コミックナタリー Power Push - 「制服ロビンソン」

小島秀夫&箕星太朗が語る“物語を作るしんどさ”とは

腰を下ろして休憩する日はない(箕星)

(左から)小島秀夫と箕星太朗。

小島 マンガ描いてる人とかゲーム作ってる人とか、モノを作る人って、自分だけの時間なんかないでしょ。アウトプットの時間に比べて、インプットの時間が圧倒的に少ない。だからいかにして自分の作品の肥やしを取ってくるかですよね。ゲームでも映画でも、小説でもいいから、マンガ以外のジャンルからストーリーテリングの技術を学んで、自分なりのネームの描き方とかコマ割りとか、見つけてくれたらいいんじゃないですかね。

箕星 (インタビュアーを見て)今の発言、太字で書いといてください(笑)。時間がないっていうのはその通りですね。

小島 人気出てきたらもっとなくなるでしょ。死ぬまでない。あの世でなら遊べる。……でもそんなに遊ぶ時間ほしくないでしょ?

箕星 そうですね、仕事がある場所を与えてもらえてる環境は幸せだと思います。

小島 ずっと描き続けないとダメですよ。例えば、いきなり100km走れって言われても無理じゃないですか。連載って、言ってみれば100mの区切りなんで、足元だけ見てたらいいんですよ。「はい100m走って。はい、また次100m走って」って尻叩かれながら、気がつくと10年くらい経っててものすごい距離走ってる。連載で鍛えられるのは勉強になると思う。

箕星 僕、毎回そんな感じで。「ああやっと今回終わった。次の日ネームや」みたいに、腰を下ろして休憩する日はない感じです。

──作品を作っていて、一番うれしいときはいつですか。

ヒロイン・三枝真理愛。

小島 いくつかフェーズがあります。企画のときと、形になったとき、「これ出したらみんな驚くなー」っていうアイディアが出たときもうれしいし、もちろん評価されたときも。

箕星 キャラデザの場合はね、最初にキャラの決定稿ができたとき。あと実機で動くとき、声が乗って命が与えられたときの3つがうれしいですね。

小島 動いたりするとうれしいね。

箕星 ええ、最後にお客さんからいい反応があるときも。

──マンガはどこが一番うれしいですか?

箕星 まだないです。産みの苦しみだけかもしれません(笑)。

一同 あはは(笑)。

箕星 単行本じゃないかな、と思ってますが(笑)。

小島秀夫

小島 僕らは、世界中にいるファンたちに夢とか未来を語り続けるのが仕事だと思うんです。ある種の手本じゃないとダメなんですよね。ちょっと大仰ですけど。だからものを作り続けるっていうスタンスを、ずっと皆さんに見てもらわないといけないんで。肉体が衰えつつありますけど(笑)。

箕星 ええ、つらいですね。

小島 でも、つらいなー、つらいなー、思ってたら、このあいだ観た映画の「仮面ライダー1号」で藤岡弘、さんが「おれは死なん!」って言ってた。70歳ですよ。その本郷猛が世界でまた戦うんです。それ聞いたら、文句言うのやめようと思って。箕星さんも、描き続けなあかん。

2作目はメキシコを舞台にした「制服ジャンキー」(小島)

「制服ロビンソン」1巻より。

箕星 そうですよね。どうやったらもっと面白くなるんでしょう。お客さんのことも考えているんですけど、まだ描くのに必死な部分が大きいです。

小島 これでまずボーンと売れてほしい。それで、もっとファンがついて、アニメ化とかになって。そしたら次は裏切ってほしい。このイラストのタッチで人食い女が出てきたり、無茶苦茶なやつ読みたいな。メキシコを舞台にした麻薬の話とかはどう?

箕星 タランティーノかよ!みたいな(笑)。

小島 ジャンキーが「あ……あ……」とか出てきて。それで学園もの! 「制服ジャンキー」。

──決まりましたね、2作目が。

小島 制服っていっても、監獄とかの制服ですよ。

箕星 オレンジ色のツナギですね(笑)。

小島 それと、「制服ロビンソン」と「制服ジャンキー」は世界観が繋がっているの。「お前も制服か、おれも制服だ」って会話が繰り広げられる。

──「仮面ライダー」シリーズみたいな。

小島 制服シリーズ。毎年1回、制服を変える。それはそうと、「制服ロビンソン」はどういう発想から生まれたの?

「制服ロビンソン」1巻より。

箕星 布団に入ったら、頭の中にキャラが浮かんで芝居してくれるんです。勝手に話が広がっていくのを眺めている感じです。たまに「そこはこうしましょう!」とキャラにダメ出ししていくみたいな。あまり話が広がると朝になってしまうのがつらいですが……(笑)。

小島 ああ、わかる。僕も悩んだことはないなあ。感覚でやってるつもりが、もう1個の脳みそでちゃんと計算してるんです。よく批評家の人が、懇切丁寧に解説するじゃないですか。これはもともと文学であったこういうやつで……って。整合性があって、なるほどと思うんですけど、そういうのも無意識でやってるときがあって。脳みそが2つ、別個で働いているときがあるんですよ。脳梁を介さず。あんまり深く考えないんですよね。キャラ作っていくときは、僕の場合どこで生まれてどんな癖があって、どう生きてきてって全部決めるんです。それを頭の中に入れると、キャラが勝手に動いてくれるんです。

箕星 僕もそうです。キャラが動くので、それをメモする感覚です。だから「制服ロビンソン」も、最終回まで妄想していますが、描いているうちにキャラが違う芝居をしていくので、また話を作り直して朝まで妄想みたいなループに陥りますね。

「制服ロビンソン」1巻より。

小島 勝手にしゃべるんですよね。それを記録するだけ。イタコみたいなもんなんで、本当に楽なんですよ。

箕星 そうですそうです。ネームはシナリオで書くんですが、妄想の記録を文字に起こすだけなので電車での移動中にやってしまいます。

──頭の中にあるものを書き写すだけ?

箕星 ええ。ただマンガは締め切りが毎月あるので、描いてしまったらやり直しがきかないじゃないですか。このセリフを言わしちゃったら、その方向に絶対行かないといけない。その決断が1日しかないわけですよ、そこが難しいですね。

箕星太朗「制服ロビンソン(1)」発売中 / 702円 / 講談社
「制服ロビンソン(1)」

荒廃した地球に残された少年少女。どこにも大人はおらず、物資は、たまに隕石のように飛来する補給ロケットに積まれているだけ……。大事なことは何ひとつ知らないけれど、僕らは笑顔で今日を生き抜いて、そして恋をする。社会現象にもなったあの国民的ゲームでおなじみのイラストレーターが放つ初のマンガ連載が単行本化。等身大の「未来」と「絶望」を描く、草食系青春サバイバル物語!!

第1話の試し読みはこちら

箕星太朗(ミノボシタロウ)

大阪府出身。国民的美少女ゲーム「ラブプラス」のキャラクターデザインを手がけ、6月には新作ゲーム「√Letterルートレター」が発売される。2015年よりマガジンエッジ(講談社)にて「制服ロビンソン」を連載中。

小島秀夫(コジマヒデオ)

1963年生まれ。ゲームデザイナー。「メタルギア」シリーズなどを手がけ、世界的ヒットを記録する。2015年12月にコジマプロダクションを発足。