片桐仁が語る「天地創造デザイン部」|生き物のデザインって、機能性だけでは語れない

神様からの依頼で生き物たちを創造する会社・天地創造社のデザイン部を舞台にしたお仕事コメディ「天地創造デザイン部」が、現在放送・配信中だ。「実在する生き物たちは、なぜこのような形状・生態になったのか?」をわかりやすく紹介するという教育的な側面を持つこの作品は、文化庁・国立科学博物館とのコラボ(参照:「天地創造デザイン部」文化庁&国立科学博物館とコラボ、榎木淳弥らの音声ガイドも)や、アニメの第1話を収録したDVDを全国の学校や図書館に無償で貸し出すといった施策(参照:「天地創造デザイン部」全国の学校・学童クラブなど対象に第1話を無償貸し出し)を積極的に行っている。

では実際に子供を持つ親は、このアニメに対してどういう感想を持つのか? コミックナタリーでは、小学生と高校生の父親である片桐仁に作品を観てもらい、話を聞いた。また芸人や俳優だけでなく、美大出身でアーティストとしても活動する片桐は、デザイナーたちが奮闘するお仕事コメディとしての「天地創造デザイン部」にどういう感想を持つのかも注目だ。

取材・文 / 松本真一 撮影 / 笹井タカマサ

「天地創造デザイン部」とは?

万能の神は光、水、大地を創ったが、生き物を創るのは面倒になったので下請け会社に任せることにした。地上のあらゆる生き物は、神(=クライアント)からの発注により、デザイナーが案を出し、エンジニアが実現可能か検証することによって生まれる。「シマウマはなぜシマシマなのか?」「ユニコーンってなんで実在しないの?」といった疑問を、下請け会社・天地創造社の奮闘を通じた形で学ぶことができる知的なお仕事コメディ、それが「天地創造デザイン部」だ。
アニメはTOKYO MXほかにて放送中。またAmazon Prime VideoおよびdTVにて見放題独占配信されているほか、4月1日にはAmazon Prime Video限定で特別編も配信予定だ。蛇蔵&鈴木ツタ・たら子による原作はモーニング・ツー(講談社)にて連載されている。

片桐仁インタビュー
片桐仁

親子で観るのにも向いていると思います

──片桐さんは、アニメ「天地創造デザイン部」の第1話をたまたまテレビで観ていたらしいですね。

そうなんです、タイトルが気になって。「天地創造」ってあるから一瞬「異世界ものかな?」って思ったんです。

──異世界転生ものがお好きなんですか。

はい。異世界転生とか、なろう系はやっぱりオタクの夢ですよね。オタク属性がない人には全然面白くないんでしょうけど。「転生したらスライムだった件」なんかアニメだけじゃなく、原作の小説まで全部読みましたから。それでこの作品も「天地創造? どんなアニメなんだろう?」と思って1話を観たんです。

──美大出身で、アーティストとしても活動している片桐さんとしては「デザイン部」という部分も気になるのでは。

そうなんですよね。そして実際に観てみたら、神様という名のクライアントにお題を出されて、会社のデザイン部で生き物を考えるっていうアニメで、「Eテレの番組みたいだな」と(笑)。天地創造社、大手ではない感じがしますよね。少ない人数で得意分野を絞ってやってます!っていう。

「天地創造デザイン部」第1話より。
片桐仁

──1話は「すっごい高いところの葉っぱが食べられる動物」という神様からのオーダーを受けたデザイン部が会議するというお話から始まります。

それで室長の土屋さんが、馬に羽を生やしたデザインを提案するんだけど、エンジニアの火口さんに「こんな大きい生き物が飛べるか!」って怒られて。そこで「あ、ペガサスってこういう理由で実在しないんだ!」って視聴者もわかるというね。そういうアプローチで生き物を語るアニメなんだなと。

──ペガサスが現実に空飛ぶ生き物として存在するなら、羽を動かすために筋肉ムキムキにして、さらに体を軽くするために鳥と同じぐらいフンの回数を増やさないといけない、ということが作中で語られてましたね。

ユニコーンならツノをつけると骨粗しょう症になっちゃうとかね。今回、10話まで観させていただいたんですけど、そういう理系というか、生物学的なところばっかり取り上げてるわけじゃないのがいいなと思いました。

