「テスラノート」|超常現象専門誌・ムー編集長 三上丈晴に聞く天才発明家ニコラ・テスラと都市伝説

TVアニメ「テスラノート」の放送が10月3日にスタートする。本作は、幼少期から最高の諜報員として育て上げられた少女・根来牡丹と、自称ナンバーワン諜報員・クルマが、超常的な力が秘められたアイテム“テスラの欠片”の回収という世界の命運を懸けた任務に挑んでいくスパイアクションだ。

コミックナタリーでは「テスラノート」の放送を記念した全3回の連載を展開中。第2回では作中で“テスラの欠片”を生み出した者として描かれる実在の天才発明家、ニコラ・テスラにスポットを当てた企画をお送りする。後世に名を残す発明品を生み出しながら、一部の実験が都市伝説としても語られることの多いテスラ。そんな彼について、超常現象専門誌・ムー(ワン・パブリッシング)にて長年編集長を務める三上丈晴を迎え、テスラの人物像やアニメでも扱われる「フィラデルフィア計画」について話を聞いた。

なおコラムで語られるテスラ像は、あくまで三上の見解であることをご留意いただきたい。

取材・文 / 粕谷太智

ニコラ・テスラとは

ニコラ・テスラ

アニメ「テスラノート」を楽しむにあたって、ぜひ知っておいてほしいのが実在の人物としてのニコラ・テスラである。1856年生まれ、旧オーストリア=ハンガリー帝国の出身で、のちにアメリカに渡るテスラは、“発明王”エジソンと同じ時代を生き、彼のライバルとしても語られる天才発明家だ。ラジオ、蛍光灯、発送電システムなど、我々の生活に欠かせない発明を次々と世に送り出しており、電気・電磁波関係において史上最高の科学者のひとりであると言える。

偉大な功績とともに後世へその名前を残してきたテスラだが、一方で都市伝説、オカルトといった方面でその名前を知った人も少なくないだろう。アメリカ海軍のもとでテレポーテーションの研究をしていたと言われる「フィラデルフィア計画」、“地震兵器”“殺人光線”といったSF顔負けの発明、さらには異星人との通信など都市伝説的な話題に事欠かない人物なのだ。

“発明王”エジソンのライバル、真面目な天才発明家ニコラ・テスラ

「テスラノート」の作中では、自身の超常的な研究成果を水晶に封印し、「テスラの欠片」を生み出した人物として描かれるテスラ。では、実在のテスラはどんな人物だったのだろうか? 三上はテスラについてその印象を次のように語ってくれた。

ムー編集長の三上丈晴。

「もちろん天才なんだけれども、テスラって非常に真面目なんだよね。理論的な部分と技術的な部分を高いレベルで持ち合わせていて、実験のセンスなんかもよかった。テスラは、政治にまったく興味がなくて、そことは距離を置いていたんだよ。純粋に研究にだけ打ち込んでいて、だから死んだ時もバッグ1つくらいしか持っていなかった。アメリカの5大財閥の1つであるモルガン財閥の支援を受けていたこともあって、豊富な資金源は持っていたけど、そういったものもすべて研究に費やしてしまっていて」

一説には戦争反対論者であったというテスラ。「テスラノート」の作中でも、テスラの発明は人を傷つけるために生み出されたものではない。自分の研究の超常的な力をセーブし、いつか正しく使われる日が来ることを願って、その研究を封印する人物としてテスラは扱われている。三上の話を聞く限りでも、テスラが政府や軍に手を貸し、危険な実験を行う人物とはどうにも思えない。しかし、「政府・軍への協力自体が都市伝説であったのか?」と問うと、「協力していたのは間違いない」と三上は話しはじめる。

「アメリカ政府としてもテスラの先見性というか、才能を非常に高く買っていたんだよね。そもそも政府が研究に目をつけるっていうのは、全部軍事的なことなの。政府はいかにして、テスラの技術・発想なりを軍事利用できないかってことを考えていた。そのうえで、政治に興味がないテスラは政府としてもやりやすい相手だった。実験の成果だけどんどん出して、テスラもそれで幸せだったんだから」

「テスラノート」の作中でテスラは、超常的な力が秘められたアイテム“テスラの欠片”の回収を依頼する。

かといって、テスラが喜んですべての実験に力を貸していたかというとそうでもない。「テスラノート」の作中にも名前が登場し、この記事でもその詳細を紹介する「フィラデルフィア計画」では、テスラも実験の危険性に嫌気が差し序盤で手を引いていたというのだ。

テスラにつきまとう都市伝説と“世界無線システム”

研究成果や記録が数多く残っていながら、「フィラデルフィア計画」「世界無線システム」といったテスラの発明や実験は都市伝説的に語られやすいものでもある。三上はそうした都市伝説も「実際にあったものだ」としながら、次のように解説してくれた。

