KADOKAWAが今年も、きらりと光る縦スクロールマンガを探し中!「タテスクコミック大賞」第1回の受賞者たちに聞く

近年、話題を集める縦スクロールマンガ(webtoon)。気軽にスマートフォンやタブレット端末で読めるのが魅力の1つで、読者が続々と増加している。それに伴って、これまで雑誌やWebサイトを中心に作品をリリースしていた出版社も、次々と縦スクロールマンガに挑みはじめているのをご存じだろうか? 少年エースや電撃大王をはじめ、数々のマンガ誌を擁するKADOKAWAもその1つ。昨年から社内の全マンガ編集部が参加する「タテスクコミック大賞」(第1回は「縦スクロール漫画大賞」)を開催し、新たな縦スクロールマンガの才能を発掘している。

その第2回募集に合わせて、コミックナタリーでは第1回にホラーアクション作品「エンラ」で応募し、大賞を受賞した諏訪童角にインタビューを実施。「タテスクコミック大賞」ならではのポイントや、既存の右開きマンガではなく縦スクロールマンガに挑むメリットなど、投稿者だけでなく縦スクロールマンガ読者も気になる話を聞いた。

取材・文 / 太田祥暉(TARKUS)

「タテスクコミック大賞」

スケジュール

応募期間:2022年3月25日(金)~8月31日(水)23:59
最終選考対象作品発表:2022年10月予定
最終選考結果発表:2022年11月予定

部門

女性向け異世界ファンタジー部門
男性向け異世界ファンタジー部門
女性向け恋愛・ラブコメ部門
男性向け恋愛・ラブコメ部門
オカルト・ホラー部門
バトル・アクション・サスペンス部門
日常・ドラマ・BL部門
コミックエッセイ部門
※気になる部門すべてに応募可能。

各賞

大賞
賞金300万円+タテスクコミックとして連載デビュー確約

部門金賞
賞金50万円+タテスクコミックとして連載デビュー確約権

部門銀賞
賞金10万円+タテスクコミックとして連載デビュー確約

佳作

応募資格

プロアマ、国籍、性別、年齢問わず
※KADOKAWAの雑誌・Webで作品を連載中の人および、2020年1月1日から2022年8月末日までにKADOKAWAの雑誌・Webで作品が掲載されて単行本化された人を除く。

応募はこちらから!

諏訪童角インタビュー

「タテスクコミック大賞」に応募したのは、ページ数の上限がないから!?

──まず、諏訪先生が「タテスクコミック大賞」に応募されるまでのお話から伺いたいのですが、もともとマンガを描かれていたのですか?

いや、普通にサラリーマンをやっていました。でも、2020年の夏ぐらいにふと、「マンガを描いてみよう」と思ったんです。そこで描き始めたのが、受賞作になった「エンラ」だったんです。

──人生で初めて描いたマンガで、デビューされたんですね!?

そうなんですよ。それまで「ジョジョの奇妙な冒険」とかマンガは普通に読んでいましたけど、特に描くということはなかったですね。「エンラ」を描いた理由も、急に思い立ったからですし。

──その時点で縦スクロールマンガも読まれていたんですか?

縦スクロールマンガの存在は知っていたんですけど、そんなに読んでいませんでした(苦笑)。

──となると、どうして「エンラ」を「タテスクコミック大賞」に……?

「エンラ」を描き始めたときは、右開きのページをめくるタイプだったんですよ。その方式で考えてネームを描き始めたんですけど、1話分が50ページを超えることがわかったんです。ただ、賞とかの募集要項を見ると、1話分ってだいたい50ページ以下なんですよね。その時点では賞に応募することなんて考えていなかったんですけど、「エンラ」ではそのページ数に毎話まとめるのが無理だなと悟ったんです。じゃあ、もう100ページを超えてもいいから同人誌や配信サイトで公開するかなと軽い気持ちで考えていたくらいで。でも、そんなときにたまたまKADOKAWAさんの「タテスクコミック大賞」の存在を知ったんです。

──そこで縦スクロールマンガに舵を切った。

はい。その募集要項を見たら、ページ数に制約がなかった。それならば、縦スクロールマンガにすると「エンラ」をキリのいいところまで描けそうだなと思ったんです。それから、急遽縦スクロールマンガとして作り直して、応募したんですよ。こんな言い方をするのもどうかとは思いますけど、僕にとって「タテスクコミック大賞」の一番のメリットはページ数だったんです(笑)。

──(笑)。「タテスクコミック大賞」はKADOKAWAさんの全マンガ編集部が審査したり賞金が300万円だったりという点も魅力ですが、諏訪さんはページ数無制限というポイントが、一番光って見えたんですね。

もし落選したとしても、そのときは個人で出せばいいやと考えていましたからね。それに、「エンラ」はそんなにワクワクするような作品ではないので、大賞はムリだろうと半ば諦めていたんです。言わば、記念受験。佳作くらいに引っかかればいいなという感じで応募していました。

──それでも無事受賞されたわけですが、担当さんから報告された際の心境はいかがでしたか?

