コミックナタリー PowerPush - 和久井健「セキセイインコ」

「新宿スワン」作者の新境地!物語は満州編へ 色鉛筆を用いて彩られるカラー原稿にも注目

ストラフはめちゃくちゃまつ毛にこだわってる

──モノクロ原稿のペン入れは、全部つけペンですか?

はい。ゼブラの丸ペンしか使ってないです。色々試してはいるんですけど、使い慣れちゃってるから、やっぱ描きやすいんですよね。かなり細い線まで描けるし、ちょっと線がかすれてる感じも好きで。

──ほかに絶対使っている道具はありますか?

和久井の仕事机。必要最低限の道具のみの、シンプルなデスクだ。

うーん、あとは黒が強いものが好きなので墨汁ぐらいですかね。僕、あんまり道具を使わないんですよ。デビュー当時なんか、アシスタントから道具を教わってたくらい。

──背景や、衣装の柄などはアシスタントさんですか。

はい。

──トーンも結構な量を貼られてますよね。

まあヤンマガなので……みんな貼ってるし(笑)。個人的にはそんな濃くしたいわけじゃないんですけど。白いと雑誌の中で浮いちゃうじゃないですか。

──人物の顔まで貼ってありますね。

ちょっと艶っぽくしたいっていうのがあって。トーンを貼った上から、ホワイトでまつ毛を描いたり、目や唇のハイライトを入れたりすると、いい感じに仕上がるんです。

ロマノフ家の末裔・ストラフ。

──確かに、まつ毛の印象が強いです。

特に満州編のストラフは、めちゃくちゃまつ毛にこだわってます。

──ホント、すごくキレイですよね。長いし、キラキラで。

目元は特にこだわって描いてますね。そこにキャラが現れるなと思うので。

1話のネームは……2~3時間ぐらい

──お話を伺っていると、絵を描くことがお好きなんですね。

和久井によるネーム。これは第1話なので、かなり描き込まれている方だそう。

そうですね。描いているのは楽しいです。逆にネームを考えるのはあんまり好きじゃなくて。だからネーム作るの早いんじゃないかなと…。

──1話のネームはどれくらいで出来るんですか?

うーん、ネームは……2~3時間ぐらいかな。

──え、早い!

でも「セキセイ」は遅いほうですよ。「スワン」の時は、一晩で4本ぐらいネーム出来てたこともあったし。僕の場合はどっちかというと絵に時間をかけたいので、ネームは極力早く終わらせて、原稿は5日間くらいかけて描いてます。描こうと思えばいくらでも描くところがあるので、引き際が難しいんですけど……。

──コミックスにする時に手を加えるほうですか?

あんまりしないですね。間違えたところをスタッフに修正してもらうくらいかな。一度世に出した時点で、それが作品なので。

じいちゃんが満鉄調査部で、スパイだった

──では、作品の内容についてもお伺いしていきたいのですが、いつ頃から「セキセイインコ」の構想があったんでしょうか。

3巻からは舞台が現代日本から1938年の満州へと移る。

「スワン」を描いている最中に、満州の話が描きたくなっちゃって。

──満州の話を? それは何かきっかけがあったんでしょうか。

実は、僕のじいちゃんが満鉄調査部にいた人で、スパイだったんですよ。

──ええ!?

だから、満州の話はいつか描きたいな、と漠然と思ってて。熱心に調べてたわけではなかったので、満州のことはそれほど知らなかったんですけど、調べてみたらメチャクチャなんですよね。軍人が作った国ってすごくないですか? 調べれば調べるほど興味が湧いてきて。

──なるほど。

それに、あの頃って「明日死ぬ」みたいな考え方の人が多い時代で、いまより人が熱いんですよ。だからマンガにしやすいっていうのはありました。最近は日常の心理描写をマンガにする作品が多いけど、そうじゃないものが描きたかった。だからピッタリの題材でした。

自分流の「タイムスリップの話」なんだと思う

──でも「永遠の命を持つ主人公」や「記憶を操る少年」という設定は、満州を描きたいというのとは、全然違う発想だと思うのですが。

それはすごく悩んだところですね。いきなり満州の話を描こうとすると歴史マンガになっちゃうじゃないですか。時代物を描きたいわけではなかったし。しかも、満州ってやっぱマイナーだから、いきなり描いても読者に受け入れてもらえないだろうなと思って。どうしたら間口を広く作れるかなと考えた時に、「現代から始めよう」って思ったんですよ。

主人公・七。

──それで主人公は現代の高校生に。

はい。で、現代と満州をつなぐには「記憶」だなと。満州時代の記憶を持っている主人公にすればいい、と。その考え方でいけば、どんな時代も同じ主人公で話が作れるんじゃないかなと思って。まあ、自分流の「タイムスリップの話」なんだと思いますね。

──でも、その「描きたい」と思った満州が出てくるのは3巻から、という。

そうなんですよ……! すごく我慢しました(笑)。

和久井健「セキセイインコ(3)」/ 2014年10月6日発売 / 610円 / 講談社
和久井健「セキセイインコ(3)」

「新宿スワン」の和久井健が描く、新世紀ミステリーエンターテインメント!! 少年が失った "記憶"。それは、世界が恐れ、そして求め続けた "謎" 。 突如記憶を失った少年、金田七(かねだなな)。 そして時を同じくして、彼の通う高校で起きたとある殺人事件。 何もわからぬ少年は、自らとその事件になにやら関わりがあるコトを知る。 いったい、自分は何者なのか? 少年は、ただ己を知るため事件を追う決意をする。

己が“永遠の17歳”であるコトを知った金田七。その衝撃に再び七は記憶の世界へ。そして時は遡り、記憶の舞台は1938年の満州。そこには、変わらぬメモリーと共に、己をセブンと呼ぶ凛々しき七の姿があった。満州鉄道・特急“あじあ”に乗り込んだ七は、満鉄調査部に所属する赤犬、馬賊の頭領・ストラフと出会う。いったい、ここからの約80年の間に、3人に何があったのか。

和久井健(ワクイケン)
和久井健

2004年9月期の月間新人漫画賞にて「新宿ホスト」で佳作を受賞。これが2005年別冊ヤングマガジン8号(講談社)に掲載され、デビューを果たす。同年ヤングマガジン17号(講談社)より、歌舞伎町で生きるスカウトたちを描いた「新宿スワン」を連載開始。2013年10月に完結し、2015年春には実写映画化を果たす。2013年12月より、早くも連載第2作目となる「セキセイインコ」をスタートさせる。