優しい神様なんてのはいないんじゃないかな
──「ワンダーX」ではある種オカルトな世界が描かれますが、伊藤さんはUMAの存在を信じていますか?
こういう質問に俺はいつも「いてほしい」と答えます(笑)。脳が見せている何かだったり、特殊変異で1匹だけ生まれた何かだったりするものがUMAと言われるんだと思うんですけど……。別にいませんとは絶対言わないですし、かといってそれがなんなのかはわからないので、「見たいな」と思います。
──神様についてはいかがでしょう。
SF的なマインドで答えると、プロメテウス的な創造主はいてもおかしくないと思いますが、一方で優しい神様なんてのはいないんじゃないかなと。
──と言いますと?
だって、「SimCity」をやるときに1人ひとりのことなんか見ないじゃないですか。住民が10万人になったら「よし」とだけ思うだけで、住んでる人1人ひとりの幸せについては考えない。そういうことですよね。
──その神様観というのはマッパにも現れているんでしょうか。
そうなんじゃないですかね。故にマッパは気まぐれという。その気まぐれさから、「こいつは面白そうだな」とたまたま選んだ誰かに、気まぐれに干渉することもある。
──モミジたちがその状況にあるのかもしれませんね。90年代では都市伝説や陰謀論が流行っていて、昨今でもSNSを中心にそういった話題が盛り上がりを見せるシーンがありますが、エンタメとして「ワンダーX」を描かれる立場から、この状況をどうご覧になりますか。
ネットの情報を見るだけでなく勉強して、どう解釈するかをちゃんと精査してほしいとしか言いようがないですね。俺も陰謀論の本は読んでましたけど、基本は疑ってかかるスタンスで読むので、どっぷりハマることってないんですよ。この信心を揺るがされたのは、目の前でスプーン曲げを見たときくらいです(笑)。まったく力を入れたように見えなかったので「これは大したもんだ」と思いましたけど、そのときですら世の中の“超能力”と呼ばれるものをすべて「絶対にある」とは思いませんでしたから。
──疑ってかかることと、そういった話題を楽しむことはまた別の話になりますか。
モードを切り替えて楽しんでいますね。作品としては「そうだったら面白い」という部分が描かれますが、とはいえ「やりすぎてくれるなよ」と思うわけです。フィクションが現実を追いかけていくのはよくあることで、都市伝説的と似たような事象が起こることもありますけど、未知のものを信じる、信じないという話とはまた別物ですから。
日本にマッパのような人が現れたらどうなってしまうのか
──「ワンダーX」を読んでいると、エンタメ性の強さや読み心地のよさのようなものを感じます。
ついつい説教くさくなりがちなので、なるべくそうならないように気をつけてはいます。たぶん何かを感じることができるのは最後の最後なんじゃないですかね。まずは昔の“あるある”とかで興味を持ってもらえたらいいなと。スティーヴン・キングの小説みたいにエンジンがかかってくるのはこれからなので、早くそこに辿り着きたいですね。
──物語のボリューム感はどれくらいを想定されているんでしょうか。
アニメ1クール分……と考えていたんですけど、すでにだいぶ違ってきています(笑)。でも大長編と言うよりは、短くスパッと終わることを想定してます。
──アイデアがどんどん膨らんできているんですね。とは言え単行本は現在2巻なので、これから読む方でもまだまだ追いつけます。どんな方におすすめしたいですか。
アラフォー、アラフィフに対しては、自身の体験を振り返りながら懐かしい感情を持って読んでもらいたいです。「ワンダーX」にはたくさんの90年代カルチャーが詰め込まれているので、若い人には「あなたが生まれる前はこんな感じだったんだよ」ということを知ってもらえればうれしいかな。
──90年代が舞台ですが、子供たちが抱えている悩みは普遍的なもののように感じます。
そうですね。昔だけの悩みを抱えて生きてる人たちではないので、その面では年代のギャップを意識せずに読むことができると思います。最近の流行りとは違った類の作品を読みたくなったときには、こういうのもありますよ。とお伝えしたいです。
(編集担当) 自分も最近あまり見かけないような作品だと感じています。じわじわと読み進めたくなる物語が好きで、展開が早い作品に疲れている人にぜひ読んでほしいです。子供時代を振り返ると、不思議な大人って身近にいたと思うんですよ。もし子供の頃、夏休みにマッパがいたら、自分はどうなっていたんだろうと考えながら物語を楽しんでほしいです。「ストレンジャー・シングス」や「スタンド・バイ・ミー」が好きな人におすすめしたいですね。
──まだまだ謎に包まれた部分が多いので、これからの展開が楽しみです。では最後に、今後の「ワンダーX」の見どころをお聞かせください。
