コミックナタリー PowerPush - はるな檸檬「ZUCCA×ZUCA」

プロデューサー東村アキコ、激賞! ヅカオタマンガの誕生と魅力語る師弟対談

1回会社員やったことあるのってめっちゃ強いんですよ(東村)

東村 やっぱマンガ家になりたいって思ってない子は2年くらいで解放してあげないと、人生を蹂躙してしまうことになりますから。ほら、うちの職場だと出会いもないし。だからクビにしたわけじゃなくて「別の仕事したほうがいいと思うよ」っていう感じで辞めさせましたね。ときどきヘルプで入ってもらったり、プライベートで遊んだりとかはしてたんですけど。

はるな で、そのあと事務のOL……。

──OLにはなったけど、結局マンガの世界に戻ってきたのは。

はるな 絵を描きたい、けど描いてないって気持ちを抱えたままひたすらExcelなんかをいじってると、もう「ムキーッ」ってなってきて。3年経って派遣の契約更新が迫ってきたとき、「更新するくらいなら、失業保険がもらえる間だけでもマンガを描こうかな」と思ったんです。イラストで食べていくには厳しいということはわかってきてたので、なら(ストーリーという)付加価値をつけたマンガだと。それでも自分が通用するはずないとは心底思ってたんですけど。

東村 そのOL経験がすべてだと思うんですよね。それがなかったら多分「ZUCCA×ZUCA」もマンガ家・はるな檸檬も生まれてない。1回会社員やったことあるのってめっちゃ強いんですよ。マンガで「普通」が描けるようになるというか。会社員やったことない子の投稿作ってだいたい似通ってて、家に帰ったらドラえもんみたいのがいるか、ロードムービーか、飛び降り自殺の走馬灯みたいなのを描いてくるわけ。あと幽霊ね。大抵そのどれかですよ。

──(笑)。

「ZUCCA×ZUCA」1巻より。

東村 やっぱ会社員やったことある子は、妄想的な世界だけじゃなくて、会社を舞台に描けたりして、それだけで面白い。日常と地続きの感覚で読めるから。

はるな 確かにOL時代の経験は、マンガに生きている気がしますね。電話の取り方とか、給湯室の棚に何が置いてあるかとか、そこで働いてきたから普通に描けるというか。

最初の2ページと最後のコマに、宝塚のドレスをみっちり描いた(はるな)

東村 ただ、私もまさかはるなちゃんがギャグ描ける人だとは思ってなかったから。びっくりしたよね。最初見たときはほんとに腰抜かしたっていうか。だってこの子自身は別に、オモシロ系の子じゃないんですよ。

はるな そうなんです、ほんと。

東村 どっちかっていうとA型できっちりしてて、真面目枠みたいな感じで。一緒に過ごしてて笑うツボはズレてないと思ってたけど、自分から冗談を言ったりするタイプではなかったから。それをまさかこの人がギャグマンガを描いて、しかもそれがすごい面白いなんて! 本人も思いもよらなかったんじゃないかな。

はるな もう全然思ってなかったです。正直、いまだに自分が何やってるのか、よくわからないんですよ。

東村 でもギャグとして、コメディマンガとしてすごい秀逸だと思うよ。「ZUCCA×ZUCA」を最初読んだとき、本当に「うわ、負けた!」って思ったもん。

──おまけマンガにもありましたが、最初に描いたものはコメディじゃなかったんですよね?

「ZUCCA×ZUCA」2巻の帯イラストより。

はるな 最初は女子高生が主人公の、真面目な絵で真面目なストーリーものを描いたんですよ。40ページ。ただ自分のモチベーションを上げるために、最初の2ページと最後のコマに、宝塚のドレスをみっちり描きまして。

東村 宝塚を好きな女子高生が先生に恋をする、みたいな話だったんだけど、宝塚ってこういうものなんです、って紹介する最初のページがすごくて。力の配分で言うと、宝塚に9割、残り1割で38ページを描いてる感じ。

