「アナザーラウンド」|もう一度自分に見せてあげたい!岡野陽一×鈴木もぐら(空気階段)×酒井貴士(ザ・マミィ)が語る酒とおじさん論

第93回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した、マッツ・ミケルセン主演作「アナザーラウンド」が9月3日に公開される。劇中では、うだつが上がらない毎日を過ごす中年教師4人が、「血中アルコール濃度を常に0.05%に保つとやる気がみなぎり人生がうまくいく」という仮説を証明するため実験を開始するも、酒量が増えるにつれて問題が発生。酒によって引き起こされる人生の歓喜と悲哀が、ユーモアとともにつづられる。

映画ナタリーでは「酒」というキーワードに鋭く反応するお笑い界きっての“クズ芸人”岡野陽一、鈴木もぐら(空気階段)、酒井貴士(ザ・マミィ)を迎え、本作の感想や酒にまつわるエピソードを、ノンアルコールビール片手に語ってもらった。

取材・文 / 柴﨑里絵子文(コラム)/ 平野彰撮影 / 入江達也

借金があるのに映画なんて観ちゃダメなんじゃないか(岡野)

──皆さんは普段、映画をご覧になったりされますか?

岡野陽一

岡野陽一 映画業界に媚びるとかではなく、正直なことを言わせていただきますね……観ません! 好きなんですけど、借金があるのに映画なんて観ちゃダメなんじゃないかというのがありまして。

鈴木もぐら ギャンブルは生きるためにやっていますけど、映画は娯楽ですから。なかなか娯楽にお金は使えないですよ。

酒井貴士 ただ「リング」は好きで、貞子の姿は小さい画面でよく観ますよね?

岡野 「リング」をモチーフにしたパチンコ台があるんです。手がガーンと落ちてきたりするんですけど、我々おじさんはけっこうこの「リング」が好きなんですよ。

もぐら 僕はたけし(北野武)さんの映画が大好きで欠かさず観ていますね。それから「バトル・ロワイアル」や「メジャーリーグ」とか、同じ作品を何度も観てます。映画館は行かないんですけど、個室ビデオによく行くので、合間にそういう映画を観ています。

酒井 合間にって(笑)。僕も映画館にはあまり行かないんですけど、いつ女性が来てもいいようにインテリアとして部屋にかっこいいジャケットのDVDを飾ったりしています。例えばあの映画、なんでしたっけ? クエンティン・タランティーノ監督の……。

岡野 「レザボア・ドッグス」か「パルプ・フィクション」? 「キル・ビル」とか?

酒井貴士

酒井 いや、ものすごく長いタイトルでブラピ(ブラッド・ピット)が出ているやつ。

──「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」か「イングロリアス・バスターズ」でしょうか?

酒井 いや、両方違いますね。なんだっけな? 全然出てこないな。

岡野 ほかにブラピが出ててそんな長いタイトルの作品なんてねーだろう。

酒井 いやー。思い出せないので進みましょうか。

とにかくお酒が飲みたくなる映画(酒井)

──(笑)。では「アナザーラウンド」を観た感想や気になったシーンから教えてください。

「アナザーラウンド」より、マッツ・ミケルセン演じるマーティン。

岡野 うちのお父ちゃんが主人公のマーティンに似ているんですよ。顔じゃなくて、性格がですよ。何事にも真面目で、普段は平坦な感じであまり面白くないというか。でも飲むとめちゃくちゃ明るくなるんです。毎日飲むので夕飯を過ぎたらすごく楽しくなる。飲んでない父ちゃんとは何を話したらいいのかわからなくてけっこうきつかったんですけど、酔っ払うと犬小屋で寝てくれたりして、しゃべりやすくなるんですよね。だから、映画に親近感が湧きました。

酒井 とにかくお酒が飲みたくなる映画でしたね。途中で丸い氷に赤いウイスキーみたいなのを入れるお酒を作るじゃないですか? すごくおいしそうだったんですよ。オレンジだかレモンみたいなのを添えて。あれ本当にあるのかな?

──サゼラックというカクテルのようです。

酒井 本当にあるんですね。後半になるに連れてどんどん度数を上げていって、みんながその赤いお酒を飲み始めたときには、僕も我慢できずに開けちゃいましたよ。それこそ僕もお笑いの仕事で緊張しそうなときは、飲んでから行きたいという気持ちになりますので、お酒に景気付けてもらうというのはすごくわかりますね。あとね、泣いちゃったシーンがあるんです。

岡野 え? 酒井さんが?

「アナザーラウンド」
「アナザーラウンド」

酒井 眼鏡坊……。眼鏡坊のシュートシーン。あそこは感動して泣いちゃいました。

──気弱なサッカー少年のシュートシーンですね。

酒井 僕もまだまだきれいな心を持っているんだと、うれしくなりました。

もぐら 僕は4人の友達の感じがすごくよかったです。あの歳になってもみんなで気遣い合って、楽しい酒も悲しい酒も分かち合えるって最高だなと。うらやましいですね。

岡野 素敵だなと思ったのは、後半で奥さんからマーティンの携帯に連絡が入るシーン。というのも、僕は飲んでいるときに彼女とかから連絡が来るのが本当に嫌なんですよ。一緒に飲んでいる人たちよりも、彼女を優先するみたいなのはないですね。だから奥さんから連絡が来てもマーティンはそっちに行かずに、仲間と飲むというのはものすごくいいなと思いました。