コミックナタリー Power Push - 犬上すくね「恋愛ディストーション」

心くすぐる日常系恋愛マンガのマスターピースに 描き下ろし&未収録エピソード入り新装版!

犬上すくねの代表作「恋愛ディストーション」が、小学館から新装版となって3月18日より毎月1冊ずつ刊行されている。全巻に描き下ろしエピソードが収録されることに加え、4月19日頃発売の2集と7月19日頃発売の5集には単行本未収録作品が収められる予定。

「恋ディス」は、なつめ×大前田、まほ×江戸川という2組のカップルを中心に、爽やかだけどちょっぴり歪んだ恋愛模様を描いた“日常系”恋愛マンガ。作中で描かれる歪み(=ディストーション)は、決して奇をてらったものではない。生きていく上で誰しもが抱えている悩みや秘密を自然な形で切り取り、だからこそリアルに読者の心に響く。 新装版の刊行を記念し、コミックナタリーでは犬上すくねにインタビューを決行。犬上すくね流「恋愛マンガの描き方」、そして今後の展開についてまで、たっぷりと話を聞いた。

取材・文/増田桃子 編集・撮影/唐木元

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エピソードの80%は私の体験談

──「恋ディス」は明確な主人公を据えず、2組のカップルを軸にその周囲の人々の恋愛模様までをも描いていく、ちょっとオムニバスにも似た構造の群像劇です。これは初期段階から構想していたのでしょうか。

いえ、まずはなつめと大前田のお話を読み切りとして描いたんです。そしたら隔月くらいでシリーズ読み切りを描いてみないかって言われて、まほ先生と江戸川のカップルが生まれた。ところがその先、もう新しいカップルのアイデアがなかなか出てこなくて(笑)、じゃあこの4人が知り合いってことにしたら話が膨らんでいくんじゃないかってひらめいたんです。

インタビュー写真

──割となりゆきというか……。

完全になりゆきですね(笑)。でもあそこで決断しなかったら、毎回新しいカップルを考え出さなきゃならないのが苦痛で、長く続けられる作品にはならなかったと思います。無理ですよ、毎回新キャラなんて。エピソード考えるだけで大変なのに。

──そのエピソードですが、「恋ディス」に出てくるお話って、妙にリアルだったり生々しい感触があるんです。どんな話作りをしたらあの身近さが出るのでしょう。

ぶっちゃけ、エピソードの80%くらいは私の体験談ですね。

──てっきり身の回りの人たちから話を聞き出したりしてるのかな、と思ってました。

もちろん友達に聞いた話もありますけど、実体験が多いです。なので、生々しいとかリアルって言っていただけるのは嬉しいですね。本当にあったことなので。

──例えばどのエピソードでしょう。教えてもらえますか?

恋愛ディストーション

スベスベマンジュウガニとか。「女教師はSSMGの夢を見るか?(新装版4集収録予定)」という回で、まほ先生が江戸川に「スベスベマンジュウガニ」っていうカニがいるのよ、って言ったら「いるわけねーじゃん」って鼻で笑われるエピソードがあるんですけど、それは当時付き合っていた彼氏と私のやり取りそのままです。「ほんとにいるの」って何度説明しても「いやそれはすくねちゃんの脳内図鑑にあるだけだよ」とか言うんですよ。

──作中でもまんま使われています。

腹立つっていうか呆れますよね、あいつ……! でもその彼は、私に「犬体質」という新しい言葉を教えてくれたんで、そこは感謝してます(笑)。

変わった言葉のチョイスに「ピキーン」と

──「犬体質」というのは、作中では大前田くんの特徴として使われてますね。

そうそう。付き合い始めの頃、彼が「俺って犬体質だから」って言ったんです。そういう言葉を初めて聞いたので、「これは使える」と(笑)。ピキーンとマンガ脳が働いて。まあでも実際付き合ってみると、犬というよりはヘタレな感じの人だったので、大前田の犬っぷりは私の創作です。

──ほかにも実際言われたセリフはありますか?

恋愛ディストーション

ありますよ。「山野辺くんの明日はどっちだ(新装版3集収録予定)」という話の最後に出てくる、「イチャイチャしたいなあ」とか。

──あれはいいセリフですよね。心情が伝わってきます。

「スベスベマンジュウガニ」の人とは別の彼なんですが、その人と付き合い始めの頃、「これからどうやって付き合っていこうか」って話をしてたんです。私は普通に「ふたりで映画を見に行ったり、美味しいものを食べ行ったりしたいな」って言ったんですけど、その彼が「俺は……イチャイチャしたいなあ」って言ったんですよ(笑)。

──ちょっと、言えないですよね。

ねえ。「うわ、この人すごい」って思って。もともとちょっと変な言葉のチョイスをする人で、そういうところに惹かれたってとこもあったんですけど、でもそれ聞いたときはしびれましたね。

恋愛ディストーション

──ちなみに、お風呂で風俗嬢のマネをするの、あれも実体験ですか?

うーん……あれはねえ……、うーん……。しません? 普通(笑)。ふたりでお風呂入ったらするでしょう。風俗嬢ごっこ。作中にあるようなセリフを言ったりはしませんけど。

──普通、ですか?

あ、いや……、そんな変な意味じゃなくて! なんかいつもよりていねいに体を洗ってあげたりとか……そういうことですよ?

──あ、なるほど(笑)。

「恋愛ディストーション ①」 / 2011年3月18日発売 / 630円(税込) / 小学館 サンデーGXコミックス

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「恋愛ディストーション ②」 / 2011年4月19日発売 / 630円(税込) / 小学館 サンデーGXコミックス

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作品解説

未完の傑作が新装版で復活! 多くの読者をヤキモキさせた恋愛群像劇が、SUNDAY GX COMICS(通称ジェネコミ)の新レーベル「SUNDAY GX COMICS EXTRA」から蘇る! 新装版となった『恋ディス』には、各集、描き下ろしエピソード「日常を生きる」シリーズを収録!

「あいかぎ ②」 / 2011年4月19日発売 / 560円(税込) / 小学館 サンデーGXコミックス

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作品解説

胸キュン必至の連作短編集、第2集登場! 悩める人の心のカギをガチャンと開ければ、そこには「素敵なこと」が待っているはず!? 「素敵なこと」を探す少女・きいと、カギに変身できる能力を持った不思議な少年・ケン、2人の旅の行方は…!?

犬上すくね(いぬがみすくね)

プロフィール写真

11月11日福岡県生まれの女性。同人誌活動を経て、1992年ファンロード(ラポート)にて「水晶夜曲」でデビュー。以降短編を中心に活動するが、1998年ヤングキングアワーズ(少年画報社)に読み切りが掲載されたのち、同年ヤングキングアワーズLITE(少年画報社)にて「恋愛ディストーション」を連載開始した。2組のカップルの日常をほのぼのと描き注目されるが、2002年に同誌が休刊したのち、掲載誌を転々とした末の2006年に連載を休止した。一方でサンデーGX(小学館)にて「ラバーズ7」「エンジェル高校」を、まんがライフオリジナル(竹書房)では「ういうい♡days」を連載。思春期の初々しい恋愛を描き好評を博している。現在はサンデーGXにて「あいカギ」を連載中。