鳥嶋和彦が初めてWebtoonの審査員に!「僕が作家だったらcomicoにくるね」とまで言い切るその理由は?“作家第一主義”のcomico編集部と座談会

comicoでは、縦スクロール形式かつフルカラーの作品を対象にしたマンガコンテスト「comicoタテカラー漫画賞」を開催中。同コンテストには週刊少年ジャンプ(集英社)の元編集長であり、「DRAGON BALL」や「Dr.スランプ」など数多くのヒット作を立ち上げた編集者・鳥嶋和彦が特別審査員として携わっている。

これに合わせ、コミックナタリーではcomico編集者2人と鳥嶋の座談会をセッティング。長きにわたってマンガ業界を見てきた鳥嶋には、近年盛り上がりを見せるWebtoon、そして従来とは異なる方法でWebtoon制作に取り組むcomicoはどう見えているのかに切り込んだ。またcomico編集部と鳥嶋が共感する“作家第一主義”についても深掘りしている。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / ヨシダヤスシ

「comicoタテカラー漫画賞」

各賞

グランプリ
賞金100万円+担当編集付き+鳥嶋和彦のオンライン講評

準グランプリ
賞金50万円+担当編集付き+鳥嶋和彦のオンライン講評

鳥嶋賞
賞金20万円+担当編集付き+鳥嶋和彦のオンライン講評

期待賞
賞金5万円

スケジュール

募集期間
2022年8月5日(金)~10月10日(月)23:59

結果発表
2022年11月予定

応募方法
  1. comicoに会員登録(アカウントをすでに持っている場合は不要)。
  2. 「comicoタテカラー漫画賞」特設ページ内の「応募する」ボタン、またはcomicoチャレンジ内の作品投稿ページへ。「comicoタテカラー漫画賞」へのエントリーのチェックボックスにチェックを入れ、「作品を登録する」ボタンを押すと投稿完了。
応募要項
  • オリジナル作品(同人誌・WEB発表済でもいいが、商業媒体未発表の作品に限る)
  • 縦スクロール形式かつフルカラー
  • 1話につき45コマ以上
  • 1作品あたりの投稿話数に上限なし
  • 応募期間内に物語のラストまで投稿完了していることが必須(1話のみの投稿でも、読み切りとして完結していれば選考対象)
  • 日本語で描かれていること

詳細はこちらから!

鳥嶋和彦×comico編集部 座談会

そう簡単に作家は育たない

──まずは、今回新たに「comicoタテカラー漫画賞」を立ち上げた背景について伺えたらと思うんですが。

たかしろ 今、縦スクロールのカラーマンガ、いわゆるWebtoonがすごい盛り上がりを見せていて、新規参入の会社も多い状況です。一般的にWebtoonというとスタジオ体制、つまり分業で作られるものというイメージが強いと思いますが、「従来の日本のマンガで行われてきたような、作家さんと編集者が二人三脚で作るWebtoon作品も、もっと世に出していきたい」という思いが我々にはありまして。ひと言で言うと、それが今回この賞を立ち上げた理由です。

鳥嶋和彦 その前に、まず「韓国発の、スマホでの閲覧に最適化されたマンガをWebtoonと呼ぶんだ」ということをハッキリさせておかなくちゃいけない。今はそのあたりが曖昧になってるんだよ。業界の人たちがみんな中途半端なしゃべり方をしているから。

たかしろ comico含め、呼び方も各社バラバラで統一されていないですしね(笑)。この記事を読む方に一番わかりやすいのは「Webtoon」だと思うので、ここではその呼称で進めましょう。

鳥嶋 韓国では、特にマンガにおいては雑誌文化が滅びていて、作家たちには発表の場がなかったわけ。だとしたらネットで発表するしかない、それならスマホで見やすいものにしたほうが多くの人に見てもらえる、じゃあ縦スクロールでカラーでしょ、という流れできている。それがWebtoonだという認識をまず持ったほうがいい。一般的に言われているところでは、Web小説をもとにして、コマを割る人がいて、絵を入れる人、背景の人、カラーの人というように分業の作り方がメインなわけ。そのやり方は「お金を出す資本家に著作権がある」という点でアメリカのコミックに非常に近い考え方で、日本のマンガの作り方とは決定的に違うんです。

