花沢類の魅力が増幅した(西森)
青柳 タイBL好きの友人によると、一度BL作品でヒットするとコンビ売りをしていくのが一般的だそうです。ファンはキャラクターと俳優の関係性を重ねて楽しめるのですが、「2gether」でカップルを演じたブライトくんとウィンくんは、今回は道明寺と類じゃなくて道明寺と西門……とちょっとずらしているじゃないですか。「2gether」ファンは2人が同じ場面に出ていればうれしいし、ブライトくん演じるタームがいい対比になって、デューくんのレンのよさも発見できる。
西森 そうやって狙いすぎないキャスティングの仕方が上品ですよね。レンの描き方もよかった。花沢類って原作やこれまでのドラマではちょっと不思議で、それゆえに魅力的な人として描かれているけれど、今回はわりと彼の行動の原理も伝わってくるし、彼が絵を描いているという場面に、彼が描くゴーヤーをどんなふうに思っているのかが伝わってきて、魅力が増幅している気がします。
青柳 レン役のデューくんが大学で美術の勉強をしているそうです。類が芸術の才能があるという部分が、役者さんとうまく重ねて描かれているんですよね。デューくんや、ゴーヤー役のトゥちゃんもそうなんですが、本作が俳優としての初出演作というキャストが多い中、それぞれハマり役になっていると思います。
西森 まだ4話だけどその先ももっと観たくなる。あとSNSの描写が上手でした。
青柳 この要素はもともと原作にあったっけ?と感じるくらい自然でしたね。原作の連載開始は1990年代だから携帯電話はまだ一般的ではないじゃないですか。道明寺とつくしのすれ違いって「スマホがあったら発生しないよね」とよく言われますが、スマホがありつつもあのシーンを自然に演出できて、SNSのいじめもうまく盛り込まれている。お上手としか言いようがないです。タイのSNS描写は「2gether」などでもありましたが、みんながすぐ動画や写真を撮ってアップしてわーっと広まっていくのが、日本以上にタイの人にとってはリアリティがある描写なんじゃないかな。タイで学生をやるのは大変……。
西森 失敗がみんなに広まっていく怖さみたいなものがすごく今っぽく描かれているし、セレブや学園のイケてる子たちが世間に知られている感じも現代的ですね。それにF4のメイン2人(ターム、レン)だけでなく、M.J.とガウィンのキャラクターもちゃんと届いている。
青柳 そうですよね。M.J.とガウィンの掘り下げ回も今後あってほしい。
西森 あとは私、この作品のティザーが出たときに、洗練されたスタイリッシュな映像に衝撃を受けた覚えがあるんです。今までは「花より男子」って明るくてキラキラした少女マンガテイストの映像が多かったんです。時代の変遷ももちろんあるけど、ここまでスタイリッシュでクールな映像のF4って初めてだなと。
青柳 シリアスなシーンはすごくきれいだし、コミカルなシーンもしっかり描かれていてギャグが滑っていない。道明寺のキャラって、令和では難しいのではと思っていたんです。許容される“俺様キャラ”が昔と今では変わってきている。でもタイ版の道明寺は繊細で弱さを隠している男の子が強く変わっていく、原作後半のエッセンスが冒頭から打ち出されていた。これがあるのとないのでは、観ている人の道明寺を好きになれるレベルがかなり変わってくるなと思いました。
西森 暴力性がいい具合に抑えられているし、もともと原作にある正義感と、どうにか彼を変えたいというゴーヤーの気持ちが序盤から提示されていて、無意味に彼に惹かれる描写がない。無茶ぶりみたいなシーンもかなり自然につなげられるように工夫されています。私が「ターム!」と思ったのは、やっぱりゴーヤーの家族と鍋を囲む場面の表情と、レンがパリに行くときに「俺を捨てる気か? 相談くらいしろよ」と言うシーン。彼の人間性が出ていたので、今の感覚で推せると感じました。
青柳 わかります。道明寺にあたるターム役のブライトくん本人はビジュアルのよさを評されることが多くて、それは完全に同意なんですが、この時代に外見のよさだけではさすがに道明寺を愛しづらい。そこをちゃんと、推せるように作ってくれているのはうれしいです。タイのいじめは深刻化していて、いじめのひどさが日本に次ぐ2位とみなす調査もあるようです。そうした社会背景があるので、ゴーヤーがいじめや性暴力を受けそうになるところを、エンタメ的ではなくちゃんとひどいいじめとして描いているのが好印象でした。
西森 やっぱり「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」との関係性を感じます。あの作品の影響があるんじゃないかな?くらいの気がします。
青柳 「バッド・ジーニアス」ってタイで大ヒットしたんですよね。やっぱり影響も大きいんでしょうか。
西森 あの作品で、社会問題と学園ものを結び付けてシリアスかつサスペンスに描けるんだと驚きがありました。それがこのドラマにもつながっている印象があります。ミラ先輩が何もかも捨ててフランスに行くと宣言する場面も、原作にもあるんだけど、セレブだからこそ、社会的責任があると示す感じが今っぽいですね。