「当時としては、地震兵器とかレーザー兵器とか、とにかく発想がすごかったからということもあるでしょう。ただ、『フィラデルフィア計画』なんかの情報が少ないのは、こういうふうな実験がありましたという話になったときに、当然ながら広まってほしくないと思う人がいたわけ。テレビもないような時代だから、情報操作も難しくなかった。“世界無線システム”も最終的には実現まで行かなかったけど、本気になれば実現はできたはずだよ。この“世界無線システム”が完成すれば、電気も無尽蔵に取り出すこともできるし、送ることもできる。さらにもっと言えば、タダで電力を手に入れられるようになると考えられていたんだよ。ただ、電力っていうのは社会の基盤だから、エネルギー問題に直結する“世界無線システム”みたいなものは、その利権を持った人たちがよく思わなかった。エネルギー問題には触れちゃだめね。それが利権というものだよ」

“世界無線システム”とは、地球の電離層を使うことで大量の電気を有線ではなく無線で、しかも地球の裏側まで送れるという夢のような送電方法のことだ。実際に巨大な鉄塔ウォーデンクリフ・タワーが建てられたが、実験は頓挫。夢物語のように語られることになった。

今はなきウォーデンクリフ・タワー。

テレポートと「フィラデルフィア計画」

「テスラノート」にも登場し、テスラを取り巻く都市伝説の中でも特に有名な「フィラデルフィア計画」についても三上に聞いた。作中では「フィラデルフィア計画」について、1943年10月28日にアメリカのフィラデルフィア沖で行われた軍事実験であったと説明がされている。また広く都市伝説として知られる内容と同じく、この実験によって駆逐艦エルドリッジが370kmほどの距離を瞬間移動したこと、その結果、乗組員の体が壁に溶け込んだような悲惨な状態で見つかったことなどにも触れられている。

「テスラノート」より。“テスラの欠片”の力により、列車が突如空から現れる。

「『フィラデルフィア計画』というのは、船をレーダーに映らなくする技術、いわゆる消磁化を実験していたんだよね。この実験には高電圧を発生させるためテスラコイルが使われていて、テスラも参加することになった。だけど、2回目の実験で消磁を起こしながら移動したことで、テレポーテーションが起こったんだよ。このとき、テスラコイルは暴走していて、それによって船員たちも亡くなってしまった。船内の様子は写真も残っていて、壁とか床から手や頭が生えているように溶け込んでいるような状態だったとか。この現象が一番の謎で、軍はこの現象を起こす技術を欲しがったとも言われているんだよね」

「テスラノート」より。ワープによって移動した列車内は悲惨な状況に。

先ほども述べたが、この事件が起こってなお実験を進めようとした軍に嫌気が差したテスラは、この計画から手を引いたと言われている。また写真などが残っていながらもなぜ、「フィラデルフィア計画」について不確定な情報が多いのか尋ねると三上は、「軍は半分とは言わないけど1/10くらい本当の情報を入れて、政府が偽物の情報を出していたんだよね。だから調べると、公にされている情報とは、日付や場所なんかが違うデータが実際に出てくる」と答えてくれた。

“ムーちっく”な「テスラノート」

ここまで、都市伝説として語られるテスラの謎の一部に迫ってきたが、長年ムーの編集長を務めてきた三上は、「テスラノート」のように都市伝説や超常現象を扱う作品をどう見ているのだろうか。

「UFOとか超常現象ってマンガやアニメの世界じゃ当たり前じゃない。それらを足し算でバンバン入れてくると、フィクションだからなんでもありだよねというふうにリアリティがなくなっちゃう。だから、テスラみたいに“ムーっぽい”テーマって扱いが難しいんだよね。リアル感を出すためにはそういった要素を引き算していかなきゃいけない。そういう意味では、歴史的な人物のテスラを扱って、現象自体も派手にしすぎずに描かれている『テスラノート』はある種“ムーちっく”だなと思ったね」

TVアニメ「テスラノート」キービジュアル

スパイアクションとしてだけでなく、都市伝説的な面からも楽しめると、“ムーちっく”という言葉を使って「テスラノート」へ賛辞を贈ってくれた三上。最後に、三上にはアニメ「テスラノート」を観た感想も聞いた。

「テスラの研究を狙う組織が出てきて、そこに日本がうまく絡んでくる。主人公は和歌山の紀州にルーツがある根来衆の忍者でしょ。根来衆は今でもいるし、国の機関のトップがその末裔だって言われているからね。それに、テスラの研究成果がこの作品では『テスラの欠片』に置き換えられていて、それをスパイたちが奪い合う。現実でもテスラの研究成果をアメリカ以外の国も欲しがっていたから、当時もスパイたちが暗躍していたはずだね。今後の展開が楽しみだよね」

三上をして、現実が都市伝説で語るよりももっと恐ろしいと言わしめるニコラ・テスラ。「テスラノート」をスパイアクションとして牡丹とクルマのバディの活躍を楽しむのはもちろんだが、テスラを知ることで彼らが命がけで回収する「テスラの欠片」の謎にも少し近づけたのではないだろうか。

三上丈晴(ミカミタケハル)
1968年生まれ、青森県弘前市出身。1991年、学習研究社入社。入社1年目からムー編集部に所属。2005年に5代目編集長に就任した(2020年より、ムーは学研からワン・パブリッシングに承継)。現在もムー編集長として、イベント出演など精力的に活動している。