スクウェア・エニックスによる新作アーケードゲーム「星と翼のパラドクス」が、11月21日に稼働を開始する。本作はクオリティの高いアニメーションとリアルなロボット搭乗体験が味わえる、ハイスピード対戦メカアクションだ。世界観設定とアニメーション制作はサンライズが担当。さらにキャラクターデザインを貞本義行が、メカニックデザインを形部一平と石垣純哉が手がけ、ゲーム性だけでなく壮大な物語や魅力的なキャラクターも注目を浴びている。
そんなゲームの顔となるのが、作曲家の菅野よう子、作詞家の児玉雨子、そしてボーカリストのchelly(EGOIST)によって生み出された主題歌「星と翼のパラドクス」だ。アニメソングやアイドルソングなどそれぞれのフィールドで活躍する3人は、この楽曲の制作が初顔合わせだったという。そこでコミックナタリーでは菅野、児玉、chellyによる座談会をセッティング。できあがった楽曲と合わせて、3人の生み出す化学反応を楽しんでほしい。
取材・文 / はるのおと
「星と翼のパラドクス」3つのキーワード
アズワン
プレイヤーのパートナーとなるキャラクターで、巡星に住むパイロット。プレイヤーはアズワンからの呼びかけに応え、遠い星の戦争に参加することになる。
エア・リアル
プレイヤーとアズワンが操縦する、空を駆ける巨大な人型兵器。
菅野よう子×児玉雨子×chelly(EGOIST)座談会
キュンときてしまうアズワンとの触れ合い
──先ほどまで「星と翼のパラドクス」をプレイされていたそうですが、感想はいかがですか?
菅野よう子 まず一番うまかった児玉さんから。
児玉雨子 最初はペダルとレバーを同時に動かすなんて難しいと思ったけど、慣れれば……いや全然できなかったですけど(笑)。あと椅子の動きがすごいんです。本当にコックピットみたいでした。
──車を運転しているみたいな感覚でしょうか?
児玉 そうですね。
菅野 運転できるの?
児玉 できないです!
菅野 はあ?(笑)
chelly (笑)。私はけっこうゲームをするんですけど、椅子ごと動くものは初めてでした。一体感がすごくてまるで自分がパイロットになった気がして……オタク的には興奮しました。
菅野 そもそも20年ぶりにゲームセンターのゲームをプレイしたんだけど、まず絵が綺麗だし、操作と椅子の動きが連動しているのがすごいよね。スピードが上がったときや上下に動いたときの重力がかかる感覚や、ぶつかったときの衝撃をちゃんと感じられる。あと出撃前にサブモニターに映っているアズワンとタッチするんですけど、それがいい。
児玉 仲良くなるとリアクションも変わるみたいで。
菅野 タッチしたがっているのを無視すると、アズワンに怒られるらしいんですよ。そこに誰もいないはずなのに、キュンときてしまいました。
最初のアイデアは「わかりやすくタイトルを連呼」
──ここからは主題歌「星と翼のパラドクス」について伺います。それぞれ、このオファーを受けての第一印象は?
菅野 最初に私がお話をいただいたとき考えたのは、ゲームセンターってたくさんのゲームの音が同時に鳴っていますよね。その中でこのゲームの曲だと認識してもらうために、わかりやすくタイトルを連呼しようと考えました。
──だから曲中に「星と翼のパラドクス」や「きみは彼方のパラドクス」といったフレーズが10回も出てくるんですね。
菅野 10回言えばさすがにわかるでしょう?(笑) あとは筐体でドライブしているような感覚が特徴のゲームだと伺ったので、高速道路を調子よく走っているときに聴きたいドライブミュージックのような音楽にしようと思いました。
chelly 次にお話をいただいたのが私です。ロボットで宇宙を駆けて敵を倒していくというゲーム内容を聞いたときは、自分がパイロットになるってどんな感じだろうとワクワクし、それを歌に込めようと考えていました。
菅野 chellyさんが歌ってくださると決まり、誰に作詞を頼もうかと。タイトルを連呼するというやや恥ずかしめの企画に、正面から堂々と取り組んでくれる作詞家って、ある程度年齢を経ないと無理かなって(笑)。
一同 (笑)。
菅野 でも、おじさんおばさんが書く歌詞をchellyさんに歌ってもらうのは違うなと思って。てらいなくやってくれそうな若い人はいないかな、と探していて、児玉さんを見つけました。
児玉 ゲームの内容を聞いて、見どころはたくさんあるのですが、アズワンとタッチしてコミュニケーションするという要素が気に入ったので、そこにフィーチャーしようと思いました。誰かに触れるって、そんなに気安くできない、重要なことじゃないですか。
菅野 あと「星と翼のパラドクス」のタッチは、はるか遠い場所にいる相手と、触れるか触れないかのコミュニケーションなんだよね。ガラス1枚を挟んでのキスとか、そういうもどかしい感じを歌詞にしてもらいたいとお願いしました。児玉さんはそういう胸キュンの経験はあるんですか?
