「先生で○○しちゃいけません!」|今、本気で学べる性教育エロコメディを徹底追求 生徒に人気絶大な保健の先生は、思春期ならではの生徒の悩みにどう答えた? 作者 武者サブ× 監修協力 コンドームソムリエAi対談

快楽を求めてのセックスもアリ、という一言に救われた(Ai)

──おふたりが「先生で○○しちゃいけません!」の中で、この1話だけでも読んでほしい!というエピソードを選ぶとしたらどれですか?

由井ちゃん先生の恩師であり、経験豊富な愛川先生。

Ai 私が好きなエピソードは3巻の最後のほうだったかな(編注:3巻収録の第16話)。前任の愛川先生が由井ちゃん先生に「セックスって好きな人とする尊い行為でもあるけど、別に快感を求めてしてもいいんじゃない?」って言うところ。もしかするとそれまでの話を読んだ人で「今までしてきたセックスってダメだったな」とか「もっと早く知ってればよかった……」とか後悔の気持ちで読んでいた人が私を含め少なからずいたと思うんですよね。だから愛川先生が「セックスに快楽を求めたっていいじゃない」って言ってくれたことで、きっと救われた人もたくさんいたんじゃないかなと思って。もちろん、愛川先生も補足している通り、誰でも彼でもということを推し進めているわけでもないし、性感染症予防とかのいろんなリスクをカバーしたうえでですけどね。性教育の傾向としても最近は性の快楽部分を前向きに捉えている人も増えてきたので、そういう考え方が1つここに入ってるのはすごく新しくていいなと思いました。

由井ちゃん先生のアドバイスで「付き合う上でもエッチする上でも、相手を思いやる気持ちが大切」と気付いた菅井まなみ。今後は彼氏に素直な気持ちを伝え、心と身体をゆっくり解きほぐしていこうとする。

武者サブ 自分が思い入れがあるのは、第2話の彼氏はセックスしたがってるけど、彼女のほうはセックスしたい気持ちがまだわからないっていう回。第1話がエッチな妄想をするのは悪いことじゃないよっていう着地点だったんですけど、第2話でもセックスをするべきと結論づけたら、読者の方にこの作品は性行為を全面的に推奨してるマンガなんだと思われるんじゃないかってモヤモヤしてたんです。そんな中、参考書をいろいろ漁ってたときに“幸せホルモン”と呼ばれるオキシトシンってものがあると知って。オキシトシンって主にスキンシップやペッティングで分泌されて、安心感を与える作用があると言われてるらしいんですね。だから「彼とも段階をちゃんと踏んで、それぞれの行為で安心を感じられたら次に進めばいいんじゃないかな」って由井ちゃん先生が提案する形に落ち着いたんですけど、そこにたどり着いたときに自分でも「あ、これはセックスを勧めるマンガじゃないんだ」って思いましたし、読者の皆さんにもこの作品の方向性というものが伝わった回なのかなと感じました。

──オキシトシンを参考書でお知りになったっていうことですけど、そういった文献はけっこう読まれるんですか?

武者サブ めっちゃ読んでます。難解なものも多いんですけど、易しく噛み砕かれたものも最近はたくさん出ているので、気になる書籍や参考書を見つけたら購入してとりあえず目を通すようにはしてますね。この前も処女膜のことを知りたくって、「ネッター解剖学アトラス」っていう1万円ぐらいする高い本を買いました(笑)。

Ai それ私も持ってる!(笑)

武者サブ えっ、本当ですか?

Ai タウンページぐらい厚みがあって、けっこうマニアックな本ですよね。以前マッサージにハマって人体構造を学び直したときに筋肉の構造がどうなってるのか知りたかったから買ったんですけど、一般的な養護教諭だったら持ってないやつですよ(笑)。

5巻収録の第25話では、処女しか愛せない男子生徒が由井ちゃん先生に「処女膜って再生するの?」と質問しにやってくる。

武者サブ あはは(笑)。由井ちゃん先生って恋愛経験がない分、本でたくさん知識をつけて生徒たちに教えてるっていうキャラなので、やっぱり自分でしっかり理解しておかないと彼女の言葉に説得力が出ないと思うんですよね。あとは小学館さんから発売されてる「『若者の性』白書」っていうシリーズもかなり参考にしていて。これは「あなたは性行為をしたことがありますか?」「それは無理矢理ですか?」みたいな青少年たちの性に関するけっこう細かな統計をまとめたものなんですけど、ちょこちょこ引用させてもらってます。

エロの道に突き進みそうだったところを、
その絵本が変えてくれた(Ai)

──堂々と性教育を行う由井ちゃん先生とは対照的に、性について話すのは恥ずかしいこと、タブーなことと考える生徒や大人たちもこの作品には登場しますよね。おふたりも、もともと性に対してオープンだったのでしょうか? それとも考えが変わるきっかけがあったんですか?

鈴木マキの母親は娘を守らなきゃいけないという一心で、国が定めた基準以上の性教育を行う由井ちゃん先生にクレームをつける。

武者サブ 私はもともとタブーだと思っていて、仲良い友達と話すことぐらいの認識でした。だからこのマンガに携わって、子供が思春期というタイミングじゃなかったら、性に対する考え方はそのままだったんじゃないかなと思います。

Ai 私の場合、性に興味を持つのはたぶん早かったですね。幼稚園くらいからそういう意識はあって、さっきも言ったようにおっぱいが出てくるマンガが大好きでしたし、小学生の頃は河原にエロ本が落ちてないかって探しに行ったりもしてました(笑)。そうやってエロの道に突き進みそうだったところを、小学校4年生のときに妹が生まれたのがきっかけで少し方向転換したんですよ。おそらく妊娠・出産についてどう説明したらいいかわかんなかった母親が、「これにすべて描いてあるから」ってスウェーデンの性教育の絵本を渡してくれて。その本は今はもう絶版になってしまってるんですけど、男の人が女の人に性器を挿入することで子供ができるっていうところまで丁寧に描かれてあったんですよね。

武者サブ へえー!

