コミックナタリー Power Push - 髙橋ツトム

リスペクトを込めて、弾き語りのように描いていく

残響

BLACK-BOX

「あしたのジョー」のラストに衝撃を受けた

──連載開始時、髙橋さんは「『ボクシング』と『あしたのジョー』へのリスペクトを目一杯込めて描きます」ともコメントされていました。

俺、「あしたのジョー」が地球上で一番すごいマンガだと思ってるんですよ。マンガ家はこれから「あしたのジョー」を超えることは不可能だと思ってるくらい大好きな作品で。俺が初めて読んだのは小学校4年生くらいのときで、単行本は全巻出てたから父親がまとめて買ってきたのを読んでたんだけど、その年齢の子供が読む内容としては、ラストがもうわかんなくて。

──難しいですよね。読む人によって受け止め方が変わってくるラストシーンだと思います。

長谷川穂積選手からもらったというボクシンググローブ。

「どうなっちゃったの!?」って(笑)。だけど、そのときとてつもなく感動したんだよね。ジョーも試合に負けて泣くほど悔しいわけではないじゃん。なんかやりきってるんだよね。ただ、結果としては運命から逃げられなかったというか。そのときの衝撃がデカすぎたから、自分も「いつかボクシングを……」とはどこかで思ってたんだけど、まさか本当に描く日が来るとは。

──長谷川選手とのご縁もあって。

長谷川選手との出会いもあって、「あしたのジョー」も好きで。こんだけ要素が揃ったら描くよねー?って(笑)。

“やる必要のないこと”をやった力石の生き様

──(笑)。「BLACK-BOX」には「あしたのジョー」のオマージュのようなシーンもいくつか見受けられます。例えば凌駕の父親から届く手紙が、段平からジョーへ送られた「あしたのために」で始まるハガキを思わせたり、凌駕のライバルであるレオンの存在が力石を彷彿とさせたり。

そう。もうそんなことは全然怖がらずに描いてます。同じ講談社だし何かあっても大丈夫だろって(笑)。でもそういうシーンは基本的にアドリブというか、偶然なんだよね。

──へえ!

「BLACK-BOX」第8話より、レオンと凌駕。

レオンがキックボクサーからボクシングの選手に転向するっていうのだけは、元から決めてたんだけど。力石はジョーと戦うために階級を落として、無理をしたというか、やる必要のないことをやった。やらないと絶対後悔すると思っていたから。これは「あしたのジョー」じゃなくても、どこの世界でもグッとくるポイントなわけだよ。余計なことをしにいくっていうかさ。「やらなくてもいいのに」っていう無駄なことをするキャラクターは、もちろん力石っぽく描きたかった。

──そこに男としての生き様が現れますしね。親父さんからの手紙のシーンは?

あれは偶然だったんです。描いていたら、そういえばジョーは段平からのアドバイスが書かれたハガキを鑑別所で受け取っていて、凌駕は刑務所の親父から試合相手の倒し方が書かれた手紙をもらっているなと。

──閉じ込められている立場の人が逆なだけで。

ちょうどよくオマージュになってたなって。だからたぶん、こういうのはDNAに染みこんでるんだと思う。それで言うと、「BLACK-BOX」っていうタイトルは一瞬で思いついたの。ボクシングの語源って箱だから「BOX」で、殺人の要素もあるから「BLACK」。組み合わせて「BLACK-BOX」で、俺的には合ってると思うしこれが一番だよねって思っていて。そのあとジムの名前を決めるときに「BLACK-BOX」だから黒だよなと、スッと「クロキ(黒木)ボクシングジム」にしてたんだけど。あとで考えたらさ、「あしたのジョー」は“白木”ジムなんだよね。

──ですよね(笑)。

忘れてたのに。だから自分のどっかにあるんだろうね。「黒」の次に「木」が出てくるくらいには、DNAレベルの何かが。「黒“田”」とかじゃなくて、「木」を選んじゃうんだもん。

DNAだバカヤロー!

──「残響」にもそういったオマージュ的な要素があったりするんでしょうか?

「残響」1巻より。

元ヤクザの瀬川は文太さんのオマージュです。こんなこと言いそうだなと思って(笑)。あと駅の名前が「仁義なき戦い」で文太さんがやってる役の「広能」だったり、マーケットの名前が金子信雄さんがやってた役の「ヤマモリ(山守)」だったり。

──ああ、そうなんですね。じゃあ2作品とも自分の好きだったものへのリスペクトが込められていると。

そう。でもそういうのって、ミュージシャンとかもよく言うじゃん。The Rolling Stonesが好きでそればっかり聴いて育っちゃったから、作る音楽も遺伝子を受け継いでるんだ、みたいなさ。逆に言うと俺がもう少し若かったら、好きなものに影響されてることをちょっと恥ずかしがったり、カッコ悪いと思ってたかもしれない。でも今はそんなこと全然思わないからね。「関係ねえよ、DNAだバカヤロー!」みたいな感じ。開き直り(笑)。

髙橋ツトム「残響(2)」 / 2016年5月23日発売 / 小学館
残響(2)
650円
Kindle版 / 540円

とある工場町で、漫然と日々を過ごす智(さとる)。彼が暮らす安アパートの隣室には、元ヤクザの老人、瀬川が住んでいた。
ある日、智は瀬川に「500万渡すから、自分を殺してくれ」という依頼を受ける。
躊躇する智だったが、瀬川から、智の中に巣喰う狂気を見抜かれ、彼自身の心にも変化があらわれはじめ…!?

髙橋ツトム「BLACK-BOX(2)」 / 2016年5月23日発売 / 講談社
BLACK-BOX(2)
691円
Kindle版 / 540円

父親は殺人罪で服役中。兄も殺人で捕まった“殺人一家”の次男、石田凌駕。凌駕本人にも兄が捕まった殺人の関与が疑われている中、獄中の父親の「指令」のもと、ボクシングのプロテストに挑む──。

髙橋ツトム(タカハシツトム)
髙橋ツトム

1989年、モーニング(講談社)に読み切り「地雷震」が掲載されデビュー。1992年より月刊アフタヌーン(講談社)にて同作の連載を開始。殺人課の刑事を主人公に据え、犯罪者の心理を巧みに描写するハードボイルドな作風で好評を博した。2001年より週刊ヤングジャンプ(集英社)にて連載を始めた「スカイハイ」はテレビドラマ、実写映画化されるヒットを記録。ほか代表作に「鉄腕ガール」「SIDOOH―士道―」など。2015年よりビッグコミックスペリオール(小学館)にて「残響」を、月刊アフタヌーン(講談社)にて「BLACK-BOX」を連載している。