閉ざされた田舎町、押し殺していた心の闇、生きることの意味──心中をテーマに赤裸々に描く「少年のアビス」峰浪りょうインタビュー

小説コンテストは「そんなことをしてもらえるんですか?」

──では小説コンテストについてのお話も聞かせてください。今回2回目の開催となりましたが、前回実施されたときはどんな印象でしょうか。

お話をいただいたときはビックリしましたね。ある意味、自分の小説大賞を作ってもらったみたいなものなので、そんなことをしてもらえるんですか?みたいな感じで、感激しました。

──投稿された小説を読まれたと思うんですけど、どう感じましたか?

もう素直に「わー! うれしいー!」って感じで……(笑)。書かれている方も書いていくうちに自分の中のいろんな憂鬱な気持ちとか、死にたいみたいな感情と向き合えたのかなとか、そういうのを感じ取りながら読みましたね。自分の描いた作品をテーマにした作品を読ませてもらう機会はなかなかないと思いますし、面白い実験だなって思いました。

──今回、2回目は「言いわすれた『好き』」をテーマにした短編小説を募集ということですが、このテーマはどういう経緯で決まったんでしょうか?

「少年のアビス」3巻より。

これは魔法のiらんどさん側に決めてもらったんですよね?

(担当) そうですね、どういうコンテストにするのかという話し合いがあった中で、今回は作品のワンシーンをテーマにするのがいんじゃないかという話になって。小説を書くきっかけにしやすいテーマだろう、という理由で決まりました。

──確かに心当たりがあるというか、何かしら思い出がありそうなテーマですよね。まだ選考途中ということですが、コンテストの応募作品は読まれましたか?

まだ全部は読めてないんですけど、半分ぐらいは読ませてもらいました。

──どんな印象でしょうか。

前回に比べると明るいなって。前回は明らかに「ああ、みんながんばれ……」みたいな(笑)、そういう内容が多かったんですけど、今回はテーマが恋愛的な要素が強いですし、悲恋っぽいお話も当然あるんですけど、けっこう温かい雰囲気が多いです。恋愛ではなくネコちゃんがテーマのお話だったり、「ああ、なるほどいいですね」みたいな感じで、ほっこりしながら読んでます。

世界線をつないだ別の人の話を描こうと思って

──前回は大賞の作品をマンガ化されていましたが、今回は同じテーマで先生もマンガを描かれるということで。

読み切り「東京生まれ、東京育ち。」より。

はい。マンガ化はマンガ化で、やったことがなかったので面白かったんですが、すでに作品の中で使っているシチュエーションを改めて別の作品として描くというのも、新鮮な体験でしたね。似たような話だとつまらないと思いますし、何か本編とは違った要素をうまく使うようなやり方はないかなと考えて、世界線をつないだ別の人の話を描こうと思って。東京を舞台に、アクリルっていうアイドルグループの青江ナギのことを偶然知ったファンの人の視点、みたいな作品になりました。ナギは本編では登場させにくいキャラクターなので、いい機会になったなと思います。

──それは面白そうですね。

この読み切りもヤンジャンに掲載されるんですが、──これはネタバレになりますが、「アビス」本編の連載もちょうど令児と玄とチャコが東京に行くっていうタイミングなんです。だからそういう意味でもタイミングがよかったんじゃないかなと。意識的にやってたわけじゃないですけど。

──もし3回目をやりましょうってなったらどんなことをやりたいですか?

やっぱりテーマがあるほうがいいかなと思います。自分も今回テーマで描いてみて、妄想していくのが楽しいなと思ったので、また何か別のテーマでやれたら面白いですね。

神の視点で説明できる小説と、それができないマンガの違いは大きい

──ちなみに先ほど、小説家になりたかったっていう話がありましたが、なぜマンガ家になったんでしょうか。

10代のときから小説の投稿をやってたんですけど、なんの賞にも引っかからなくて諦めて……。何か別のことをしなきゃなって思っていたんですが、やっぱり創作に近いことをやりたかったんですよね。そんなときに、父親がいつも買っていたビッグコミックオリジナルに新人マンガ賞の結果発表が掲載されていて。大賞賞金が300万円ぐらいで、「え、マンガってすごいな」と思って(笑)。それで1回マンガを描いてみようと思って応募したのがきっかけです。しかも初めて描いたマンガが奨励賞をいただけて、「いけるのかな?」ってなって。

──ではそこからマンガに可能性を見出して。昔から絵を描くのはお好きだったんですか?

いや、絵はひどかったです(笑)。小さい頃は絵を描くのも好きでしたけど、中学生のときにはもう小説が好きになっていて描かなくなってましたし、美術部とかに入っていたわけでもなかったので。賞はもらいましたけど「絵がひどすぎる」って言われました(笑)。で、編集さんに「絵を学びに上京してみたら?」って言われて、そのまま出て来ちゃったって感じです。

「少年のアビス」8巻

──小説とマンガって当然全然違うと思うんですけど、どんなところが一番違うと思いますか?

やっぱり「彼はこういうときにこう思っていた」みたいなことを神の視点で説明できる小説と、それができないマンガの違いは大きいですね。マンガだと顔とか雰囲気とか間とかで表すしかないので、それはまったく違います。でもだからこそ別の面白い表現方法があるなってマンガを描いているうちに発見して、描くのが好きになっていきました。

──では最後に、8巻以降の見どころを聞かせてください。

「アビス」って本編では全然時間が進んでなくて、2年近く連載しているんですが、作中では1、2カ月しか経過してないんです。でも8巻では初めて時間が進んで、年が明けて秋から冬になります。だから、キャラクターの容姿とか、町の風景の変化を感じられるのは面白いと思います。それと同時に物語もまた大きく動いていきますのでぜひ楽しみにしていてください!

峰浪りょう(ミネナミリョウ)
第58回新人コミック大賞で佳作を受賞。2015年から2019年にかけて、週刊少年サンデー(小学館)にて「初恋ゾンビ」を連載。代表作に「溺れる花火」「ヒメゴト~十九歳の制服~」など。2020年2月より、ヤングジャンプ(集英社)にて「少年のアビス」を連載開始。