ミュージカル映画「BETTER MAN/ベター・マン」が3月28日に公開される。
「グレイテスト・ショーマン」のマイケル・グレイシーが監督を務めた同作では、ボーイズグループであるテイク・ザットのメンバーとして1990年にデビューし、その後ソロアーティストとして世界的に成功したポップスターであるロビー・ウィリアムスの波乱に満ちた人生が描かれる。その姿は“サル”のビジュアルで表現されており、劇中では彼がスターダムを駆け上がる一方、常に他人の目にさらされるという苦しみや葛藤も映し出される。
映画ナタリーでは、本作を鑑賞したGENERATIONS・片寄涼太にインタビューを実施。ロビーと同じくアーティストとして活動する彼が共感したメッセージとは。エンタテインメントの道を目指す若者に向けた見どころや、グループ活動を通して得る“かけがえのないもの”を語ってもらった。
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取材・文 / 西森路代撮影 / 清水純一スタイリング / SOHEI YOSHIDAヘアメイク/ SHINYA KUMAZAKI衣装協力 / T.T、PIERRE HARDY
映画「BETTER MAN/ベター・マン」予告編公開中
オーディションでの「何か残さなきゃ」という感覚は当時の自分にもあった
──本作をご覧になっていかがでしたか?
1人の人間の波瀾万丈な半生を浴びるように見せていただいて、一言では言い表せない、映画ならではの面白さを感じました。予告も拝見してから(試写に)行ったんですが、本編を観ると、思っていた印象とは全然違うものになっていました。この感情をどうすれば皆さんに伝えられるだろうか、難しいけれどそれでも自分なりにお伝えできたらと思いました。
──主人公のロビーはボーイズグループのオーディションを受けますが、そこでウィンクしたことがきっかけでテイク・ザットの一員に選ばれ、ステージに立つようになります。オーディションを経てGENERATIONSのメンバーとなった片寄さんと重なるところがあったのではないでしょうか?
意図してやったわけじゃないんですが、自分は当時学生だったのでオーディションに学ランを着て行ったら、HIROさんに「学ランの子」として覚えてもらっていたそうなんですね。ロビーのウィンクにかなうものではないかもしれないけれど、「何か残さなきゃいけない」という感覚はその当時の自分にはあったし、何かのきっかけで人生が変わるという意味ではすごく共感できました。
──その後、ロビーが下積みを重ねていく様子が描かれますが、そのシーンを観ていかがでしたか?
描かれ方として面白いなと思いました。自分がロビーのような下積みをしてきたわけではないけれど、下積みの時代にいろいろな方から掛けられる言葉を、必ずしもポジティブに捉えられないこともあると思うし、だからこそ「なんだよクソ」と思いながらがんばる根性みたいなものが生まれるのかもしれません。そんな感情を思い出させてくれる場面でもありました。
大切な愛の種みたいなものがあの曲に詰まっている
──テイク・ザットの人気が爆発し、彼らがストリートでダンスをするシーンは前半の見どころだと思いました。人気絶頂のボーイズグループのきらめきが詰まっていましたね。
どうやって撮ったんだろう?と思うようなワンカットの長回しのシーンでしたね。エンタテインメント映画然としているし、映像のクオリティにも圧倒され、音楽も素晴らしかったです。でもその後に葛藤も描かれていくので、対比もすごかったですね。
──ボーイズグループ時代のダンサブルな曲や、ロビーが個人で作るようになってからの曲など、たくさんの曲が披露されましたが、印象に残った曲は?
映画を観たあとにずっとサントラを聴いていたんですが、本当に素晴らしい楽曲ばかりで、いろいろなシーンを思い出しますね。一番好きだったのは「Something Beautiful」。ご自身の歌詞を恥ずかしそうに披露するところがすごく好きでした。ボーイズグループ時代のきらびやかな世界とは一変して、ソロになってからは素朴でパーソナルなものや温もりが楽曲や映像から感じられました。大きなものを求めようとすると見失ってしまう、本当に大切な愛の種みたいなものがあの曲に詰まっている気がして感動しました。
エンタテインメントという仕事の恐ろしさ、ある種の狂気的な側面も描いた作品
──ロビーはグループに入った頃から歌詞を書いていたけれど、メンバーやスタッフからはそれが認められず、採用されなかったんですよね。それで自信が持てなかったんだけど、自分で歌詞を書くことで、花が開く感じがありましたね。
自分自身が大切に書き留めてきたものであっても、表現に自信を持てないことはあると思います。幼少期にお父様に言われた一言に縛られているロビーの繊細さ、彼の苦悩にも共感しました。特に印象的だったのがレコーディングブースのシーン。ある部分を歌ったものの、ディレクターの指示でロビーは退き、メインボーカルのメンバーが彼に代わってその部分を歌うんです。ロビーの気持ちが痛いほどわかりましたね。僕はレコーディングブースがすごく怖い場所だと思っていて、あそこで歌っているときに、こちらを見ているディレクターがガラス越しに何を話してるのかわからないんです。もちろんネガティブな話はしていないかもしれないけれど、ブースの中は無音の世界で、精神的にくるものがあるんです。
──ブースの中に孤独があるという共感は、ボーカリストをやっている片寄さんだからこその視点ですね。アーティストの方は孤独な中で音楽を作ることもある一方、ライブでは何万人もの歓声や視線を浴びます。片寄さんは、その落差も経験されていますよね?
