毎日が挫折と奮起の繰り返し(伊瀬)
──本作で描かれる、「夢を諦めるかどうか」というのは、誰もが経験することなのかなと思います。おふたりにもそんな経験はありましたか?
伊瀬 デビューしてから5、6年経つまでは、毎回アフレコ終わりに悔しい思いをしていました。求められていることに応えられたっていう手ごたえを感じたことが、本当に1回もなくて。毎回アフレコから帰っては泣いて。毎日が挫折と奮起の繰り返しでした。この仕事が楽しいかもと思えたのは、5、6年経ってからですね。お芝居は、自分に足りないところをいかに補っていくという作業なので、自分自身と向き合わなくちゃいけない。それが毎日すごく苦しかったです。
──そんな時期もあったのですね。伊瀬さんは声優として20年以上のキャリアを重ねていますが、今でも監督になりたいと思うことはないですか?
伊瀬 監督になりたいという夢は、もしかしてどこかで諦めたのかもしれないですね。でも、自分の中では特に諦めたという感覚はなくて、今は本当に才能ある監督たちと、声優として一緒に仕事をさせていただくことで、自分の夢が昇華できているんだと思います。人に感動を与えたいというのが、夢の根本にあったので、それが叶えられている時点ですごく幸せです。
──花江さんも壁にぶつかったと感じたことはありましたか。
花江 声優自体を諦めようと思ったことはないですが、声優と一口に言っても、いろんなお仕事があるじゃないですか。その中には自分が楽しいと感じるもの、得意と感じるもの、それに楽しくはないけど得意なものとかもあって(笑)。その中で僕は、嫌だな、やりたくないな、苦手だなと思っても1回はやるようにしています。それを若いうちはできなかったので、けっこう悩んだこともありました。1回挑戦することで、「意外と楽しいじゃん!」と思うこともあるんですよ。僕の場合、食わず嫌いしないでどんどん挑戦した結果、いろんな仕事が楽しくなっていきました。諦めるかどうかを悩むというよりも、どういうものが自分に合っているのかを、声優をやりながら見つけていけたのかなと思います。
──伊瀬さんも花江さんのような自分なりの壁の乗り越え方はありますか?
伊瀬 私は目の前のことに全力で取り組んできたからこそ、その積み重ねで今があると思っていて。何かに悩んだり、壁にぶつかっている方がいらっしゃるなら、今自分が与えられている環境に全力を尽くすことが大事だと思います。そこで歩みを止めちゃうと、現状維持でしかないですけど、一歩ずつでもいいからとりあえず歩いていれば、いつのまにか振り返ったらすごい距離は進めている。だから、諦めないといけないかもっていうところでも、ぜひ一歩ずつ前に進むことはやめないでほしいです。
分厚いプリ帳がステータスだった学生時代
──彼方も夕も学生時代に熱中したものが、自分の夢につながっていきます。おふたりが学生時代に熱中していたものを教えてください。
花江 自分が熱中していたのはオンラインゲームですね。朝も夜もずっとやっていたくらいハマってました。今は全然やらなくなってしまったのですが、そのときにできた友達とは未だに交流があるので、いい出会いだったなと思います。
伊瀬 なんだろう? プリクラとか?(笑)
花江 ははは(笑)。
伊瀬 私が熱中していたのは、めちゃくちゃ初期のプリクラです。当時、プリ帳に自分以外の友達や、なんだったら知らない子のプリクラまでもらってぶわーって貼ってました。とにかく枚数を集めていて、プリクラにラメペンでデコレーションして「ウチらズッ友♡」みたいなことを書いて。とにかくめちゃくちゃ分厚く、それこそ紙のタウンページみたいになってました(笑)。その分厚くなったプリ帳を学生鞄に入れて持ち歩いているのがステータスでしたね。
花江 みんなやってたなー。
伊瀬 学生時代はとにかくプリクラに命をかけてましたね(笑)。それしか思い浮かばなくて……そんなのでもいいですか?
──でも、プリ帳をデコるのもモノづくりですよね。
伊瀬 確かに! プリ帳をクリエイトしていた(笑)。
──作品の話題からは離れますが、「数分間のエールを」というタイトルに絡めて、自身を盛り上げる“応援歌”があれば教えていただけますか。
花江 さだまさしさんの曲で「関白失脚」っていう曲があるんですよ。「関白宣言」からつながるような曲なんですけど。曲の中のお父さんは、結婚して子供が生まれたあと、妻にも適当に扱われて、少し頼りない、それでも家族のことを大切に思っているというような人で。誰からも応援されないから、自分のことをがんばれがんばれって励ますんです。今、配信で聴けるのがライブバージョンで、おそらく録音された頃はまだライブでもあまり演奏していないからか、お客さんも探り探り「がんばれーがんばれー」ってコールを入れているんですが、そんな中で1人の男性がめちゃくちゃ大きな声で「がんばれー!」って発するんですね。そのやり取りがすごく好きで、聴くたびに元気をもらってます。
伊瀬 素敵!
花江 すごくいいのでぜひ聴いてください。
伊瀬 私は自分がこの業界に興味を持ったり、誰かを感動させたいと思ったきっかけが、宮﨑駿監督の「もののけ姫」なんです。その「もののけ姫」の劇伴のライブ音源があって、それを聴くと、当時の何がなんでも自分はモノづくりに携わるんだっていう気持ちとか、人を感動させる作品に出たいとか、ほとばしる情熱が蘇ってきますね。自分が意気消沈したときに、原点を思い出して、気持ちを持ち上げています。
──最後に「数分間のエールを」を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
花江 自分がやりたいことと、周りが求めていることの違いへの葛藤、そしてそれとどう向き合っていくか、彼方くんと織重先生の会話では、そんなことも描かれています。少しでも悩みがある人もそうですし、何か今目標があったりする人にはぜひ観ていただきたいです。
伊瀬 Hurray!さんたちが情熱を注いで「数分間のエール」をという作品を作られて、織重夕というキャラクターを任せていただき、私もモノづくりに関わる一員として心を込めて演じました。観終わった後に、勇気を持って何か一歩踏み出したいなとか、何か新しいことに挑戦してみようかなという気持ちにさせてくれる映画になっていると思います。ぜひ周りの人も誘って観ていただけたらうれしいです。
プロフィール
花江夏樹(ハナエナツキ)
6月26日生まれ、神奈川県出身。主な出演作は「鬼滅の刃」の竈門炭治郎役、「東京喰種」シリーズの金木研役と佐々木琲世役、「四月は君の嘘」の有馬公生役など。10月放送開始予定の「ダンダダン」ではオカルン役を務める。
伊瀬茉莉也(イセマリヤ)
9月25日生まれ、神奈川県出身。主な出演作は「HUNTER×HUNTER」のキルア=ゾルディック役、「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」のフー・ファイターズ役、「チェンソーマン」の姫野役、「葬送のフリーレン」のゼーリエ役など。