コミックナタリー PowerPush - 和久井健「セキセイインコ」

「新宿スワン」作者の新境地!物語は満州編へ 色鉛筆を用いて彩られるカラー原稿にも注目

軍服や銃はミリオタの担当さんに駄目出しされる

──満州編に入ってからは軍服や銃といったミリタリー要素が加わってきて。

僕、ミリタリーとか全く興味がなかったんで、結構大変です。特に軍服とか銃は担当さんに駄目出しされるんです。かなりのミリオタだから。

──え、そうなんですか?

僕が「軍服ってダサいじゃないですか」って言ったら、すごい否定されて(笑)。

満州編のための資料。

──まあ確かにパッと見は地味というか、なんというか。

最近は僕もそのダサさがかっこ良く見えてきてるんですけど。マニアの人にとっては日本軍の服って格好いいでしょうけど、普通の人にはなかなかわかんないと思うので。ダサいなって思われないように、フォルムは注意して描いてます。

──ファッションもかなりこだわってるんですか?

服のラインとかは、すごくこだわっちゃいますね。あと、当時は使える素材が少ないので、その時代にあった素材しか使わないようにしてます。その中で、如何にカッコよく見せるかという。

資料としてレンタルしたという日本軍の軍服。

──軍服や銃は資料を見て描かれるんでしょうか。

軍服は担当さんに頼んで、レンタルしてもらって。あとモデルガンは買いましたね。

──(資料を手に取って)すごい!

三八式歩兵銃っていう、ライフルですね。

──なんか、イメージよりだいぶ大きいですね。

そうなんですよ、重さも結構ありますし。買ってみてよかったです。かなり高かったですけど。

身体がぶった切られる絵を描きたかった

──作中で“バグ”と呼ばれている「五感への攻撃」というのも、新しいアイデアだなと思いました。

メモリーには実体がないから、物質に対しては何もできない。で、触れずに攻撃する方法って何だろうって考えると、精神攻撃しかないかなと。実際、感覚で人が死ぬってことは証明されていますしね。

──1巻の、図書館でのバトルシーンは強烈でした。

濔時に身体を真っ二つにされてしまうツクヨ。

単純に身体がぶった切られる絵を描きたかったっていうのも大きいんですよ。だいたい僕、何かを作るときって絵から入るので。「こういう絵が描きたい!」ってなったら、それに合わせてストーリーを作る感じ。だから、こじつけです。こじつけが上手くいった時は、そのネームは通るし、上手くいかないときは通らないですし。

──描きたい絵に向かって、物語を作っていくっていいですね。

それは「スワン」の時からずっとですね。「この服着せたい」とか、「こういうシーン描きたい」っていうのから、話が決まってく。だいたい偶然なんですよ。話もキャラクターデザインも、偶然生まれたものが一番良かったりする。

──瞬間瞬間のひらめきにかけると。

そういう言い方すると、カッコいいですけどね(笑)。

──七なら、和久井さんが「描きたい」と思った時代に行けちゃいますし。

そうですね。そのために描いてるようなもんです。

──では、あまり先々の展開を細かく考えてあるわけではない?

和久井健

ですね。大まかなものは考えてますけど、間のストーリーまでは決めてないです。それに、あんまり作りこんじゃうと飽きちゃうんで。

──担当さんとの打ち合わせも少ないんですか?

「スワン」の頃は毎週毎週、講談社に行って、よく打ち合わせしてたんですよ。でも「セキセイ」はファンタジーだし、あんまりしっかり打ち合わせするとガチっとしたネームになっちゃうので、避けるようにしてますね。

「セキセイ=赤誠」には、「国に尽くす」という意味が

──ちなみに「セキセイインコ」というタイトルはどこから?

よく、飛行機の前の座席のラックに、パンフみたいなのが入ってるじゃないですか。そこに「赤犬子(アカインコ)」っていう、沖縄の物語が載っていて、それが面白かったんですよ。最初は、そのまま「アカインコ」ってタイトルにしようかなと思ったんですけど、「インパクトなくね?」って言われて。じゃあ響きもいいし、「セキセイインコ」はどうかなと。

──作中では「赤誠犬子(セキセイインコ)」という表記もありましたね。

「皆が国に一を尽くした赤誠の時代」の記憶を辿る七。

「赤誠」って字には「国に尽くす」という意味があって。自分の大切なもののために尽くす、ってピッタリだなと。

──それでは最後に、今後の展開について少し教えてください。

わりと近々に、満州から現代に戻ります。その先は、いろんな時代に遡ったり、逆に未来に行ったり、とにかく色んな時代を股にかけるような話にしていきたいと思います。

和久井健「セキセイインコ(3)」/ 2014年10月6日発売 / 610円 / 講談社
和久井健「セキセイインコ(3)」

「新宿スワン」の和久井健が描く、新世紀ミステリーエンターテインメント!! 少年が失った "記憶"。それは、世界が恐れ、そして求め続けた "謎" 。 突如記憶を失った少年、金田七(かねだなな)。 そして時を同じくして、彼の通う高校で起きたとある殺人事件。 何もわからぬ少年は、自らとその事件になにやら関わりがあるコトを知る。 いったい、自分は何者なのか? 少年は、ただ己を知るため事件を追う決意をする。

己が“永遠の17歳”であるコトを知った金田七。その衝撃に再び七は記憶の世界へ。そして時は遡り、記憶の舞台は1938年の満州。そこには、変わらぬメモリーと共に、己をセブンと呼ぶ凛々しき七の姿があった。満州鉄道・特急“あじあ”に乗り込んだ七は、満鉄調査部に所属する赤犬、馬賊の頭領・ストラフと出会う。いったい、ここからの約80年の間に、3人に何があったのか。

和久井健(ワクイケン)
和久井健

2004年9月期の月間新人漫画賞にて「新宿ホスト」で佳作を受賞。これが2005年別冊ヤングマガジン8号(講談社)に掲載され、デビューを果たす。同年ヤングマガジン17号(講談社)より、歌舞伎町で生きるスカウトたちを描いた「新宿スワン」を連載開始。2013年10月に完結し、2015年春には実写映画化を果たす。2013年12月より、早くも連載第2作目となる「セキセイインコ」をスタートさせる。