザロ・プロジェクト 時を戻せ、世界を救え!」(スターチャンネルEXで独占配信中)で一度経験しているんですが、そのときは渋くてかっこいい役だったんです。フランクとは全然雰囲気が違って。あとから知り、“えっ、彼だったの!?”と思ったくらい(笑)。

──しかも、ブリアン・グリーソンとドーナル・グリーソンは兄弟で、彼らが本作の製作と脚本も手がけています。

増元 こんな頭の中の人が、以前はかっこいい役をやっていたことに驚きました(笑)。ただ、脚本を書いた本人なので、こんな笑いが欲しいとか、こういう流れにしたいとか、そういった意図がわかりやすかったですね。

浅沼 2人が書いたドラマだと知り、僕の演技もちょっと変わりました。“こんな作品が作りたかった”という彼らの気持ちをどこかに抱えたまま演じてみました。驚いたのが、意外にもドーナル・グリーソンのほうがお兄ちゃんで……。

増元 そうなんですよ! 彼が長男(笑)。

浅沼 兄弟で企画会議をしている姿も見てみたいですよね。きっと、ゲラッゲラ笑いながら作ったんだろうなって。

増元 「2人ともスケジュールが空いたから、何かやらない? お父さん(最終話に登場するブレンダン・グリーソン)も都合がつくらしいよ。出てもらう?」って。

浅沼 家族愛がすごい!

──ドラマの中のドゥーファスもフランクのことが大好きです。

浅沼 どんな思いで書いたんでしょうね。家族だったら、普通はちょっと照れるだろうに。

増元 2人でジャグジーに入ったりもしますからね、フランクとドゥーファスは。

浅沼 「兄ちゃん、俺これやんの? 別にやるけどさ……」くらいのぼやきはあったのかなあ……。

左からフランク役のブリアン・グリーソン、ドゥーファス役のドーナル・グリーソン、リーアム役のブレンダン・グリーソン。

左からフランク役のブリアン・グリーソン、ドゥーファス役のドーナル・グリーソン、リーアム役のブレンダン・グリーソン。

ドゥーファスなんて、ずっと叫んでいる回もある(浅沼)

──そんな彼らのコメディセンスをどう思いましたか?

浅沼 ちょっとクセが強くて、後味が残って忘れられない感じ。国民性なのか、なんなのか……。好きな人はものすごく好きなテイストだし、ダメな人はとことんダメ(笑)。そして演じるときの消費カロリーがとにかく高い。収録のとき、増元さんに言いましたよね。「全6話で十分だね」って。

増元 あははは! そうでした!

浅沼 出演する側としては、本来なら話数が多いほうがうれしいんです。現実的に、出演料も増えますし(笑)。でも、これに関しては「全6話ってのがいいね」って。ドゥーファスなんて、ずっと叫んでいる回もあるので……。

増元 キャラクターたちがとにかくこってりしているんですよね。

浅沼 うん。“油増し増し”のこってりなドラマだと思います。

増元 あと、視覚的にもクセが強くて。登場人物たちの衣装などが、印象に残る色味なんですよね。コインランドリーのシーンなんて、いろんな色が入っていて。ドゥーファスの服の色の組み合わせも、訳がわかんないんですけど受け入れちゃう感じ(笑)。決してスタイリッシュではなく……。

浅沼 ステファン(フランクの家の下宿人)なんてほぼほぼ裸だし。

増元 着るとしたら、ほっそいタンクトップだけ(笑)。

浅沼 衣装合わせ一瞬で終わったでしょうね(笑)。

「フランク、アイルランドのダメ男。」場面写真

「フランク、アイルランドのダメ男。」場面写真

──そんな人たちが暮らしているアイルランドをどう思いましたか?

浅沼 生きやすそうですよね。行ったことがないので勝手なイメージになりますけど、こんなにもクセが強くて、おバカで、後ろ指を指されそうな人たちもありのままで生きていける国なのかなって。だから、行きたい気持ちが40%、行きたくないなって気持ちが60%……(笑)。

増元 でも、ちょっと行きたいですよね。

浅沼 うん。でも、この作品のイメージを持ったままでアイルランドに行っていいもんかな?

増元 たぶんダメだと思います(笑)。「フランク、いないじゃん」って。

浅沼 「ふざけてる人、あんまりいないねえ」ってなっちゃうかも。

増元 調べてみたんですけど、実際はもっと生産性の高い国みたいです。

浅沼 生産性!(笑)

増元 だって、このドラマだとちゃんと働いている人がほぼいないじゃないですか。(フランクの元カノ・オーニャの今カレである)医者のピーター=ブライアンぐらい? ドゥーファスもスーパーでバイトはしていますけど、フランクのせいでいろいろあるし。

浅沼 この人たちを基準にしちゃダメなんだろうね。

「フランク、アイルランドのダメ男。」場面写真

「フランク、アイルランドのダメ男。」場面写真

僕らだって、こうなる可能性があったかもしれない(浅沼)

──そこまでユニークな彼らを演じるうえで、コミカルさは意識しましたか?

浅沼 いや、むしろ大真面目にやりました。“意図して笑いを取ろうとしない。笑いを取ろうとするとスベる!”くらいの気持ちで。

増元 そうですね。彼らの顔を見ても、“ボケるぞ”という顔を見せる人は誰一人いなくて。笑わせようとするのではなく、心からの悪口を言っている感じ(笑)。なので、会話の間合いなども特に意識しませんでしたし。

浅沼 芸人さんの世界では昔から、若手にダメ出しする名文句として「それは笑わせているんじゃない、笑われているんだ」なんて言葉がありますけど、このドラマの人たちは“笑われていい人たち”。全員がとにかく胸を張って笑われるんです。ただ、テンポが速いので、その部分は単純に難しかったですね。カットがパンパン切り替わるので、物理的にしんどかった。

増元 フランクの場合、唯一難しかったのはお母さんとのやり取りですね。わがままに甘えるシーンが多かったので。それはそれで面白いんですけど、あまりベタベタと依存しすぎると、冷たい態度を見せるシーンで“さっきまであんなに甘えていたくせに……”となってしまう。なので、そのあんばいを探ることはしました。ドゥーファスにしろ、オーニャにしろ、ほかの人たちは何も考えずむげに扱っていいんですけど(笑)。

浅沼 むげにしているくせに、いつもドゥーファスに会いに行くんですよね。

増元 そうなんですよ。

浅沼 ドゥーファスしか友達がいない。

増元 それなのに、2人で一緒のベッドに寝るのは嫌だっていう。なんなんですかね? この関係性。

「フランク、アイルランドのダメ男。」場面写真

「フランク、アイルランドのダメ男。」場面写真

──2人に共感するところはありましたか?

浅沼 大人になれないままこの歳になって、実家暮らしで……という人は、彼らほどじゃなくても、いっぱいいるじゃないですか。

増元 そうなんですよね。

浅沼 毎日会社に通勤しているわけでもなければ、暦通りの休みじゃない。数カ月後には一切仕事がない状況だって大いにありえる職業の僕らだって、こうなる可能性があったかもしれない。そう考えると、憎めなくて……。

増元 いや、本当に(笑)。ある意味、写し鏡のような気がします。そんなキャラクターを生み出した2人も役者だっていうのがまた……。

浅沼 実家暮らしで、自称ミュージシャンとして部屋でずっと曲を作っている人なんてそこら中にきっといますもんね。

増元 コードを2~3個だけ弾いて、“今日はもうよし!”みたいな(笑)。