「続・終物語」阿良々木暦役・神谷浩史インタビュー|想像を超える文章とビジュアルの相乗効果。セリフに込められた西尾維新の才能に感服

11月10日より期間限定で劇場公開される「続・終物語」は、西尾維新の小説を原作としたアニメ〈物語〉シリーズの最新作。2009年の「化物語」のテレビ放送に始まり、一挙放送特番やアプリでの配信、劇場3部作とあらゆる形で続編が作られ続ける〈物語〉シリーズにおいて、劇場でのイベント上映という発表は、また新たな驚きをファンにもたらした。

コミックナタリーでは本作の公開を記念し、全3回にわたる特集を実施。第1回には阿良々木暦役として、9年間シリーズに出演し続けている神谷浩史が登場する。続編が作られ続けることへの喜びや、西尾維新の才能に恐ろしくなったというシーンについて語ってもらうとともに、9年間を振り返り印象的な出来事を挙げてもらった。

取材・文 / 粕谷太智 撮影 / 入江達也

西尾維新先生の才能が恐ろしくなりました

──前作「終物語」では、主人公・阿良々木暦の高校卒業とともに物語も一旦終わりを迎えました。そんな中、再び続編で阿良々木暦を演じられていかがでしたか?

神谷浩史

素直にありがたいなと思いましたね。続編を制作できるかわからないアニメ作品も多い中で、〈物語〉シリーズにおいては、西尾維新先生が原作小説を書き続ける限りそれを映像化していこうというような空気感を感じられるんです。「もう二度と続編がないかもしれない」という不安ではなくて、「次はどれが映像化されるのだろう」とか、「西尾先生がまた新作を書いてくれた」とか、先々の展望を考えながら作品に参加できるというのは、なかなかないことなので、幸せだなあと思いますね。

──〈物語〉シリーズのアニメ化プロジェクトは「終物語」でひと区切りとも言われていましたが、やりきったというような思いはなかったですか?

「終物語」の収録をしているときには、「続・終物語」の原作が発売されていたので、いつか映像化していただきたいという思いがすでにありました。だからこそ、今関わっている「終物語」をまずはしっかり完結までやりきって、続編の制作を皆さんが納得する形で提案していただけるようにしなきゃいけないという思いで、作品に参加していましたね。

──そしてこのたび、「終物語」の続編である「続・終物語」が公開されます。原作小説では鏡の世界を舞台にしていることから文字が反転している、という仕掛けがありましたが、アニメでは映像としてどのような表現がされるのかが気になるポイントですよね。

神谷浩史

完成形はまだ拝見しておりませんが、原作小説の章の数字がテロップとして映されるという、「偽物語」から続いてきた演出があり、あるシーンを境にその数字が反転しはじめるんですよ。そういった演出などで鏡の中の世界というのがビジュアルとして見て取れると思います。

──映像表現の面でいうと、原作小説にある暦の女装シーンは、服装についての描写はあるもののビジュアルの想像がつかず……。アニメではどのように描かれるのか楽しみです。

文章で読者に想像をさせたほうがいい表現ももちろんあるんですが、アニメのようなビジュアルを伴っているもののほうが、表現として優れていることも当然あると僕は思っているんですね。今回の女装シーンがまさにそれで、想像以上のものになっていました。

──どのような部分が想像以上だったのでしょうか?

物語の序盤に「阿良々木暦。見たまんまの男さ」というセリフがあるんですが、それを改めて物語終盤の大事なシーンに女装姿で言うんですね。文字面だけだと、女装をしているという情報は書かれていても、文章の中に要素として落とし込むのが難しいと思うんです。それが、ビジュアルを伴っていると、直江津高校の女子生徒の制服を着た姿で、「阿良々木暦。見たまんまの男さ」という、見た目と矛盾したセリフを言っていることがすぐにわかるんですよ。

──アニメになることで、さらに面白さが出てくるシーンというわけですね。

アニメ「猫物語(黒)」より。

「見たまんまの男さ」と言っているけどどう考えても間違っているというか、セリフとビジュアルのアンバランスさやギャップがものすごいんです。僕もアフレコをしているときに、初めてその面白さに気が付いたんですが、映像化されたときの相乗効果まで考えて西尾先生は文章を書いていたのかと想像すると、先生の才能が恐ろしくなりました。過去作の「猫物語(黒)」では、忍野メメに「同情してるんだろ?」と言われた暦が「同情じゃない、僕は下着姿の猫耳女子高生に欲情してるだけなんだよ」と言ってのける場面があるんですけど、あれは今回のものとは対極にあるシーンですよね。月明かりに照らされた暦が、すごく鋭い目線で抜き身の刀を肩に担いでいるという、ビジュアル面としては100点のカッコよさなんですけど、言っているセリフがどうかしているんです。

臥煙遠江との初めての邂逅はワクワクしました

──本作ではブラック羽川や、大人になった真宵など過去のシリーズからのキャラクターが数多く登場し、ファンにはうれしい作品になっています。登場キャラクターの中で、掛け合いが印象的なキャラクターはいらっしゃいましたか?