鳥嶋和彦

鳥嶋和彦

たかしろ 前提としてはそうですね。

鳥嶋 この人たち(comico編集部)は、みんなが考えている作り方とは違う方法でオリジナルのWebtoonを作ろうとしているんですよ。ということは、まず作家を探すところからやらなければいけない。いろんな人を連れてきてチームにバインドするやり方ではないから、そこで何が起きるかというと「そう簡単に作家は育たない」という現実に直面するわけ。僕の週刊少年ジャンプ時代の経験から言うと、少なくとも3年はかかる。だけど運営会社はIT系の企業だから、数字を見て「すぐ結果を出せ」と言うわけですよ。そういう難しい状況の中で、NHNの方から「鳥嶋さん、もし時間がありそうだったら何か手伝ってもらえませんか」と声がかかって。

──comicoとしては、よく言われる「Webtoonには作家性が欠如しがち」という部分で、鳥嶋さんに入ってもらうことで何か魔法をかけてもらいたいと?

鳥嶋 いや、魔法じゃなくてね。彼女たちは狭いところで「当てろ」というミッションだけを与えられていたから、自分たちがどこにいて何をしているのか、本質的に見失っていたわけ。そこで僕がやることは、端的に言うと“混ぜっ返す”ことですよ。月に1回ミーティングの場を設けているんだけど、そこで話をしながら僕が「本当にそう?」と突っ込んでいくことで、一生懸命自分たちの考えていること、自分たちの中にあるものを掘り起こして言葉にしてもらう、気付いてもらう。それを1年以上やってきたわけです。

たかしろ 今回の賞を主催している編集部は今4人体制で、少ない人数でやっているんですね。そこへ鳥嶋さんに入っていただくことで、今のお話にあったような「本当にそう?」という……例えば「タテカラーって言うけど、本当にカラーである必要はあるの?」とか。そういう“そもそも”の部分を突きつけられることによって、Webtoon業界の人が今さら疑問にも思わないような本質的なところに立ち返ることができていると思います。

かわかみ 狭い中で作っていると、どうしても「当たるのはこのジャンル」だったり「ターゲットの読者はこういう方向性」というところを決めつけがちになったりもするんですけど、その凝り固まっていた考え方がほぐれたような実感はあります。もちろん、これまでも編集部で考えながらやってきた部分はありましたが、「読者は、果たして本当にそのジャンルだけが読みたいのか?」であったり、「もっと作家さんの個性を生かすためにはどうしたらいいんだろう?」というところを、より深く考えるようになって。

たかしろ 同時に、今までやってきたことの答え合わせのような作業もしていますね。我々なりに考え続けて、いくつかヒット作も出してきましたが、振り返ってみて「本当にこれでよかったのか」という自問自答は常にあるので。それを鳥嶋さんにぶつけて意見をいただくことで、「その視点はなかった」ということに気付けたりしますし、少々手詰まりだったところに発想のもとをポンと投げていただいているような感覚です。そのやり取りがとてもありがたいですね。

左からたかしろ、かわかみ。

左からたかしろ、かわかみ。

鳥嶋 編集という仕事を真面目に考えすぎていたんだよね。毎日そんなキチキチ考えてなんとかなるものじゃないんだよ。描くのは編集者じゃないんだからさ。基本は人任せの仕事でしょ?

たかしろかわかみ (笑)。

鳥嶋 彼女たちは、さっき言った会社からのミッションを愚直に遂行しようとしていたわけ。自分で描くわけじゃないのに「当てなきゃいけない」という使命感でマンガ編集にあたることほどつらいものはないですよ。マンガってね、当てるためには外さなければいけないの。この業界では、3割当てれば天才ですから。

──そういうものなんですね。

鳥嶋 王貞治だって大谷翔平だって、全部をホームランにはできないでしょ。無理に決まってるじゃん。ホームランを打つためには、きちんと三振もしないといけない。それで言うと、今かわかみさんが言った「作家の個性を生かす」というのはものすごく大事なキーワードですよ。それまでは「いかに当てるか」しか頭にないから、要するに自分のことしか考えていないわけ。作家という相手ありきであることが理解できて、この言葉が出てくるまで時間がかかった。「まずは作家を知って、その個性を生かす作品をどう作るか」という前提でやらないと、当たらなかったときに責任も取れないじゃない?

