映画ナタリー Power Push - 「天の茶助」

SABU×弾丸ジャッキー・オラキオ インタビュー 運命を切り拓いた一歩

身体能力だけで起用したわけじゃない(SABU)

──今野浩喜さんも“白塗り男”として出演されてますが、監督が作品に芸人を起用する狙いを知りたいです。

SABU

SABU 芸人さんは、ずっと芝居をしてきてる人たちですからね。コントだったりとか。そこを究めてるという点で、絶対面白くなるなと。あと今野さんはビジュアル的に変ですから。あの変さはなかなかないですよ。

オラキオ あれ? 俺、完全に食われた!?

SABU あと警官の話で言ったら、よくエキストラの人が演じてる作品がありますけど、衣装をちゃんと着れてない役者さんが多いんですよ。着こなせていない。オラキオさんはそのへんもちゃんとしていたので。線がしっかりしているところがよかったです。

茶助とユリを拳銃で狙う、謎の白塗警官に扮したオラキオ。

オラキオ ありがたいです。台本になかったのに、宙返りするシーンも追加してくださったんですよ。

SABU 絵コンテ描いてたらやりたくなっちゃった(笑)。身体能力だけで起用したわけじゃないけど、そんなことできる人、まあいないんで。どこか操られているような役なので、ちょっと人間離れしたことをするくらいがいいかなと。

──主人公とヒロインを狙い、物語の要所に登場してくる印象的な役でしたね。監督はどのような演出をされましたか?

撮影中のSABU(右)と松山ケンイチ(左)。

SABU んー……覚えてないです。

オラキオ (笑)。監督は「とにかくやってみてください」って感じなので、1回リハやったら次はもう本番なんです。多分監督は覚えてないでしょうけど、1度リハのときに「いい感じ、いい感じ」って言ってもらえて。うれしいのとホッとしたのとで、本番前に物陰で待機してるとき、感極まって泣いちゃったんですよ。

SABU そうなの? 全然知らなかった(笑)。

オラキオ カメラが回って姿を見せたとき、ちょっと目が血走っていて。おぞましい感じが出せたと思うんですけど、その理由は泣いてただけっていう(笑)。

これからはR指定全開で(SABU)

──今回は、ファンタジー、ラブストーリー、バイオレンス、サスペンスなど、いろいろな要素が詰まっていますね。

ユリを守るため、茶助は地上で奔走する。

SABU 作っていても飽きない作品というか、とにかくてんこ盛りにしようと思って。僕ね、“圧倒的”という言葉が大好きなんですよ。前作の「Miss ZOMBIE」はコアな映画ファンを意識していたんですけど、「天の茶助」はこれから映画を観始める人にも向けた“わかりやすさ”をテーマにした作品なんです。そのあたりも含めて、お客さんに対してサービスしたつもり。

オラキオ そうだったんですね。

SABU でも今は「もう絶対手加減せん!」って思ってます。これからはR指定全開で行きますよ(笑)。

オラキオ それも観てみたいですけど(笑)。僕はSABU監督の作品の中でも、「原作・脚本・監督:SABU」っていうスタイルが特に好きなんです。だからそのスタイルの「天の茶助」に関われたっていうのは本当にヤバかったですね。

SABU監督作品のイズムを受け継いでます(オラキオ)

──やっぱり一番好きなSABU監督作品は「弾丸ランナー」ですか?

1997年公開のSABU監督作「ポストマン・ブルース」 ©1997 F.T.B.Suplex Inc. テレビ東京日活

オラキオ いえ、実は「ポストマン・ブルース」なんですよ。だからコンビ名は“ポストジャッキー”でもよかったんです。

SABU それじゃ郵便局みたいだ(笑)。

オラキオ そう、だからそっちはやめたんです(笑)。この作品は、堤真一さん演じる主人公の“生き切る”感じがたまらなく好きで。あと“殺し屋選手権”っていうのが劇中にあるんですけど、それがもう本当におかしくて。「弾丸ランナー」やほかのSABU監督作品も同じで、ギャグをギャグとしてやってるわけじゃないんですよね。みんなとにかく一生懸命。なのに、一歩引いたところから見るとそれがすごくバカバカしい。真剣さの中にあるおかしさが大好きなんです。