出会いのシチュエーションとしてはかなりぶっ飛んではいるんですが、臥煙遠江との初めての邂逅はワクワクしましたね。「花物語」には登場していましたが、作中ではすでに亡くなっていて、暦は絶対に会うことはないですから。そのキャラクターと邂逅して、会話ができたというのはとても意味のあることだなと思いました。

──新たなキャラクターとの掛け合いのほうが印象に残っている?

そうですね。相手が根谷(美智子)さんだったからというのもあります。僕、根谷さんのファンなんですよ。なので、久しぶりにお芝居を一緒にできてうれしかったですね。

──これまでのシリーズでは暦がヒロインを救うために行動を起こすお話が多かったように思います。今作では「終物語」を経て成長した暦が、自分のために行動を起こしているように感じました。演じていて何か変化はありましたか。

忍野扇

前作の「終物語」では、暦の分身である忍野扇を救うことが、暦が初めて自分のために戦うということに繋がっていたんですよね。でも彼は結局、扇ちゃんを助けるために行動していたのであって、自己犠牲という彼の根本的な行動理念は変わらなかったと思ったんです。今回の「続・終物語」に関して言うと、確かに暦は自分のために行動を起こしてはいるんですが、それ以上に鏡の世界の老倉育が気になっていて、「あんな彼女見ていられない」という思いが行動理念にあると感じました。なので、あくまで阿良々木暦は阿良々木暦のままなんだなと思いながら演じました。

──約1年ぶりの新作ですが、アフレコ現場の雰囲気はどうでしょう?

神谷浩史

スタジオ入って「久しぶりー」みたいな会話はありますけど、自分に課せられた役割みたいなものに対して、すごく責任感を持った人たちが集まっているので、私語よりも台本に目を落としてセリフの復唱をしている時間のほうが長いんです。基本的に原作に答えが書いてあるし、皆さん原作を読まれてくるので、演技について話し合うようなやり取りもほとんどないんですよね。今回、根谷さんは久しぶりの登場で全部の物語に関わっているわけではないので、自分の立ち位置を把握されるにあたってのやり取りはありましたが、それ以外はキャスト全員が常に台本に目を落としているというような、ストイックな現場ですね。

──それは約9年間で積み上げてきた空気感もあるんでしょうか。

僕は〈物語〉シリーズ自体を特殊な作品だとは思ってはいないんですが、現場の独特な空気感というのは確かにあると思います。シリーズが始まった当初は、変わった作品だし、現場の空気も少し変わっていたので、そこに新しいキャストが入ってきて、どうやって馴染んで行くんだろうという不安も多少ありました。だけど、まったくの杞憂でしたね。本当にどの方も現場に来た瞬間に空気を察してくださって、スッと馴染んでいくんですよね。

「続・終物語」
2018年11月10日(土)
全国劇場にてイベント上映開始
「続・終物語」
あらすじ

高校生でも大学生でもない、そんな時期に阿良々木暦が体験した、終わりの、続きの物語。
高校の卒業式の翌朝、顔を洗おうと洗面台の鏡に向かい合った暦は、そこに映った自分自身に見つめられている感覚に陥る。
思わず鏡に手を触れると、そのまま指先が沈み込んでいき……。気がついたときには、暦はあらゆることが反転した鏡の世界に迷い込んでしまっていた。

スタッフ

原作:西尾維新(「続・終物語」講談社BOX)

キャラクター原案:VOFAN

監督:新房昭之

キャラクターデザイン・総作画監督:渡辺明夫

アニメーション制作:シャフト

キャスト

阿良々木暦:神谷浩史

戦場ヶ原ひたぎ:斎藤千和

八九寺真宵:加藤英美里

神原駿河:沢城みゆき

千石撫子:花澤香菜

羽川翼:堀江由衣

阿良々木火憐:喜多村英梨

阿良々木月火:井口裕香

斧乃木余接:早見沙織

老倉育:井上麻里奈

神谷浩史(カミヤヒロシ)
1月28日生まれ。千葉県出身。声優、ナレーター、アーティストとして幅広く活躍。第2回声優アワードサブキャラクター男優賞に続き、2009年の第3回声優アワードでは主演男優賞とパーソナリティ賞を受賞し、声優アワード史上初の主要三冠を獲得。また、「化物語」阿良々木暦役で東京国際アニメフェア2010、第9回東京アニメアワード個人賞(声優賞)を受賞。主な出演作に「夏目友人帳」シリーズ(夏目貴志役)、「進撃の巨人」(リヴァイ役)、「斉木楠雄のΨ難」(斉木楠雄役)、「イナズマイレブン オリオンの刻印」(灰崎凌兵役)など。