「ワンダーエッグ・プライオリティ」野島伸司(原案・脚本)インタビュー|脚本家・野島伸司はアニメの世界に何を求めた?

彼女の声を聞いたときに「いけるかもしれない」

──野島さん自身アニメがお好きだとお聞きしたんですが、どういった部分に惹かれるのでしょう?

やっぱり声優さんのスキルがすごいんですよ。この声いいな、うまいなと思うと誰だろうと気になってスタッフロールで確認して、そこから調べてほかにどういう作品やってるんだろうというふうに、どんどん観ちゃう。顔もわからないうちに声からファンにさせるってすごいなって。だから声優さんにファンがいっぱい付くのはわかりますね。

──野島さんはストーリーを気にされるのかと勝手に思っていたので意外でした!

キャラハマりすると、グッズとかも買いたくなっちゃうんですよ。「ハイスコアガール」はマグカップとか買っちゃったもんね(笑)。

──ますます驚きました! 今回、大戸アイ役で主演を務める相川奏多さんの声については最初の印象はいかがでした?

大戸アイ

相川さんの声がデータで送られてきたときに、もちろん顔も知らないんですけど、この子の声いいねって若林くんにも伝えたんですよ。これまでアニメをたくさん観ていて、この声優さんの声いいなとか思っていた感覚と同じものを感じました。主役の子の声ってどんなのだろうっていう想像はしても、イメージできなかったんですけど、彼女の声を聞いたときに、いけるかもしれないなと思いましたね。力強いけど、震えているような声の感覚がすごくいい声だなというか。僕もたくさんアニメを観ましたけど、あまりいないよなって。

──ほかにも気になったキャストさんはいましたか?

長瀬小糸

小糸役の田所(あずさ)さんの声もすごく好きですね。ゾワッとくるもんね。色っぽい声をしてるから、バックボーンのヒントを声で与えることができるじゃないですか。そこがうまいなというか、すごくいいキャスティング。あんまりはつらつとしていたり、幼い声だと、キャラクターとリンクしづらいけれど、あの声だとすんなりリンクできるというか。

──田所さんの演技があるからこそ、長瀬小糸のキャラクターやバックボーンがどんどん深みを持ってきていると思います。ここまでも名前が何度か出てきましたが、若林監督の印象についてもお聞かせください。

何かいいものができるときって1つ2つすごくツイていることがやっぱりあるんですよ。それの大きな1つは、まだTVアニメの監督をやったことのない、世の中的には無名に近いけど才能のある若林くんが参加してくれたこと。自分の画作りをわかってもらいたいという自己顕示欲や、クオリティを落とせないというような偏執的な性格を彼から感じて。自分も20代の頃にデビューした当時そういうものを持っていたので、このタイミングで若い彼が来たということは一番大きいことでしたね。

──会見では「若き天才」だとたびたびおっしゃっていましたが、そう感じた出来事があったのでしょうか?

クリエイティブな人間だというのは、会ってちょっと話せばわかるんですよ、7割くらいはね。制作が始まる前に、若林くんがどういう映像を作るかもまったくわからないまま2回くらい飲みに行ったんです。彼も緊張していたのか、すごいお酒が進んで酔っ払って、僕の目の前で店員が持ってきたビニール袋に吐いちゃったんですよ。普通それを捨てるか、あるいは気持ち悪くなった時点でトイレに行くじゃないですか。でもそのビニール袋を持ったまま、まだ話し続けるんですよ(笑)。もう普通じゃないですよね。そのときになんか任せて安心だなって、逆にね。

アニメ「ワンダーエッグ・プライオリティ」より。

──逆にですか。

やっぱり、ちゃんとした人はちゃんとしたものは作るかもしれないけど、まともじゃない人だからこそ偏執的なこだわりや、フェチズムもあるだろうし、そういう部分もそのときに若林くんから感じたので。まあ問題ない、彼の好きなように任せようと。若林くんにもこの話はしてないので、なんで僕が「若き天才」なんてふうに言っているのかわかってないと思いますよ(笑)。

深読みした考察とか、二次創作を読んでみたい

──数々の名作ドラマを手がけてきた野島さんですが、これまでに手がけた作品、またはそのテーマでアニメにしてみたいものはありますか?

テーマって意外と後から来ることが多いんですよ。今回も先に10代の子たちの群像劇を書きたいというのがあったわけで。テーマから考えちゃうと説教臭くなっちゃったりするんですよね。

アニメ「ワンダーエッグ・プライオリティ」より。

──重いテーマの作品ほど、書き手の伝えたいことが前提にあるのかと思っていました。

今回も自殺とかを扱った話ですけど、「死ぬなんてだめよ」とは僕は言わないようにと。普通に考えたらそう説得したり、言うことが正しいけど、死んだらだめよっていうようなテーマを考えちゃうとありきたりに説教臭くなっちゃうんで。

──作品を通して説教をしたいわけではないと。

残された人と亡くなった人のどっちが悲しいかっていう話で、よく残されたほうがつらいっていう意見もあるじゃないですか。僕はそうは思わなくて、それは亡くなった人のほうがつらいでしょって。つらいのがトランスして背中を押されて自殺を選んでしまったんだろうし。もちろん子供を失うとかいう場合はもう問答無用に違うだろうけど、知り合いとか友達だったらやっぱり時間で癒やされていっちゃいますよね。やっぱり残酷に忘れていく。その論理でいくと、残されるつらくないほうの人が、死ぬなんてだめよって言っても説得力があるわけないじゃん、みたいな。だから僕はそういうことが言いたいわけじゃないんです。

──作中でも、小糸を助けようとするアイが正しいというようには描かれていませんよね。それこそ、アイはねいるに「本当は自分の為なのではないか」と指摘されて動揺を見せたり。キャラクターたちが、失った人に対してどういう考えを持っているのかもこのアニメを観るうえで楽しみです。最後の質問になりますが、アニメの中でここに注目してほしい、こういうことを感じてほしいというポイントがあればお聞かせください。

それは、人それぞれだからこっちから言ってもしょうがないことなんですよね。それぞれの人が、勝手にいろいろ想像して感じてくれるのが僕としてはうれしいです。それこそ、そこまで考える!?みたいな、すごく深読みした考察とか、二次創作を読んでみたい。

──そういった楽しみ方はアニメやマンガ特有かもしれないですね。

アニメ「ワンダーエッグ・プライオリティ」より。

今、リアルタイムでテレビを観ている層は、与えられたものを鑑賞するということが基本になっていて、歳を重ねても価値観を固定してない人を除けば観ているものに対して想像を巡らせるなんてことはまずないわけなんですよ。書き手としては、これ嫌だなとか、腹立つなとか、いろんなことをよくも悪くも感じて、作品を観ながら血圧を上げてもらうことが一番うれしいんです。それは、アニメファンのようなリテラシーのある視聴者層だから特にそう感じてくれると思ったわけで。だから、強いファンができると同時に、強いアンチもできるかもしれないけど、それでいいと思っています。