「続・終物語」阿良々木暦役・神谷浩史インタビュー|想像を超える文章とビジュアルの相乗効果。セリフに込められた西尾維新の才能に感服

ずっとお付き合いいただいた皆さんにきっと満足していただける

──今回「続・終物語」では原作小説の1冊分を1本の作品にまとめているので、作品自体のボリュームもかなりのものになっているのでは?

「続・終物語」の台本。

TVアニメ6話分を繋ぎ合わせたような構成の作品になっているそうです。上映時間も約150分ということで、1本の作品としてはとても長いと思います(笑)。とはいえ、これは「続・終物語」をアニメでやるためには150分必要だと新房監督たちが判断したということ。それであれば気軽さをとって前後編や、90分にまとめるというのは、ファンへの届け方として違う気がするので、この鑑賞時間がベストなんですよね。「続・終物語」の存在意義として、〈物語〉シリーズというアニメをずっと作ってきた中でのファンムービー的な意味合いもあると思うんです。これまで〈物語〉シリーズにずっとお付き合いいただいた皆さんに対して、きっと満足いただける150分になっていると思います。

──〈物語〉シリーズが劇場で公開されるのは「傷物語」の3部作に続いて2度目です。スクリーンでの上映に対して特別な思いがありましたらお聞かせください。

劇場上映いただけるということは、とてもありがたいなと思います。劇場上映は、いま主流のパソコンや、スマートフォンでいつでもどこでも視聴できるという利便性をとった視聴スタイルとは対極にありますが、集中してその作品に向き合う時間、空間を作ることができる。なので、「続・終物語」は劇場に足を運んででも観ていただきたいですね。「続・終物語」は劇場に足を運んででも観る価値のある作品に仕上がっています。

──内容だけでなく、その空間も楽しんでほしいということですね。

神谷浩史

そうですね。劇場公開された「傷物語」以前にも、「猫物語(黒)」の全4話を1本化したものを、テレビ放送の前に完成披露試写という形で1回だけ劇場で上映させていただいたことがあったんです。テレビシリーズとして作ったものをOP、EDを抜いて頭から最後まで繋げた結果、1本の劇場作品として長時間視聴しても耐えうるクオリティのものができていたんですよ。今回もテレビシリーズでいうところの6本分を1本に繋いだ結果、劇場にかけられるだけの作品に仕上がっているんです。それを考えたら過去のテレビシリーズとして制作された作品もすべて、劇場公開されてもほかの映画と比べても遜色のない作品ができていたという証明かもしれない。それが僕はうれしかったんですよね。

頭の中に“阿良々木暦回路”ができあがっている

──来年でアニメ〈物語〉シリーズは10周年を迎えます。阿良々木暦を演じてきてシリーズ開始当初から何か変化はありましたか?

神谷浩史

僕自身の演じ方は変わっていないと思います。ただ、僕が仕事で阿良々木暦の声を要求されて、マイク前で披露すると「暦ですね!」って皆さん喜んでくださるようになりましたね。それってシリーズが始まった当初だったら、仕事の一環として「はい、OKです」で終わっていたものだと思うんです。ところが9年間、暦を演じさせていただいたことで、皆さんの中に阿良々木暦というキャラクターが浸透して、頭の中に“阿良々木暦回路”ができあがっているんですよね。

──“阿良々木暦回路”?

つまり阿良々木暦の声が、頭の中で勝手に再生されているんだと思います。皆さんの頭の中に阿良々木暦が存在しているがゆえに、僕が演じることで本物だと認識してもらえるようになっている。それはシリーズ開始時とは決定的に違っているんじゃないかな。

──なるほど、受け手側が変わってきたと。

そうだと思います。ともすれば僕が演じる暦よりも、ファンの頭の中にいる彼のほうが西尾先生の暦の再現性が高い可能性もあるわけで。優秀な“阿良々木暦回路”を持つ人たちにとっても、常に僕の声が“本物”の阿良々木暦であり続けられるように、納得していただけるものを音として作っていかないといけないという使命感のようなものが、今は自分の中にありますね。

──この9年間で印象的な作品、出来事を挙げるとしたら何になりますか?

