コミックナタリー PowerPush - はるな檸檬「ZUCCA×ZUCA」
プロデューサー東村アキコ、激賞! ヅカオタマンガの誕生と魅力語る師弟対談
持論なんですけど、貯金あるうちは人は世に出れないと思っていて(東村)
──その最初の作品から宝塚がモチーフとして登場するわけですが、どうしてそこまで入れ込むようになったかという話を伺えればと。
東村 最初、私が仕事で観に行って、感動っていうより「こういう世界があんのね」って衝撃でDVDを買って帰ってきたんですね。それを仕事場のちっちゃいテレビで流しててみてたら、そこにいた人みんな、最後もうダーって大号泣してて。
はるな ボロボロボロボロって(笑)。それが最初の宝塚体験でした。
──それは何に感動したんですか。
はるな トップスターの春野寿美礼さんって方の演技力でしょうね。ストーリーわかんないけど、泣きながら歌うシーンがあって、この泣いてる人の泣いてる悲しみが、もうダイレクトに……。
東村 「役者がすべてなんだな、舞台って」っていう。
はるな すごいんですよ。もう内容とかじゃなくて。
東村 それであっという間にハマって、はるなさんは真面目だからOL時代にコツコツ貯めた貯金があったんですけど、それがスッカラカンに……あれがよかったよね。私の持論なんですけど、貯金あるうちは人は世に出れないと思っていて、アシスタントにも、まず貯金を空にするところから始めろって言ってるんです。彼女も貯金空になって、おしりに火が点いてマンガ描いたりし始めたから。
はるな 生きていかないといけないので。というか宝塚を観なきゃいけないのでお金がどうしても必要で、まずお金をどう手に入れるかという……脳みそがシンプルになりましたね。余計なこと考えなくなったというか。それに春野さんの退団があったから。
やれることはやらないと。そうしないと一生後悔すると思って(はるな)
──退団というのは?
はるな 最初に観たのが2007年の秋くらいで、春野寿美礼さんという方の圧倒的な魅力に持っていかれたんですけど、その年の12月24日に退団が決まってたんですよ。あと半年もない間しかこの人の男役を観れないんだったら、やれることはやらないとと思って。そうしないと一生後悔すると思って。
東村 好きになった途端、退団。
はるな それですぐスカステ(衛星放送の有料チャンネル、タカラヅカ・スカイ・ステージのこと)加入して、ムラ(本場宝塚の町のこと)に行って。
東村 宝塚って1カ月くらい毎日舞台やってるから。
はるな で12月24日の千秋楽に春野さんを日比谷で見送って、2カ月くらい抜け殻みたいになってたんですけど。燃え尽きて。
東村 みんな廃人になってたんですよ、その2カ月は。泣きながら原稿取りに来た編集さんいたからね。
はるな 電車乗ってて、なんかわかんないけど(涙が)ツーって。リアルにツーってなるんですよ。という抜け殻期間はあったんですけど、誘われて雪組見に行ったら、なんかまた「好きー!」って復活して。そこからはスターさんの魅力もあるんですけど、それより宝塚自体のすごさみたいな、この奇跡みたいなものを好きになった感じです。
ヅカオタって宝塚観てるときだけ起きてて、あとは寝てる状態(東村)
──その奇跡みたいなものって、もう少し説明をもらえますか?
東村 あのね、「死ぬでしょ」って思うの、舞台観てると。こんなハイレベルな舞台を1日2回もやってるの? 死んじゃうよみんな、って。
はるな 基本とするクオリティが高いんです。「ここまでは当たり前にやる」っていうラインがものすごい高い位置にあって。舞台に80人いたら、ライトが1個も当たってない暗がりにいる生徒もものすごい全力で踊ってますし。あ、生徒って出演者のことなんですけど。衣装のちょっとしたレースの加減ひとつ取っても仕事がものすごく細かくて、顔が見えない裏方の人ですら、全力でやりきってるってことがものすごく伝わってくる。
東村 アニメで言えば、ジブリが年に2本、「ナウシカ」と「ラピュタ」クラスのものをずっと発表し続けてる感じ。
──では宝塚を仕事に活かしてるこの現状は、すごく幸せなんじゃないでしょうか。
はるな 取材っていう気持ちで心置きなく観れることはすごい幸せだなって思うんですけど……、聞かれてやっとそう思うぐらいですね。なんて言うんでしょう、息を吸うように観劇をしてるので。普段生きてて、息を吸うことが幸せとか別に思わないじゃないですか。それと同じで、観なきゃいけないものだから、あまり何も考えてないというか……。観劇してる間はおそろしく幸せですけど。
東村 ヅカオタってみんな、宝塚観てるときだけ起きてて、あとは寝てるんですよ。劇場に入るところからカッて起きるみたいな。だからマンガも寝てる中で描いてる(笑)。私は、マンガって何も考えずに描いたやつがいちばん面白いと思ってて。腕のある大先生ならともかく、素人はもうね、寝ながらポンと描いたくらいのほうがいい。だからアシスタントにも、とりあえず飲みに行って、酩酊した状態でネームを描けと。
──考えすぎないほうがいいと。
東村 それができなくてみんな苦労してるんだけど。はるなさんは宝塚っていうものがあったおかげで、お酒がなくても酩酊してるから面白いんじゃないかな(笑)。
はるな それはそうかも知れませんね。観劇の時間までにネームを終わらせなきゃとかっていうときに、「絶対これ担当さんに怒られるけど、しょうがない」と思って、殴り書きみたいにして描いたものに限って、ほめられたりとかしますし。
業界初!? ヅカオタ(宝塚オタク)漫画!!
何かにハマったことのある方にはおススメです。
あーーある、アル、aruのオンパレード!
レッツ・エンジョイ・ヅッカヅカ!
はるな檸檬(はるなれもん)
1983年3月23日宮崎県生まれ。2005年より東村アキコのアシスタントを務め、東村のすすめで鑑賞したことから宝塚歌劇団にのめり込む。その後東村の助言を受け、宝塚歌劇団マニアを題材にしたコメディ「ZUCCA×ZUCA」で2010年にデビュー。モーニング(講談社)の公式サイトで連載中。
東村アキコ(ひがしむらあきこ)
1975年10月15日宮崎県生まれ。1999年、ぶ~けDX NEW YEAR増刊(集英社)にて「フルーツこうもり」でデビュー。2001年、Cookie(集英社)で「きせかえユカちゃん」の連載を開始。ファッショナブルな登場キャラクターとライブ感のある話作りで人気を集める。2006年、モーニング(講談社)にて自身がデビューするまでの様子を家族のエピソードとともに描いた「ひまわりっ~健一レジェンド~」の連載を開始。その他代表作に「ママはテンパリスト」「主に泣いてます」など。Kiss(講談社)にて連載中の「海月姫」は、第34回講談社漫画賞を受賞した。また、ナタリーのマスコットキャラクター「ナタリー信子」と「マシュー」は同氏による描き下ろしである。