Ai その本には妊婦さんがいかに大変か、産後はどんなことが大変か。お父さんとお母さんの家庭だけじゃなく、お父さんが2人の家庭もあるし、お母さんが2人の家庭もあるよねなんてパートナーシップのこともさらりと描いてあった気がします。本格的な性の目覚めが始まる前にその絵本で先に淡々と性知識が入ってきたから、エロはファンタジー、性はリアル、みたいな区分けが自然とできてしまったというか。だから小学校高学年とか中学生とかで周りがエロワードに妙に反応してるときも、「何がそんなにおかしいのかなあ?」みたいに思ってました。

──作中で由井ちゃん先生も言ってましたけど、性知識を入れたからと言って、それが性的な行為につながるわけではきっとないですもんね。

Ai そうそう。実際に私も性知識を早く得たからといって、性行動が早かったわけではないですし、その知識を活用してどんどんセックスしようって方向にもいかなかったですからね。まあ性に対する探究心は常にあったので(笑)、いろんな情報を入手してきて友達に教えてあげるっていうことの繰り返しで。今の保健の先生という職業も、そこからつながっているところがあります。

いつか子供にも読んでほしい(武者サブ)

──この作品、各学校の保健室に置いてもよさそうですよね。

武者サブ あ! ありがたいことに、すでにTwitterやマンガワンのコメントで学校の先生や生徒さんから「うちの学校に置いてますよ」という報告をいただいてるんですよ。

Ai そうそう。性教育の講師の方が、いろんな学校を回ったときにオススメしてくれているらしくって。私が勤めてる学校には身バレが怖くてちょっと置けてないんですけど、ほかの先生には「現役の養護教諭が監修してるらしいんですよ」っていっぱい勧めてます(笑)。

武者サブ ふふふ(笑)。でもいろんな学校で置いてくれてるのも、現役の養護教諭をされているAiさんが監修してる本なら大丈夫だろうっていう信頼があるからこそだと思います。

──最後の質問で、おふたりはこの作品をどんな人に届けたいですか?

武者サブ そうですね。自分も性のことをいろいろ調べていく中で初めて知ることって本当にたくさんあるので、性知識は十分持ってるよって思ってる大人にこそ読んでほしいです。あとはマンガワンや裏サンデーで誰でも読める作品なので、スマホ世代の若い子たちにも。自分もいつか子供にこの作品を読んでもらいたいなって思っているので、ほかの子供たちに対しても無責任なことは描けないなと思ってます。

Ai うんうん。

性別問わず誰もが相手のことを考え、お互いの身を守ることができるようにと、由井ちゃん先生はコンドームについて実物を用いて授業を行う。

武者サブ スマホ世代にと言いましたけど、性教育に触れてもらうのなら、それより幼い子供たちにもぜひ機会をもってもらいたいです。「先生で〇〇しちゃいけません!」は少し過激なシーンもあるので、幼い子には薦められないのですが……。自分はいいタイミングでAiさんに出会うことができて、子供に性教育をするんだったら思春期に入る前までのほうがすんなり受け取ってくれるよって話を聞けたんです。それなら今がチャンスと思っていろいろ取り組んでみたら、本当に興味を持って話を聞いてくれて。そういうふうに親から直接言わなかったとしても、子供が大きくなったときにこのマンガを読んで、いつか「あ、これ由井ちゃん先生が言ってたことか!」って感じになってもらえたらうれしいなって。

Ai 私は保護者向けに講演をやっていて、親御さんたちから「中高生には性教育はもう手遅れですか?」といった質問をよくいただくんですよ。手遅れではないけど、そこまで年齢がいくと親も直接教えるのはハードルが上がるし、子供のほうも親から聞くのはちょっと気まずいなって思う子もきっといるじゃないですか。だからそういうときに、この「先生で○○しちゃいけません!」をタブレットに入れてリビングやトイレに置いておいたらいいと思うんですよね。最初は子供たちも「何これ、なんか面白そう」っていう邪な気持ちで手に取るんだけど、読んでみたら意外と学びが深かったぞ、みたいな。そうだ、作品ページの履歴をパソコンにあえて残しておくのがいいんじゃないですか?

武者サブ あはは(笑)。

Ai もはやブックマークしといてもいいかもしれない(笑)。そういうふうに親が性教育を肯定的に捉えることで、思春期の子たちが正しい知識を手に入れられたらいいですよね。

武者サブ(ムシャサブ)
新潟県出身。2011年、読み切り「スイートスタディ」がドキッ(竹書房)に掲載されデビュー。成人向け一般向け問わず活動中。2019年4月、マンガワンで「先生で〇〇しちゃいけません!」の連載を開始。2021年6月には丸戸史明を原作に迎えた「メディアミックスメイデン」の連載をマンガワンでスタートさせ、現在2作品を同時並行で進めている。
コンドームソムリエAi(コンドームソムリエアイ)
現役養護教諭であり、思春期保健相談士。性感染症の予防と男女の性生活力向上を目指す性教育インフルエンサー。国内で市販されている約120種のコンドームに精通している“コンドームソムリエ”として、TwitterやInstagram、公式サイトで情報を発信している。また実物を触って嗅いで引っ張れるコンドーム試触会も立ち上げ、これまでに東京、大阪、福岡で開催。現在はオンラインに代えて開催を続け、参加者数は延べ1000人を超える。