半ば諦めていただけに、びっくりしました。これが第1回の大賞でいいのか!?とも思いましたね。

(担当編集) 僕は縦スクロールマンガって、リズム感が大事だと考えているんです。諏訪さんが描かれた「エンラ」は、マンガに初挑戦されたにもかかわらず、コマの間隔や演出のバランスがとても気持ちよかったんですよね。最初に読んだときに凄まじい才能を感じたので、大賞に推させていただきました。

「エンラ」より。

「エンラ」より。

あと、自分ががんばったものを仕事にできた充実感がありました。一念発起してマンガを描いて、それが大賞になった。もちろん、マンガ家というのはもともと想像していたように大変ですけど、それ以上に幸福を感じますね。

「エンラ」から見る、縦スクロールマンガを描くうえで大切なこと

──「エンラ」という作品は、ある事件によって左手と両脚を失った主人公・陽介の中に潜む闇の人格・エンラが、自分の人生を狂わせた存在を探すべく事件の犯人を裁いていくという物語になります。凄惨な描写もありつつ、先ほど担当編集さんがおっしゃったように気持ちいいリズム感が魅力ですが、こういった物語を描こうと思われたのはどういった経緯があったのでしょうか?

マンガを描こうと思った時期に、自分がダークヒーローもの好きということに気付いたんですよ。ただ、映画で描かれるダークヒーローって、一定のラインまでは悪いことをするけれど、その先にはいかない。度を超えたダークヒーローがあっても面白いのに、と考え始めたのが、「エンラ」の始まりでした。ないのであれば、自分で描いてしまえばいいということですね。特に第3話にはその思いが詰まっていると、改めて読むと感じます。

「エンラ」第3話より。

「エンラ」第3話より。

──応募時点では第3話まで描かれていて、その続きは担当編集さんと二人三脚で作っていくわけですよね。個人作業とはまた異なるわけですが、何か変化は生じましたか?

受賞した後に一番感じたのは、その責任ですよね。一緒に作品を作っていく。その相手の思いに、ちゃんと応えないといけませんから。とは言っても、実は最初に担当さんと話したときはそれよりも別のことを考えていたんです。ほら、ネット上には編集者の悪いイメージみたいなものがたくさん書いてあるじゃないですか。そういうネガティブなイメージってどうしても目についてしまうので、この編集者さんは大丈夫かな、なんて思っていたんですよ。いざ接してみたら好印象で、ネットのイメージは消え去りました(笑)。

(担当編集) そんなことを考えていたんですね(笑)。諏訪先生と初めてお話したときには、お互いが安心できる環境でいい作品を作れるよう、いろいろお伝えした覚えがあります。

──ちなみに、審査の際にはどういったポイントを重視されていたんですか?

(担当編集) 先ほどの話とも若干被りますが、「エンラ」のリズムのいいアクション描写が縦スクロールマンガと相性がいいように感じたんです。なので、そこを中心に伸ばしていこうというのが第一でした。なので、最初の顔合わせのときには、諏訪先生に「こういう作品を参考にしたら、もっと強みが目立つと思いますよ」と何本かオススメしましたね。

オススメしてくださった作品には助けられました! 縦スクロールマンガの流儀を知らなかったので、コマのサイズ感や演出の参考になりましたね。あと、担当さんがいろんなアドバイスをしてくださることもうれしいです。1人では絶対に出てこないアイデアが出てきますし、その思いに応えなきゃと「ここは妥協してはいけないのでは?」と感じることも多くなってきました。

──縦スクロールマンガを読まれたことで、ページ数の面以外でもメリットを感じることはありましたか?

コマの外を演出に活用できることです。背景を置いたり、セリフのフキダシを逃がすことができたりといろんな使い方ができる。その点はとても便利だと感じました。でも、逆に横長の大コマが使えないんですよね。なので一長一短だとは思います。

──諏訪先生が「エンラ」を描く際、特に意識していることはありますか?

