小学館の少女マンガ誌・Sho-Comiは、今年で創刊50周年。コミックナタリーではこれを記念し、全10回にわたる連載企画を展開していく。第1回には「兄に愛されすぎて困ってます」の夜神里奈が登場。昨年映画化され、先月単行本の最終巻が発売されたばかりの「兄こま」はもちろん、失恋した地方出身の女子高生が東京で新たなスタートを切る新連載「ワケあって昨日うばわれました」について、また夜神がこだわる男性キャラの描き方や意外な“初恋の相手”を聞いた。
取材・文 / 熊瀬哲子 撮影 / 石橋雅人
お客さんとして応援上映も楽しんだ映画「兄こま」
──先日、「兄に愛されすぎて困ってます」の最終11巻が発売されました。夜神さんにとって一番の長期連載になったと思いますが、描き終えた現在の心境はいかがですか?
「いっぱい描いたなあ」っていうのが率直な感想ですね。キャラクターもたくさん出てきてお話にも広がりが生まれましたし、それを最後まで描ききれてよかったなと思ってます。“せとかの本当のお兄ちゃん”という存在も、連載を始めた頃からいつかは出そうと思っていたんですよ。
──単行本の10巻から登場する矢高北斗ですね。2017年に公開された実写映画では、NON STYLEの井上裕介さんが演じていた教育実習生のオリジナルキャラクターも、矢高北斗と同じ名前でした。
前々から本当のお兄ちゃんは出したいと思っていたんですが、映画の北斗と同じ名前で、正反対のキャラクターとして出したら面白いだろうと考えて、名前を逆輸入する形で描かせていただいたんです。
──映画版のコミカルな北斗とは違って、マンガ版の北斗は儚げな印象があります。
映画の北斗はギャグテイストの楽しいキャラクターで、あれはあれでもう完成されているものなので、マンガでは逆にシリアスな感じで攻めてみました。そうすると読者の方にもまた違った形で楽しんでいただけるかなと思ったんです。本当は(芹川)高嶺が実兄っていう設定にしようと思っていたんですけど、いろいろあってその設定はなくなり。でも北斗のお話をちゃんと描くことができてよかったなと思ってます。
──実写版「兄こま」は橘せとか役を土屋太鳳さん、橘はるか役を片寄涼太さん(GENERATIONS from EXILE TRIBE)が演じ、ドラマと映画で展開されたことも話題となりました。
当時の担当さんに「お話があります」って言われたとき、最初は「打ち切りの話かな?」と思ったんです(笑)。それを伝えたら「違います。実写化が決まりました」と言われて、「ふーん……えっ!?」っていう(笑)。当時はまだ単行本が2巻しか出ていなかったときだったので、予想外のお話すぎてびっくりしましたね。映画も観させてもらったんですけど、本当に面白かったです。
担当編集 一緒に応援上映も行きましたよね。
そうそう(笑)。応援上映に参加した人に「どこから声を出すの?」って聞いて、最初の配給会社のオープニングクレジットから「ありがとう松竹ー!」って声を出して(笑)。作者ということを忘れて、普通のお客さんとして楽しんじゃいましたね。せとかと兄系イケメンズとのドキドキのシーンは、きっと皆さんにもキュンキュンしてもらえたんじゃないかなって思います。
「ダイ・ハード」みたいな作品が描きたい
──ご自身の作品がメディア化されたことで、何か影響を受けた部分はありましたか?