神谷浩史

作品としては、これまでヒロインとの関係性で表現されてきた阿良々木暦が、身内の妹に対して、家族の在り方みたいなものをちゃんと提示してくれた「偽物語」ですかね。女の子へではなくて、火憐と、月火という妹に対して正面切ってしゃべるシーンを西尾先生が作ってくれたというのが大きくて。各ヒロインに対してと、妹たちに対してでは、文字面でのセリフは同じに見えるかもしれないけれど気持ちが全然違うんです。まったく違う気持ちで、ほかのヒロインに対してと同じようなことを言っている。そういう暦の心情的なところが、ほかの作品に比べてすごい異質だと思うんですよね。

──作品の内容以外のところではどうでしょう?

うーんなんでしょう……。でも、なんだかんだ言って僕は「猫物語(黒)」が好きなんですよね。テレビシリーズではあるけれど、大晦日の22時から24時という1年の最後の2時間を使って、一挙放送というものをやり始めたタイトルだったので。〈物語〉シリーズは普通のTVアニメとしてスタートしたけれど、大晦日の2時間をジャックしましょうとか、ほかのTVアニメとは違う形でチャレンジできる作品に少しずつなっていったんです。

──「暦物語」もアプリでアニメを配信するという試みが新しかったですよね。

「暦物語」も原作をアニメ化にするにあたって、一番いい尺でのまとめ方をするために、あえて配信という形になったと思うんです。そういうほかのアニメと違った挑戦の積み重ねがあって、今回の「続・終物語」も劇場でのイベント上映ができている。だからどの作品ももちろん印象深いんですが、ほかのアニメとの違いを生み出すきっかけになった「猫物語(黒)」がすごく印象に残っています。

神谷浩史
「続・終物語」
2018年11月10日(土)
全国劇場にてイベント上映開始
「続・終物語」
あらすじ

高校生でも大学生でもない、そんな時期に阿良々木暦が体験した、終わりの、続きの物語。
高校の卒業式の翌朝、顔を洗おうと洗面台の鏡に向かい合った暦は、そこに映った自分自身に見つめられている感覚に陥る。
思わず鏡に手を触れると、そのまま指先が沈み込んでいき……。気がついたときには、暦はあらゆることが反転した鏡の世界に迷い込んでしまっていた。

スタッフ

原作:西尾維新(「続・終物語」講談社BOX)

キャラクター原案:VOFAN

監督:新房昭之

キャラクターデザイン・総作画監督:渡辺明夫

アニメーション制作:シャフト

キャスト

阿良々木暦:神谷浩史

戦場ヶ原ひたぎ:斎藤千和

八九寺真宵:加藤英美里

神原駿河:沢城みゆき

千石撫子:花澤香菜

羽川翼:堀江由衣

阿良々木火憐:喜多村英梨

阿良々木月火:井口裕香

斧乃木余接:早見沙織

老倉育:井上麻里奈

神谷浩史(カミヤヒロシ)
1月28日生まれ。千葉県出身。声優、ナレーター、アーティストとして幅広く活躍。第2回声優アワードサブキャラクター男優賞に続き、2009年の第3回声優アワードでは主演男優賞とパーソナリティ賞を受賞し、声優アワード史上初の主要三冠を獲得。また、「化物語」阿良々木暦役で東京国際アニメフェア2010、第9回東京アニメアワード個人賞(声優賞)を受賞。主な出演作に「夏目友人帳」シリーズ(夏目貴志役)、「進撃の巨人」(リヴァイ役)、「斉木楠雄のΨ難」(斉木楠雄役)、「イナズマイレブン オリオンの刻印」(灰崎凌兵役)など。