──なるほど。

左からSABU、オラキオ。

オラキオ 自分で言うのもあれなんですけど……弾丸ジャッキーでもそのへんを生かしていて。ネタをやるとき、ヘラヘラしない。真剣にツッコむ、真剣にボケるっていう。SABU監督作品のイズムを受け継いでます。

──オラキオさんは初日舞台挨拶でも監督に熱い思いをぶつけてましたよね。(参考:「17年かかってこっち側にこられた」オラキオ、SABU監督への熱い思い語る

SABU あれはうれしかったですよ。泣きそうになりました。

オラキオ 思わず気持ちがあふれてしまい……。SABU監督の作品をずっと一緒に観てきた地元の友人にも「すごい!」って喜んでもらえました。今回も一緒に劇場で観て、「よかったよ」って言ってもらえて。僕はどうしても客観的に観れなかったんですけど、そのひと言で「じゃあよかったのか」と思えました。ちなみにそいつが僕を褒めてくれたのは、ももいろクローバーZと共演したときと、SABU監督の映画に出たとき、その2回だけです(笑)。

Blu-ray / DVD「天の茶助」2016年1月8日発売 / バンダイビジュアル
Blu-ray Disc / 5400円 / BCXJ-1099
DVD / 4104円 / BCBJ-4750
音声特典

コメンタリー:SABU×オラキオ×市山尚三(プロデューサー)

映像特典

メイキング The making of Chasuke's Journey / イベントダイジェスト映像集(初日舞台挨拶ほか) / 予告篇

あらすじ

天界──。そこでは脚本家たちが忙しく筆を動かし、地上で暮らす人間たちの“人生のシナリオ”をしたためていた。茶番頭として働く茶助は、ある日“斬新なアイデア”を求められ、いいかげんな助言をしてしまう。しかしそれがきっかけで、思いを寄せる女性・ユリのシナリオが書き換えられることに。交通事故死する運命となったユリを救うため、茶助は彼女が住む沖縄に降り立つ。邪魔すべく刺客を送り込む脚本家たちや、シナリオに翻弄される人間たちとの攻防の中、茶助はユリの運命を変えることができるのか。

スタッフ / キャスト

原作・脚本・監督:SABU

主題歌:Ms.OOJA「翼」

出演:松山ケンイチ、大野いと、大杉漣、伊勢谷友介、玉城ティナ、オラキオ(弾丸ジャッキー)、今野浩喜、寺島進ほか

SABU(サブ)

1964年11月18日生まれ、和歌山県出身。ミュージシャンを目指して上京後、俳優の道へ進む。1986年の森田芳光監督作「そろばんずく」で映画初出演。役者としての経験を積む一方、1996年に「弾丸ランナー」で監督デビューを飾る。以降「ポストマン・ブルース」「アンラッキー・モンキー」などを手がけ、「MONDAY」で第50回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞に輝いた。そのほか監督作に「幸福の鐘」「疾走」「蟹工船」「うさぎドロップ」など。2016年世界公開予定のマーティン・スコセッシ監督作「Silence(原題)」に出演している。

弾丸ジャッキー(ダンガンジャッキー)
オラキオ

1977年9月5日生まれ、佐賀県出身。学生時代は体操部に所属し、インターハイの九州地区予選優勝経験を持つ。元自衛隊の相方・テキサスと組み、2003年より現在のコンビ名で活動開始。運動神経を生かしたネタを取り入れ、“肉体派芸人”として「とんねるずのみなさんのおかげでした」「あらびき団」「爆笑レッドカーペット」など多くのバラエティ番組で活躍する。蛭子能収がMCを務めるWeb番組「シロウト女子のえびす裁判」にナレーターと“番組AD”役で出演中。11月より、子供を対象にした「オラキオ体操教室」を開催している。