マンガだと、発しているセリフと感情とで別のものを表現するのって、なかなか難しいことだなと思っていて。映画ではそれがすごくうまいなと感じたんです。例えば映画の後半に(千葉雄大演じる)高嶺が、せとかとはるかに対して「お前ら、不幸になれよ」って言うシーンがあるんですけど、その言葉にはそのセリフ通りの感情ではなく、高嶺の優しさが含まれているんですよね。マンガではセリフとして書いた言葉がそのままキャラクターの感情に見えてしまうこともあるので、その表現はやっぱりすごいなと思いましたし、自分のマンガでもできるようになったらいいなと感じました。あとはストーリーのテンポ感というか、スピード感が気持ちいいなと。それはSho-Comiでも求められるものだと思うんですが。
──読者を飽きさせない展開の速さといいますか。
月刊誌だと、ページ数も多い分、ある程度ゆったりとストーリーが進んでいく部分もあると思うんですけど、Sho-Comiは月2回刊行なので、バンバン進んでいかないといけない。個人的には少年マンガだったり、映画とかもエンタテインメント性のあふれる、ダーン! バーン! ボカーン!みたいな、スピード感もあってスカッとする作品が好きなんです。だから自分の作品も「スカっとして楽しかった」って感じてもらえるような、読んだ後に勉強や仕事をがんばろうって思ってもらえるような作品を描いていきたいと思っていて。
──夜神さんの描くマンガは、登場人物間に何か問題が起こったとしても、最後にはすっきりとした読後感が残るように思います。
読んで考えさせられる作品というよりは、サラッと読めて「楽しかった」って言ってもらえるような作品だったらいいなって思うんです。もちろん考えさせられる作品はそういう作品でいいと思いますし、実際に私も好きで読むんですが。
──「兄こま」も、1巻の作者コメント欄に「兄妹=禁断にしたくなかった」「理由はハッピーエンドにするためにはラストが『兄妹じゃなかった』という展開にするしかないから」と書かれている通り、せとかもはるかもお互い兄妹じゃないことを知っているところから物語が始まっていますよね。
そうですね、初めからもうバレちゃってればいいやと思って。物語の結末になりそうな葛藤だったり、見たいところをギュッと冒頭に詰め込んで。その分、いろんな展開を描くことができるなと。だから映画の「ダイ・ハード」みたいな感じですよね。
──「ダイ・ハード」!?(笑)
日常のシーンから始まり、「なんかヤバいぞ」っていう雰囲気の中、バン! ボカーン! っていつものアクションが展開されて。問題はいろいろ起こるけど、タイトルの通り“なかなか死なない”っていう(笑)。そういうエンタテインメント性のある作品が描けたらいいなって思っています。
カッコいい男子に愛されようぜ!
──Sho-Comi13号では新連載「ワケあって昨日うばわれました」(「ワケうば」)が始まりました。
今回は“東京男子”と“地方女子”がテーマの物語です。友人に静岡出身の子がいるんですけど、「これいいら」とか、語尾に「~だら」が付く方言がポロッと出て来ることがあって。それがすごくいいなって思ったんです。ヒロインを地方出身の子にしてみたら、東京の人は「方言かわいいね」って思うだろうし、地方の人たちにとっては親近感が湧くかなと。
──第1話ではヒロインの伊豆青生(あおい)が、東京で俳優の渋谷桜に出会い、ひょんなことから彼と同居することになります。
東京に行ったらカッコいい男の人に出会えるかもしれない、もしかしたら一緒の部屋になるかもしれない。そういう希望に満ち溢れた、「カッコいい男子に愛されようぜ!」っていうエンタテインメントを描きたいなと思ってます。「ワケうば」を読んで夢を見るもよし、「東京行こうかな」って思うもよし。そうやってちょっとハッピーな気持ちになってもらえたらうれしいですね。
──メインキャラクターの2人はどうやって考えていったんですか?
ヒロインの青生は、このヘアースタイルを思いついた後に、髪型からメンダコを連想して。そのことから東京で出会った桜に「メンダコ」と呼ばれるようになります(笑)。あと、Sho-Comiでは付録を作るときのために作品のモチーフとなるアイテムがあったほうがいいと言われていたので、「兄こま」ではドーナツだったんですが、今回はメンダコになりました(笑)。桜は俳優という設定なんですけど、イメージは“歩くイケメンポーズ集”とか“動く写真集”。毎回決めゴマみたいな感じですね(笑)。
──それって、毎回描くのがプレッシャーにならないですか?
すっごくプレッシャーです。ポーズ決めまくりなので、我ながら描くたびに「めんどくさい!」って思ってしまう(笑)。大変です。
──メインキャラですからね(笑)。「ワケうば」は“同居もの”という王道の設定も盛り込まれています。
はじめはそういう設定まで入れてなかったんですけど、考えていくうちにいろいろと足りないことに気づいて、ボンボンと王道の要素を入れていくことになりました。「聖闘士星矢」がメジャーなものをすべて取り込んだ作品っていうのを聞いて、「ワケうば」も「聖闘士星矢」の精神でいこうかと(笑)。ちなみに「兄こま」の最終巻には桜の中学時代を描いたプロローグが収録されているので、気になる方はそちらも読んでいただけたらと思います。
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男性キャラへのこだわり、それは●●のトーンにも
- 「Sho-Comi 2018年13号」
- 発売中 / 小学館
- 夜神里奈「兄に愛されすぎて困ってます⑪」
- 発売中 / 小学館
- 夜神里奈(ヤガミリナ)
- 11月28日生まれの射手座で血液型はA型。千葉県出身。デビュー作はSho-Comi増刊2004年12月15日号(小学館)に掲載された「スパイシーBOY☆」。2015年から2018年までSho-Comiにて連載された「兄に愛されすぎて困ってます」は、2017年に実写映画とドラマが公開され話題を呼んだ。
2018年12月20日更新