青柳 これも聞いた話ですが、タイは喜捨文化が浸透していて、お金持ちの人が社会的貢献をすること、いわゆるノブレス・オブリージュは日本よりも自然なことのようです。とはいえドラマの中で「ミラ先輩の決断はすごい」と評価されていたので、実際に行動に移せるのはすごいという描き方だったのかな。むしろ1990年代の日本においてああいう選択をする静というキャラクターが当時としては新しくて、30年経って逆に今っぽくなっている面白さがありますね。
「F4 Thailand」をきっかけに、タイドラマを好きになる人がいてほしい(青柳)
青柳 タイ版は、今もし「花より男子」が連載されていたらこういう感じだったかもという雰囲気で実写化されている気がします。
西森 20~30年前の作品なのに、時代や土地に関係なくどこにでも通用する話だったんだなと気付けました。なんと強い原作だったか!と思い知りました。
青柳 そう、原作が強い! 少女マンガ好きでなくても自然に観られるし、ふだん少女マンガの実写化を見ている日本のドラマ好きも、こんなにクオリティが高い実写化なんだとびっくりしそう。この作品をきっかけに、タイドラマを好きになる人がいてほしいですよね。
西森 「花より男子」本来のターゲット層より、広めの年代に響きそうです。このレベルのドラマが日本で平日の22時とかに放送されてたら、毎週リアタイしたいですね。現に、続きが早く見たくて仕方がない状態になってます。けっこう「花より男子」ってシビアな話なんだけど、2000年代は、「これはマンガの中の話だし」って感じで、もっとフィクションとして見ていたと思うんです。今ってなんでもリアルに受け取る風潮があると思っていて。そういう感覚でも見られるものになってるんじゃないでしょうか。
青柳 日本のマンガの実写化というよりは、タイの学園ものとして観られるのがすごいところだなと思いました。やっぱりそこに原作の普遍性を感じるし、根幹の部分がちゃんと実写化されているので、原作好きも楽しんで観られる。ドラマ3話でレンはミラ先輩を追いかけてフランスに渡ってしまうけど、原作だと類は戻ってきて、つくしとの関係が変化しますよね。「F4 Thailand」で彼の感情の流れがどう描かれるのかはすごく楽しみです。類(レン)の人物像がよりわかるんじゃないかと期待しています。
U-NEXTで配信中!「花より男子」関連作
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「花より男子~Boys Over Flowers」(2009年、韓国)【見放題配信中】
韓国で最高視聴率35.5%を記録した大ヒットドラマ。アーティストとしても活躍するイ・ミンホ、「イタズラなKiss~Playful Kiss」のキム・ヒョンジュン、「恋愛マニュアル~まだ結婚したい女」のキム・ボム、元T-MAXのキム・ジュンが出演した。
©KAMIO Yoko / Shueisha Inc. ©Creative Leaders Group Eight
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「流星花園~花より男子~」(2001年、台湾)【見放題配信中】
2001年発表の台湾ドラマ。ヒロインの牧野つくしを「レイン・オブ・アサシン」のバービィー・スーが演じた。ジェリー・イェン、ヴィック・チョウ、ケン・チュウ、ヴァネス・ウー扮する“F4”は、本作をきっかけにCDデビューを果たし、ドラマや歌、映画など幅広く活躍した。
©2001 Comic Ritz Productions Co.,Ltd. 原作 集英社マーガレットコミックス神尾葉子著 「花より男子」 ©1992 Yoko Kamio
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「流星花園II ~花より男子~」(2002年、台湾)【見放題配信中】
原作コミックの世界観を踏襲し、英徳学園を卒業したF4の物語が台湾オリジナルストーリーで展開される。牧野つくしをスペインへと誘った道明寺司は、ロマンティックな雰囲気の中、彼女が気に入った指輪を内緒で手に入れて教会でプロポーズを決意する。
©2002 Comic Ritz Productions Co.,Ltd.原作 集英社マーガレットコミックス神尾葉子著 「花より男子」 ©1992 Yoko Kamio
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アニメ「花より男子」(1996年、日本)【見放題配信中】
超上流階級の子供が通う学園に入学した牧野つくしが、持ち前の明るさと“雑草魂”でたくましく生き抜く姿が、オリジナルストーリーを交えて描かれる。ボイスキャストには持田真樹、宮下直紀らが起用され話題を呼んだ。
©神尾葉子/集英社・東映アニメーション
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「花より男子('19年花組・TBS赤坂ACTシアター)」(2019年、日本)【有料配信中】
「花より男子」を宝塚歌劇団が舞台化。道明寺司、牧野つくし、そして花沢類の恋の行方が、華やかなミュージカルナンバーとパフォーマンスに乗せて描かれる。現在花組のトップスターを務める柚香光が道明寺を演じ、城妃美伶がつくしに扮した。
©宝塚歌劇団 ©TAKARAZUKA Creative Arts 原作:神尾葉子「花より男子」(集英社 マーガレットコミックス刊)