「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」現代に必要なメッセージが込められた、タイ版「花より男子」

タイドラマ「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」が、動画配信サービスU-NEXTで独占配信中。神尾葉子のマンガ「花より男子」を映像化した青春ラブストーリーで「2gether」のブライト(ワチラウィット・チワアリー)とウィン(メータウィン・オーパッイアムカジョーン)、ナニ(ヒランクリット・チャンカム)、デュー(ジラワット・スティワニッチャサック)、トゥ(トンタワン・タンティウェーチャクン)がキャストに名を連ねた。

映画ナタリーでは、同作の特集を展開。「花より男子」やタイドラマに親しみのあるライターの西森路代と青柳美帆子に、本作の第4話までを視聴して魅力を語ってもらった。

取材・文 / 秋葉萌実

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」とは?

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、左からナニ演じるM.J.、ブライト演じるターム、ウィン演じるガウィン。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、左からナニ演じるM.J.、ブライト演じるターム、ウィン演じるガウィン。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、デュー演じるレン。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、デュー演じるレン。

原作は日本を筆頭にアジア各国で実写化され、宝塚歌劇団によって舞台版も上演された神尾葉子のマンガ「花より男子」。舞台をタイに移した本作では、日々お金に困っている家庭に育った女子高校生・ゴーヤーが、裕福な家の子供ばかりが通う学校でイケメングループ“F4”とトラブルを起こすところから物語が始まる。監督は「The Gifted」のオー・パッター=トーンパーン。原作の道明寺司にあたるターム役をブライト、西門総二郎にあたるガウィン役をウィン、美作あきらにあたるM.J.役をナニ、花沢類にあたるレン役をデューが務め、牧野つくしにあたるゴーヤーにはトゥが起用された。ブライトとウィン以外のメインキャストは、本作がドラマデビュー作となる。

視聴はこちらから!

西森路代・青柳美帆子インタビュー

プロフィール

西森路代(ニシモリミチヨ)

1972年生まれ。ライター。香港、台湾、韓国、日本におけるテレビドラマ・映画などのエンターテイメント、女性の生き方などをおもなテーマとしている。共著に「韓国映画・ドラマ: わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020」など。

青柳美帆子(アオヤギミホコ)

1990年生まれ。ライター。ワセダミステリ・クラブ出身。女性向けカルチャーを得意領域とし、書籍、雑誌、Webなどで幅広く執筆活動を行う。初めて観たタイドラマは「2gether」。

「花より男子」は不思議で面白い(青柳)

西森路代 原作の「花より男子」は、連載が始まった頃から友達の間ですごく話題になって私も読んでいました。その頃に出たドラマCDでは花沢類役を木村拓哉さんがやっていて、道明寺司ではなく類だったのを意外に感じたのを覚えています。あとは映画もありましたね。F4を谷原章介さん、藤木直人さんたちが演じていました。

青柳美帆子 私は1990年生まれなので、原作は「姉が読んでいるマンガ」という印象でした。ただ2005年に放送された日本版ドラマは周りの子がみんな観ていて「松潤(道明寺役の松本潤)がかっこいい」と話していました。「花より男子」ってその後にたくさん繰り返される、貧乏少女の格差もの恋愛マンガのオリジン的な存在でありつつ、ちょっと不思議な構成じゃないですか? 少女マンガ的な文法だと、ヒロインは最初に出てくるヒーローとカップルになることが多い。それで言うとつくしと最初に出会うようなシーンがあるのは花沢類で、道明寺は単行本1巻の表紙でも後ろを向いている。文法的には類と恋人になりそうなのに、結果的に道明寺がメインヒーローになって、道明寺の成長ストーリーにもなったところが「花より男子」のユニークさだと思います。

西森 原作は月に2回の連載だったんで、リアルタイムでどうやったら読者がワクワクするかを考えながら描いたんだろうなという印象がありますね。コミックスにアメリカ映画を参考にしたと書かれていたことがあって、今でこそ王道だけど、始まりはもしかしたらちょっとカルチャー寄りでけっこうそれまでとは一風、変わった作品って感じもあったのかなと。実写作品では、2001年にスタートした台湾版ドラマ「流星花園~花より男子~」ブームが本当にすごかった。私がこの仕事をしているのも「流星花園」がきっかけなんです。

青柳 そうなんですか!?