はるな 宝塚の衣装だけ異常に気合いが入ってたんです。

東村 私の担当編集に見せても「宝塚のところがいい」って(笑)。彼はそのままはるなさんの担当になったんだけど。それで「宝塚でエッセイマンガ描けば」みたいなこと言ったら、エッセイ形態ではない、質の高いものを描いてきたから驚いちゃって。「私、宝塚好きなんです、こうでこうでハマってて……」みたいな、レポートエッセイを想像してたら、そこを軽く飛び越えて大傑作の域のものをいきなりポンって出してきたから、「え、うそ」と思って。で、あれよあれよという間にデビュー、連載、単行本化……っていうね。

これで絵が下手だったらね、成り立ってないかもしれない(東村)

はるな おふたりが完全にプロデュースしてくださったおかげです。私は言われるがままにやっただけで。

東村 アドバイスしたのも最初だけですよ。持ち込みとか受賞経験もない人がいきなりマンガ家になっちゃったから、もう私と担当も盛り上がっちゃって。

はるな 私がいないところで単行本のデザイン、全部決まってたんですよ。

「ZUCCA×ZUCA」1巻。帯にまでこだわり抜いたという、東村プロデュースのカバー。

東村 しゃしゃり出て申し訳ないんですけどね。デザイナーと私と担当で、散々打ち合わせしました。「主に泣いてます」の表紙を作ってる友達のデザイナーにまずラフ切らせて。4回くらいダメ出ししたのかな。自分の本でそんなことしたことないんですよ。表紙の紙選びにしても、何回ケンカしたかっていうくらいこだわった。

はるな なんなら私はなにもしてないと言っていい(笑)。

東村 でも根本的に、みんな気付いてるかわかんないんですけど、はるなさんってめちゃめちゃ絵がうまいんですよ。このマンガの魅力は、絵の割合が相当大きいと思うんです。これで絵が下手だったらね、成り立ってないかもしれない。絵がうまい人って描くのも速いし、プロデュースのしがいがあるんですよね。

──それは東村さんが教えられたんですよね。

東村 うん、デッサンはね。だから手帳にちゃんと厚みがあるとことか、ハンカチの折れ曲がってる質感が描かれてるみたいなのって、(絵画教室の)日高先生の教え子の手だなって思う。

──ご本人は自分の絵柄について、いかがですか?

はるな 最初に描いた読み切りの隅っこに、ポカンとしたラフな顔を描いたんですよ。そしたら担当さんがそれを指して「この顔で描いてください」って言うんですね。「こんな落書きみたいな顔?」とちょっと面食らったんですけど、まあ言われたからしょうがないと思って、この絵になったんです。こういうユルい絵は描いたことなかったんですけど、描いてみて、こういう絵がいちばん難しいってことがわかりました。眉毛とか、1mm上がるだけで表情が全然変わるので、10回くらい描き直すんですよ。シンプルな絵のほうが難しい。

はるな檸檬「ZUCCA×ZUCA」5巻 / 2013年4月23日発売 / 990円 / 講談社
「ZUCCA×ZUCA」5巻

業界初!? ヅカオタ(宝塚オタク)漫画!!
何かにハマったことのある方にはおススメです。
あーーある、アル、aruのオンパレード!
レッツ・エンジョイ・ヅッカヅカ!

はるな檸檬(はるなれもん)
はるな檸檬

1983年3月23日宮崎県生まれ。2005年より東村アキコのアシスタントを務め、東村のすすめで鑑賞したことから宝塚歌劇団にのめり込む。その後東村の助言を受け、宝塚歌劇団マニアを題材にしたコメディ「ZUCCA×ZUCA」で2010年にデビュー。モーニング(講談社)の公式サイトで連載中。

東村アキコ(ひがしむらあきこ)
東村アキコ

1975年10月15日宮崎県生まれ。1999年、ぶ~けDX NEW YEAR増刊(集英社)にて「フルーツこうもり」でデビュー。2001年、Cookie(集英社)で「きせかえユカちゃん」の連載を開始。ファッショナブルな登場キャラクターとライブ感のある話作りで人気を集める。2006年、モーニング(講談社)にて自身がデビューするまでの様子を家族のエピソードとともに描いた「ひまわりっ~健一レジェンド~」の連載を開始。その他代表作に「ママはテンパリスト」「主に泣いてます」など。Kiss(講談社)にて連載中の「海月姫」は、第34回講談社漫画賞を受賞した。また、ナタリーのマスコットキャラクター「ナタリー信子」と「マシュー」は同氏による描き下ろしである。