最初は数十人の前で歌っていたのが、少しずつ観客が増えてきてホールでライブができるようになり、数千人、数万人規模になったときの不安はすごくわかります。大きな会場でライブができるようになっても、数十人の人たちが見てくれていたときの自分とは変わらないわけです。だから「こんなにたくさんの人が見てくれているけれど、自分の何が変わったんだろう?」と疑心暗鬼になったり、「多くの観客の前に立つという責任を自分は果たせるのだろうか」といった思いが大きくなって苦しくなる。自分たちを見に来てくれてるお客さんは味方のはずなのに、「次は何を見せてくれるの?」と試されている感覚にもなります。ロビーを見ていてそんなことを思いました。
──そういう思いが重なって、ロビーは映画の後半から精神的に追い詰められていくんですよね。
つらかったですね。今のエンタメ業界は、アーティストとファンがもっと対等であるべきだと思います。アーティストがファンにすべてを供給し続けることで、バランスが崩れてしまうこともあると思うんです。だからこそ、供給する量に制限を設けたほうがいいのかもしれない……。そうじゃないと、アーティストが壊れてしまいます。それはロビーの時代でも同じだったんだと思うんです。アーティストが壊れていかないように、お互いが同じ人間であることを思い出さないといけないなと。一度スーパースターになったらスーパースターで居続けないといけないというロビーの葛藤は、僕には計り知れないものではありますが、エンタテインメントという仕事の恐ろしさ、ある種の狂気的な側面も描いた作品だと思いました。
華やかな世界だからこそ、変わらず大切にしてくれる家族や友人がいることは重要
──ロビーが葛藤から抜け出すのは、父親との関係性の変化や恋人との出会いがあったからだと思うんですが、いかがでしたか?
華やかな世界だからこそ、変わらず大切にしてくれる家族や友人がいることは重要だと思います。僕自身も高校時代の友人や幼なじみが変わらずに接してくれて、それが支えになりました。今、僕は30歳ですが、10代でデビューしてこの世界だけを見てきたので、学生時代の友人からすると、どこかギャップを感じることもあったと思うんです。でも、そんなことを感じさせずにフラットに話してくれた友人の存在は大切だし、今も自分が不安に押し潰されないで済んでいるのは、そんな友人や家族のおかげですね。
──映画の中でも、お母さんやお父さんのロビーへの接し方が彼の気を楽にしてくれると思えるところもありましたね。
家族との接し方って、正解がないじゃないですか。僕の家族は、芸能界に進んでほしいと思っているわけではなかったんです。特に父親は高校で音楽の教師をしていて、芸能界での僕の活動を心配していたんですが、ある日、テレビ番組のロケで家族のもとに行くことがあって、そのときに父親が職場にGENERATIONSのポスターを貼ってくれていたことを知って、やっぱり僕のことを心配するだけでなく、見守ってくれているんだなとわかったんです。親子の関係性もこの映画では繊細でリアルに描かれていたので、自分と両親との関係性と重ねて見た部分はありました。
──一方、ロビーが恋人となる女性ニコール・アップルトンと出会うシーンも印象的でした。ニコールもアーティストで、同業者だからこそわかる部分も、わかりすぎてつらくなる部分も描かれていましたね。
ロマンチックでとても美しく、「ロビーはいい人に出会って幸せじゃん!」と思ってほっこりしました。でもその後、ニコールは成功していくけれど、グループを脱退したロビーは活躍の場が少なくなっていく。そしてロビーは彼女に対して、同業者だからこそのひがみや嫉妬心を抱いてしまうんです。大切な人が成功したのであれば素直に喜べるはずなのに、それができないということは、本当は大切じゃないのかな?と最初は思いました。でも、そのひがみや嫉妬もわかるんですよね。同業者同士だからわかることは多いけれど、互いにわかりすぎるのも関係を難しいものにするかもしれないですね。