西森 台湾の柴智屏(アンジー・チャイ)という女性プロデューサーが枠を急に任されたそうで、バラエティやドラマに少しだけ出ていた俳優や街で働いていた男の子を4人集めてきてドラマを作ったら、ものすごくヒットしたんです。そのあと彼らは大スターになってアジアツアーにも出た。その頃はBTSみたいな国際的なアジアスターがいなかったし、人気が広がっても中国語圏内にとどまっていたので、F4が最初の道を切り開いたんだと思います。タイでもF4のコンサートがありましたし、アジア圏のペプシのCMやタイのYAMAHAのCMにも出ていてすごい人気でした。だから、タイには台湾版の「流星花園」を観て育ったという人はたくさんいると思います。それにしても、こんなにアジア中で映像化されている少女マンガって「花より男子」か「イタズラなKiss」くらいでしょうね。

青柳 先駆け中の先駆けという感じなんですね。

今必要とされているメッセージが込められている(西森)

西森 道明寺って荒々しいキャラクターですよね。台湾版を観直してつくしに壁ドンするシーンでも、力がこもりすぎて拳から血を流していました。「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」ではそういう暴力的な要素が自然な形で抑えられていました。あと、まず「つくし」がタイ版では「ゴーヤー」になるのもいいですよね。それと、第1話が始まるときにタームが過去の自分を振り返り、ゴーヤーと出会ったことで変われたのを感謝するじゃないですか、「自分は偉大だと思ってたけど」「痛みや悲しみを覚えた」って。あれはすごくよかったです。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、ターム。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、ターム。

青柳 最初のモノローグ、私も上手だなと思いました!

西森 今必要とされているメッセージが込められている気がします。ミラ(原作の藤堂静にあたる人物)がヒロインのゴーヤーに靴を贈るシーンにも、堂々とすることの大切さや、自分を卑下しないでいいというメッセージが感じられた。その前に家族がゴーヤーに靴をプレゼントするくだりが入っているから、すごく自然な流れ!と思って。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、ミラ(左)。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、ミラ(左)。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、ゴーヤーと家族。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、ゴーヤーと家族。

青柳 家族の描き方もうまい。見栄っ張りのお母さんのために入学したという原作のニュアンスを残しながら、「F4 Thailand」はいい家庭だと伝わってくる描写が増やされている印象です。それによって「ゴーヤー、こんな学校辞めちゃいなよ!」という気持ちが抑えられるし「この家庭のためにがんばるか」という空気が出ていました。

西森 彼女が学校に通い続ける意味が感じられましたよね。タームがゴーヤーの家で食事をする場面もすごく素敵なシーンになっていました。彼はビジネスに明け暮れている親に育てられているからこういう経験がなくて、初めて温かさに触れたいい表情をしていた。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、ゴーヤーの家族と鍋を囲むターム(中央)。

「F4 Thailand/BOYS OVER FLOWERS」より、ゴーヤーの家族と鍋を囲むターム(中央)。

青柳 “魔法の豚(鍋に残った最後の豚肉を懸けて、自分のかわいそうな話をするゲーム。魔法の豚肉はなんでも癒やすとされている)”のシーン。タームもゴーヤーも、本当にいい顔をしてました。

西森 そうそう。ほかにも演出が上手な場面がたくさんありました。ゴーヤーをモノ化して取り合うのではなく、タームとレンの間の友情もちゃんと感じられたし、原作の連載当時は普通であっても現代の価値観で見るとおかしく感じられるところに、ちゃんと補足が入れられていた。このドラマを観ていて思い出したのは、タイの映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」。これも貧乏な女の子がお金持ちの学校に入って矛盾に気付く作品で、つくしちゃんの貧困の描かれ方みたいなものとつながる感じがあります。

青柳 「花より男子」がこんなにアジアで人気なのって、アジアが格差社会で、学校教育がしっかりしている分いじめみたいなものもあるからなのではと思いました。特にタイは日本以上の階級社会。かなり普遍性があるし刺さりやすいんだろうなと。

西森 それとお金持ちの学園の描写が壮大だったし、映像もすごくスタイリッシュできれいでしたね。