後半では「日本にマッパのような人が現れたらどうなってしまのか」というシミュレーションが描かれていきます。未知の存在が現れて家のガレージに住み着いたら、警察に言いませんか? たとえそれがどれだけ善良であっても、疑いの心をゼロにすることができますか? ということが問われます。1巻の最後でモミジはマッパに対し「世界のあり方も変えてしまうのでは……?」と考えていて、たぶんそうなっていくんです。でもその変化を起こす存在って、意外と現実の人物にも置き換えられるような気もするんですよね。そして我々が“宇宙人”と呼んでいる人が一体なんなのかというのは、現実的な考え方で捉えられるんじゃないかと思います。そういう話に辿り着いていきたいと考えているので、楽しみにしていただければと。
プロフィール
伊藤智彦(イトウトモヒコ)
1978年10月20日生まれ、愛知県出身のアニメーション監督。2010年にTVアニメ「世紀末オカルト学院」で監督デビュー。2012年に監督2作目となるTVアニメ「ソードアート・オンライン」が話題を呼び、のちに「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」で長編初監督を果たす。2019年にはオリジナルアニメ「HELLO WORLD」が公開された。また2022年にコミックNewtypeで連載が開始された「ワンダーX」の原作を手がけている。
原作を初めて読んだ印象
最初に拝読したのは構成の村上さんのほぼ小説と言って良いような文章でした。
伊藤監督ご自身もおっしゃっていますが、
その頃見ていたNetflixの「ストレンジャー・シングス」や映画「IT」の序盤みたいな……
スティーヴン・キング的な魅力のある物語背景。
そして少年少女が夏に出会うジュブナイル センス・オブ・ワンダー
いい意味で胡散臭い要素も入った展開に惹き込まれましたね。
見どころはやはり、子供たちがピュア~なゆえに危うき綱渡りをやらかす
青春なシーンだと思います、キッズぶりがリアルでハラハラします……
己らが大人になるにつれ置いてきた素直さとか、もどかしさも応援したくなりますね。
偶然手の中に転がり込んだ怪現象、得体の知れないパワーに
幼心がくすぐられるわくわく感、宇宙人、奇妙な町人、変死体……
小さなこと(十分大事なんですが)から何かが起こる、予感に満ちた走りだし。
最初に読ませてもらった時点で後半の展開も書かれていまして
そのあたりの盛り上がりシーンも早くマンガで描きたいです。
また、伊藤監督は毎話コンテを描いてきてくださるので、
映像的な演出がマンガに落とし込めているんじゃなかろうか?!
と、作りながら思ってるので、そう見えてるとうれしいです。
余談ですが
元々、黒山家は「世紀末オカルト学院」のアニメが好きだったので
毎回その伊藤監督の動画が再生されているなぁという感じがする
役得を味わっております(突然の自慢)
「ワンダーX」をなんとかしてアニメで観れないものかとよく思います。
お気に入りのキャラクターについて
全キャラに満遍なく出番があるので決めづらいです。
単品だとマッパですね。
人間一年生感があるおかしなキーマンなので……
やっぱり一番気になる人(?)です(笑)。
ペアだとトムモミジ
可能性を感じるのはノア
なごみ枠はホンダ……
おばあちゃんとモミジの組み合わせもよいですね。などなど
「イチオシはコイツだ!」と、決めきれない感じですみません。
那由多はどう足掻いても可愛い枠かなと思います。
「ワンダーX」を描くうえでこだわっている箇所や、注目してほしいポイント
洋画的な演技の感じや見た目にはこだわっていますね。
今までやってきた仕事では没になりやすそうな
ドレッドヘアのデザインを出したんですが
すんなり採用してもらえたのは新鮮でした。
また、イメージ出しや打ち合わせで各キャラの特徴をかなり揉み込むので、
そのあたりのキャラ性が読者さんにわかりやすく伝わるよう心がけています。
よく監督たちからキャラデザインの指定があったこだわりポイントと言えば
「カッコよくなりすぎないように」が印象深いです。
黒山はキメキメな絵を描くのが実は好きなので、
マッパのタンクトップは椛子パパからの拝借品だと
思い出しつつ、くたびれ感は毎回気を遣っております。笑
プロフィール
黒山メッキ(クロヤマメッキ)
2人組ユニットのマンガ家。2008年のデビュー後、「かみさまサクリファイス」「乱歩奇譚 Game of Laplace」「神サー!~僕と女神の芸大生活~」「異世界帰りの元勇者ですが、デスゲームに巻き込まれました」などを連載する。2022年からはTVアニメ「ソードアート・オンライン」などの監督・伊藤智彦が原作を手がける「ワンダーX」のマンガを担当している。