児玉 いや、ないですけど(笑)。がんばろうと思いました。
菅野さんのデモで泣きました(児玉)
──この曲は作詞と作曲、どちらが先だったのですか?
菅野 どちらというわけではなく、一緒に作っていきました。最初に児玉さんにお会いしたときに、「数行でいいから、まずキーワードみたいな言葉を書いてくれない?」とお願いしたんです。そして、もらったフレーズを元に何曲も作っていきました。フックとなる言葉があったほうが強い曲を作れるんです。でも一番先に完成したのは、この「星と翼のパラドクス」とは別の曲だったよね。
児玉 そうそう、「星と翼のパラドクス」の最初のフレーズは1日くらいで(菅野さんに)送ったんですけど、もう1個はもっと早く送っていて。
菅野 頼まれてもいないのに、2人で話をするうちに別な方向でノっちゃって(笑)。「銀河動力採掘賛歌」っていう全然別の曲を最初に作りました。発表される予定もないんですけどね。
──勝手に(笑)。話を「星と翼のパラドクス」に戻しまして、最初に児玉さんからもらったというフレーズは?
菅野 「名前は思い出せないけど きみのこと知ってたよ」「指紋の溝はずっと探してる」とか。その辺りで曲のイメージを固めました。
児玉 それからゲームの世界観に寄り過ぎたりして少し迷走もしましたけど、私も菅野さんとやり取りする中で、女の子の初恋みたいなイメージの肉付けができていきました。菅野さんのピアノのデモが泣いちゃうくらいよかったんですよ。
菅野 うっそー! なんで泣いたの?
児玉 本当に美しいデモで、初恋の切実さとか、頭の中でchellyさんが歌うイメージとかアズワンの姿とかがぶわっと湧いてきちゃって。だからそのデモはとりあえず1回聴いて、メロディーを譜面に起こして作業しました。
──そこまでの衝撃はすごいですね。楽曲で言うと、サンライズが関わっているロボットものということで、重厚な雰囲気を予想していましたが、明るく浮遊感がある感じなのが意外でした。抽象的ですが、妖精っぽいイメージが浮かびました。
菅野 妖精っぽいというのはchellyさんの歌声のおかげでしょうね。明るい楽曲になったのは、このゲームが、会社帰りのサラリーマンやOLさんに「ちょっと寄っていこうか」という感じでプレイしてほしい、という話を伺っていたからです。昼はほかの仕事がありながら、夜はスナイパーやってるみたいな。
児玉 副業(笑)。
菅野 そう、副業として宇宙の平和を守ってる。仕事帰りに鬱屈するより、やっぱりパーッと気持ちよく帰ってほしいじゃないですか。巡星の女の子とタッチして一緒に副業して、「会いたい」って言われる。その感じがいいのかなって。
──アレンジで工夫したところは?
菅野 「さあ、行くぞ!」「よし、出撃!」みたいな、アクセルを踏む感じをサビの頭で感じてほしいなというのと、テンポよくというのは気を付けました。さっきゲームをプレイして、そのイメージは合っていたと思いました。
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イタコ系ボーカリスト・chelly