縦スクロールマンガは各話売りが前提です。なので、エピソードの最後には次のお話が気になるような引きを用意するようにしています。思わず「次の話に進む」ボタンを押したくなる……そうさせるためにはどうしたらいいのか、常に考えていますね。

縦スクロールマンガ家はどのように作品を描いている?

──諏訪先生の作業環境について教えてください。

応募原稿のときは、床に直で座って低いテーブルにパソコンと液タブを置いて描いていました。でも、そのままだと腰が悪くなっちゃうじゃないですか。大賞の賞金が入ったこともあって、椅子と広いテーブルを買いました。作業環境としては、液タブでCLIP STUDIO PAINTを使っています。

──現在も兼業なんですか?

はい。今の仕事はリモートなので、ずっと家で作業しているんですよ。夕方ごろまで仕事をして、その後「エンラ」を描くようにしていますね。だいたい24時頃までに終わらせて寝るようにしています。

──「エンラ」の1エピソードの執筆には、どれくらい時間をかけられているんですか?

実は、僕が「エンラ」を描くときって、頭の中でアニメを思い浮かべているんです。そのアニメを静止画に落としていく、という形で描いています。ロードマップもぼんやりと考えてはいるんですが、キャラクターが増えてしまったり、脳内で再生されるアニメの展開がその通りにならないこともあったりしますね。その一連の作業を平均すると、12日くらい。その期間内でネームから着彩まで1人でやっています。

──縦スクロールマンガは作画・背景・着彩と分業でやられているケースも多く聞きますが、おひとりでそのペースは速いですね……! いつか専業になりたいという夢はありますか?

兼業はキツイので、いつか専業になりたいですね。単純に作業時間が増やせると思うので、そのときは週刊ペースで更新ができそうですし(笑)。

(担当編集) 諏訪先生はマンガを描かれていた経歴もないし、学校に通われていたわけでもないんですよね。でも、これだけ早く執筆できるのは、映像が好きということが大きいように思います。だからこそ頭の中でアニメが流れて、それを描くという形になっているんでしょうね。

──もし、今応募前の自分にアドバイスをかけるとしたら、なんと伝えますか?

もう少し読者を意識しろ、ですかね。プロになるんだからもっとちゃんと描けよ、とも言うかもしれないですけど、まずは読者を意識することです。僕は「エンラ」を描く中で、格闘シーンと人間の暗部を意識して描いているんです。その動きやセリフがそのまま読者に伝わるのか? これは編集さんと話しながら気づいた部分でもあるのですが、もっと広がりを意識しながら描いた方がいいかなと感じています。

「エンラ」より。

「エンラ」より。

──そのポイントを意識したうえで、これからどのように「エンラ」の物語が展開していくのか、意気込みをお聞かせください。

まだまだ、「エンラ」は謎が多いと思います。一癖も二癖もある新キャラクターが登場してストーリーに厚みが出ながら、謎が明かされていく予定です。毎エピソード楽しみに読んでいただけるとうれしく思います。

──1年前の諏訪先生のように、これから「タテスクコミック大賞」に応募される方もこの記事をご覧になられていると思います。

マンガが雑誌中心だったときと比べて、今はWebサイトやアプリでの配信も増えてきました。それに伴って、マンガ家になりたい人のチャンスも増えてきましたよね。プロへの扉が増えたわけですから、デビューできる幅も増えてきたのではないでしょうか。ですから、自分のマンガが少しでも面白いと思っているのであれば、まずはどこかに挑戦してほしいと思います。

(担当編集) 諏訪先生のおっしゃる通りで、マンガ家を目指す皆さんが才能を発揮できるチャンスが増えたんですよね。なので、そのチャンスを積極的に掴んでほしいと思います。

その中でもし縦スクロールマンガをやってみたいとか、僕のようにページ数の上限が気になるようであれば、「タテスクコミック大賞」にチャレンジしてください。新たなる後輩でありライバルの出現を楽しみにしています。

プロフィール

諏訪童角(スワドウカク)

2021年に開催された第1回縦スクロール漫画大賞にて、「エンラ」が大賞を受賞。2022年3月より同作の連載が開始し、マンガ家デビューを果たす。同作が初めて描いたマンガ作品とのこと。大のダークヒーロー好き。