コミックナタリー Power Push - 「制服ロビンソン」

小島秀夫&箕星太朗が語る“物語を作るしんどさ”とは

ラストシーンは、海外では一番いらない(小島)

五十嵐芽美

小島 それ変えると全部変えなきゃいけない、ってときありますもんね。ラストシーンといえば、海外のゲーム業界では一番いらん、て言われてます。ゲームを100人がプレイしたとすると、最後までたどり着く人って1人か2人。そこにお金をかける日本のクリエイターはおかしいってことで、向こうでは間に合わなかったら最後はカット。海外のクリエイターもそれで怒らないんですよ。「最初のシーンは100人やるから、一番お金かけるんや! 一番こだわるんや!」って。日本のクリエイターだけですよ、最初と最後のシーンちゃんと作るの。

──クリエイターは怒らないかもしれないですけど、プレイしたゲーマーは怒らないんですか?

小島 怒らない。ただ僕がそれやると怒られちゃうんです。ある程度作家性があるようなゲームっていうのは難しいんですよ。

箕星 やっぱり、オチが重要なんですね。小島監督の作品なら、っていう。

小島 オチだけじゃないですけど、作家がやりたいことは、実はユーザーが求めてるものと違うってことあるじゃないですか。それが面白いですよね。ちょっと驚きがあったりとか。海外はマーケティング主導だから、最初にお客さんに「何がほしいですか」って聞くんです。デパートのデパ地下と一緒なんですよ。おばちゃんが食べて「500円やったら買わへんけど、100円やったら買うわ」とか。本当は、食べたことをないものを食べたいわけですよ。でもそれを普通の人は言語化できないですから。だから500円だったら買わないけど、100円だったら買うみたいな意見を吸い上げてものを作ると、ハリウッドの映画みたいになる。マンガもそうなんですよ。

もし映像になったら、オープニング作ってください(箕星)

──アンケートの意見ばかり聞いていると……という?

小島 そこは今の時代、情報戦ですからね。お客さんが喜ばないとダメっていうのは間違ってないし、マーケティングなしじゃ無理だから、バランスですよね。難しいところですけど。「制服ロビンソン」も人がやってないことをやるべきだと思うんですよ。ちょっとタイトル変えてしまうってのはどう? 知らん顔して。

「制服ロビンソン」1巻より。

箕星 え、じゃあタイトル付けてもらえます?

小島 「制服ロビンゾン」とかはどう? 「制服ロビソソソ」とかさ。誤植だと思わせる。

箕星 それでどうなるんですか(笑)。

小島 そりゃあもうノイズですよ。えらいことになります。まとめサイトに載りまくりですよ。「【悲報】やってしまった」ゆうて(笑)。話題になったら、バーンとブレイクする。

箕星 もしアニメになったら、オープニング映像作ってください。

小島 オープニング映像?

箕星 ご褒美で。監督に作ってもらえたら最高のご褒美ですので!

小島 それコンテから書いていいの? 誰か動かしてくれんの? 僕らが動かすの嫌やで!

箕星 あはは(笑)。

──今日、いろいろ小島監督にアドバイスをいただきましたけど、取り入れられそうなものはありましたか?

箕星 そうですね……。

小島 ないと思いますよ(笑)。僕が新人のとき、ブレストに呼ばれたんですよ。「小島はすごいアイディア出すから来てくれ」って。会議中はみんな笑うんですけど、あとで「小島くんのアイディアなあ、みんなおもろい。けど小島くんしか具体化できひんから」って、僕いっつも言われんの(笑)。

箕星 発想の飛び道具、というのかな。お客さんを楽しませるために、このくらいやっちゃってもいいんだというのがすごく勉強になりました。

マガジンエッジコミックス創刊第1弾ラインナップ

  • 武井宏之「猫ヶ原」1巻

    ヒトに飼われている猫の証……「鈴」。野良の身でありながら、鈴を太刀にブラ下げるノラ千代は、己が信念を貫くために不埒な世と心を斬る!彼の向かわんとする先に見えるものとは?