──確かに「天地創造デザイン部」でも、機能性だけで作られてるわけじゃないな、という不思議な生き物が数多く紹介されています。

「天地創造デザイン部」第5話より。

ラッコなんかそうですよね。

──そもそも神様からの発注が「泳ぎがヘタな動物」というものでした。しかもデザイン部の面々が、面白がってウニやカニなどの高級食材を食べさせてグルメになってしまったせいで、ラッコは美味しい生き物がたくさん住んでる寒い海に住むことになるという(笑)。

もともとかわいい肉球をつけてたから、寒い海だと肉球から体温が逃げちゃう。寒いとこに向いてないじゃん!って思ってたら、海が冷たいからってバンザイしたまま浮くことを覚えて(笑)。

──あざとく見えるけどかわいいんですよね。さらにデザイナーの海原さんが「いい毛皮を着せよう」とか、「体温をキープするために量を食べなきゃいけないから陸で寝る時間がない、海で浮いたまま寝ればいい」という感じで決めていった結果、どんどんかわいい生き物になりました。

泳ぎがヘタだから流されないようにコンブを体に巻いたり、ほかのラッコと手をつないだりして、かわいいー!っていう。「こういう発注があった結果、紆余曲折があってこうなっただけ」とか、「たまたまできた生き物が発注と合ってただけ」という流れで生き物のデザインが決まることもあるんだなって(笑)。

──「エサを取りやすくするために爪を大きくすればいい」という意見もあったけど、かわいくないからという理由で却下されてましたよね。

お話的にも機能性、便利さだけの回ばっかりになっても面白くないですから。大喜利的に、「実はこの生き物がこの形になったのはこういう理由があるんだ」という回もある。それが面白いですよね。そういう考えができたら生き物の見方も変わると思います。

──なるほど、生き物を見たときに、「神様からどんな発注があったのかな」とか「デザイナーがどんなやり取りしたのかな」と考えるのは生物学的な視点とは別のファンタジーな部分なんですけど、そこがいいと。確かに大喜利力というか、想像力が養われるかもしれませんね。

そうそう、だから親子で観るのにも向いてると思います。

ああいうクライアントとのやり取り、役者と演出家でもあるんです

──「天地創造デザイン部」は、学校や国立科学博物館と組んだ施策を行ったり、お話の合間に「本当にいる生きもの図鑑」というトリビア的な映像を挟んだりしていて、子供も意識している作品だと思います。新人天使・下田役を務める榎木淳弥さんも「親御さんが安心して子供に見せられる、健全なアニメ」と語っています(参照:「天地創造デザイン部」榎木淳弥が「安心して子供に見せられるアニメ」とアピール)し。今日片桐さんにインタビューのお願いをしたのも、お子さんがいらっしゃるからという部分も大きいんです。

そういうことなんですね。でもこのアニメの、クライアントとの仕事のやり取りは、子供にはちょっとわからないかもしれないですけどね(笑)。

──その会社あるある的な部分が、大人には面白いところでもあるんですけど(笑)。金森さんの「クライアントの“おまかせ”が“おまかせ”だったことなんてなーい!」というセリフなんかは、社会人なら共感できると思います。

クライアントはちゃんとした完成物のイメージがないまま「自由にやってくれ」みたいなことを言ってくるもんなんですよ。あれ、嫌ですよねー。そういうの、役者と演出家さんでもありますから。「ちょっとこの役やってみて」って言われて、演技してみたら「どう?」って。こっちに全部聞く?って。

片桐仁

──自分が演出プランを決めてないから1回やらせてみるわけですね(笑)。

こっちとしても、そうやって自由にさせられたら文句を言うくせに、全部決めてくる演出家に対しては「なんで決めてくるんだよ」って思っちゃうんですけどね。あとペガサスの話でしたっけ、金森さんが神様に振り回される回もよかったですね。「自由にしてくれ」って言われてデザインしたのに、提案するたびに「一個前のほうがよかった」とか「馬にこだわりすぎでは?」って却下されて、金森さんがキーキー言って。お仕事ものとしても面白いですよね。デザイナーって華やかで夢がある職業に見えるけど実際は大変で、2日徹夜することもあって、みたいな部分も描かれていて。

──片桐さんは粘土作家としても活躍されていますけど、作品を作るときは、クライアントとのやり取りで「天地創造デザイン部」のような苦労はありましたか?

粘土に関してはありがたいことに、向こうがまったく期待してくれなかったので(笑)。怒られもせず、褒められもせず。雑誌連載も、何も言わずに毎月載せてくれましたね。