──確かに、「これをやれば当たる」と描きたくもないものを描かせて、それがヒットしなかったのでは目も当てられないですね。

鳥嶋 最初にたかしろさんが言ったように、今どんどんいろんな企業がWebtoon業界に「売上が上がるから」って参入してきてるじゃん。僕からすると「バッカじゃないの?」と思うね。さっき言ったように作家が育つには3年はかかるんだから、5年10年を見越してしっかり育てるつもりがあるならウェルカムだけど、ほとんどはそうじゃないでしょ? 才能ある人たちを中途半端に引っ張り上げて使い捨てるんだったら、こないでほしい。金儲けは金儲けで別にいいんだけど、その背骨部分に「なんのための金儲けか」という哲学が通っていないと続かないですよ。

鳥嶋和彦

鳥嶋和彦

近年のヒット作が似たような味わいになっているわけは

──そもそも、たかしろさんとかわかみさんがWebtoonに関わり始めたきっかけはどういうものだったんですか?

かわかみ 私はもともとcomicoに編集として入社したわけではなくて、アプリの企画ディレクターとして入ったんです。マンガ自体はずっと好きだったんですけど、ちょうどcomicoのアプリができた2013年頃に初めて縦スクロールのマンガに触れまして、「この形、意外と読みやすいな」と思ったのがWebtoonの最初の印象ですね。もっといろんな作品が出てきたらいいなと思ったし、それを応援できたらいいなという思いから2017年に異動してきました。

──その中で、先ほど鳥嶋さんがおっしゃったような「数字で結果を」という会社の方針に従って仕事されてきたわけですよね。

かわかみ そこに大変な思いはもちろんしてきてはいるんですけど、言葉を選ばずに言うと、ヒットが出ないと作家さんも幸せじゃないんですよ。ある程度売れないと、次の作品を作りづらくなる。だからヒットを狙いにいくこと自体は決して悪いことではないと……。

鳥嶋 それはいいんだよ。

かわかみ (笑)。ただ、そこで「確実に当てなければ」と思うと、どうしても特定の売れるジャンルに頼ってしまう部分はあるんですよね。今は「本当にそれだけが売れるものなのか?」という疑問をきちんと持つようにしていて……作家さんに「これを描いてください」と言っても特性によっては難しい場合もありますし、「どうすればその作家さんのよさを生かしながらcomicoの読者さんに読んでもらえるところに落とし込めるか」を考えるのが編集の仕事だと思って、日々業務にあたっています。

左から鳥嶋和彦、たかしろ、かわかみ。

左から鳥嶋和彦、たかしろ、かわかみ。

鳥嶋 ネットでのマンガ配信って良し悪しで、数字がオンタイムですぐ出るじゃない。そうすると、それが「当たる作品とはこういう要素を入れたものであらねばならない」というような強迫観念に変わりやすいわけ。かつて少年ジャンプの読者アンケートでも似たようなことが起きていて、それはそれで読者の傾向を表すデータではあるんだけど、そもそも目の前にないものは選択できないわけだから、つまりそれは今あるものの分析に過ぎない。次にくるものの分析ではないわけです。

──その原理をきちんと理解したうえでデータを利用していく必要があると。

鳥嶋 傾向に合わせるのではなく作家さんの個性に合わせて作るということは、つまり未知のものに賭けるということだから、そこで初めて何かを作ることの面白さが生じるんだよね。傾向を見るのはいいんだけど、そこに合わせて作っちゃうと、ただ縛られてこなすだけの作業になっちゃう。近年、いろんなジャンルでのヒット作がみんな似たような味わいになっているのは、傾向に縛られて狭いところで作ってるからなんだよ。同じ味だから失望はしないで済むんだけど、全部同じなんだよね。均等なの。

──ただ、かわかみさんがおっしゃったように「作り続けるためにはある程度のヒットが必要」というのもまた事実ですよね。そのためにはある程度そういう作り方もやむを得なかったりするのでは?

鳥嶋 うん。だから、そこは「そもそも会社がマンガ事業を手がけることの意味をどう捉えているのか」という話になってくるね。その方針を会社として定めたうえで、現場にわかりやすく降ろしてあげないといけない。それをせず、単に「当てろ」では、これは脅迫と一緒だよ(笑)。