  • 箕星太郎「制服ロビンソン」1巻

    荒廃した地球に残された少年少女。どこにも大人はおらず、物資は、たまに隕石のように飛来する補給ロケットに積まれているだけ……。大事なことは何ひとつ知らないけれど、僕らは笑顔で今日を生き抜いて、そして恋をする。社会現象にもなったあの国民的ゲームでおなじみのイラストレーターが放つ初のマンガ連載が単行本化。等身大の「未来」と「絶望」を描く、草食系青春サバイバル物語!!

  • 佐藤ミト / 鈴木鈴(GoRA) / 柳瀬敬之「誓約のフロントライン」1巻

    綾辻塞は少し臆病な普通の少年だった、その瞬間までは──。人類抹殺の「誓約」を掲げる次元穿孔機体・アナイアレイターと出会い、塞の運命は回り始める。彼のコアユニットを手にした塞は、並行世界にて8730個の地球を滅ぼした「ゼロアース」を迎え撃つべく、ただ1人、人類存亡の最前線に立つ! マンガ、シナリオ、メカニックデザインすべてが究極の、超本格SFロボットアクション!

  • ゴツボ×リュウジ「ARAMITAMA」1巻

    永きに渡り争い続けた人と鬼が休戦を迎えて千年。その歪みに対抗すべく設置された帝都守護異形管理局に勤めるタカヤマと新人のユーリ。罪を犯す鬼を退治する中で出会ったのは、剣で封印された白髪隻眼の美少女だった──。

  • 衿沢世衣子「うちのクラスの女子がヤバい」1巻

    1年1組は、どこにでもある普通のクラス。だけど、他のクラスとはちょっとだけ違うところがありました。なぜなら、女子生徒の大半が、「無用力」と呼ばれる思春期だけしか使えない超能力を持っていたのです──。年頃女子はいろいろへんてこだったりするけれど、そんでもって年頃男子は振り回されたりもするけれど、それがフツーで、みんなかわいい。衿沢世衣子が描く、思春期限定・ちょっと不思議なハイスクール・デイズ。

  • 児玉潤「アイ先生はわからない」1巻

    冷酷無慈悲な愛の実験場へ、ようこそ! ドS女教師に踏まれて学ぶ青春恋愛コミュニケーション物語、開幕!! 女子と会話するどころか友達さえおらず、昼はトイレでぼっち飯をキメる根暗系男子・春生。 男女交際とは程遠いはずが、学校一の美人教師・入間アイの主催する「疑似恋愛クラブ」に加入させられ、 彼女の言う「本物の愛」を実証するための実験対象となるハメに……!

箕星太朗「制服ロビンソン(1)」発売中 / 702円 / 講談社
「制服ロビンソン(1)」

荒廃した地球に残された少年少女。どこにも大人はおらず、物資は、たまに隕石のように飛来する補給ロケットに積まれているだけ……。大事なことは何ひとつ知らないけれど、僕らは笑顔で今日を生き抜いて、そして恋をする。社会現象にもなったあの国民的ゲームでおなじみのイラストレーターが放つ初のマンガ連載が単行本化。等身大の「未来」と「絶望」を描く、草食系青春サバイバル物語!!

第1話の試し読みはこちら

箕星太朗(ミノボシタロウ)

大阪府出身。国民的美少女ゲーム「ラブプラス」のキャラクターデザインを手がけ、6月には新作ゲーム「√Letterルートレター」が発売される。2015年よりマガジンエッジ(講談社)にて「制服ロビンソン」を連載中。

小島秀夫(コジマヒデオ)

1963年生まれ。ゲームデザイナー。「メタルギア」シリーズなどを手がけ、世界的ヒットを記録する。2015年12月にコジマプロダクションを発足。